オサキ怪異相談所

てくす

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外伝

オニノヒメ

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歩魅:『私は生まれる前から鬼と共にいる』
   『私は生まれた時から鬼のお姫様になった』
   『私は、生まれてから、鬼と共に歩いている』



【間】



温羅:"この娘を姫とする"
   "以後、ワシが仕える"
   "ワシはこの娘の鬼と成る"




歩魅:(私が物心ついた時に、母に教えてもらった言葉)
   意味が分からず、鬼という言葉に恐怖を覚えた
   そして、聞かされたーー。私の家のこと)

歩魅:(どうやら、私の家系は隠人かくしびとと呼ばれていて
   昔から、鬼を祀る家系だったらしい
   そして、私が産まれてすぐに鬼が現れた)


温羅:おお、女か
   よくやった、男よりは良い
   うーん、ハハハ!可愛くなるぞ

歩魅:(固まる両親に村の人々
   それもそのはず、目の前に鬼がいるのだから
   そして、鬼は言う)


歩魅:私を姫にする、と



【間】



温羅:よー、帰ったか
   学校てのは楽しいか?

歩魅:微妙
   人少ないし

温羅:あー、過疎ってるって言うんだろ?
   まぁ仕方ねぇよなぁ~
   こんな山ばかりの場所じゃあ、何も楽しくねぇ

歩魅:高校は遠くに行くからそれは楽しみ

温羅:受験勉強だったか?
   まぁ、俺がいるんだ…簡単だろうな

歩魅:え!?受験ついてきてくれるの!?

温羅:おー、姫ェ
   ズルは良くねぇなぁ?
   俺は教えるだけだ

歩魅:けち

温羅:ハハハ!勉強しろ!

歩魅:私、あなたの姫よね?
   姫の言うことは聞くものじゃないの?

温羅:……俺はお前の為を思って言ってるんだぜぇ?
   勉強ってのは良いもんだ
   知らないことを知れる喜びを人間は解ってねぇ

歩魅:勉強は嫌いなの
   温羅のおかげで成績はいいけどさ

温羅:まぁなぁ?俺は何年も、何十年も
   何百年も生きているからなぁ
   そこらの……教師…?だったか?それよりは詳しいもんだ
   国語と日本史は大得意だ
   数学もできるが、特に理科は山で生きていれば、身につくものも多い
   だが、英語はまだまだ勉強中だ
   桃山ん時にも色々巡っては見たものの、別の方が興味湧いたからなぁ

歩魅:よくそんなに勉強できるよね、鬼のくせに
   人間でもないのに

温羅:怒るなよ
   人間じゃないから学ぶんだ

歩魅:なにそれ

温羅:じゃあ勉強ついでに昔話でもしてやるよ
   学校じゃ教えてくれない鬼話だ

歩魅:またそれ?
   この前は、未来の話を言うと笑う話だっけ?

温羅:おお!あれは傑作だ!
   ことわざにもなるなんてなぁ
   あれはただただ

歩魅:くだらなかっただけでしょ?

温羅:もっと凄い展望を話すかと思ったらなぁ
   まぁそれはいい
   俺が勉強をする意味の話だ

歩魅:勉強するよりマシだから聞く

温羅:ハハハハ!なぁ、最強の鬼って知ってるか?

歩魅:これでも隠人かくしびとだから
   鬼関係のモノはそれなりに
   って、それは知ってるでしょ?

温羅:予習、復習ってやつだ
   どうやら人間は酒呑童子を挙げる
   実際に強い力は持っていた
   茨木に熊、星熊、虎熊、金熊ってやつが、惚れ込んでいたしな

歩魅:温羅とは大違い
   温羅に惚れ込んでる鬼見たこともない

温羅:俺は良いんだよ
   俺もそうだが、昔は人を喰った
   鬼を悪者として扱うことが多いのは
   それなりに昔、悪さをしてたからだ

歩魅:知ってる
   鬼は神様にもなるけど、基本は悪役が多いからね

温羅:あぁ……
   俺は何百年と生きて飽きたんだ
   人を喰うことをな
   同じものばっかりだと飽きるのは人間も似たところはあるだろうが

歩魅:それは分かるけど
   人しか食べれないってことなら理解できるけど
   人間以外も食べられるなら
   人としては悪者にしちゃうよ

温羅:まぁな
   そんで酒呑童子だ
   アイツも色々悪かった
   大江山に入ってからも人を攫っては喰い、人に化けては人里を荒らした
   だから目をつけらた

歩魅:そうなるよね
   当たり前の話だと思う

温羅:だが、違う
   アイツも飽きたんだ

歩魅:酒呑童子が?

温羅:生きることに飽きて、刺激を求めた
   というより、悪目立ちして殺されようと思った
   だが、アイツは強かった
   人に伝わる伝承や伝説じゃ
   源の奴に殺されたことになっているが、ありゃ演技だ

歩魅:じゃあ伝わってる話は本当じゃない?
   そう見せかけただけのこと?

温羅:あぁ、死んでねぇ
   今でもどこかの山で静かに暮らしてるんだ
   殺されたことにして、リセットしやがった
   何もでもない、ただの鬼としてな

歩魅:人を食べることにも、生きることにも飽きて
   けど、死ねない?

温羅:なぁ、何百と生きると
   死ぬのが怖くなくなる
   いいや、いっそのこと死のうと思うか?

歩魅:……わからない、私は人間だから

温羅:飽きはする
   だが、死にたくはねぇんだよ
   時代は移り変わる
   お前も少しは知ってるだろ?
   昭和と令和じゃ違いすぎる

歩魅:昭和はテレビとかでしか知らないけど、今はなんでも便利だし
   それに、戦時、戦後とかも分からない

温羅:俺は長く生きた
   長く生きたからこそ変化を知っている
   自分の生に飽きはするが
   時代の変化や移り変わりの瞬間なんかは、おもしれぇんだよ
   死にたくねぇ、もっと見てみてぇ!ってな

歩魅:それで?
   だから温羅が勉強する意味が分からない

温羅:良い言葉が出た…戦時、戦後だ
   武士が居た時代でも戦いはあったが
   俺にとって人ってのは弱くて脆くて食糧だった
   だが、戦後で変わった

歩魅:戦争を見たの?

温羅:あぁ…あれは地獄を現世に呼んだモンだ
   今じゃ纏めて核って言うだろうが
   アレは……俺でも震えたさ

歩魅:原子爆弾?

温羅:あぁ、アレは流石になァ…
   俺はもう終わったと思った
   これでも日本に生まれ日本で育った
   人間じゃねぇが、俺の住む場所は消えたと
   そう思ったさ
   だが、人は違った
   強かった、俺が思っている以上に、前に進みやがった

歩魅:学校の授業程度しか知らないけど
   ……そうなんだ

温羅:昔から色んなことに興味はあったが
   そこで強く思ったことがある
   もっと知りたいとな

歩魅:……私は
   そういう、衝撃的な体験をしてないから
   あんまり思わないのかな

温羅:ハハハハ!俺が憑いたのは?

歩魅:生まれてからすぐにでしょ?
   当たり前になってるから別に

温羅:姫も相当、強い女だなぁ

歩魅:…わかんない

温羅:勉強ってのは頭を良くするためにする作業じゃねぇ
   知らないことを知り、広げるんだよ
   自分をなァ

歩魅:なんか、鬼に言われてもね
   私より頭良さそうなのもムカつくし

温羅:そりゃ先輩だからなァ
   だが、お前のおかげでスマホやゲーム
   最近流行ってるテレビやネットも
   俺にとっては楽しいモンさ

歩魅:私にとっては当たり前なんだけど
   そっか
   たしかに初めて触ったスマホは、夜更かしして触ってた

温羅:それだ、それが学ぶってモンだ
   だが、姫
   お前は俺の姫だ
   そろそろ勉強の話はやめて本題だ

歩魅:本題?学校じゃ教えてくれない鬼話じゃなかったの?

温羅:それは建前だな
   歩魅あゆみ、お前はなぜ姫になった?

歩魅:え?それは温羅が言ったからでしょ?

温羅:俺が適当に選んだと思うか?

歩魅:……

温羅:俺が知識を与えた、隠人かくしびと以上の知識
   何件かアヤカシ関連の対処もやったな?
   流石に覚えているだろうが

歩魅:まぁ…おかげで幽霊は怖くなくなったけど

温羅:お前は力がある
   鬼を従え、言葉を交わし、俺の器として

歩魅:なるほど
   私を乗っ取って殺そうってことね

温羅:いいや、違う
   俺の力の器だ

歩魅:どういう意味?

温羅:少しばかり運動神経が人とは違うと思ったことは?
   怪我の治りが早いと思ったことは?
   あぁ、そういえば風邪とは無縁だなぁ?

歩魅:温羅うら…の力?

温羅:お前には業を背負わせることになる
   人を超える業だ

歩魅:業?罪ってことね

温羅:覚えていたか
   お前は本来死ぬはずだった
   死産だったんだよ
   まぁ、そんなこと両親は知らんだろう

歩魅:助けてくれた?温羅が?

温羅:代々、俺を祀ってた家系だった
   恩返しのつもりもある
   一番驚いたのはお前と俺が繋がれたことだ
   おかげで元気に産まれたな
   だが、人を超える力を得るがそれは業だ

歩魅:今更、恨めってこと?
   まぁ、私は別に恨むつもりはないけど
   感謝もしないけど

温羅:それで良い
   だが、これからお前には変化がある
   不老不死とは言わねぇが
   老いが遅くなる、寿命も伸びる

歩魅:それは嬉しいことじゃない?
   別に死にたいなんて思わないし
   ずっと若いままならね

温羅:ハハハ!姫は強いなァ
   もっと驚いたり、怒るかと思ったが

歩魅:馬鹿にしないでよ
   これでも鬼の姫なの

温羅:良い、良いぞ
   それでこそ、俺の姫だ
   お前がこの村を出ることを決意した時に、話そうと思っていたんだんだ

歩魅:なにそれ?私が出るって知ってたの?

温羅:鬼に未来の話を言うと笑うのはなァ



温羅:鬼には未来が見えるからだ




【間】


時は経ち、出発の朝

歩魅:じゃあ、行くね
   うん、ちゃんと連絡するし帰るよ
   ほら、温羅も居るから
   じゃあ、行ってきます

温羅:おいおい、ちゃんと話せよ
   親は心配してるんだ

歩魅:保護者がいるようなもんじゃん

温羅:俺は別に保護者じゃねーよ
   さて、姫
   伸びた寿命を少し貸してもらうぞ

歩魅:はぁ?

温羅:合格おめでとう
   あと少しすれば高校生だ
   知らない街、知らない人
   お前は色んなモノと出会う

歩魅:何?急に

温羅:この日本には特別な人間が存在する
   それは惹かれ合う様に集まるのかもしれない
   そして、お前も…その一人だ

歩魅:特別な人間……

温羅:鬼を従えた女
   これからお前はそう呼ばれ
   お前はアヤカシに関わる

歩魅:覚悟はしてるよ
   何度か関わったのはその為でしょ

温羅:『ぬむぶうへ あぬまくき やぬそつに』

歩魅:……へぇ

温羅:これから関わるときは名を捨てろ
   お前は何だ?

歩魅:……私は……鬼の姫

温羅:そうだ、お前は姫だ
   鬼姫だ

歩魅:鬼姫

温羅:さぁて、逢いに行こうか
   狐の化け物か、陰陽師か
   呪いの王か、眼の者か……

歩魅:どれに会っても私は変わらないよ

温羅:あぁ、そうだ
   新生活楽しもうぜ、姫

歩魅:ねぇ、さっきのは何?
   色々理解したけど、そのものを知らない

温羅:あぁ、アレはなぁ……



温羅:『天命漏らし』だ



オニノヒメ 終
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