オサキ怪異相談所

てくす

文字の大きさ
上 下
23 / 45
第二章

第十五話 闇の穴

しおりを挟む
茜:『闇』
  『それは』
  『私の』



【間】



ある日の夜ーー

茜:私ね、尾先さんに言わなきゃいけないことがあるの

凪:っ……知ってるよ

茜:凪が戻ってきてくれて、力が湧いてきた…
  って言うのかな?なんだか今なら話せる気がして

凪:気のせいじゃないの?

茜:ううん、だから凪
  一緒に来て


そして、現在

凪:(茜は、あぁ言っていたけど……僕は、何ができるんだろう)

茜:……

凪:(覚悟はできてるって顔してた
  今も別にいつもと変わらない……
  なんだろう……それが怖い)

美紅:茜!

茜:あ、美紅!
  今日は一緒の授業だね

美紅:……やっぱり
   ねぇ、その子が茜の…守護霊?ってやつ?

凪:(!?)

茜:美紅……、見えてる?

美紅:ずっと言おうと思ってたんだけど
   あの時から、私も見えるようになったんだと思う
   あ、ずっとじゃないよ
   時々、なんだけど

茜:……そう、なんだ
  うん、この子は凪
  守護霊って言うのかは私もわからないけど

凪:……そうだね
  契約で縛られているが正しいかな

茜:凪

凪:アンタ、前から勘が鋭い感じがしてたんだ
  少し話したい
  茜、後で時間を作って欲しい

茜:わかった
  美紅、大丈夫?

美紅:うん、私も気になるし
   二限空きだよね?その時に

茜:わかった


【間】


美紅:それで、話って?

凪:一応、茜の友達だから
  色々見逃してあげるよ
  美紅、だっけ
  (小声で)べにの字が入ってるのも……

美紅:ん?何?

凪:いや、こっちの話
  これは注告、僕たちに関わらないほうがいい

茜:ちょ、凪!

凪:最近まで、僕はぎょくといって
  姿を現すことができなかった
  だけど、存在はしているから話は全部知ってるよ

茜:ッ…

凪:今、茜は大変なことに巻き込まれてる
  茜一人だったら、なんとか僕で守ることはできる
  だけど、茜のことだ
  友達に危害が出そうならそっちを優先する

茜:それは……そうかもしれないけど…

美紅:大変なこと?

茜:いや!そんな、大したことじゃ

凪:大したことだよ
  詳細は話さない、理由は解るよね?

美紅:私を巻き込まないため?

凪:そこら辺は茜より理解している
  だったら

美紅:私だって友達を見捨てたくはないんだけど

凪:……死ぬかもしれないのに?

美紅:巻き込まれてる茜も同じなんでしょ?

凪:君と茜じゃ立場も力も違う
  僕が憑いている
  君に何ができる?

美紅:私には何もないの?

凪:……そうだね

茜:で、でも!美紅も幽霊が見えるなら
  危ないんじゃないの?

凪:霊感持ちは少なからずいるし
  全員危ないか、と言われればそうでもない
  無視すればいい
  どうしても関わってしまうのは……
  そうだね、茜が出会った日和って子
  あの子は、霊感はないけど八剱という男のせいで
  霊に『巻き込まれる』
  夕凪は、血筋のせいで
  霊の『目を惹く』
  そして、茜は……霊に『好かれる』

茜:……私は何でそうなるの…?

凪:話したいことが……あるんでしょ?

茜:……うん

美紅:私は?

凪:君は何もない
  特殊な家系でもないし、業は減ってる
  あの時の選択が、間違っていなかった

美紅:あの時……
   てことは、助けてくれたんだね

凪:茜に言われたからね、仕方なく
  そうだね、君を言葉にするなら
  『許された』かな

美紅:っ……、そっか

茜:けど、私と関わりがあるなら
  絶対に大丈夫とは言い切れないよ
  私は……

凪:茜、友達を守りたいのか、殺したいのか
  僕には解らないよ

茜:殺す……?

凪:……美紅

美紅:何?

凪:茜について、どう思う?

美紅:どうって…別に
   友達で、それに私のことを助けてくれて
   支えにもなってくれた
   あの後も、ずっと気にかけてくれたし

凪:茜のために命をかけられるかい?

美紅:……

茜:……美紅?

美紅:茜は望まないけど、多分、かけられると思う
   それくらい私には、あの時のことが大きかった
   許されたって言ってくれたよね
   それで私は救われたと分かったから

凪:別にそういうつもりで言ったわけじゃないけど
  茜、僕は変わらない
  茜さえ助かればそれでいいと思ってる
  だから、敢えて言ってる
  巻き込む必要はないって

茜:それは、分かってる
  だけど、あの人たちは美紅のことも狙った
  その事実があるから私は心配なんだよ
  守れるなら、守りたい

凪:だから、この件はオサキに任せる

茜:え?

凪:僕はこれ以上、言わないよ
  その代わり、秘密は美紅にも話すべきだ

美紅:秘密?

茜:……
  凪、私はね

凪:うん

茜:美紅の強さを見た時に、決心したんだ
  だから、話すよ
  美紅、聞いてくれる?

美紅:うん、茜が聞いて欲しいなら

茜:ありがとう

凪:……(これが正解か解らない
  だけど、茜のアレは……
  ムカつくけど、オサキ……頼んだよ)



その日の夜、凪は一人で尾先の元を訪れた

尾先:なるほどな
   それで、お前一人で来たわけか

凪:これ以上は、茜の口から直接聞いてね
  僕も全部は知らない

尾先:あぁ、解ってる

凪:覚悟、してるんだね

尾先:……お前のことは、どうなんだ

凪:自分の過去を語って何になるの?
  人間じゃないんだよ、僕は

尾先:ぎょくから解放されたんだ
   それなりの意志があるわけだが
   まぁ、正しいだろうな
   俺も後悔している

凪:はは!お前の過去も中々だったね
  可哀想とは言わないよ

尾先:聞いていたのか

凪:……案外、大丈夫なんだね

尾先:俺か?……まぁ、少し荒れたがな

凪:しろについて、もっと荒れてそうだったけど

尾先:焦って、怒ってどうなる
   そんなもんじゃないだろ?怪異は

凪:……そうだね
  じゃ、任せたよ
  美紅も命を賭けるなんて軽く言って、今の子って皆んなそうなの?

尾先:……そうじゃないだろうが
   あの子も何かあるだろうな
   死を経験するというは

凪:……そう、だね
  僕も、解らなくは……ないかもね
  じゃあオサキ、頼んだよ

尾先:あぁ
   ……覚悟、か




【間】



美紅:行くの、久しぶりだね

茜:そうだね、何も変わってないけど

美紅:その、どうなの?

茜:何が?

美紅:私みたいなこと、色々あったんでしょ?

茜:そうだね……色々、あった…かな
  だけど、私なりに思うこともあって、後悔とかはないよ?
  寧ろ、良かったと思ってる

美紅:そっか
   私はね、茜

茜:何?

美紅:何があっても味方でいるよ
   友達だからとか恩人だからとか
   そんなんじゃなくて、なんて言えばいいか分からないけど

茜:……うん!

凪:じゃあ、開けるよ


扉を開ける
そこにはいつのもの様に尾先が立っていた

尾先:お疲れ……川原美紅、だったか

美紅:お久しぶりです

尾先:また依頼か?

美紅:あ、えっと

茜:今日は、みんなに話したいことがあって
  それで、美紅にも

尾先:そうか
   先に座ってろ

茜:はい



【間】


尾先:それで?
   話ってのは、お前の黒のことか?

美紅:黒?

凪:霊感が強ければ見えるものだよ
  霊はそれを本能のように見つける
  人間の言葉にするなら……
  悩み、後悔、心の傷……闇

美紅:闇……

凪:霊はそれが穴の様に見える
  大切な宝物の様に見えることもある
  人の心の闇
  何物にも変え難い、絶対に欲しいもの

茜:なんで、そんなに欲しくなるの?

尾先:霊とは何だという話、覚えているか?
   霊とは意味の無くなったモノだと
   そう言っている意味はな
   死んで何も無くなったソレは
   その穴に入って、自分を取り戻したいんだよ
   自分という入れ物を求めている

茜:っ……

美紅:取り憑くっていうのは、そのための?

凪:生に執着した霊に多いと言うべきかな
  怨みが強ければ、取り憑き、殺すことを優先する奴もいる

美紅:霊もそれぞれ色々あるわけなんだ

茜:……

尾先:話す決心をした、と言うことは
   お前自身、思うところがあるんだろう
   だが、無理はしなくていいんだ
   無理矢理話すことでもない

凪:オサキ、それは

茜:いいの、凪
  私は、話します
  尾先さんが話してくれた様に、美紅が勇気を出した様に、私も

美紅:茜……

茜:私、は……
  いじめられていたの
  小学生の頃から、ずっと

美紅:いじめ?

凪:僕が茜を見つけたのは、くねくねの時だった
  昔に、そんな事があったなんて……
  そんな事…解っていたなら、今頃全員……

尾先:凪

凪:っ!……ごめん

尾先:……ここからの話は、そういう話だ
   凪、それに美紅

美紅:はい

尾先:誰も責めるな、いいな?

凪:分かってる……分かってるよ……

美紅:責めるなって
   けど、この話って

尾先:誰かを責めるのも、慰めるのも話が終わってからだ
   茜、話せるか?

茜:はい……
  きっかけは……なんだったんだろう……
  当時、四年生だった私に、みんなが無視を始めたのが……始まり
  あの時の空気は……

尾先:……それで?

茜:意味が分からず、ただ毎日が空っぽで
  色が……無くなっていくような……

尾先:……

茜:意味が分からないまま、中学生になって
  それでもずっと続いてた
  無視だけじゃ無くなったのは……いつだっけ

凪:(オサキ……本当に大丈夫なんだろうな?茜の様子……何か、おかしい…)

美紅:(茜……こんな話、したくないよね……茜の周りの空気が……重い…?)

凪:……
  (美紅も何か勘付いてる…?やっぱりこの子……)


茜:当時、流行っていたマンガがあって
  それもいじめを題材にしてて
  それを見ると、私は酷くないと思えて

尾先:物語を面白くする為に酷く描くことはある
   実際にやってる奴もいるだろうが

美紅:無視をされ続けたってこと?

茜:ううん、落書きとか、色々
  今思うと幼稚だなとか、そんなことでとか思い返す事ができるけど
  あの時の私にとっては、それが……

凪:僕はあまり人間のことは解らないけど
  ……何百年も独りでいたから……僕は

尾先:感じ方も傷付き方も人それぞれだ
   それこそ、何百年も独りで平気な人間もいるかもしれない
   1日も独りでいると不安になることもあるかもしれない
   怪異も様々だが、人も大概複雑に出来ている

美紅:私は、そういう経験がないなら分からないけど
   私も……一人で塞ぎ込んでたことはあったし

茜:大人になれば、なるほど
  あの時のことが薄れていく様な気はして
  ……だけど、それは……いいのかな

美紅:茜?

茜:忘れたいはずなんだけど
  ふとした時に思い出して
  これは、忘れていい、もの、なのかな

尾先:……

凪:オサキ、茜はその時とは違うみたいだけど
  だったら、この黒は一体……

尾先:……凪

凪:何?

尾先:結界を張れ

凪:!?茜!!

茜:忘れて、消えて、それで、何が残るの?
  ううん、消えない
  だから、私は……

美紅:……?茜?しっかりして
   ……どこ、見てるの?

茜:あの時から、ずっと、私は

尾先:凪!

凪:くっ……!!

尾先:美紅!離れろ!

美紅:えっ!?は、はい!

尾先:……これが、闇だ

茜:私は……失敗した
  何が原因か解らない
  だから、皆、私を
  暗いところに閉じ込めるんだ

尾先:それで、お前は何をしたんだ?

茜:人は変わらない、変えられない
  だから、どうすればいいのか解らなかった
  だけど、それは嘘だ
  変わらないのは、変えられないのは
  私から見た、皆だ

凪:オサキ!どうなってる!
  これ……霊体の……!!

尾先:認識の話だな、茜
   人は中々変われないよな
   自分というフィルターを通しているからな

凪:オサキ!

美紅:凪!尾先さん多分何かしてる!
   それまで茜を守って!

凪:お前……言われなくても!!

茜:人は変われない、変えれない……当たり前……だ
  そんなこと、私にできるはずない!!

美紅:茜……

茜:だけど、人は変われる、変えられる

尾先:どうやって変わる?

茜:変わるのは……変えられるのは……
  私、自身だ

尾先:……

茜:『変われ 今の自分じゃダメだから』
  『変われ 今の自分じゃ越えられないから』

凪:呪詛……?
  な、んだ……これ…

美紅:痛っ……耳……が

尾先:自分を変えてどうなる?
   それで、何が変わる?

凪:何……煽って……

茜:だから……だから!!





茜:殺せ、自分を殺せ
  殺せ、殺せ、殺せ



凪:……茜…やめて、それは……

美紅:尾先さん!茜が!

尾先:……

茜:次はもう失敗しない様に
  次はもう……
  自分を殺さなくて済むように

茜の目から黒い涙のようなものが溢れ出す
その目は漆黒に塗られた様に光すら無い

美紅:えっ……目が……

尾先:答え合わせは全部終わってからだ
   凪、そのまま抑えておけ

凪:そんなこと、言ったって!茜が!

尾先:お前の結界内なら大丈夫だろ?
   それとも、弱音を吐くか?

凪:……ホント、ムカつくよ
  茜を守るのは僕の役目だ!

尾先:川原美紅

美紅:はい…

尾先:茜の為に、命を張れるらしいな

美紅:……はい

尾先:お前が友達でいてくれて良かったよ

美紅:えっ、それは……

尾先:お前の声なら届く
   その狐に触れて、茜に声をかけろ

美紅:分かりました!

尾先:クダ、頼むぞ

美紅:茜!私は、いるよ
   命の恩人だからとか
   救ってくれたとか、そんなんじゃないよ
   私は、茜だからそばにいるんだよ
   昔に何かあったとか関係ないよ
   そういうの、皆あると思うから
   私だって……私だってそうだったから!
   だから、次は私が助けるよ、茜
   お願い!手を取って!茜!

茜:……ミク……私は、いていいの

美紅:いいとか、駄目とかじゃない!
   私がそばにいて欲しいの!
   だから!

凪:あれは…!!
  ……僕だっているんだから!
  忘れないでよね!茜!!

尾先:……フッ
   だそうだぞ、茜
   お前は変わったみたいだな
   やり方は間違っているが、説教は全部終わってからだな

茜:……ナギ……オサキ、さん…

尾先:もう、決別する覚悟はあるか?
   それがなくても、大丈夫か?

茜:……はい…

尾先:よし
   クダ、凪……『喰え』



【間】



茜:『闇』
  『それは』
  『ただひたすらに黒く、色付いた世界が真っ黒に塗りつぶさて
   段々と色を失っていく様な
  それは、ただひたすらに終わりなく
  底の無い落とし穴のように落ちていく様な
  そこに、何かを殺しては埋めて
  塞いで行く様に、色をつける様に』
  『私の』
  『全てを否定して、肯定するような
  只々、何も無い 只の、私自身だ』



【間】



茜:うっ……

尾先:目、覚めたか?

茜:私……

美紅:茜!

茜:美紅……ありがとう……

美紅:良かった……

凪:オサキ、あれはもしかして、生霊?

尾先:あぁ、その通りだ

茜:生霊……?

尾先:今回の話はな
   自分自身の生霊に取り憑かれたってことだ
   生霊ってのは、普通の霊体と違う
   まだ生きている人間の霊だからな

凪:そのせいで、取り憑いている僕にも
  茜の中に生霊が取り憑いているのが解らなかった
  それもそうだよね、だって茜自身なんだから

美紅:どういうこと?

尾先:いじめが原因で、茜は堕ちた
   と、言えばいいだろう
   人は死ぬと霊になる
   地縛霊、浮遊霊なんかは未練や恨みの象徴
   何もなければ成仏するが、それも霊体の話だ
   じゃあ、生霊とは何だと思う?

美紅:生きているうちに幽霊になる?
   私が聞いたことある話では、幽霊を勝手に飛ばしてる、とか

尾先:生きていて霊になることはない
   幽体離脱なんかと似ているが、自分の中にある霊力と言えば解りやすいか?
   それを放出していると思っていい

凪:生霊って言うのは、自分の意識していない部分の話
  勝手に、いつの間にか、知らずに
  起こっていることが多い

茜:それで……私は……

尾先:よく聞く話では、恨みなんかが限界に達した時
   その恨みの先に生霊を飛ばし、取り憑かせ、霊障を起こす
   勝手に飛ばしてるっていうのは、それだな

美紅:なるほど……

尾先:茜の場合は、いじめによる苦悩で、心に穴が空いた
   本来であれば、いじめた奴らに生霊を飛ばすものだが
   そこは……お前の性格だな

茜:私の性格……?

尾先:人を恨めない、純粋すぎるんだよ
   だから、お前は死んだ

美紅:死んだ!?茜は生きてますよ!

凪:……そうか
  だから、こんなことに

尾先:まぁ、凪は解るか
   ……心の自殺だよ

茜:心の自殺……?

尾先:生霊に成り代わってたな?
   自分で言った言葉を覚えているか?
   殺せ、自分を殺せ
   そう言っていたぞ

茜:っ……

尾先:つまり、殺したんだよ
   茜は、自分自身をな

美紅:……そこまで、追い詰められてた…?

尾先:あぁ、心の自殺も自殺と変わりない、死と同義だ
   生霊はいじめた相手ではなく、茜に取り憑いた
   自分を取り戻すために、その穴に入ったんだ
   それに、まだ若かった
   死ぬ勇気は無いにしろ、心を殺すことは可能だ
   悩む先が自分自身だったんだろう
   悩んで、考えて、悩み続けて、考え続けて
   辿り着いた答えは、自分を殺して生まれ変わること

茜:……そうです
  私は……生まれ変わりたかった……
  次は、失敗しない様に
  高校からは誰も知らないところに行って
  一から初めて、次は誰も失くさないように
  大事にできる様にって……

美紅:もしかして……茜
   詩織のことも、私聞いたんだ

茜:……えっ?

美紅:詩織が茜をよく思ってなかったって…最近ね
   なのに、茜はずっと心配してた
   色々、私にも分かることはあるよ
   茜が尾先さんに出会って相談して
   その後、詩織は入院して
   その話を聞いて……多分、何かあったんじゃないかって

茜:……

美紅:茜は……優しすぎるよ……

茜:違う!違うの……私は……

尾先:お前のその、異常なまでの友達への執着心
   生霊が取り憑いていたこともあるが
   まずは、その考え方が原因だな
   自分を殺してまでも、自分に原因を作る
   そうじゃないだろ?友達っていうのは

茜:……はい
  今なら……ちゃんと理解できます

尾先:それに、人間ってのは綺麗じゃない
   打算もなんでもありだ
   人間は業が深いからな、凪

凪:そうだね
  ここまで、純粋に人を思い続けるのは
  逆に珍しいし、異常になるもんなんだね
  茜の良いところでもあるけど
  それが、自分の犠牲の上になっているなら
  僕は、それを良いとは思わないよ

茜:そうだね……ごめんね

美紅:ちゃんと、自分を大切にしてね
   私を、助けてくれたみたいに
   自分も助けてあげて

茜:うん……ありがとう美紅
  ……なんだか、変な感じです

尾先:穴にいたやつが消えたからな
   だが、黒は薄れているが、まだ完全には消えてない
   それは、業だと思え
   自分を殺した罪だ
   それは、お前にしか償えない

茜:はい

凪:それにしても、なんであんなに余裕そうだったのさ

尾先:生霊だろうが、霊は霊だ
   それなら俺の専門だからな
   それに、覚悟してると言ったのはお前だろ
   俺だってただ見てるわけじゃない
   まぁ……、心のケアは任せるぞ

美紅:任せてください!ね、茜

茜:ありがとうございました!
  それと、みんなごめんなさい!
  今までずっと言えなくて
  言ったらまた、失くなっちゃいそうで怖くて

凪:僕が側を離れると思う?
  そう思われてたら怒るよ

茜:ありがとう、凪

美紅:私だって、同じ

茜:うん

尾先:自分自身に取り憑いた生霊か

茜:尾先さん

尾先:なんだ?

茜:ありがとうございました

尾先:あぁ、報酬は貰うぞ

茜:それ、ですか?

尾先:あまり聞かない話だからな
   あいつの好物だ

茜:あはは…

尾先:……お前は、恵まれているよ

茜:そう、ですね

尾先:違う意味でもな

茜:違う意味?

尾先:いや、此処にいる奴はみんなそうか
   ……俺は廻門だった
   美紅は茜だったが、自分自身の強さもある

美紅:けど、一人じゃ無理でした

尾先:そうだな、一人じゃ無理だった

凪:……僕も、そうだった

尾先:……この世っていうのは
   独りで生きていくには難しすぎる

茜:だから、かもしれないです

尾先:何がだ?

茜:私が尾先さんを手伝うのも
  何かできるわけじゃないですけど
  尾先さんや、骸さんみたいに
  それでも少しでも手伝えるならって

美紅:私も……何かできるのかな

尾先:……そうだな
   お前たち二人は特別かもしれない

茜:特別、ですか?

美紅:私には何もないって凪に言われましたけど

尾先:縁、ってのは意外と馬鹿にできない
   そうだろ?凪

凪:まぁ…そうだね
  今回は助かった事だし、色々大目に見てるよ

美紅:そういえば、何を許してくれてるの?

茜:あー…えっと、ルールみたいなのがあるみたいでね
  本当は、凪と普通に喋ったら駄目なんだ

美紅:え、ごめん!

凪:はぁ…いいよ、もう

尾先:霊に『許される』か
   ……ふっ
   とりあえず、今日は解散だ
   川原美紅

美紅:はい

尾先:また来い、茜とな

茜:いいんですか!

美紅:お邪魔します!

凪:はぁ…お人好しすぎるよ、本当

尾先:まぁ、な…なんせ此処は
   怪異相談所、らしいからな



闇の穴 終
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

フリー声劇台本〜BL台本まとめ〜

摩訶子
恋愛
ボイコネのみで公開していた声劇台本の中からBLカテゴリーのものをこちらにも随時上げていきます。 ご使用の際には必ず「シナリオのご使用について」をお読み頂ますようよろしくお願いいたしますm(*_ _)m

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【2人用声劇台本】蟲ノ姫━邂逅━

未旅kay
恋愛
1870年━━明治3年。 蘆屋国光は時代錯誤である陰陽師の子孫だった。 逃れようのない陰陽師としての血が彼を、呪い師として大成させた。 異形の娘は、どうしようもなく人間に絶望していた。 邂逅(かいこう) 男1:女1 約40分

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

扉の向こうは黒い影

小野 夜
ホラー
古い校舎の3階、突き当たりの隅にある扉。それは「開かずの扉」と呼ばれ、生徒たちの間で恐れられていた。扉の向こう側には、かつて理科室として使われていた部屋があるはずだったが、今は誰も足を踏み入れない禁断の場所となっていた。 夏休みのある日、ユキは友達のケンジとタケシを誘って、学校に忍び込む。目的は、開かずの扉を開けること。好奇心と恐怖心が入り混じる中、3人はついに扉を開ける。

The Last Night

泉 沙羅
ホラー
モントリオールの夜に生きる孤独な少女と、美しい吸血鬼の物語。 15歳の少女・サマンサは、家庭にも学校にも居場所を持てず、ただひとり孤独を抱えて生きていた。 そんな彼女が出会ったのは、金髪碧眼の美少年・ネル。 彼はどこか時代錯誤な振る舞いをしながらも、サマンサに優しく接し、二人は次第に心を通わせていく。 交換日記を交わしながら、ネルはサマンサの苦しみを知り、サマンサはネルの秘密に気づいていく。 しかし、ネルには決して覆せない宿命があった。 吸血鬼は、恋をすると、その者の血でしか生きられなくなる――。 この恋は、救いか、それとも破滅か。 美しくも切ない、吸血鬼と少女のラブストーリー。 ※以前"Let Me In"として公開した作品を大幅リニューアルしたものです。 ※「吸血鬼は恋をするとその者の血液でしか生きられなくなる」という設定はX(旧Twitter)アカウント、「創作のネタ提供(雑学多め)さん@sousakubott」からお借りしました。 ※AI(chatgpt)アシストあり

処理中です...