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第二章
第十五話 闇の穴
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茜:『闇』
『それは』
『私の』
【間】
ある日の夜ーー
茜:私ね、尾先さんに言わなきゃいけないことがあるの
凪:っ……知ってるよ
茜:凪が戻ってきてくれて、力が湧いてきた…
って言うのかな?なんだか今なら話せる気がして
凪:気のせいじゃないの?
茜:ううん、だから凪
一緒に来て
そして、現在
凪:(茜は、あぁ言っていたけど……僕は、何ができるんだろう)
茜:……
凪:(覚悟はできてるって顔してた
今も別にいつもと変わらない……
なんだろう……それが怖い)
美紅:茜!
茜:あ、美紅!
今日は一緒の授業だね
美紅:……やっぱり
ねぇ、その子が茜の…守護霊?ってやつ?
凪:(!?)
茜:美紅……、見えてる?
美紅:ずっと言おうと思ってたんだけど
あの時から、私も見えるようになったんだと思う
あ、ずっとじゃないよ
時々、なんだけど
茜:……そう、なんだ
うん、この子は凪
守護霊って言うのかは私もわからないけど
凪:……そうだね
契約で縛られているが正しいかな
茜:凪
凪:アンタ、前から勘が鋭い感じがしてたんだ
少し話したい
茜、後で時間を作って欲しい
茜:わかった
美紅、大丈夫?
美紅:うん、私も気になるし
二限空きだよね?その時に
茜:わかった
【間】
美紅:それで、話って?
凪:一応、茜の友達だから
色々見逃してあげるよ
美紅、だっけ
(小声で)紅の字が入ってるのも……
美紅:ん?何?
凪:いや、こっちの話
これは注告、僕たちに関わらないほうがいい
茜:ちょ、凪!
凪:最近まで、僕は玉といって
姿を現すことができなかった
だけど、存在はしているから話は全部知ってるよ
茜:ッ…
凪:今、茜は大変なことに巻き込まれてる
茜一人だったら、なんとか僕で守ることはできる
だけど、茜のことだ
友達に危害が出そうならそっちを優先する
茜:それは……そうかもしれないけど…
美紅:大変なこと?
茜:いや!そんな、大したことじゃ
凪:大したことだよ
詳細は話さない、理由は解るよね?
美紅:私を巻き込まないため?
凪:そこら辺は茜より理解している
だったら
美紅:私だって友達を見捨てたくはないんだけど
凪:……死ぬかもしれないのに?
美紅:巻き込まれてる茜も同じなんでしょ?
凪:君と茜じゃ立場も力も違う
僕が憑いている
君に何ができる?
美紅:私には何もないの?
凪:……そうだね
茜:で、でも!美紅も幽霊が見えるなら
危ないんじゃないの?
凪:霊感持ちは少なからずいるし
全員危ないか、と言われればそうでもない
無視すればいい
どうしても関わってしまうのは……
そうだね、茜が出会った日和って子
あの子は、霊感はないけど八剱という男のせいで
霊に『巻き込まれる』
夕凪は、血筋のせいで
霊の『目を惹く』
そして、茜は……霊に『好かれる』
茜:……私は何でそうなるの…?
凪:話したいことが……あるんでしょ?
茜:……うん
美紅:私は?
凪:君は何もない
特殊な家系でもないし、業は減ってる
あの時の選択が、間違っていなかった
美紅:あの時……
てことは、助けてくれたんだね
凪:茜に言われたからね、仕方なく
そうだね、君を言葉にするなら
『許された』かな
美紅:っ……、そっか
茜:けど、私と関わりがあるなら
絶対に大丈夫とは言い切れないよ
私は……
凪:茜、友達を守りたいのか、殺したいのか
僕には解らないよ
茜:殺す……?
凪:……美紅
美紅:何?
凪:茜について、どう思う?
美紅:どうって…別に
友達で、それに私のことを助けてくれて
支えにもなってくれた
あの後も、ずっと気にかけてくれたし
凪:茜のために命をかけられるかい?
美紅:……
茜:……美紅?
美紅:茜は望まないけど、多分、かけられると思う
それくらい私には、あの時のことが大きかった
許されたって言ってくれたよね
それで私は救われたと分かったから
凪:別にそういうつもりで言ったわけじゃないけど
茜、僕は変わらない
茜さえ助かればそれでいいと思ってる
だから、敢えて言ってる
巻き込む必要はないって
茜:それは、分かってる
だけど、あの人たちは美紅のことも狙った
その事実があるから私は心配なんだよ
守れるなら、守りたい
凪:だから、この件はオサキに任せる
茜:え?
凪:僕はこれ以上、言わないよ
その代わり、秘密は美紅にも話すべきだ
美紅:秘密?
茜:……
凪、私はね
凪:うん
茜:美紅の強さを見た時に、決心したんだ
だから、話すよ
美紅、聞いてくれる?
美紅:うん、茜が聞いて欲しいなら
茜:ありがとう
凪:……(これが正解か解らない
だけど、茜のアレは……
ムカつくけど、オサキ……頼んだよ)
その日の夜、凪は一人で尾先の元を訪れた
尾先:なるほどな
それで、お前一人で来たわけか
凪:これ以上は、茜の口から直接聞いてね
僕も全部は知らない
尾先:あぁ、解ってる
凪:覚悟、してるんだね
尾先:……お前のことは、どうなんだ
凪:自分の過去を語って何になるの?
人間じゃないんだよ、僕は
尾先:玉から解放されたんだ
それなりの意志があるわけだが
まぁ、正しいだろうな
俺も後悔している
凪:はは!お前の過去も中々だったね
可哀想とは言わないよ
尾先:聞いていたのか
凪:……案外、大丈夫なんだね
尾先:俺か?……まぁ、少し荒れたがな
凪:白について、もっと荒れてそうだったけど
尾先:焦って、怒ってどうなる
そんなもんじゃないだろ?怪異は
凪:……そうだね
じゃ、任せたよ
美紅も命を賭けるなんて軽く言って、今の子って皆んなそうなの?
尾先:……そうじゃないだろうが
あの子も何かあるだろうな
死を経験するというは
凪:……そう、だね
僕も、解らなくは……ないかもね
じゃあオサキ、頼んだよ
尾先:あぁ
……覚悟、か
【間】
美紅:行くの、久しぶりだね
茜:そうだね、何も変わってないけど
美紅:その、どうなの?
茜:何が?
美紅:私みたいなこと、色々あったんでしょ?
茜:そうだね……色々、あった…かな
だけど、私なりに思うこともあって、後悔とかはないよ?
寧ろ、良かったと思ってる
美紅:そっか
私はね、茜
茜:何?
美紅:何があっても味方でいるよ
友達だからとか恩人だからとか
そんなんじゃなくて、なんて言えばいいか分からないけど
茜:……うん!
凪:じゃあ、開けるよ
扉を開ける
そこにはいつのもの様に尾先が立っていた
尾先:お疲れ……川原美紅、だったか
美紅:お久しぶりです
尾先:また依頼か?
美紅:あ、えっと
茜:今日は、みんなに話したいことがあって
それで、美紅にも
尾先:そうか
先に座ってろ
茜:はい
【間】
尾先:それで?
話ってのは、お前の黒のことか?
美紅:黒?
凪:霊感が強ければ見えるものだよ
霊はそれを本能のように見つける
人間の言葉にするなら……
悩み、後悔、心の傷……闇
美紅:闇……
凪:霊はそれが穴の様に見える
大切な宝物の様に見えることもある
人の心の闇
何物にも変え難い、絶対に欲しいもの
茜:なんで、そんなに欲しくなるの?
尾先:霊とは何だという話、覚えているか?
霊とは意味の無くなったモノだと
そう言っている意味はな
死んで何も無くなったソレは
その穴に入って、自分を取り戻したいんだよ
自分という入れ物を求めている
茜:っ……
美紅:取り憑くっていうのは、そのための?
凪:生に執着した霊に多いと言うべきかな
怨みが強ければ、取り憑き、殺すことを優先する奴もいる
美紅:霊もそれぞれ色々あるわけなんだ
茜:……
尾先:話す決心をした、と言うことは
お前自身、思うところがあるんだろう
だが、無理はしなくていいんだ
無理矢理話すことでもない
凪:オサキ、それは
茜:いいの、凪
私は、話します
尾先さんが話してくれた様に、美紅が勇気を出した様に、私も
美紅:茜……
茜:私、は……
いじめられていたの
小学生の頃から、ずっと
美紅:いじめ?
凪:僕が茜を見つけたのは、くねくねの時だった
昔に、そんな事があったなんて……
そんな事…解っていたなら、今頃全員……
尾先:凪
凪:っ!……ごめん
尾先:……ここからの話は、そういう話だ
凪、それに美紅
美紅:はい
尾先:誰も責めるな、いいな?
凪:分かってる……分かってるよ……
美紅:責めるなって
けど、この話って
尾先:誰かを責めるのも、慰めるのも話が終わってからだ
茜、話せるか?
茜:はい……
きっかけは……なんだったんだろう……
当時、四年生だった私に、みんなが無視を始めたのが……始まり
あの時の空気は……
尾先:……それで?
茜:意味が分からず、ただ毎日が空っぽで
色が……無くなっていくような……
尾先:……
茜:意味が分からないまま、中学生になって
それでもずっと続いてた
無視だけじゃ無くなったのは……いつだっけ
凪:(オサキ……本当に大丈夫なんだろうな?茜の様子……何か、おかしい…)
美紅:(茜……こんな話、したくないよね……茜の周りの空気が……重い…?)
凪:……
(美紅も何か勘付いてる…?やっぱりこの子……)
茜:当時、流行っていたマンガがあって
それもいじめを題材にしてて
それを見ると、私は酷くないと思えて
尾先:物語を面白くする為に酷く描くことはある
実際にやってる奴もいるだろうが
美紅:無視をされ続けたってこと?
茜:ううん、落書きとか、色々
今思うと幼稚だなとか、そんなことでとか思い返す事ができるけど
あの時の私にとっては、それが……
凪:僕はあまり人間のことは解らないけど
……何百年も独りでいたから……僕は
尾先:感じ方も傷付き方も人それぞれだ
それこそ、何百年も独りで平気な人間もいるかもしれない
1日も独りでいると不安になることもあるかもしれない
怪異も様々だが、人も大概複雑に出来ている
美紅:私は、そういう経験がないなら分からないけど
私も……一人で塞ぎ込んでたことはあったし
茜:大人になれば、なるほど
あの時のことが薄れていく様な気はして
……だけど、それは……いいのかな
美紅:茜?
茜:忘れたいはずなんだけど
ふとした時に思い出して
これは、忘れていい、もの、なのかな
尾先:……
凪:オサキ、茜はその時とは違うみたいだけど
だったら、この黒は一体……
尾先:……凪
凪:何?
尾先:結界を張れ
凪:!?茜!!
茜:忘れて、消えて、それで、何が残るの?
ううん、消えない
だから、私は……
美紅:……?茜?しっかりして
……どこ、見てるの?
茜:あの時から、ずっと、私は
尾先:凪!
凪:くっ……!!
尾先:美紅!離れろ!
美紅:えっ!?は、はい!
尾先:……これが、闇だ
茜:私は……失敗した
何が原因か解らない
だから、皆、私を
暗いところに閉じ込めるんだ
尾先:それで、お前は何をしたんだ?
茜:人は変わらない、変えられない
だから、どうすればいいのか解らなかった
だけど、それは嘘だ
変わらないのは、変えられないのは
私から見た、皆だ
凪:オサキ!どうなってる!
これ……霊体の……!!
尾先:認識の話だな、茜
人は中々変われないよな
自分というフィルターを通しているからな
凪:オサキ!
美紅:凪!尾先さん多分何かしてる!
それまで茜を守って!
凪:お前……言われなくても!!
茜:人は変われない、変えれない……当たり前……だ
そんなこと、私にできるはずない!!
美紅:茜……
茜:だけど、人は変われる、変えられる
尾先:どうやって変わる?
茜:変わるのは……変えられるのは……
私、自身だ
尾先:……
茜:『変われ 今の自分じゃダメだから』
『変われ 今の自分じゃ越えられないから』
凪:呪詛……?
な、んだ……これ…
美紅:痛っ……耳……が
尾先:自分を変えてどうなる?
それで、何が変わる?
凪:何……煽って……
茜:だから……だから!!
茜:殺せ、自分を殺せ
殺せ、殺せ、殺せ
凪:……茜…やめて、それは……
美紅:尾先さん!茜が!
尾先:……
茜:次はもう失敗しない様に
次はもう……
自分を殺さなくて済むように
茜の目から黒い涙のようなものが溢れ出す
その目は漆黒に塗られた様に光すら無い
美紅:えっ……目が……
尾先:答え合わせは全部終わってからだ
凪、そのまま抑えておけ
凪:そんなこと、言ったって!茜が!
尾先:お前の結界内なら大丈夫だろ?
それとも、弱音を吐くか?
凪:……ホント、ムカつくよ
茜を守るのは僕の役目だ!
尾先:川原美紅
美紅:はい…
尾先:茜の為に、命を張れるらしいな
美紅:……はい
尾先:お前が友達でいてくれて良かったよ
美紅:えっ、それは……
尾先:お前の声なら届く
その狐に触れて、茜に声をかけろ
美紅:分かりました!
尾先:クダ、頼むぞ
美紅:茜!私は、いるよ
命の恩人だからとか
救ってくれたとか、そんなんじゃないよ
私は、茜だからそばにいるんだよ
昔に何かあったとか関係ないよ
そういうの、皆あると思うから
私だって……私だってそうだったから!
だから、次は私が助けるよ、茜
お願い!手を取って!茜!
茜:……ミク……私は、いていいの
美紅:いいとか、駄目とかじゃない!
私がそばにいて欲しいの!
だから!
凪:あれは…!!
……僕だっているんだから!
忘れないでよね!茜!!
尾先:……フッ
だそうだぞ、茜
お前は変わったみたいだな
やり方は間違っているが、説教は全部終わってからだな
茜:……ナギ……オサキ、さん…
尾先:もう、決別する覚悟はあるか?
それがなくても、大丈夫か?
茜:……はい…
尾先:よし
クダ、凪……『喰え』
【間】
茜:『闇』
『それは』
『ただひたすらに黒く、色付いた世界が真っ黒に塗りつぶさて
段々と色を失っていく様な
それは、ただひたすらに終わりなく
底の無い落とし穴のように落ちていく様な
そこに、何かを殺しては埋めて
塞いで行く様に、色をつける様に』
『私の』
『全てを否定して、肯定するような
只々、何も無い 只の、私自身だ』
【間】
茜:うっ……
尾先:目、覚めたか?
茜:私……
美紅:茜!
茜:美紅……ありがとう……
美紅:良かった……
凪:オサキ、あれはもしかして、生霊?
尾先:あぁ、その通りだ
茜:生霊……?
尾先:今回の話はな
自分自身の生霊に取り憑かれたってことだ
生霊ってのは、普通の霊体と違う
まだ生きている人間の霊だからな
凪:そのせいで、取り憑いている僕にも
茜の中に生霊が取り憑いているのが解らなかった
それもそうだよね、だって茜自身なんだから
美紅:どういうこと?
尾先:いじめが原因で、茜は堕ちた
と、言えばいいだろう
人は死ぬと霊になる
地縛霊、浮遊霊なんかは未練や恨みの象徴
何もなければ成仏するが、それも霊体の話だ
じゃあ、生霊とは何だと思う?
美紅:生きているうちに幽霊になる?
私が聞いたことある話では、幽霊を勝手に飛ばしてる、とか
尾先:生きていて霊になることはない
幽体離脱なんかと似ているが、自分の中にある霊力と言えば解りやすいか?
それを放出していると思っていい
凪:生霊って言うのは、自分の意識していない部分の話
勝手に、いつの間にか、知らずに
起こっていることが多い
茜:それで……私は……
尾先:よく聞く話では、恨みなんかが限界に達した時
その恨みの先に生霊を飛ばし、取り憑かせ、霊障を起こす
勝手に飛ばしてるっていうのは、それだな
美紅:なるほど……
尾先:茜の場合は、いじめによる苦悩で、心に穴が空いた
本来であれば、いじめた奴らに生霊を飛ばすものだが
そこは……お前の性格だな
茜:私の性格……?
尾先:人を恨めない、純粋すぎるんだよ
だから、お前は死んだ
美紅:死んだ!?茜は生きてますよ!
凪:……そうか
だから、こんなことに
尾先:まぁ、凪は解るか
……心の自殺だよ
茜:心の自殺……?
尾先:生霊に成り代わってたな?
自分で言った言葉を覚えているか?
殺せ、自分を殺せ
そう言っていたぞ
茜:っ……
尾先:つまり、殺したんだよ
茜は、自分自身をな
美紅:……そこまで、追い詰められてた…?
尾先:あぁ、心の自殺も自殺と変わりない、死と同義だ
生霊はいじめた相手ではなく、茜に取り憑いた
自分を取り戻すために、その穴に入ったんだ
それに、まだ若かった
死ぬ勇気は無いにしろ、心を殺すことは可能だ
悩む先が自分自身だったんだろう
悩んで、考えて、悩み続けて、考え続けて
辿り着いた答えは、自分を殺して生まれ変わること
茜:……そうです
私は……生まれ変わりたかった……
次は、失敗しない様に
高校からは誰も知らないところに行って
一から初めて、次は誰も失くさないように
大事にできる様にって……
美紅:もしかして……茜
詩織のことも、私聞いたんだ
茜:……えっ?
美紅:詩織が茜をよく思ってなかったって…最近ね
なのに、茜はずっと心配してた
色々、私にも分かることはあるよ
茜が尾先さんに出会って相談して
その後、詩織は入院して
その話を聞いて……多分、何かあったんじゃないかって
茜:……
美紅:茜は……優しすぎるよ……
茜:違う!違うの……私は……
尾先:お前のその、異常なまでの友達への執着心
生霊が取り憑いていたこともあるが
まずは、その考え方が原因だな
自分を殺してまでも、自分に原因を作る
そうじゃないだろ?友達っていうのは
茜:……はい
今なら……ちゃんと理解できます
尾先:それに、人間ってのは綺麗じゃない
打算もなんでもありだ
人間は業が深いからな、凪
凪:そうだね
ここまで、純粋に人を思い続けるのは
逆に珍しいし、異常になるもんなんだね
茜の良いところでもあるけど
それが、自分の犠牲の上になっているなら
僕は、それを良いとは思わないよ
茜:そうだね……ごめんね
美紅:ちゃんと、自分を大切にしてね
私を、助けてくれたみたいに
自分も助けてあげて
茜:うん……ありがとう美紅
……なんだか、変な感じです
尾先:穴にいたやつが消えたからな
だが、黒は薄れているが、まだ完全には消えてない
それは、業だと思え
自分を殺した罪だ
それは、お前にしか償えない
茜:はい
凪:それにしても、なんであんなに余裕そうだったのさ
尾先:生霊だろうが、霊は霊だ
それなら俺の専門だからな
それに、覚悟してると言ったのはお前だろ
俺だってただ見てるわけじゃない
まぁ……、心のケアは任せるぞ
美紅:任せてください!ね、茜
茜:ありがとうございました!
それと、みんなごめんなさい!
今までずっと言えなくて
言ったらまた、失くなっちゃいそうで怖くて
凪:僕が側を離れると思う?
そう思われてたら怒るよ
茜:ありがとう、凪
美紅:私だって、同じ
茜:うん
尾先:自分自身に取り憑いた生霊か
茜:尾先さん
尾先:なんだ?
茜:ありがとうございました
尾先:あぁ、報酬は貰うぞ
茜:それ、ですか?
尾先:あまり聞かない話だからな
あいつの好物だ
茜:あはは…
尾先:……お前は、恵まれているよ
茜:そう、ですね
尾先:違う意味でもな
茜:違う意味?
尾先:いや、此処にいる奴はみんなそうか
……俺は廻門だった
美紅は茜だったが、自分自身の強さもある
美紅:けど、一人じゃ無理でした
尾先:そうだな、一人じゃ無理だった
凪:……僕も、そうだった
尾先:……この世っていうのは
独りで生きていくには難しすぎる
茜:だから、かもしれないです
尾先:何がだ?
茜:私が尾先さんを手伝うのも
何かできるわけじゃないですけど
尾先さんや、骸さんみたいに
それでも少しでも手伝えるならって
美紅:私も……何かできるのかな
尾先:……そうだな
お前たち二人は特別かもしれない
茜:特別、ですか?
美紅:私には何もないって凪に言われましたけど
尾先:縁、ってのは意外と馬鹿にできない
そうだろ?凪
凪:まぁ…そうだね
今回は助かった事だし、色々大目に見てるよ
美紅:そういえば、何を許してくれてるの?
茜:あー…えっと、ルールみたいなのがあるみたいでね
本当は、凪と普通に喋ったら駄目なんだ
美紅:え、ごめん!
凪:はぁ…いいよ、もう
尾先:霊に『許される』か
……ふっ
とりあえず、今日は解散だ
川原美紅
美紅:はい
尾先:また来い、茜とな
茜:いいんですか!
美紅:お邪魔します!
凪:はぁ…お人好しすぎるよ、本当
尾先:まぁ、な…なんせ此処は
怪異相談所、らしいからな
闇の穴 終
『それは』
『私の』
【間】
ある日の夜ーー
茜:私ね、尾先さんに言わなきゃいけないことがあるの
凪:っ……知ってるよ
茜:凪が戻ってきてくれて、力が湧いてきた…
って言うのかな?なんだか今なら話せる気がして
凪:気のせいじゃないの?
茜:ううん、だから凪
一緒に来て
そして、現在
凪:(茜は、あぁ言っていたけど……僕は、何ができるんだろう)
茜:……
凪:(覚悟はできてるって顔してた
今も別にいつもと変わらない……
なんだろう……それが怖い)
美紅:茜!
茜:あ、美紅!
今日は一緒の授業だね
美紅:……やっぱり
ねぇ、その子が茜の…守護霊?ってやつ?
凪:(!?)
茜:美紅……、見えてる?
美紅:ずっと言おうと思ってたんだけど
あの時から、私も見えるようになったんだと思う
あ、ずっとじゃないよ
時々、なんだけど
茜:……そう、なんだ
うん、この子は凪
守護霊って言うのかは私もわからないけど
凪:……そうだね
契約で縛られているが正しいかな
茜:凪
凪:アンタ、前から勘が鋭い感じがしてたんだ
少し話したい
茜、後で時間を作って欲しい
茜:わかった
美紅、大丈夫?
美紅:うん、私も気になるし
二限空きだよね?その時に
茜:わかった
【間】
美紅:それで、話って?
凪:一応、茜の友達だから
色々見逃してあげるよ
美紅、だっけ
(小声で)紅の字が入ってるのも……
美紅:ん?何?
凪:いや、こっちの話
これは注告、僕たちに関わらないほうがいい
茜:ちょ、凪!
凪:最近まで、僕は玉といって
姿を現すことができなかった
だけど、存在はしているから話は全部知ってるよ
茜:ッ…
凪:今、茜は大変なことに巻き込まれてる
茜一人だったら、なんとか僕で守ることはできる
だけど、茜のことだ
友達に危害が出そうならそっちを優先する
茜:それは……そうかもしれないけど…
美紅:大変なこと?
茜:いや!そんな、大したことじゃ
凪:大したことだよ
詳細は話さない、理由は解るよね?
美紅:私を巻き込まないため?
凪:そこら辺は茜より理解している
だったら
美紅:私だって友達を見捨てたくはないんだけど
凪:……死ぬかもしれないのに?
美紅:巻き込まれてる茜も同じなんでしょ?
凪:君と茜じゃ立場も力も違う
僕が憑いている
君に何ができる?
美紅:私には何もないの?
凪:……そうだね
茜:で、でも!美紅も幽霊が見えるなら
危ないんじゃないの?
凪:霊感持ちは少なからずいるし
全員危ないか、と言われればそうでもない
無視すればいい
どうしても関わってしまうのは……
そうだね、茜が出会った日和って子
あの子は、霊感はないけど八剱という男のせいで
霊に『巻き込まれる』
夕凪は、血筋のせいで
霊の『目を惹く』
そして、茜は……霊に『好かれる』
茜:……私は何でそうなるの…?
凪:話したいことが……あるんでしょ?
茜:……うん
美紅:私は?
凪:君は何もない
特殊な家系でもないし、業は減ってる
あの時の選択が、間違っていなかった
美紅:あの時……
てことは、助けてくれたんだね
凪:茜に言われたからね、仕方なく
そうだね、君を言葉にするなら
『許された』かな
美紅:っ……、そっか
茜:けど、私と関わりがあるなら
絶対に大丈夫とは言い切れないよ
私は……
凪:茜、友達を守りたいのか、殺したいのか
僕には解らないよ
茜:殺す……?
凪:……美紅
美紅:何?
凪:茜について、どう思う?
美紅:どうって…別に
友達で、それに私のことを助けてくれて
支えにもなってくれた
あの後も、ずっと気にかけてくれたし
凪:茜のために命をかけられるかい?
美紅:……
茜:……美紅?
美紅:茜は望まないけど、多分、かけられると思う
それくらい私には、あの時のことが大きかった
許されたって言ってくれたよね
それで私は救われたと分かったから
凪:別にそういうつもりで言ったわけじゃないけど
茜、僕は変わらない
茜さえ助かればそれでいいと思ってる
だから、敢えて言ってる
巻き込む必要はないって
茜:それは、分かってる
だけど、あの人たちは美紅のことも狙った
その事実があるから私は心配なんだよ
守れるなら、守りたい
凪:だから、この件はオサキに任せる
茜:え?
凪:僕はこれ以上、言わないよ
その代わり、秘密は美紅にも話すべきだ
美紅:秘密?
茜:……
凪、私はね
凪:うん
茜:美紅の強さを見た時に、決心したんだ
だから、話すよ
美紅、聞いてくれる?
美紅:うん、茜が聞いて欲しいなら
茜:ありがとう
凪:……(これが正解か解らない
だけど、茜のアレは……
ムカつくけど、オサキ……頼んだよ)
その日の夜、凪は一人で尾先の元を訪れた
尾先:なるほどな
それで、お前一人で来たわけか
凪:これ以上は、茜の口から直接聞いてね
僕も全部は知らない
尾先:あぁ、解ってる
凪:覚悟、してるんだね
尾先:……お前のことは、どうなんだ
凪:自分の過去を語って何になるの?
人間じゃないんだよ、僕は
尾先:玉から解放されたんだ
それなりの意志があるわけだが
まぁ、正しいだろうな
俺も後悔している
凪:はは!お前の過去も中々だったね
可哀想とは言わないよ
尾先:聞いていたのか
凪:……案外、大丈夫なんだね
尾先:俺か?……まぁ、少し荒れたがな
凪:白について、もっと荒れてそうだったけど
尾先:焦って、怒ってどうなる
そんなもんじゃないだろ?怪異は
凪:……そうだね
じゃ、任せたよ
美紅も命を賭けるなんて軽く言って、今の子って皆んなそうなの?
尾先:……そうじゃないだろうが
あの子も何かあるだろうな
死を経験するというは
凪:……そう、だね
僕も、解らなくは……ないかもね
じゃあオサキ、頼んだよ
尾先:あぁ
……覚悟、か
【間】
美紅:行くの、久しぶりだね
茜:そうだね、何も変わってないけど
美紅:その、どうなの?
茜:何が?
美紅:私みたいなこと、色々あったんでしょ?
茜:そうだね……色々、あった…かな
だけど、私なりに思うこともあって、後悔とかはないよ?
寧ろ、良かったと思ってる
美紅:そっか
私はね、茜
茜:何?
美紅:何があっても味方でいるよ
友達だからとか恩人だからとか
そんなんじゃなくて、なんて言えばいいか分からないけど
茜:……うん!
凪:じゃあ、開けるよ
扉を開ける
そこにはいつのもの様に尾先が立っていた
尾先:お疲れ……川原美紅、だったか
美紅:お久しぶりです
尾先:また依頼か?
美紅:あ、えっと
茜:今日は、みんなに話したいことがあって
それで、美紅にも
尾先:そうか
先に座ってろ
茜:はい
【間】
尾先:それで?
話ってのは、お前の黒のことか?
美紅:黒?
凪:霊感が強ければ見えるものだよ
霊はそれを本能のように見つける
人間の言葉にするなら……
悩み、後悔、心の傷……闇
美紅:闇……
凪:霊はそれが穴の様に見える
大切な宝物の様に見えることもある
人の心の闇
何物にも変え難い、絶対に欲しいもの
茜:なんで、そんなに欲しくなるの?
尾先:霊とは何だという話、覚えているか?
霊とは意味の無くなったモノだと
そう言っている意味はな
死んで何も無くなったソレは
その穴に入って、自分を取り戻したいんだよ
自分という入れ物を求めている
茜:っ……
美紅:取り憑くっていうのは、そのための?
凪:生に執着した霊に多いと言うべきかな
怨みが強ければ、取り憑き、殺すことを優先する奴もいる
美紅:霊もそれぞれ色々あるわけなんだ
茜:……
尾先:話す決心をした、と言うことは
お前自身、思うところがあるんだろう
だが、無理はしなくていいんだ
無理矢理話すことでもない
凪:オサキ、それは
茜:いいの、凪
私は、話します
尾先さんが話してくれた様に、美紅が勇気を出した様に、私も
美紅:茜……
茜:私、は……
いじめられていたの
小学生の頃から、ずっと
美紅:いじめ?
凪:僕が茜を見つけたのは、くねくねの時だった
昔に、そんな事があったなんて……
そんな事…解っていたなら、今頃全員……
尾先:凪
凪:っ!……ごめん
尾先:……ここからの話は、そういう話だ
凪、それに美紅
美紅:はい
尾先:誰も責めるな、いいな?
凪:分かってる……分かってるよ……
美紅:責めるなって
けど、この話って
尾先:誰かを責めるのも、慰めるのも話が終わってからだ
茜、話せるか?
茜:はい……
きっかけは……なんだったんだろう……
当時、四年生だった私に、みんなが無視を始めたのが……始まり
あの時の空気は……
尾先:……それで?
茜:意味が分からず、ただ毎日が空っぽで
色が……無くなっていくような……
尾先:……
茜:意味が分からないまま、中学生になって
それでもずっと続いてた
無視だけじゃ無くなったのは……いつだっけ
凪:(オサキ……本当に大丈夫なんだろうな?茜の様子……何か、おかしい…)
美紅:(茜……こんな話、したくないよね……茜の周りの空気が……重い…?)
凪:……
(美紅も何か勘付いてる…?やっぱりこの子……)
茜:当時、流行っていたマンガがあって
それもいじめを題材にしてて
それを見ると、私は酷くないと思えて
尾先:物語を面白くする為に酷く描くことはある
実際にやってる奴もいるだろうが
美紅:無視をされ続けたってこと?
茜:ううん、落書きとか、色々
今思うと幼稚だなとか、そんなことでとか思い返す事ができるけど
あの時の私にとっては、それが……
凪:僕はあまり人間のことは解らないけど
……何百年も独りでいたから……僕は
尾先:感じ方も傷付き方も人それぞれだ
それこそ、何百年も独りで平気な人間もいるかもしれない
1日も独りでいると不安になることもあるかもしれない
怪異も様々だが、人も大概複雑に出来ている
美紅:私は、そういう経験がないなら分からないけど
私も……一人で塞ぎ込んでたことはあったし
茜:大人になれば、なるほど
あの時のことが薄れていく様な気はして
……だけど、それは……いいのかな
美紅:茜?
茜:忘れたいはずなんだけど
ふとした時に思い出して
これは、忘れていい、もの、なのかな
尾先:……
凪:オサキ、茜はその時とは違うみたいだけど
だったら、この黒は一体……
尾先:……凪
凪:何?
尾先:結界を張れ
凪:!?茜!!
茜:忘れて、消えて、それで、何が残るの?
ううん、消えない
だから、私は……
美紅:……?茜?しっかりして
……どこ、見てるの?
茜:あの時から、ずっと、私は
尾先:凪!
凪:くっ……!!
尾先:美紅!離れろ!
美紅:えっ!?は、はい!
尾先:……これが、闇だ
茜:私は……失敗した
何が原因か解らない
だから、皆、私を
暗いところに閉じ込めるんだ
尾先:それで、お前は何をしたんだ?
茜:人は変わらない、変えられない
だから、どうすればいいのか解らなかった
だけど、それは嘘だ
変わらないのは、変えられないのは
私から見た、皆だ
凪:オサキ!どうなってる!
これ……霊体の……!!
尾先:認識の話だな、茜
人は中々変われないよな
自分というフィルターを通しているからな
凪:オサキ!
美紅:凪!尾先さん多分何かしてる!
それまで茜を守って!
凪:お前……言われなくても!!
茜:人は変われない、変えれない……当たり前……だ
そんなこと、私にできるはずない!!
美紅:茜……
茜:だけど、人は変われる、変えられる
尾先:どうやって変わる?
茜:変わるのは……変えられるのは……
私、自身だ
尾先:……
茜:『変われ 今の自分じゃダメだから』
『変われ 今の自分じゃ越えられないから』
凪:呪詛……?
な、んだ……これ…
美紅:痛っ……耳……が
尾先:自分を変えてどうなる?
それで、何が変わる?
凪:何……煽って……
茜:だから……だから!!
茜:殺せ、自分を殺せ
殺せ、殺せ、殺せ
凪:……茜…やめて、それは……
美紅:尾先さん!茜が!
尾先:……
茜:次はもう失敗しない様に
次はもう……
自分を殺さなくて済むように
茜の目から黒い涙のようなものが溢れ出す
その目は漆黒に塗られた様に光すら無い
美紅:えっ……目が……
尾先:答え合わせは全部終わってからだ
凪、そのまま抑えておけ
凪:そんなこと、言ったって!茜が!
尾先:お前の結界内なら大丈夫だろ?
それとも、弱音を吐くか?
凪:……ホント、ムカつくよ
茜を守るのは僕の役目だ!
尾先:川原美紅
美紅:はい…
尾先:茜の為に、命を張れるらしいな
美紅:……はい
尾先:お前が友達でいてくれて良かったよ
美紅:えっ、それは……
尾先:お前の声なら届く
その狐に触れて、茜に声をかけろ
美紅:分かりました!
尾先:クダ、頼むぞ
美紅:茜!私は、いるよ
命の恩人だからとか
救ってくれたとか、そんなんじゃないよ
私は、茜だからそばにいるんだよ
昔に何かあったとか関係ないよ
そういうの、皆あると思うから
私だって……私だってそうだったから!
だから、次は私が助けるよ、茜
お願い!手を取って!茜!
茜:……ミク……私は、いていいの
美紅:いいとか、駄目とかじゃない!
私がそばにいて欲しいの!
だから!
凪:あれは…!!
……僕だっているんだから!
忘れないでよね!茜!!
尾先:……フッ
だそうだぞ、茜
お前は変わったみたいだな
やり方は間違っているが、説教は全部終わってからだな
茜:……ナギ……オサキ、さん…
尾先:もう、決別する覚悟はあるか?
それがなくても、大丈夫か?
茜:……はい…
尾先:よし
クダ、凪……『喰え』
【間】
茜:『闇』
『それは』
『ただひたすらに黒く、色付いた世界が真っ黒に塗りつぶさて
段々と色を失っていく様な
それは、ただひたすらに終わりなく
底の無い落とし穴のように落ちていく様な
そこに、何かを殺しては埋めて
塞いで行く様に、色をつける様に』
『私の』
『全てを否定して、肯定するような
只々、何も無い 只の、私自身だ』
【間】
茜:うっ……
尾先:目、覚めたか?
茜:私……
美紅:茜!
茜:美紅……ありがとう……
美紅:良かった……
凪:オサキ、あれはもしかして、生霊?
尾先:あぁ、その通りだ
茜:生霊……?
尾先:今回の話はな
自分自身の生霊に取り憑かれたってことだ
生霊ってのは、普通の霊体と違う
まだ生きている人間の霊だからな
凪:そのせいで、取り憑いている僕にも
茜の中に生霊が取り憑いているのが解らなかった
それもそうだよね、だって茜自身なんだから
美紅:どういうこと?
尾先:いじめが原因で、茜は堕ちた
と、言えばいいだろう
人は死ぬと霊になる
地縛霊、浮遊霊なんかは未練や恨みの象徴
何もなければ成仏するが、それも霊体の話だ
じゃあ、生霊とは何だと思う?
美紅:生きているうちに幽霊になる?
私が聞いたことある話では、幽霊を勝手に飛ばしてる、とか
尾先:生きていて霊になることはない
幽体離脱なんかと似ているが、自分の中にある霊力と言えば解りやすいか?
それを放出していると思っていい
凪:生霊って言うのは、自分の意識していない部分の話
勝手に、いつの間にか、知らずに
起こっていることが多い
茜:それで……私は……
尾先:よく聞く話では、恨みなんかが限界に達した時
その恨みの先に生霊を飛ばし、取り憑かせ、霊障を起こす
勝手に飛ばしてるっていうのは、それだな
美紅:なるほど……
尾先:茜の場合は、いじめによる苦悩で、心に穴が空いた
本来であれば、いじめた奴らに生霊を飛ばすものだが
そこは……お前の性格だな
茜:私の性格……?
尾先:人を恨めない、純粋すぎるんだよ
だから、お前は死んだ
美紅:死んだ!?茜は生きてますよ!
凪:……そうか
だから、こんなことに
尾先:まぁ、凪は解るか
……心の自殺だよ
茜:心の自殺……?
尾先:生霊に成り代わってたな?
自分で言った言葉を覚えているか?
殺せ、自分を殺せ
そう言っていたぞ
茜:っ……
尾先:つまり、殺したんだよ
茜は、自分自身をな
美紅:……そこまで、追い詰められてた…?
尾先:あぁ、心の自殺も自殺と変わりない、死と同義だ
生霊はいじめた相手ではなく、茜に取り憑いた
自分を取り戻すために、その穴に入ったんだ
それに、まだ若かった
死ぬ勇気は無いにしろ、心を殺すことは可能だ
悩む先が自分自身だったんだろう
悩んで、考えて、悩み続けて、考え続けて
辿り着いた答えは、自分を殺して生まれ変わること
茜:……そうです
私は……生まれ変わりたかった……
次は、失敗しない様に
高校からは誰も知らないところに行って
一から初めて、次は誰も失くさないように
大事にできる様にって……
美紅:もしかして……茜
詩織のことも、私聞いたんだ
茜:……えっ?
美紅:詩織が茜をよく思ってなかったって…最近ね
なのに、茜はずっと心配してた
色々、私にも分かることはあるよ
茜が尾先さんに出会って相談して
その後、詩織は入院して
その話を聞いて……多分、何かあったんじゃないかって
茜:……
美紅:茜は……優しすぎるよ……
茜:違う!違うの……私は……
尾先:お前のその、異常なまでの友達への執着心
生霊が取り憑いていたこともあるが
まずは、その考え方が原因だな
自分を殺してまでも、自分に原因を作る
そうじゃないだろ?友達っていうのは
茜:……はい
今なら……ちゃんと理解できます
尾先:それに、人間ってのは綺麗じゃない
打算もなんでもありだ
人間は業が深いからな、凪
凪:そうだね
ここまで、純粋に人を思い続けるのは
逆に珍しいし、異常になるもんなんだね
茜の良いところでもあるけど
それが、自分の犠牲の上になっているなら
僕は、それを良いとは思わないよ
茜:そうだね……ごめんね
美紅:ちゃんと、自分を大切にしてね
私を、助けてくれたみたいに
自分も助けてあげて
茜:うん……ありがとう美紅
……なんだか、変な感じです
尾先:穴にいたやつが消えたからな
だが、黒は薄れているが、まだ完全には消えてない
それは、業だと思え
自分を殺した罪だ
それは、お前にしか償えない
茜:はい
凪:それにしても、なんであんなに余裕そうだったのさ
尾先:生霊だろうが、霊は霊だ
それなら俺の専門だからな
それに、覚悟してると言ったのはお前だろ
俺だってただ見てるわけじゃない
まぁ……、心のケアは任せるぞ
美紅:任せてください!ね、茜
茜:ありがとうございました!
それと、みんなごめんなさい!
今までずっと言えなくて
言ったらまた、失くなっちゃいそうで怖くて
凪:僕が側を離れると思う?
そう思われてたら怒るよ
茜:ありがとう、凪
美紅:私だって、同じ
茜:うん
尾先:自分自身に取り憑いた生霊か
茜:尾先さん
尾先:なんだ?
茜:ありがとうございました
尾先:あぁ、報酬は貰うぞ
茜:それ、ですか?
尾先:あまり聞かない話だからな
あいつの好物だ
茜:あはは…
尾先:……お前は、恵まれているよ
茜:そう、ですね
尾先:違う意味でもな
茜:違う意味?
尾先:いや、此処にいる奴はみんなそうか
……俺は廻門だった
美紅は茜だったが、自分自身の強さもある
美紅:けど、一人じゃ無理でした
尾先:そうだな、一人じゃ無理だった
凪:……僕も、そうだった
尾先:……この世っていうのは
独りで生きていくには難しすぎる
茜:だから、かもしれないです
尾先:何がだ?
茜:私が尾先さんを手伝うのも
何かできるわけじゃないですけど
尾先さんや、骸さんみたいに
それでも少しでも手伝えるならって
美紅:私も……何かできるのかな
尾先:……そうだな
お前たち二人は特別かもしれない
茜:特別、ですか?
美紅:私には何もないって凪に言われましたけど
尾先:縁、ってのは意外と馬鹿にできない
そうだろ?凪
凪:まぁ…そうだね
今回は助かった事だし、色々大目に見てるよ
美紅:そういえば、何を許してくれてるの?
茜:あー…えっと、ルールみたいなのがあるみたいでね
本当は、凪と普通に喋ったら駄目なんだ
美紅:え、ごめん!
凪:はぁ…いいよ、もう
尾先:霊に『許される』か
……ふっ
とりあえず、今日は解散だ
川原美紅
美紅:はい
尾先:また来い、茜とな
茜:いいんですか!
美紅:お邪魔します!
凪:はぁ…お人好しすぎるよ、本当
尾先:まぁ、な…なんせ此処は
怪異相談所、らしいからな
闇の穴 終
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