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スピンオフ 夕刻跳梁跋扈
出逢
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夕凪:(その日は、いつも以上に暗く
怪異が出るには良い日だ、と後に聞いた
だから出会ったんだろう)
【間】
何者かに追われ、逃げる女性
夕凪:はぁ……はぁ……誰か…
助けッ…ゼェ…誰か!
目の前に人が現れる
何処から現れたのか、いつからいたのか
そんなことを考える一瞬の出来事
鳳:人が持つべき教養とは勉学のみならず
見て、聞いて、体験して得た知識全てで
とりわけ、女に関しては
夕凪:っ!?
鳳:護身術も、必要な世の中だよね
追っていた何かを取り押さえる
夕凪:えっ!?……はぁ…はぁ…
あの、ありがとうございます…
鳳:いや全く、世の中怖いものが多いと言うけど
一番怖いのは人間だよね、全く
さて、この人は君の知り合いかな?
ストーカー?それとも……
押さえつけ、動けない不審者を見下ろし
鳳:誰でも良かったのかな?
夕凪:えっ…と、駅からずっと付いて来てて
多分、知らない人です
鳳:そうか…じゃあ、どうしよう?
夕凪:えっ?
鳳:元からのストーカー被害なら警察
知り合いなら情で許すことも出来る
しかし、知らないときた
どうしよう?
夕凪:…警察、ですかね?
鳳:じゃあ、そうしよう
はい、いってらっしゃい
夕凪:えっ?は?
ちょ、ちょっと!何してるんですか?
鳳:警察に行ってもらったよ
夕凪:……何したんですか?
鳳:それを説明する前にさ
私はやらないといけないことがあるんだ
そして、ごめんね
何かの気配を感じ、後ろを振り向く夕凪
そして、そこには
夕凪:え……
黒いナニカが立っていた
鳳:巻き込んじゃったよ
【間】
夕凪:ゼェ…ゼェ…
なんで…こんなに……走らなきゃ……
鳳:運動不足かな?あ、駅からも走ってたのか
だとしたら体力あるね
夕凪:ふ、ふざけ……ゼェ…
鳳:ごめんね、準備してなくてさ
いや、君が助けてって言うから、そっちを優先したわけだから
悪いのは君かも?
夕凪:あの……なんでも、いいので…ゼェ、ゼェ
なんとか…してくださいっ……
鳳:人通りのないところに来たのは有難い
ただ、ストーカーと一緒に来たのは悪手
50点だね
さて、止まろうか
夕凪:はぁ……はぁ…
鳳:さて、手を叩こう
夕凪:は?
鳳:はい、片方を少しズラすと良い音が出るよ
二拍手
夕凪:やればいいんですよね!?
手を叩く二人
鳳:陣
夕凪:っ!?何これ
入ってこれてない…?
鳳:結界
えっと、お酒お酒
あ、君はこれを撒いてくれる?
夕凪:なんですか…これ
鳳:牛の血
夕凪:えっ
鳳:と、企業秘密を詰め込んだもの
結界の内側に沿って円を描くように撒けばいいよ
夕凪:は、はい…
ウッ、臭っ!
鳳:最近さ、怪談話とか聞いたことあるかな?
夕凪:私に聞いてます?
鳳:他に口を聞けるの居ないから、君だね
夕凪:聞いてませんけど
鳳:人気の無い場所に、黒い男が現れる
小学生に黒服さんって呼ばれているんだ
現れるのは21時から26時の間
この話はSNSで広まったんだけど
最初はストーカー、変質者と言われていたんだよね
ところがどっこい!怪異だね
夕凪:怪異……
鳳:おや?見るのは初めてかな?
夕凪:幽霊ってことですか…?
鳳:だったり、それに近い何かだったり
夕凪:初めてですよ…霊感ないですし
鳳:へぇ?
夕凪:なんですか?
鳳:の割には、ハッキリ見えてるんだね
夕凪:……そういえば
鳳:ま、それは置いといて
撒き終わったかな?
夕凪:はい
鳳:じゃあ、チャチャっとやっちゃおう
夕凪:霊媒師って人ですか?もしかして
鳳:私?違うよ
夕凪:じゃあ、なんで
鳳:趣味だよ
夕凪:趣味?
鳳:あぁ、自己紹介がまだだったね
私は鳳
成人済み、好きなお酒は日本酒
其処等中に居るただの人間
ただ、趣味で……
手を出し、ゆっくりと拳を握りしめる鳳
それに合わさるかのように黒い影は圧縮する
そしてーー、消える。
鳳:妖怪退治をしているんだ
夕凪:(私は、出会ってしまった
これは、運命か必然か…偶然か
今日はいつもより、暗くて
それで、不可思議に出会うには良い日だった)
【間】
数日後
鳳:縁があるね
私と関わったから、という訳ではなさそう
夕凪:まさか…鳳さんの所だとは知りませんでした
鳳:趣味ではあるけど、仕事でもある
趣味を仕事にすると、案外良し悪しあるよね
長く続けることも出来る反面
仕事、として捉えるのが難しく責任感が生まれない
私は悪い所は無くしていくようにしているんだけど
夕凪:それで、その…相談できますか?
鳳:今回はお客様として扱うようにしよう
……そこにお座り下さい
夕凪:なんか調子狂うような気が…
鳳:では、お名前を
夕凪:牛水 夕凪です
鳳:……依頼内容は?
夕凪:多分、なんですけど……怪異についてです
その、私も信じられなくて、よく分かってないです
鳳:何故、此処に?
夕凪:知り合いに宮司さんがいて
相談したら、ここを教えてもらいました
鳳:宮司?あー…なるほど
あの神社と関わりがあるわけね
それはそれは、面倒を押し付けるのが上手い
夕凪:それで、なんとかなりますか?
鳳:中身を聞いてみないと何とも言えませんね
以前、話しましたが、私は趣味として妖怪退治をしていると
つまり、専門は妖怪なんです
怪異、と言われると少し違いますから
夕凪:あの!
すみません、普通に喋ってください
なんか、変な違和感が…
鳳:うーん、感覚が鋭いね
少しの変化に敏感すぎるよ
夕凪:昔からそういうの変に気づいちゃって
友達の変化とか…はは…
鳳:別の苦労をしてそうだね
結論から先に言うよ
夕凪:あ、はい
鳳:対処はできそうだよ
夕凪:何も話してませんよ?
鳳:そうだね
だけど、できると思うよ
私のやり方に文句や、その他を言わなければ
夕凪:それは…任せます
鳳:うん
だけど、まず君は君を知る必要があるね
牛水、だっけ
感覚が鋭いのも納得かもね
夕凪:あの、それはどういう
鳳:君って本当に霊感ないの?
夕凪:それは、無いと思いますけど
前回と今回の件でよく分からないです
鳳:あら?もしかして、もしかするかも
夕凪:え?
鳳:私に責任ありそうな気がする
夕凪:…は?え?どういう事?
鳳:まずは君の出生について知る必要があるね
牛水は珍しい苗字だけど
寺社仏閣と関わりがあり、尚且つ
その中でも特定の場所に関係している牛水は
日本から消えた、ある一つの名前なんだよ
夕凪:日本から……消えた?
鳳:本来、牛水は丑三つ時の丑三を書く
夕凪:丑三……
鳳:丑三とは、魔が横行する時を意味し
あまり良くない言われ方をする
だけど、魔…つまりは怪異と関わりが深い家系で
本来、霊感なんかが強いはずなんだけどね
夕凪:そんな話…聞いたこともないです
ていうか、私の家系じゃないってことは
鳳:私が知っている宮司のいる神社は、丑三と関係があるワケだけど
どうだろう?
夕凪:……ですよね…
鳳:反応で大体察したよ
じゃあ聞き方を変えよう
君を育てたのは両親かな?
夕凪:それはそうですけど
…あっ
鳳:ん?
夕凪:小学生くらいまでは
近くにおばあちゃんと、ひいおばあちゃんがいました
よくウチに来て私の面倒を見てくれたって聞いたことが
鳳:君の両親は幽霊を見たことはあるかい?
夕凪:そんな話は聞いたこともないです
心霊番組とかあるじゃないですか
そういうの見てても何も話題にすらなったことないですよ
鳳:宮司の知り合いは何故知っていたのかな?
夕凪:確か……小5の時におばあちゃんと、ひいおばあちゃんが亡くなって
その時に来てた……ような
何かあったら来ていいって言われてて
けど、なんでそんなこと言われたんだっけ…
鳳:歌を聞いたことあるかい?
夕凪:歌、歌……
子守唄……
手を叩く鳳
鳳:よし、ここまでにしよう
夕凪:えっ……あれ?私、ずっと喋ってました?
鳳:なるほどねェ
君は蓋をされていたワケだ
夕凪:私に何をしたんですか…?
鳳:私は結構、見える方でね?
最初に見た時に君に霊感があるような気がしたんだけど
無い、と君は話した
それからよく見てみたら膜みたいなものがあってね
夕凪:何の、話ですか?
鳳:これは憶測
君の両親は薄れていたんだろうね
だけど、君には丑三の血が濃かった
君の祖母たちは君を守る為に
文字通り、子守唄を使ったんだろう
夕凪:私を守るために?
鳳:子守唄だけど本質は呪詛や呪歌の類かな
君の霊感を抑える呪いだよ
夕凪:どうして…そんなこと
鳳:昔、恐れられていたモノはなんだろう?
夕凪:え?いきなりなんですか
鳳:昔の話だよ
夕凪:……どうせ、心霊ですよね
昔、昔…か
妖怪…?
鳳:正解
一般人に悪さをする低級から
天皇やそれに近い権力者に対し災いを起こした大妖怪
権力者自身が呪いによって妖怪になり
厄災を起こすこともあった
夕凪:それが私と関係があるんですか?
鳳:昔はそんな妖怪たちが人々に恐れられていた
本当にいたのか、という質問に対しては
力が強い個体は、変化が得意で
人に化けるなんかは朝飯前だったりする
見つけられるのは、事を起こす時くらいだね
しかし、時代と共に妖怪たちは行き場を失う
夕凪:行き場を失う…人に紛れていたのに?
そもそも、住んでた場所があった…とか
鳳:山や海、まだ人が知らない場所も多いんだ
そんな場所に消えていった
ただ、今でも人に化けたり、悪さをする妖怪もいる
私の趣味と仕事はこれを退治することであり
人の居る場所に来ないように結界を張ったり
封印を施したりするわけなんだ
夕凪:もしかして、丑三もその家系だったり?
鳳:いや、丑三はその名のせいで怪異に好かれやすい
見つかりやすいと言った方が正しいかな
それだけの話なんだよ
だから、君を守る為にと言うわけ
ただ、今話したのは妖怪の話
それからもう少し、時代を進めよう
夕凪:時代を進める…
鳳:妖怪目撃が減ったことで新しいモノが生まれる
昔は妖怪と分類されていたが、幽霊というモノが、一人歩きを始めた
身体を持たず、実態が解らない
それが人を恐怖させた
夕凪:それはなんとなく、私にも分かります
心霊系は昔から得意じゃなかったですし
鳳:それから更に時を進めると
パソコンが普及し、新たに自分の意識を拡散させる場が増えた事で、都市伝説が生まれた
元々は、口裂け女や人面犬のように
人の口から口へ…そして、メディアで広まるのが主流だったのが
一つの箱で、一気に広まることができるようになったんだ
夕凪:…くねくねとかですね
有名なネット怪談は私もいくつか知ってますけど
鳳:そして、また時は進む
夕凪:えっ、まだ!?
鳳:さて、じゃあ現代
何に人は恐怖するのだろう?
夕凪:幽霊とかそれこそ、都市伝説とか
変わってないんじゃ?
鳳:そう、変わってない
ただ、多様化が進んだ
知っているかな?今ではスマホの都市伝説が多い
動画配信サイトを手軽に見れることから
心霊検証なんかも増えたね
解るかな?これは恐怖心のボーダーが下がったんだよ
手軽に簡単に恐怖を感じられるし、作ることもできる
夕凪:作る?フェイク動画ってこと?
確かに嘘っぽいのも多いですけど
……昔より確かに手軽になったっていうのは、分かる気がしますね
鳳:だから、対処はできるよ
夕凪:えっ!?
鳳:ん?だから、元を辿れば全ては妖怪なんだ
派生し、人の意識の変化で生まれたのが怪異
未確認生物、UMAと呼ばれるものも妖怪と大差ない
案外、宇宙人も妖怪かな?
夕凪:えっと、何の話ですか!?
鳳:君の出生と、私が対処できるという根拠の説明だけど?
うぅん?分かりづらかったかな?
夕凪:急な話で分からないですよ!
だけど、私のことはなんとなく分かりました
おばあちゃんたちが色々してくれてたってこと
それと……
鳳:それが私によって解かれたわけだけど
夕凪:それは何故、ですか
鳳:良くも悪くも影響力を持つ人間は他者に対しても
その影響力を伝播させてしまう
インフルエンサーが買った商品が品薄になるように
って言えば分かりやすいかな?
夕凪:よく分かります、それ
鳳:私の場合、霊感がね
多少、いや大いに影響を及ぼすことがあるわけで
ふふ、私の友達に怪異屋という奴がいるんだけど
彼はそれさえもコントロールする程に怪物なわけでね
夕凪:そんなお友達がいるんですか…
鳳:おっと…彼、というと怒られそうだ
こわいこわい、どこで聞いているか解らないから
夕凪:ん?女性なんですか?
鳳:会ったら解るよ
性別なんて彼にとっては無いに等しい
私は言い易いから彼と言うけどね?
本人を目の前にすると滅多に言わないものだよ
夕凪:意味が分からないんですけど…
鳳:まぁ、そんな人もこの世には存在するって事だね
それで私に会ったことで君の膜は破れた
だから、丑三の特性が出たんだろうね
さて、お客様
ここらで話を聞いてみようじゃないか
【間】
夕凪と鳳は、夕凪の自宅へ向かっていた
夕凪:色々思い返してみると
鳳さんは全部分かってたんじゃないかなって思います
私の出生を話したことも繋がるというか
……怪異に関わる人はみんなそんな感じなんですか?
鳳:感覚は鋭い方だと思うけど、どうだろう?
仕事とはいえ、趣味だから
私はあんまり同業と関わらないからね
夕凪:ぼっち…?
鳳:あっはっ!面白い!
仲間を作るのも良し悪しあるよ?
私は怪異屋というジョーカーを持っている時点で
それなりに良い方だけどね
夕凪:そんなに凄い人なんですか?
その怪異屋さんは
鳳:一つ
もし会うことがあったら
目だけは合わさない事
夕凪:それは?
鳳:彼の目は綺麗だから
見てしまったら虜になる
文字通り、魅入って仕舞うよ
夕凪:戻れなくなる…ってことですか
鳳:私と同じ感覚になった子が一人いたね
名前は何と言ったかな?ミナト?ミナコ?
うーん、確か今は同業だったかな?
夕凪:知らない人の、知らない話はいいですよ
鳳:そうだね
まぁ、カッコ良く言うと
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ
ってことだね
夕凪:とりあえず、見るなってことですか
そんな人と会うかも分からないですけどね
鳳:縁って怖いものだよ
夕凪:……
私の依頼は、遺品整理です
鳳:はぁ……
夕凪:なんでため息…
鳳:いや、何となく解っていたんだけどね?
私は意気揚々と妖怪、さらには時代背景を交えつつ
君に怪異とは何かを講釈垂れていたわけだ
遺品整理、それは丑三の呪具関係だね?
実家で何か見つけて帰ってきた、がいい線だと思うね
妖怪、幽霊については話した通り
ただ、呪具に関しては同じ怪異でも別種だよ
全く全く、やれやれってやつだね
夕凪:呪具は専門外ってことですか…
鳳:いいや、全く
私が得意とするのは儀式、封印、結界だったり
呪具と相性抜群だからね
夕凪:じゃあ、何を言ってるんですか…
鳳:呪具の講釈を垂れなかったことを後悔しているだけだよ
夕凪:………はぁ…
鳳:どうしたのかな?
夕凪:本当に大丈夫なの?この人……
夕凪の部屋に着き、中を見回す鳳
しかし、変わったところはないようだ
鳳:お邪魔します
夕凪:これです
鳳:リンフォンか
夕凪:リンフォン?
鳳:ネット怪談の一つ
キリスト関係の呪物としての考察があったね
海外から持ち込まれたものだと解釈すると
アナグラムのことも納得はいくね
夕凪:ごめんなさい
全然分かんないです
鳳:地獄の扉を開ける鍵
これはパズルでね?
ある形を作り上げていくんだけど
最後まで作ると地獄の扉が開くんだってさ
夕凪:え!?そんなものなんですか!?
鳳:それの丑三版って感じかなー?
地獄の扉が開くのか解らないけど
興味あるなぁ…どうしようか?
夕凪:そんなリスク無理です!
鳳:夕凪
夕凪:えっ?
鳳:これを持っていて何も変わらなかったのかい?
夕凪:実家に帰っておばあちゃんの部屋で過ごしたんですけど
これを見つけて持って帰って来てしまって
それからずっと視線を感じていて
そのことを宮司さんに話したら鳳さんを紹介してもらって
鳳:私と会って丑三の血が反応した
だから、持って帰ってしまった
パズルを解くには丑三の血が必要、と
中身は黒、それと赤、茶
ふぅん、見当はずれ
夕凪:見当はずれ?
鳳:ただ怪異から好かれる名前だとばかり
何か集めていたのかな
君の先祖には悪いけど、これは壊そうか
夕凪:っ…
鳳:形見にはならないよ
夕凪:……分かってますけど
鳳:私が依頼を受ける場合の約束事忘れたかな?
夕凪:文句を言わない…
鳳:別に壊さず持っておく選択肢もあるよ?
その代わり、何が起こっても私はノータッチだ
夕凪:……壊します
鳳:賢明だね
準備をしようか
【間】
一通りの準備を終え、最後の行程に取り掛かる
鳳:さて、少し痛いことをするよ?
夕凪:怖い言い方しないで下さい!
鳳:手を出して
夕凪:……
指の腹に針を少し刺し、血が滲む
夕凪:ッッ…
鳳:あと四本
夕凪:えっ
鳳:五指にやる
夕凪:……はい
五本の指から血が滲む
夕凪:痛っ…
鳳:仮称リンフォンを動かす準備はオッケー
それじゃあこれを左手に
夕凪:それは…?
鳳:排泄物だったり、獣の血だったり
夕凪:い、嫌です!嫌!
鳳:文句は言わない
それとも左半分無くなっても文句言わないでね?
夕凪:……ウゥ…
臭っ……
鳳:そのまま
部屋の四隅に盛り塩~
あとお酒、お酒……あった
夕凪:なんで楽しそうなんですか!?
こっちは……ウッ…
鳳:吐くかい!?
勿体無いね!それは左手で受け止めて!
夕凪:絶対……吐かない……
鳳:ではでは、陣が完成したことなので
解いてみようか
夕凪:解くって言ってもどうやって
鳳:リンフォンは熊、鷹、魚だったね
これは……うん?ただの知恵の輪だよ
夕凪:知恵の輪?
鳳:一箇所が開く鍵になってて
上手く当たると開くみたいだね
夕凪:この手で触りたくない…
鳳:……
汚すような真似をしてごめんね
盛り塩は結界、お酒は身代わり
右手の血は鍵
じゃあ、左手は何だと思う?
夕凪:……妖怪?
鳳:……開けようか
夕凪:何が出てくるんですか…?
鳳:君と初めて会った時も、確か普段より暗かったね
夕凪:えっ?
鳳:普段より暗い日は、怪異に出会うにはいい日だ
今日も暗いね、開けたらいい出会いがあるよ
夕凪:なんですか、それ
……開けます
鳳:まるで鍵を知っているかの様だ
君の勘の良さは、勿体無い
夕凪:あっ、これだ……
ウッ…あっア!痛ッ!!
鳳:我慢
夕凪:いや!嫌嫌嫌!!
痛い!痛いです!!
鳳:……何を集めていたんだか
子孫がこんな目に遭う羽目になって
業だね、業は一族で被らないとね
夕凪:助っ……けっ…
鳳:箱を開けただけで痛み
瘴気みたいなものかな?
よし、手借りるよ
夕凪の腕を掴み、左手と右手を入れ替える
鳳:ほら、お仲間だ
その瞬間、口の様なモノが現れ、剥き出しの歯が目前に迫る
夕凪:ヒッ……何、これ
鳳:混ざって出て来たのか
清酒一本で済んでほしいなぁ
ほら、ちゃんと場所見て
目前に迫る口の怪異は止まる
そこが結界だと気づく
鳳:陣血結界
人に悪さするタイプの怪異は、駆除対象だよ?
夕凪:えっ、あれ!鳳さん!盛り塩が黒くなってる!
鳳:あと2分ってとこかな
じゃあ、祓いますか!
夕凪:な、なんでそんな悠長な…
鳳:怖がったら負けだよ
幽霊も怖がってる人に寄っていくからね
夕凪:ッッ!?
鳳:大丈夫、大丈夫
私は結構……やる方だよ?
自分の左手を穢す鳳
鳳:穢れには穢れを
口の怪異の口に左腕を突っ込む鳳
鳳:還りなさい、もう囚われる必要はない
*w背drftgyふlp;@:
夕凪:いっ…な、に…声……
鳳:……
夕凪:あっ!アレ…
ゆっくりと拳を握りしめる鳳
それに合わさるかのように口の怪異は圧縮する
そしてーー、消える。
夕凪:それは……殺したんですか?
鳳:霊に殺すって表現はどうなのかな?
還ってもらっただけだよ
退治と言ってもそれくらいのものだね
夕凪:還る?
鳳:怪異には怪異の世界があるんだよ
成仏とはまた違う方法だね
夕凪:あ、箱
鳳:もう中身は空だから
形見にしたいなら、いいんじゃないかな?
夕凪:……はい
鳳:なぁるほど
私がこうなることを予想して送ったか
フフ、食えないね
夕凪:えっ、何かあったんですか!?
鳳:これが母性や父性というものかな?
いやいや、私のせいでもあるから
これは一種の罪滅ぼし
夕凪:あの、何の話ですか?
鳳:君は今から怪異に関わることになる
丑三の血は、そう簡単に消えない
そこで、提案だよ
夕凪:な、なんですか…
鳳:私の助手にならないかい?
一緒に趣味で妖怪退治をする友達でもいい
つまりは、私が色々教えてあげるよ
夕凪:えっ…と、私は……
ふと、窓の外に目を向ける夕凪
夕凪:今日はいつもより、暗くて
それで、不可思議に出会うには良い日
鳳:私は不可思議ではないよ
夕凪:十分、不可思議ですよ
リンフォンを開けたら、いい出会いがあるんですよね
鳳:そうだったかな?
…いや、そうだね…だけど
決して私のことを言ったわけではないよ
夕凪:じゃあ、色々教えてください、鳳さん
どうせ関わっちゃうなら知ってる方がマシですよね
鳳:牛水 夕凪
夕凪:はい?
鳳:よろしくね
夕凪:……ぷっ
なんですか、それ
本当に友達いないんですか?
鳳:解ってないなァ…まぁ
今はそれでいいかな
夕凪:!?なに!?なにかした!?
鳳:感覚だけは鋭いよね
夕凪:(いつも以上に暗い日は
怪異が出るには良い日だ)
鳳:ははは、月も赤いね
夕凪:不気味すぎ!そして不吉!
(私は、出会ってしまった
これは、運命か必然か…偶然か)
鳳:いい出会いになるといいね?夕凪
夕凪:(今日はいつもより、暗くて
それで、不可思議に出会うには良い日だった)
出逢 終
怪異が出るには良い日だ、と後に聞いた
だから出会ったんだろう)
【間】
何者かに追われ、逃げる女性
夕凪:はぁ……はぁ……誰か…
助けッ…ゼェ…誰か!
目の前に人が現れる
何処から現れたのか、いつからいたのか
そんなことを考える一瞬の出来事
鳳:人が持つべき教養とは勉学のみならず
見て、聞いて、体験して得た知識全てで
とりわけ、女に関しては
夕凪:っ!?
鳳:護身術も、必要な世の中だよね
追っていた何かを取り押さえる
夕凪:えっ!?……はぁ…はぁ…
あの、ありがとうございます…
鳳:いや全く、世の中怖いものが多いと言うけど
一番怖いのは人間だよね、全く
さて、この人は君の知り合いかな?
ストーカー?それとも……
押さえつけ、動けない不審者を見下ろし
鳳:誰でも良かったのかな?
夕凪:えっ…と、駅からずっと付いて来てて
多分、知らない人です
鳳:そうか…じゃあ、どうしよう?
夕凪:えっ?
鳳:元からのストーカー被害なら警察
知り合いなら情で許すことも出来る
しかし、知らないときた
どうしよう?
夕凪:…警察、ですかね?
鳳:じゃあ、そうしよう
はい、いってらっしゃい
夕凪:えっ?は?
ちょ、ちょっと!何してるんですか?
鳳:警察に行ってもらったよ
夕凪:……何したんですか?
鳳:それを説明する前にさ
私はやらないといけないことがあるんだ
そして、ごめんね
何かの気配を感じ、後ろを振り向く夕凪
そして、そこには
夕凪:え……
黒いナニカが立っていた
鳳:巻き込んじゃったよ
【間】
夕凪:ゼェ…ゼェ…
なんで…こんなに……走らなきゃ……
鳳:運動不足かな?あ、駅からも走ってたのか
だとしたら体力あるね
夕凪:ふ、ふざけ……ゼェ…
鳳:ごめんね、準備してなくてさ
いや、君が助けてって言うから、そっちを優先したわけだから
悪いのは君かも?
夕凪:あの……なんでも、いいので…ゼェ、ゼェ
なんとか…してくださいっ……
鳳:人通りのないところに来たのは有難い
ただ、ストーカーと一緒に来たのは悪手
50点だね
さて、止まろうか
夕凪:はぁ……はぁ…
鳳:さて、手を叩こう
夕凪:は?
鳳:はい、片方を少しズラすと良い音が出るよ
二拍手
夕凪:やればいいんですよね!?
手を叩く二人
鳳:陣
夕凪:っ!?何これ
入ってこれてない…?
鳳:結界
えっと、お酒お酒
あ、君はこれを撒いてくれる?
夕凪:なんですか…これ
鳳:牛の血
夕凪:えっ
鳳:と、企業秘密を詰め込んだもの
結界の内側に沿って円を描くように撒けばいいよ
夕凪:は、はい…
ウッ、臭っ!
鳳:最近さ、怪談話とか聞いたことあるかな?
夕凪:私に聞いてます?
鳳:他に口を聞けるの居ないから、君だね
夕凪:聞いてませんけど
鳳:人気の無い場所に、黒い男が現れる
小学生に黒服さんって呼ばれているんだ
現れるのは21時から26時の間
この話はSNSで広まったんだけど
最初はストーカー、変質者と言われていたんだよね
ところがどっこい!怪異だね
夕凪:怪異……
鳳:おや?見るのは初めてかな?
夕凪:幽霊ってことですか…?
鳳:だったり、それに近い何かだったり
夕凪:初めてですよ…霊感ないですし
鳳:へぇ?
夕凪:なんですか?
鳳:の割には、ハッキリ見えてるんだね
夕凪:……そういえば
鳳:ま、それは置いといて
撒き終わったかな?
夕凪:はい
鳳:じゃあ、チャチャっとやっちゃおう
夕凪:霊媒師って人ですか?もしかして
鳳:私?違うよ
夕凪:じゃあ、なんで
鳳:趣味だよ
夕凪:趣味?
鳳:あぁ、自己紹介がまだだったね
私は鳳
成人済み、好きなお酒は日本酒
其処等中に居るただの人間
ただ、趣味で……
手を出し、ゆっくりと拳を握りしめる鳳
それに合わさるかのように黒い影は圧縮する
そしてーー、消える。
鳳:妖怪退治をしているんだ
夕凪:(私は、出会ってしまった
これは、運命か必然か…偶然か
今日はいつもより、暗くて
それで、不可思議に出会うには良い日だった)
【間】
数日後
鳳:縁があるね
私と関わったから、という訳ではなさそう
夕凪:まさか…鳳さんの所だとは知りませんでした
鳳:趣味ではあるけど、仕事でもある
趣味を仕事にすると、案外良し悪しあるよね
長く続けることも出来る反面
仕事、として捉えるのが難しく責任感が生まれない
私は悪い所は無くしていくようにしているんだけど
夕凪:それで、その…相談できますか?
鳳:今回はお客様として扱うようにしよう
……そこにお座り下さい
夕凪:なんか調子狂うような気が…
鳳:では、お名前を
夕凪:牛水 夕凪です
鳳:……依頼内容は?
夕凪:多分、なんですけど……怪異についてです
その、私も信じられなくて、よく分かってないです
鳳:何故、此処に?
夕凪:知り合いに宮司さんがいて
相談したら、ここを教えてもらいました
鳳:宮司?あー…なるほど
あの神社と関わりがあるわけね
それはそれは、面倒を押し付けるのが上手い
夕凪:それで、なんとかなりますか?
鳳:中身を聞いてみないと何とも言えませんね
以前、話しましたが、私は趣味として妖怪退治をしていると
つまり、専門は妖怪なんです
怪異、と言われると少し違いますから
夕凪:あの!
すみません、普通に喋ってください
なんか、変な違和感が…
鳳:うーん、感覚が鋭いね
少しの変化に敏感すぎるよ
夕凪:昔からそういうの変に気づいちゃって
友達の変化とか…はは…
鳳:別の苦労をしてそうだね
結論から先に言うよ
夕凪:あ、はい
鳳:対処はできそうだよ
夕凪:何も話してませんよ?
鳳:そうだね
だけど、できると思うよ
私のやり方に文句や、その他を言わなければ
夕凪:それは…任せます
鳳:うん
だけど、まず君は君を知る必要があるね
牛水、だっけ
感覚が鋭いのも納得かもね
夕凪:あの、それはどういう
鳳:君って本当に霊感ないの?
夕凪:それは、無いと思いますけど
前回と今回の件でよく分からないです
鳳:あら?もしかして、もしかするかも
夕凪:え?
鳳:私に責任ありそうな気がする
夕凪:…は?え?どういう事?
鳳:まずは君の出生について知る必要があるね
牛水は珍しい苗字だけど
寺社仏閣と関わりがあり、尚且つ
その中でも特定の場所に関係している牛水は
日本から消えた、ある一つの名前なんだよ
夕凪:日本から……消えた?
鳳:本来、牛水は丑三つ時の丑三を書く
夕凪:丑三……
鳳:丑三とは、魔が横行する時を意味し
あまり良くない言われ方をする
だけど、魔…つまりは怪異と関わりが深い家系で
本来、霊感なんかが強いはずなんだけどね
夕凪:そんな話…聞いたこともないです
ていうか、私の家系じゃないってことは
鳳:私が知っている宮司のいる神社は、丑三と関係があるワケだけど
どうだろう?
夕凪:……ですよね…
鳳:反応で大体察したよ
じゃあ聞き方を変えよう
君を育てたのは両親かな?
夕凪:それはそうですけど
…あっ
鳳:ん?
夕凪:小学生くらいまでは
近くにおばあちゃんと、ひいおばあちゃんがいました
よくウチに来て私の面倒を見てくれたって聞いたことが
鳳:君の両親は幽霊を見たことはあるかい?
夕凪:そんな話は聞いたこともないです
心霊番組とかあるじゃないですか
そういうの見てても何も話題にすらなったことないですよ
鳳:宮司の知り合いは何故知っていたのかな?
夕凪:確か……小5の時におばあちゃんと、ひいおばあちゃんが亡くなって
その時に来てた……ような
何かあったら来ていいって言われてて
けど、なんでそんなこと言われたんだっけ…
鳳:歌を聞いたことあるかい?
夕凪:歌、歌……
子守唄……
手を叩く鳳
鳳:よし、ここまでにしよう
夕凪:えっ……あれ?私、ずっと喋ってました?
鳳:なるほどねェ
君は蓋をされていたワケだ
夕凪:私に何をしたんですか…?
鳳:私は結構、見える方でね?
最初に見た時に君に霊感があるような気がしたんだけど
無い、と君は話した
それからよく見てみたら膜みたいなものがあってね
夕凪:何の、話ですか?
鳳:これは憶測
君の両親は薄れていたんだろうね
だけど、君には丑三の血が濃かった
君の祖母たちは君を守る為に
文字通り、子守唄を使ったんだろう
夕凪:私を守るために?
鳳:子守唄だけど本質は呪詛や呪歌の類かな
君の霊感を抑える呪いだよ
夕凪:どうして…そんなこと
鳳:昔、恐れられていたモノはなんだろう?
夕凪:え?いきなりなんですか
鳳:昔の話だよ
夕凪:……どうせ、心霊ですよね
昔、昔…か
妖怪…?
鳳:正解
一般人に悪さをする低級から
天皇やそれに近い権力者に対し災いを起こした大妖怪
権力者自身が呪いによって妖怪になり
厄災を起こすこともあった
夕凪:それが私と関係があるんですか?
鳳:昔はそんな妖怪たちが人々に恐れられていた
本当にいたのか、という質問に対しては
力が強い個体は、変化が得意で
人に化けるなんかは朝飯前だったりする
見つけられるのは、事を起こす時くらいだね
しかし、時代と共に妖怪たちは行き場を失う
夕凪:行き場を失う…人に紛れていたのに?
そもそも、住んでた場所があった…とか
鳳:山や海、まだ人が知らない場所も多いんだ
そんな場所に消えていった
ただ、今でも人に化けたり、悪さをする妖怪もいる
私の趣味と仕事はこれを退治することであり
人の居る場所に来ないように結界を張ったり
封印を施したりするわけなんだ
夕凪:もしかして、丑三もその家系だったり?
鳳:いや、丑三はその名のせいで怪異に好かれやすい
見つかりやすいと言った方が正しいかな
それだけの話なんだよ
だから、君を守る為にと言うわけ
ただ、今話したのは妖怪の話
それからもう少し、時代を進めよう
夕凪:時代を進める…
鳳:妖怪目撃が減ったことで新しいモノが生まれる
昔は妖怪と分類されていたが、幽霊というモノが、一人歩きを始めた
身体を持たず、実態が解らない
それが人を恐怖させた
夕凪:それはなんとなく、私にも分かります
心霊系は昔から得意じゃなかったですし
鳳:それから更に時を進めると
パソコンが普及し、新たに自分の意識を拡散させる場が増えた事で、都市伝説が生まれた
元々は、口裂け女や人面犬のように
人の口から口へ…そして、メディアで広まるのが主流だったのが
一つの箱で、一気に広まることができるようになったんだ
夕凪:…くねくねとかですね
有名なネット怪談は私もいくつか知ってますけど
鳳:そして、また時は進む
夕凪:えっ、まだ!?
鳳:さて、じゃあ現代
何に人は恐怖するのだろう?
夕凪:幽霊とかそれこそ、都市伝説とか
変わってないんじゃ?
鳳:そう、変わってない
ただ、多様化が進んだ
知っているかな?今ではスマホの都市伝説が多い
動画配信サイトを手軽に見れることから
心霊検証なんかも増えたね
解るかな?これは恐怖心のボーダーが下がったんだよ
手軽に簡単に恐怖を感じられるし、作ることもできる
夕凪:作る?フェイク動画ってこと?
確かに嘘っぽいのも多いですけど
……昔より確かに手軽になったっていうのは、分かる気がしますね
鳳:だから、対処はできるよ
夕凪:えっ!?
鳳:ん?だから、元を辿れば全ては妖怪なんだ
派生し、人の意識の変化で生まれたのが怪異
未確認生物、UMAと呼ばれるものも妖怪と大差ない
案外、宇宙人も妖怪かな?
夕凪:えっと、何の話ですか!?
鳳:君の出生と、私が対処できるという根拠の説明だけど?
うぅん?分かりづらかったかな?
夕凪:急な話で分からないですよ!
だけど、私のことはなんとなく分かりました
おばあちゃんたちが色々してくれてたってこと
それと……
鳳:それが私によって解かれたわけだけど
夕凪:それは何故、ですか
鳳:良くも悪くも影響力を持つ人間は他者に対しても
その影響力を伝播させてしまう
インフルエンサーが買った商品が品薄になるように
って言えば分かりやすいかな?
夕凪:よく分かります、それ
鳳:私の場合、霊感がね
多少、いや大いに影響を及ぼすことがあるわけで
ふふ、私の友達に怪異屋という奴がいるんだけど
彼はそれさえもコントロールする程に怪物なわけでね
夕凪:そんなお友達がいるんですか…
鳳:おっと…彼、というと怒られそうだ
こわいこわい、どこで聞いているか解らないから
夕凪:ん?女性なんですか?
鳳:会ったら解るよ
性別なんて彼にとっては無いに等しい
私は言い易いから彼と言うけどね?
本人を目の前にすると滅多に言わないものだよ
夕凪:意味が分からないんですけど…
鳳:まぁ、そんな人もこの世には存在するって事だね
それで私に会ったことで君の膜は破れた
だから、丑三の特性が出たんだろうね
さて、お客様
ここらで話を聞いてみようじゃないか
【間】
夕凪と鳳は、夕凪の自宅へ向かっていた
夕凪:色々思い返してみると
鳳さんは全部分かってたんじゃないかなって思います
私の出生を話したことも繋がるというか
……怪異に関わる人はみんなそんな感じなんですか?
鳳:感覚は鋭い方だと思うけど、どうだろう?
仕事とはいえ、趣味だから
私はあんまり同業と関わらないからね
夕凪:ぼっち…?
鳳:あっはっ!面白い!
仲間を作るのも良し悪しあるよ?
私は怪異屋というジョーカーを持っている時点で
それなりに良い方だけどね
夕凪:そんなに凄い人なんですか?
その怪異屋さんは
鳳:一つ
もし会うことがあったら
目だけは合わさない事
夕凪:それは?
鳳:彼の目は綺麗だから
見てしまったら虜になる
文字通り、魅入って仕舞うよ
夕凪:戻れなくなる…ってことですか
鳳:私と同じ感覚になった子が一人いたね
名前は何と言ったかな?ミナト?ミナコ?
うーん、確か今は同業だったかな?
夕凪:知らない人の、知らない話はいいですよ
鳳:そうだね
まぁ、カッコ良く言うと
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ
ってことだね
夕凪:とりあえず、見るなってことですか
そんな人と会うかも分からないですけどね
鳳:縁って怖いものだよ
夕凪:……
私の依頼は、遺品整理です
鳳:はぁ……
夕凪:なんでため息…
鳳:いや、何となく解っていたんだけどね?
私は意気揚々と妖怪、さらには時代背景を交えつつ
君に怪異とは何かを講釈垂れていたわけだ
遺品整理、それは丑三の呪具関係だね?
実家で何か見つけて帰ってきた、がいい線だと思うね
妖怪、幽霊については話した通り
ただ、呪具に関しては同じ怪異でも別種だよ
全く全く、やれやれってやつだね
夕凪:呪具は専門外ってことですか…
鳳:いいや、全く
私が得意とするのは儀式、封印、結界だったり
呪具と相性抜群だからね
夕凪:じゃあ、何を言ってるんですか…
鳳:呪具の講釈を垂れなかったことを後悔しているだけだよ
夕凪:………はぁ…
鳳:どうしたのかな?
夕凪:本当に大丈夫なの?この人……
夕凪の部屋に着き、中を見回す鳳
しかし、変わったところはないようだ
鳳:お邪魔します
夕凪:これです
鳳:リンフォンか
夕凪:リンフォン?
鳳:ネット怪談の一つ
キリスト関係の呪物としての考察があったね
海外から持ち込まれたものだと解釈すると
アナグラムのことも納得はいくね
夕凪:ごめんなさい
全然分かんないです
鳳:地獄の扉を開ける鍵
これはパズルでね?
ある形を作り上げていくんだけど
最後まで作ると地獄の扉が開くんだってさ
夕凪:え!?そんなものなんですか!?
鳳:それの丑三版って感じかなー?
地獄の扉が開くのか解らないけど
興味あるなぁ…どうしようか?
夕凪:そんなリスク無理です!
鳳:夕凪
夕凪:えっ?
鳳:これを持っていて何も変わらなかったのかい?
夕凪:実家に帰っておばあちゃんの部屋で過ごしたんですけど
これを見つけて持って帰って来てしまって
それからずっと視線を感じていて
そのことを宮司さんに話したら鳳さんを紹介してもらって
鳳:私と会って丑三の血が反応した
だから、持って帰ってしまった
パズルを解くには丑三の血が必要、と
中身は黒、それと赤、茶
ふぅん、見当はずれ
夕凪:見当はずれ?
鳳:ただ怪異から好かれる名前だとばかり
何か集めていたのかな
君の先祖には悪いけど、これは壊そうか
夕凪:っ…
鳳:形見にはならないよ
夕凪:……分かってますけど
鳳:私が依頼を受ける場合の約束事忘れたかな?
夕凪:文句を言わない…
鳳:別に壊さず持っておく選択肢もあるよ?
その代わり、何が起こっても私はノータッチだ
夕凪:……壊します
鳳:賢明だね
準備をしようか
【間】
一通りの準備を終え、最後の行程に取り掛かる
鳳:さて、少し痛いことをするよ?
夕凪:怖い言い方しないで下さい!
鳳:手を出して
夕凪:……
指の腹に針を少し刺し、血が滲む
夕凪:ッッ…
鳳:あと四本
夕凪:えっ
鳳:五指にやる
夕凪:……はい
五本の指から血が滲む
夕凪:痛っ…
鳳:仮称リンフォンを動かす準備はオッケー
それじゃあこれを左手に
夕凪:それは…?
鳳:排泄物だったり、獣の血だったり
夕凪:い、嫌です!嫌!
鳳:文句は言わない
それとも左半分無くなっても文句言わないでね?
夕凪:……ウゥ…
臭っ……
鳳:そのまま
部屋の四隅に盛り塩~
あとお酒、お酒……あった
夕凪:なんで楽しそうなんですか!?
こっちは……ウッ…
鳳:吐くかい!?
勿体無いね!それは左手で受け止めて!
夕凪:絶対……吐かない……
鳳:ではでは、陣が完成したことなので
解いてみようか
夕凪:解くって言ってもどうやって
鳳:リンフォンは熊、鷹、魚だったね
これは……うん?ただの知恵の輪だよ
夕凪:知恵の輪?
鳳:一箇所が開く鍵になってて
上手く当たると開くみたいだね
夕凪:この手で触りたくない…
鳳:……
汚すような真似をしてごめんね
盛り塩は結界、お酒は身代わり
右手の血は鍵
じゃあ、左手は何だと思う?
夕凪:……妖怪?
鳳:……開けようか
夕凪:何が出てくるんですか…?
鳳:君と初めて会った時も、確か普段より暗かったね
夕凪:えっ?
鳳:普段より暗い日は、怪異に出会うにはいい日だ
今日も暗いね、開けたらいい出会いがあるよ
夕凪:なんですか、それ
……開けます
鳳:まるで鍵を知っているかの様だ
君の勘の良さは、勿体無い
夕凪:あっ、これだ……
ウッ…あっア!痛ッ!!
鳳:我慢
夕凪:いや!嫌嫌嫌!!
痛い!痛いです!!
鳳:……何を集めていたんだか
子孫がこんな目に遭う羽目になって
業だね、業は一族で被らないとね
夕凪:助っ……けっ…
鳳:箱を開けただけで痛み
瘴気みたいなものかな?
よし、手借りるよ
夕凪の腕を掴み、左手と右手を入れ替える
鳳:ほら、お仲間だ
その瞬間、口の様なモノが現れ、剥き出しの歯が目前に迫る
夕凪:ヒッ……何、これ
鳳:混ざって出て来たのか
清酒一本で済んでほしいなぁ
ほら、ちゃんと場所見て
目前に迫る口の怪異は止まる
そこが結界だと気づく
鳳:陣血結界
人に悪さするタイプの怪異は、駆除対象だよ?
夕凪:えっ、あれ!鳳さん!盛り塩が黒くなってる!
鳳:あと2分ってとこかな
じゃあ、祓いますか!
夕凪:な、なんでそんな悠長な…
鳳:怖がったら負けだよ
幽霊も怖がってる人に寄っていくからね
夕凪:ッッ!?
鳳:大丈夫、大丈夫
私は結構……やる方だよ?
自分の左手を穢す鳳
鳳:穢れには穢れを
口の怪異の口に左腕を突っ込む鳳
鳳:還りなさい、もう囚われる必要はない
*w背drftgyふlp;@:
夕凪:いっ…な、に…声……
鳳:……
夕凪:あっ!アレ…
ゆっくりと拳を握りしめる鳳
それに合わさるかのように口の怪異は圧縮する
そしてーー、消える。
夕凪:それは……殺したんですか?
鳳:霊に殺すって表現はどうなのかな?
還ってもらっただけだよ
退治と言ってもそれくらいのものだね
夕凪:還る?
鳳:怪異には怪異の世界があるんだよ
成仏とはまた違う方法だね
夕凪:あ、箱
鳳:もう中身は空だから
形見にしたいなら、いいんじゃないかな?
夕凪:……はい
鳳:なぁるほど
私がこうなることを予想して送ったか
フフ、食えないね
夕凪:えっ、何かあったんですか!?
鳳:これが母性や父性というものかな?
いやいや、私のせいでもあるから
これは一種の罪滅ぼし
夕凪:あの、何の話ですか?
鳳:君は今から怪異に関わることになる
丑三の血は、そう簡単に消えない
そこで、提案だよ
夕凪:な、なんですか…
鳳:私の助手にならないかい?
一緒に趣味で妖怪退治をする友達でもいい
つまりは、私が色々教えてあげるよ
夕凪:えっ…と、私は……
ふと、窓の外に目を向ける夕凪
夕凪:今日はいつもより、暗くて
それで、不可思議に出会うには良い日
鳳:私は不可思議ではないよ
夕凪:十分、不可思議ですよ
リンフォンを開けたら、いい出会いがあるんですよね
鳳:そうだったかな?
…いや、そうだね…だけど
決して私のことを言ったわけではないよ
夕凪:じゃあ、色々教えてください、鳳さん
どうせ関わっちゃうなら知ってる方がマシですよね
鳳:牛水 夕凪
夕凪:はい?
鳳:よろしくね
夕凪:……ぷっ
なんですか、それ
本当に友達いないんですか?
鳳:解ってないなァ…まぁ
今はそれでいいかな
夕凪:!?なに!?なにかした!?
鳳:感覚だけは鋭いよね
夕凪:(いつも以上に暗い日は
怪異が出るには良い日だ)
鳳:ははは、月も赤いね
夕凪:不気味すぎ!そして不吉!
(私は、出会ってしまった
これは、運命か必然か…偶然か)
鳳:いい出会いになるといいね?夕凪
夕凪:(今日はいつもより、暗くて
それで、不可思議に出会うには良い日だった)
出逢 終
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