オサキ怪異相談所

てくす

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スピンオフ 怪異蒐集譚

夢喰

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骸:やぁ、僕は骸
  キミは何をしているんだい?

夕凪:…………

骸:なるほど
  それじゃあ…僕の家に招待するよ

夕凪:…………

骸:さぁ、行こうか



怪異蒐集譚 夢喰



樺涅:だめ
   取り憑かれた状態と同じ
   普通の夢遊病じゃないよ

骸:夢遊病なんだけどね、実際
  これも怪異譚の一部ってことかな
  僕が調べてた件と同じだ
  ……"かんぬき

樺涅:先生?

骸:お客さんだよ



茜:お邪魔します

骸:やぁ、二度目だね

茜:……ここが

骸:警戒しなくても大丈夫
  怪異ではあるけど、家は家なんだよ

樺涅:そんなことまで教えたの?

茜:女の子…?

樺涅:私は樺涅、不老不死

茜:不老不死!?

骸:ハハ、いい反応だね
  それじゃあ、茜ちゃんに手伝ってもらおうか

茜:え、えっ!?なんですか?

樺涅:オサキのところの子だね
   こっち

茜:えっ、あ!ちょっと!


【間】


骸:色々気にするタイプの茜ちゃんには教えてあげる
  カバネは不老不死だから成長も止まっている
  つまり、この見た目で君より年上だよ

茜:えっ!?あ、ごめんなさい!

樺涅:いい、気にしてない
   成長が止まっているから年下

骸:ははっ、物は捉え方次第で変わるね

茜:それで、何を手伝えば…

樺涅:これ、何か解る?

茜:これ、は……



【間】



阿僧祇:チッ
    何処かに持って行かれたか
    この新解釈の弱点はコレだな
    標的は一人ってことか
    さっさと探して乗せねぇと次が始まらねーわ
    ……こっちか



【間】



茜:……動こうとしてる?

骸:夢遊病みたいなものだからね
  本来の行きたい場所に向かってるのかも

茜:行きたい場所……

樺涅:猿夢って知ってる?

茜:猿夢?確かインターネット怪談で
  調べたので少しは

骸:あの時、話した新解釈怪異譚だよ
  まぁ、僕が調べた範囲での話だけどね

茜:新解釈……てことは、また

樺涅:アナタはどうしたらいいと思う?
   この子を起こすには

茜:え?普通に起こしたらダメなんですか?

骸:……うん?

茜:確か、猿夢も夢を見ている間の話でしたよね?
  起こしたら怪異から離れるんじゃないんですか?

樺涅:先生、盲点

骸:アッハハ!見えすぎるのも困ったもんだね
  そう、そうだよ茜ちゃん
  僕たちは難しく考えすぎなんだ
  じゃあ、起こしてあげようか

茜:?あ、はい


【間】


夕凪:う……ん…

骸:やぁ、初めまして

夕凪:えっ…?ここは…?

茜:えっと、信じられないと思うんですけど
  幽霊に取り憑かれてて

夕凪:……嘘?

樺涅:本当

夕凪:助けてくれたんですか?

茜:助けたと言うか、起こしたと言うか

夕凪:……そう、あの時ね

骸:…飲み込みが早いね
  それに、よく見ると君って

夕凪:あー…怪異には関わりがあると言うか、なんと言うか

骸:鳳の匂いがする

夕凪:……えっ?

自分を嗅ぐ夕凪

樺涅:あの変態、女の子囲ってるの?

骸:さぁ?最近会ってないから

茜:鳳って、骸さんが前に話してくれた
  その…排泄物を使う人、でしたっけ

夕凪:……嫌な伝わり方してる?
   いや、間違ってないけど

骸:最近流行ってるのかな?女の子を連れ歩くの

樺涅:先生も仲間だね
   私がいるし

骸:じゃあ、僕が最初かな?

茜:…次に尾先さん?
  あ、日和も

骸:オサキより前に銀色もだったね

茜:銀色?

樺涅:同業だよ

骸:それで、次はキミだね

夕凪:……もしかして、怪異屋?

骸:色々、鳳から聞いてるみたいだね
  目を逸らすのはそのせいかな?

夕凪:見るなって言われてるから

樺涅:知ってるなら大丈夫
   先生は無闇にやらないよ

夕凪:そう、それなら良かった

茜:あの、あなたは?

夕凪:あ、私は牛水 夕凪
   鳳さんのところでお世話になって……
   いや、お世話してる

樺涅:アレの世話は大変
   今すぐ逃げたほうがいいよ

夕凪:あはは、確かに

骸:それじゃ、少し話をしようか
  間接的に知り合いだからね、僕たち

茜:そうですね

樺涅:待ってて、用意してくる

夕凪:あんな小さい子がいるなんて
   聞いてた話と随分違うような

茜:あの子、不老不死らしいです

夕凪:不老不死!?この世界、なんでもアリだ…

骸:怪異って面白いよね

茜:それは、骸さんだけだと思いますよ…


【間】


阿僧祇:チッ
    全然掴めねぇ!
    途中で消えてるな?これ
    クソ、早くやらねぇと四月一日のボケが五月蝿えのに

鳳:人の印象は、まずは視覚から始まる
  良い印象も、悪い印象もその時に決まる
  つまり、視覚情報がとても重要だね
  メラビアンの法則と名前まである
  第一印象とは、それほどに重要だね

阿僧祇:……

鳳:更に、態度、言葉遣い、姿勢、声のトーンなど
  それらを追加して、その人を評価する

阿僧祇:はぁ……誰だ?お前
    五月蝿ぇんだけど

鳳:今、君の評価は最悪だ
  私は君に良い印象を持っていない

阿僧祇:初めて会うヤツに変なこと言われて
    こっちもテメーの評価は最低だよ

鳳:あはは
  それはそれは、奇遇
  私の友達を知らないかな?

阿僧祇:知らねーよ

鳳:そうなんだね?
  君から私の友達の匂いがするもので
  あ、私は鼻も良いんだ

阿僧祇:キモいな、お前

鳳:それと、怪異の匂いもするね?
  妖怪のモノもある

阿僧祇:……誰だ?

鳳:私は、鳳
  成人済み、好きなお酒は日本酒
  其処等中に居るただの人間
  ただ、趣味で……
  妖怪退治をしているんだ

阿僧祇:鳳……
    (命様が言っていたリストに入ってたな
    確かそこまで動いてなかった筈だが…)
    そんで?その妖怪退治野郎がなんだよ

鳳:フフ、その発言こそミスだよ
  普通は、私のことを変な人だと思うからね
  そんなに冷静に話す馬鹿はいない

阿僧祇:チッ
    五月蝿ェヤツだな

鳳:チッ、チッ、チッと舌打ち
  癖かい?小鳥だね

阿僧祇:…テメェ、本当に

鳳:おや?煽り耐性もない
  今の時代、生き難いね

阿僧祇:殺してやるよ

鳳:是非!やってみてくれ
  死とは怪異と関わる上で避けて通れない
  自分の身に起こったことは、まだ無いんだ
  どうだろう?やれるかな?

阿僧祇:『黒雲くろくもむらたち来て、
    御殿ごてんの上に たなびいたり。
    頼政きッとみあげたれば、雲のなかに あやしき物の姿あり』

鳳:……

阿僧祇:小鳥じゃねーぞ
    鳴くのは専売特許だがな

鳳:その声を聞いただけで心を病み、病に侵される
  だったね?確かに君の声は不快だね

阿僧祇:そっちは妖怪退治なんだろ?
    どんなモンか見せてみろよ?

鳳:ではでは、御言葉に甘えて
  あ、でも殺さないから安心していいよ?
  聞きたいことが山ほどあるからね

阿僧祇:殺せないの間違いだろ?
    それにお前は俺に殺される

鳳:よく鳴く
  流石は専売特許
  あぁ、弱い犬ほどよく吠えるとも言うね?
  吠えるのも鳴くと同義だね
  それに、確かに犬っぽい

阿僧祇:鵺を知らねぇのか?
    虎だよ、馬鹿

鳳:知らないわけないだろう?
  言葉を借りようか?馬鹿
  私は妖怪退治が専売特許だよ

阿僧祇:煽り合いはもういい
    殺す

鳳:では、こちらも
  少々、抵抗しようじゃないか



【間】



樺涅:先生

骸:なんだい?

樺涅:何だか嫌な予感がする

骸:それは、どっちのかな?

樺涅:……さぁ

骸:まぁ、気持ちは解るよ
  それに、そういう勘は当たるからね

樺涅:この業界の専売特許

骸:そう、以前も当たった実績があるからね

樺涅:はぁ、準備はしておくね

骸:あの二人は……
  まぁ、見ていいものではないかな

樺涅:その時は私が相手しておく
   茜には話していいんでしょ?
   夕凪って子は?

骸:鳳の関係者なら構わない
  話していいよ

樺涅:そう、わかった



【間】



鳳:噂程度に

阿僧祇:あ?

鳳:君たちの話は耳に入っていたから
  出会えて良かったよ

阿僧祇:なんだ?テメェ…気持ち悪ぃ

鳳:良い手土産ができそうだ……
  『陣血結界』


【間】


樺涅:先生は少し準備があるみたい
   まずはちゃんと自己紹介
   私は樺涅、不老不死
   先生に拾われて、此処で暮らしてる
   尾先や廻門せとも知り合い
   新解釈怪異譚のことも少しは知ってる

茜:尾先さんから聞いたことなかったけど
  よろしくお願いします!
  私は山本 茜
  大学生で、尾先さんのところでお世話になってます
  あと……凪って狐の幽霊が守ってくれてる

樺涅:まだぎょくなんだ
   あと、敬語はいい
   さっきも言ったけど、私は歳下

茜:……うん、分かった

夕凪:じゃあ、私かな?
   牛水 夕凪
   私も大学、多分タメかな?
   さっきも言ったけど鳳さんのお世話してる

樺涅:牛水?もしかして丑三の方?

夕凪:何?やっぱり有名なの?

樺涅:怪異関係者ならある程度は

夕凪:そう、そっちの家系らしい
   幽霊に守られたりは私はないけど
   霊感があるし、あと感覚が鋭いって

茜:よろしく、夕凪ちゃん

夕凪:夕凪でいいよ
   けど、私はそういう家系のせいだけど
   あなたは?訳あり?

茜:……私は、友達に呪いをかけられて…それから

夕凪:…ごめん、地雷踏んだ

茜:ううん!大丈夫

樺涅:先生のことは、茜はよく知ってるかもしれない
   夕凪はどれくらい聞いてる?

夕凪:性別が関係ない、目を見るな
   くらいかな
   確かに男か女か分からない感じ
   あと、全然察せない、何考えてるか分からない

樺涅:より怪異に近い存在として完成された人間
   先生は自分でそう言ってた

茜:私も全然分からない
  みんな骸さんには気をつけろって言うから
  けど、悪い人って感じはしないけど

樺涅:茜は先生に気に入られてるから
   多分、守られてる

茜:えっ、そうなの?
  …あ、確かに廻門せとさんにそんなこと言ってたっけ

夕凪:ふーん、好かれやすい人?

茜:いや、そんなことないよ…私は

樺涅:…実際、霊に好かれる方だよ茜は     
   主に動物霊だけど

夕凪:私は好かれるじゃなくて
   目を惹くんだっけ
   鳳さんから言われたなぁ

樺涅:そうね、夕凪は血のせいで
   好かれると言うより見つかりやすい方
   今回もそれかな?

夕凪:気をつけてはいたんだけど
   鳳さんから貰った結界も意味なかったし

樺涅:……違う

夕凪:違う?

樺涅:さっきの、あれは都市伝説
   それは妖怪用

夕凪:…はぁー…

茜:鳳さんってどんな人?

夕凪:うーん…お喋りで、ぼっちで
   お酒好きで、よく分からないけど

茜:けど?

夕凪:……多分、あの人

樺涅:……


夕凪:物凄く、強い



【間】



阿僧祇:ハァ…ハァ…

鳳:そんなものか
  ほら、吠えないと
  君の良さが消えてしまう

阿僧祇:ハァ…クソ、がっ…

鳳:鵺の怪異譚は、呆気ないものでね
  創作物の世界では強力な妖怪として登場するし、大妖怪に分類される
  それは、功績も大きいからだけどね

阿僧祇:何が、言いたい

鳳:知っていれば大して怖くない
  それこそ…九尾の狐や八岐大蛇だったら
  少しは苦戦したかもね?

阿僧祇:死ね!

鳳:死なない
  君の声は届かない

阿僧祇の頭を地面に叩きつける鳳

阿僧祇:ガッ……

鳳:君が使う鵺は、呪言に近いね
  君から霊感は見えるけど、呪師の様なモノはない
  この鵺を使うなら、まずは呪師を目指そうか

阿僧祇:その…手ェ…退けろ……

鳳:一度言ってみたかったセリフがあるんだけど

阿僧祇:巫山戯…ン、な

鳳:地面とキスする気持ちは、どうだい?

阿僧祇:…………、殺す
    殺す殺す殺す殺す、殺す!!

鳳:良い顔だね
  それは好感が持てるよ
  怪異とは、そうでなくてはね

阿僧祇:知るか!クソが!
    千切れて死ね

四方を囲む盛り塩と酒瓶
その一つが割れる

鳳:凄い、酒瓶が一つ割れたよ
  あと三つ

阿僧祇:……テメェ…これ

鳳:結界の中、だからね?
  私に届くのは結界を壊してからだよ

阿僧祇:(クソ、こんな巫山戯た奴に…!!)

気を失う阿僧祇

鳳:おや、もう終わりかな?
  それじゃあ行くよ


【間】


茜:強い?

夕凪:私が最初に会った時も
   ストーカーというか、不審者というか
   私を追いかけてきた人を投げ飛ばしてたし

茜:凄っ…

樺涅:鳳は変態だけど、強いのは確か
   肉体的もそうだけど、霊的にも凄いのは認める
   先生と同じで色々網羅してる

茜:もしかして、骸さんも投げ飛ばしたりするの?

樺涅:先生が武術を使うのは見たことない
   ある程度はできるとは思うけど
   先生は、どちらかというと言葉の人だから

茜:…ある程度はできるんだ…

樺涅:っ!

夕凪:樺涅?

樺涅:嫌な予感、当たったかも



骸:かんぬき

鳳:やぁ、骸
  久しぶりだけど変わらないね

骸:キミも相変わらずだね
  それは?

鳳:手土産だよ
  ……うん、居るね?

骸:丑三の子かい?
  悪いけど、終わらせてからでいいかな?

鳳:構わないよ

骸:樺涅が相手してる間に終わらせようか


【間】

二人は移動し、ある部屋に着く
そして、その部屋の中

鳳:入るのは初めてだったかな?

骸:鳳はそうかな
  さて、縛ろうか

鳳:気を失っているんだけど
  持っておこうか?

骸:いや、勝手にやってくれるよ
  『縛居ばっきょ

鳳:起こそうか

骸:さて、楽しい時間の始まりだね



【間】



樺涅:先生が話していいって
   夕凪も聞いて大丈夫
   本当は先生から茜に話す予定だったけど、どうやら来客

茜:来客?大丈夫なの?

樺涅:うん、気にしないで
   まず、この家は怪異
   マンションの都市伝説知ってる?

夕凪:そういうの多すぎるから
   どの話?

樺涅:404号室

茜:ごめん、知らないかも

夕凪:私も

樺涅:存在しない部屋の話
   必要な時に現れて、そこに閉じ込める怪異
   その話の目的だったりは調べて

茜:分かった

樺涅:その怪異は、マンションだけじゃなくて
   ある部屋だったり、家だったり
   姿は様々で、その一つがこの家
   普段は存在しない家
   必要な時に現れる

茜:あ!尾先さんが言ってたのって
  あの時、私が必要としたから?

樺涅:くねくねのこと?
   そう、先生も気づいたから近くに現れた

夕凪:くねくねに取り憑かれたの?

茜:あはは…うん…

夕凪:それは…災難だね

樺涅:この怪異を先生は飼ってる
   先生が許可した私も一部だけ使える
   まずはかんぬき、家に入ること、出ることを許可する
   あと転帰てんき、物置部屋に移動できる
   先生と許可された私にしか見えない
   いつでも呼び出せる

夕凪:とんでも能力…怪異ってやっぱりよく分からない

樺涅:それから、部屋から出られなくする縛居ばっきょ
   これは私も使える

茜:いいものって言ってたけど
  骸さんにとって便利なものってことなんだ

樺涅:あとは先生しか使えないものがある
   一つは、無の部屋

夕凪:無の部屋?

樺涅:先生の目と繋がってて、先生の結界として使ってる
   それ以上は私からは説明できない

茜:骸さんの目って見えるだけじゃないんだ
  そういえば、映せるって言ってたっけ

夕凪:鳳さんに聞いてた以上に
   本当にヤバい人みたいだ

樺涅:無の部屋は時間が止まってる
   なのに、その中に居る人は死ねない

茜:死ねない?

樺涅:食料はいつの間にか補充される
   ライフラインは途絶えない
   病気にもならない
   もし、出られなかったら怪異に、永遠に飼い殺される

茜:…っ

樺涅:だけど、それはこの家に来てからの話
   先生の結界は、その内の少しを使ってるだけ

夕凪:よく分からないけど、とんでもないのは分かった

樺涅:それで十分だよ、今は



【間】



鳳:無の部屋、住み心地はどうだい?

骸:僕は此処にはいないよ
  今回は偶々使うけどさ

鳳:時間が惜しいからね
  さて、どうしようか?

骸:キミに任せてもいいんだけど
  起こす前に話そうか

鳳:うん、それがいいね

骸:猿夢をばら撒いた新解釈怪異譚
  だと思うんだけど

鳳:なるほど、夕凪が捕まったのは都市伝説
  私の結界が使えないからね

骸:まぁ、改変は色々やってると思うけど
  核は、獏だろうね

鳳:最近見ないと思ったら使われていたのか
  可哀想に

骸:僕が欲しいのは情報のみ
  復讐は任せるけど

鳳:私の友達に手を出したんだからね
  それなりの事はやらせてもらおうかな

骸:別のことで猿夢は対処するつもりだったけど
  これはこれで僕は有難い
  久しぶりに鳳のことが見れるからね

鳳:じゃあ、遠慮なく
  少し準備をするよ

骸:残念だけど
  死んだらちゃんと帰してあげるよ
  フフフ、アハハ!



【間】




阿僧祇:ウッ……此処は

骸:やぁ、僕は骸
  残念だけど捕まえたよ

阿僧祇:むく…ろ…?
    ッッ!?テメ、これ……!!

骸:動けないよ
  ここはそういう場所だ

阿僧祇:(骸……命様が言っていた要注意人物……俺は出会ったら逃げろと言われてたか…クソ)

鳳:よし、いいよ

阿僧祇:っ!テメェ…

鳳:やぁ、負け犬
  もう吠えなくて大丈夫かい?

阿僧祇:……

骸:喧嘩はよくないよ

鳳:じゃあ、色々吐いてもらおうかな?

阿僧祇:口割るなんざするかよ、馬鹿
    黙って死んでやるよ

骸:置かれた状況は理解しているね

鳳:だけど、そういう台詞は言わない方がいい

阿僧祇:あぁ?

鳳:よくそういう台詞を吐く人はいる
  仲間は売らないと根性を見せる
  けど、それって創作物の中の話だよ
  拷問なんて生きていて受ける事は稀だ

骸:さて、此処からは僕じゃない
  鳳にやってもらうよ

阿僧祇:(骸じゃない?…だったら)

骸:僕は精神的に責める事はできる
  だけど、鳳は違う

阿僧祇:……えっ?

阿僧祇の口に手を突っ込む

阿僧祇:オブッ…!

鳳:食え

阿僧祇:ウッ……オエぇ……

鳳:吐くのかい!?勿体無い!

阿僧祇:何……しやがった…ウッ…

鳳:獣の血、排泄物、体毛、体液
  あとは企業秘密

阿僧祇:!?ウッェ……

鳳:だから、勿体無い!
  まぁ、もう口に入ったからいいけどね
  さて、私が得意とすることは、結界、封印…それから儀式だ

阿僧祇:ハァ……ハァ…

骸:いつまで保つかな?

阿僧祇:(これは……)

鳳:『陣血結界』
  それと、『呼蟲こちゅうの儀』

阿僧祇:!?アッ!?ガボッッ……

鳳:知っているかい?吸血虫という妖怪がいる
  それは人間の血を吸い、吸い尽くすまで棲みつく
  しかし、それは少々大きくてね?
  偽蟲ぎちゅうという別の妖怪が使えるんだ

骸:偽蟲ぎちゅうは虫の姿に変化できる妖怪だね
  ただ、かなり小さくて例え変化しても意味のない
  ただの小さな蟲の妖怪

鳳:だけどね?こういうことに使える
  今、君の口の中に無数の偽蟲を儀式で呼び出した
  結界で蠢く蟲はまだ解らないだろう?
  鏡で見せてあげようか?

阿僧祇:(クソ…クソ…!!なんだ、なんなんだ…!)

鳳:喋りたくても喋れないかな?

手を叩く鳳

鳳:はい、喋っていいよ

阿僧祇:クソが!何しやがった!

骸:解るだろう?

阿僧祇:出せ!此処から出せ!

骸:もう弱音を吐くかい?
  じゃあ、喋ってもらおうか?

阿僧祇:そ、それは…
    (例え此処を出てもアイツらから殺される…!!
    詰んだ……?俺が?……嘘だ)

手を叩く鳳

阿僧祇:ゴポッ…!!

鳳:こんな感じですぐに戻せるよ
  君の口は、もう儀式の場として完成している

阿僧祇:(俺は……俺は……)

鳳:心を折るのは難しくない
  今の絶望を越えればいい

阿僧祇:っ!

鳳:今は結界で蟲の感覚がないだろう?
  時間と共に結界は薄れて、段々と感覚が戻ってくる

阿僧祇:!?

鳳:不快感と嫌悪感
  見ての通り、身体も動かせないし
  結界で吐き出すこともできない
  結界が完全に無くなり偽蟲が君の血を吸うまで
  4日間、更に血を吸い切るまで12時間
  私が寝て仕舞えば、その時点で結界は消える

阿僧祇:(だったら、喋らず済む
    そのくらいなら我慢だろうが何だろうがしてやる…
    寝て消えるなら、そのうち…)

鳳:私は夜更かしなんだ
  今から3日は起きてても平気なんだ

阿僧祇:…………

鳳:ゆっくり感覚が戻る中でいつまで耐えれるかな?

骸:ここは時間が止まった部屋
  君が死ぬまで何日かかろうが
  実際は一秒たりとも進んでない
  迷惑じゃないから存分に夜更かししていいよ

阿僧祇:………

鳳:本当は喋ってもらうのが一番いいけど
  ここまでやったなら骸も怒らないよね?

骸:そうだね、耐えられたら凄いと思うよ
  ただの人間が、ね

阿僧祇:(ただの……人間…俺は、ただの…人間…?コイツらにとって俺は……)
    ッッ!?オッ…ゥ

鳳:どうやら、感覚が戻ってきたみたいだね
  さっきも言ったけど、吐けないよ?

骸:じゃあ、楽しもうか





【間】





阿僧祇:みこ……と…様……すみま……せん…
    みこと……さ……ま……

鳳:つまらないね、随分早かった

骸:君が言ったんじゃないか
  拷問なんて受ける方が稀だって

鳳:フフ、そうだった
  聞きたい情報は少しだけだったね

骸:みこと、ね

鳳:もしかしたら……

骸:うん?

鳳:いや、解ったら話すことにするよ

骸:そう
  じゃあ、獏の核は貰うよ
  これで新解釈の猿夢は終わりだね

鳳:『吸い尽くせ』

骸:それじゃ、行こうか

鳳:そうだね



【間】




阿僧祇:(俺は……結局……あー…血が……
    死にたく……ねぇ……俺は……俺は……)

血が吸い尽くされていく感覚の中、阿僧祇は眠りについた



【間】



樺涅:終わったみたい

茜:え?

鳳:あ、いたいた
  助けに来たよ

夕凪:いや、遅いですけど

鳳:アッハハ!けどちゃんと犯人は捕まえたからね

茜:てことは、新解釈怪異譚の!

鳳:みたいだね、茜だったかな?
  骸から話は聞いてるよ
  私は鳳、夕凪から話は聞いているかな?

茜:あ、はい…色々

夕凪:変態で通ってるのウケるんだけど

鳳:それは風評被害
  私は普通だよ

樺涅:何言ってるの?鳳

鳳:やぁ、樺涅
  成長しないね!

樺涅:本当、ムカつく

骸:ありがとう、樺涅

樺涅:色々教えたけど

茜:本当とんでもない家なんですね

骸:本来は僕から話すつもりだったけど、急用でごめんね
  新解釈怪異譚のことはまた今度ね

茜:わかりました

夕凪:帰るよ、鳳さん

鳳:長居するのも迷惑かな
  うん、帰ろうか

夕凪:あ、茜

茜:え?

夕凪:何かあったら連絡して
   似た者同士、また会うかも

茜:うん!よろしく夕凪

鳳:なるほど、そうやって友達を増やすんだね

骸:僕がいるじゃないか、鳳

鳳:君は友達だけど、もっと欲しいじゃないか

樺涅:今すぐ友達やめるべき

骸:検討しようかな

鳳:何かしたかい!?

夕凪:帰るよ

鳳:それじゃ、骸

骸:キミを指としてみたいところだけど
  まだなのかい?

鳳:私は違うよ、骸
  指は特別なナニカを持っていないといけない
  私は其処等中にいるただの人間
  その席には座らないよ

骸:そうだね、キミは友達のままが一番かもね

茜:指?

骸:フフ、僕の話だよ

茜:…そうですか

夕凪:じゃあ、ありがとうございました

鳳:また来るよ、骸

骸:気をつけて…かんぬき

樺涅:五月蝿いのが帰った

茜:思ってたより普通の人でした

骸:あはは、一仕事終えたあとだけどね

茜:捕まえたんでしたっけ

骸:もう終わったことだけどね

茜:骸さん

骸:何かな?

茜:私はあの人たちが許せないです
  だから、私も知りたいです

骸:……うん
  またオサキのところでね

茜:……はい

樺涅:茜

茜:え?

樺涅:全部を背負わなくていい
   あなたはあなたに出来ることをするといい

茜:樺涅ちゃん…

樺涅:オサキによろしくね

茜:うん、今日はありがとうございました

骸:茜ちゃんも気をつけてね


【間】


骸:樺涅

樺涅:何?先生

骸:樺涅にも友達ができたみたいだね

樺涅:……どうだろう

骸:それじゃあ、後始末しようか

樺涅:私にはこっちの方が合ってる

骸:……そうだね
  僕たちは、僕たちの夢を

樺涅:うん、先生


夢喰  終
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ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

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