オサキ怪異相談所

てくす

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第一章

第十話 神の森

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茜:『目 目が欲しい
  全てが見えるように、見渡せるように
  誰からも見られないように』


【間】



尾先:“赦す”

尾先に憑依するクダ

尾先:『今回の会談での返答、不問とすると
   しかし、我らを使役する意味を理解しろとのこと
   我が表に出て逃げられたのであれば
   人間が対処できなかったのも事実であろうと
   それと、名付けをした凪については
   護る役目を請け負ったとて出過ぎと判断
   よって、これより玉(ぎょく)と成す     
   以上』

憑依が解け、戻る尾先

尾先:まぁ、寛大なことだな
   凪にまで言及したのは予想外だが

外から急いで戻ってくる茜
どうやら、依頼者が来ている様子

茜:尾先さん!連れてきました
  一応、外で待ってもらってますけど

尾先:あぁ、分かった
   茜、凪のことだが

茜:あ…直接聞きました
  非常事態じゃないと出てこないって
  代わりってこれを貰いました

尾先:あぁ、そうか
   それは肩身離さず持っておけ、必ずだ

茜:はい、分かりました

尾先:よし、話を聞こうか


依頼者を連れてくる茜
依頼者は目が見えないのか、茜が介助している

茜:あ、足元気をつけて下さい、段差があるので

啓太:はい……えっ、暗い!何だ!?
   どこに連れてきたんだ!?

尾先:…………

啓太:ウッ……臭い…何だこの臭い…

茜:臭いですか?

啓太:なんか…気持ち悪い……

尾先:だろうな

啓太:うわっ!?誰!?どこ!?
   あー…クソ…何も見えない……

尾先:当たり前だ、文字通り目が無いんだからな

啓太:なん…で

茜:この人ですよ
  その…幽霊とかに詳しいのは

啓太:えっ…アンタは?

尾先:そいつは俺の助手みたいなもんだ
   悪いな、女じゃ無くて

啓太:いや、別に…そんなことは

尾先:名前

啓太:えっ?

尾先:名前だよ、お前の

啓太:吉田 啓太です

尾先:粗方、話は聞いている
   もう一人のツレの

茜:(遮って)え!?あれ言わないんですか!?

尾先:…は?
   あれってなんだ?

茜:私の時は名前聞いて
  普通普通~って言ってたじゃないですか!
  すっごい感じ悪く

尾先:事情が違うだろ
   ここにコイツをこんな風にした奴はいない
   あと、お前の名前は普通だ

茜:何か納得できない……

啓太:あの…話してもいいですか?

尾先:あぁ、無視してくれ
   それで?ツレの名前は?

啓太:……中山…裕…です

尾先:亡くなったんだろう?

啓太:はい……

尾先:そうか

茜:その、亡くなった…中山さんは
  友達なんですか?

啓太:はい…幼稚園からの幼馴染で……

尾先:辛いな
   流れる涙も無いんだからな

茜:ちょっと!尾先さん!

尾先:同情も、共感もできない
   茜、そろそろ分かれ
   この状態は普通の霊障じゃない
   まずは話より見てみるか

啓太:あ、あの

尾先:動くな

目の包帯を取っていく尾先

茜:ッッ!?

啓太:あぁ…暗い……暗い…

尾先:これを見てまだ同情するか?
   お前も見てきただろ?
   これは普通じゃない

茜:闇……みたい
  もうそこに何も無いみたいな

尾先:そう見えるのか?

茜:はい…ただ目が無くなったんじゃなくて
  そこに何も無いみたいな
  上手く言えないですけど

啓太:俺の目は…どうなっているんですか?
   もう自分じゃ何も見えない…

尾先:漫画で描かれるような綺麗な空洞
   といえば想像つくか?
   形状が人間の目の形じゃない
   抉られている、とも言えるような
   円の空洞、という感じだな

啓太:うっ…あっ…俺の目
   返して…返してくれ……

茜:あの、落ち着いて

啓太:俺の目…俺のものだ…!
   返して!返して!

尾先:落ち着け

啓太:ウッ…

尾先:この部屋に入った瞬間、暗く感じたな?
   匂いにも敏感だった
   目が取られて感覚が鋭くなった
   というわけではない
   お前は今、霊体に近い

啓太:霊体…?俺は死んでるのか?

尾先:いや、生きている
   ただ、少しズレているというか

茜:どういうことですか?ズレてる?

尾先:簡単に言えば幽体離脱みたいなもんだ
   これとはまた別なんだが
   本当は……

啓太:…解ります…俺、本当は……
   死んでるんだ…

茜:え?

尾先:自分の身体は自分がよく知ってる、か
   正しく言えば、死ぬはずだった

茜:それは…その、友達と同じように?

啓太:認めたくなくて、死んだって
   俺もあいつも…まだ生きてるんだって

茜:……

尾先:今回の件、赤羽様だ

茜:赤羽様?

尾先:お前も見ただろ?あの駅で
   目を集める怪異だ

茜:あっ…あれですか?

尾先:まさかこんなに早く関わるとはな

啓太:ただの噂だと思ったんだ
   ただの肝試しのつもりだった!
   本当にいるなんて、誰も思わなかった!

茜:私も今回の話を聞いて調べたんですけど、赤羽様……だったんですね

尾先:近くにもう一つ、心霊スポットで有名な場所があったな
   そこを調べたな?
   あれはフェイクだろう

茜:出回ってる嘘、ですか

尾先:あぁ、怪異を隠すには怪異の中だな
   さて、今から話すが間違いがあったら言ってくれ

啓太:わかりました……

尾先:赤羽様
   赤羽森にある赤羽橋を渡ったところに祠がある
   その祠に祀られている、それが赤羽様

啓太:はい、俺が聞いた噂はそれです

尾先:祠に祀られている神としての赤羽様
   だが、目を取っているのは違うだろうな

茜:違う赤羽様?
  神様、なんですよね?
  禁足地みたいに礼儀がなかったとか、勝手に入ったからって
  神様が怒ったってわけじゃないんですか?

尾先:そう考えるのもアリだが
   残念なことに赤羽なんて神はいない
   何も祀られてないんだよ

茜:何も祀られていない?

啓太:じゃ、じゃあ!アイツは?
   アイツはなんだったんだ!

尾先:道路に花を置いてある場所を見たことはあるか?

啓太:あ、あぁ、事故で亡くなった人に供えてるやつじゃ

茜:私もそうだと思います
  花以外にもジュースとか置かれてたり

尾先:あぁ、じゃあこっちはどうだ?
   仏像やそれに近いものが置かれている場所だ

啓太:それは聞いたことがある程度で
   それも事故で亡くなった人を弔うというか

尾先:そうだ、半分は、な

茜:半分?ですか?

尾先:亡くなったやつを弔う為に置かれている花も供物もそうだ
   だが、全部半分なんだよ

啓太:どういう意味ですか?

尾先:あれの半分は事故防止なんだよ
   見通しの悪いところだったり
   そういうものが置いてあると人は嫌悪感を抱く
   ここは危険なんだと潜在的に思うだろ
   だから中身は空っぽなんだ

茜:じゃあ、赤羽様の祠は空っぽ?

尾先:そういうことだ
   だが、近くの村、町なんかで
   人伝いに、赤羽様がいるから山に入るな
   なんてことが伝わった

啓太:それも噂にあった!
   子供が夜に山に入らないように、親が言い聞かせる怖い話だ
   だから俺たちも肝試し程度で山に行ったんだ!

尾先:伝わった結果、新しい怪異が生まれた
   それが赤羽様だ
   成り立ちは口裂け女に近いな

茜:親が子どもに言い聞かせる話が、そのまま怪異になった……
  赤羽様の話は目を取るんですか?

尾先:俺も調べてみたが
   どうやら何件か不審死があっている
   どれも目が無い
   ただ、話の中では赤羽という神様が
   自分の家に勝手に入られたと、怒って怖いことをしてくる
   だから、山に入ると怖い目に遭うとしか言われていない

啓太:目は?俺の目はなんで取られたんだ!?

尾先:生まれた怪異が目に惹かれたんだろう
   人の目に、恐怖に濁った目にな

啓太:あっ…あいつは…笑ってた
   俺が最後に見たのは笑ってる顔だ……

尾先:話は終わりだ
   さぁ、行こうか赤羽山に
   覚悟はいいな?

茜:は、はい!



【間】



赤羽山に到着する三人

茜:ここが赤羽山…

啓太:うっ…あっ…あぁ!

茜:ちょっ!大丈夫ですか!?

啓太:身体が…震えて……
   ごめんなさい…ごめんなさい……

茜:安心してください
  今は尾先さんがいるので

尾先:今、クダの結界を張っている
   落ち着いて呼吸しろ
   何も感じない筈だ

啓太:クダ…?結界?

尾先:怪異には怪異だ、気にするな

啓太:はい……

深呼吸をし、落ち着く啓太

尾先:茜、お前は油断するな
   もし何かあれば凪を呼べ
   その玉に念じろ

茜:は、はい!
  ごめんね、凪
  何かあったら助けてね

茜の首から下げている玉が光る

茜:ありがとう、凪

尾先:よし、まずは赤羽橋を目指す
   茜、そいつの介助を頼む

茜:わかりました



山道を進んでいく



啓太:はぁ…はぁ…

茜:見えないの、不安ですよね

啓太:え?あ、あぁ、そうですね……うっ…

茜:あ、何か踏みました?

啓太:いや……そうじゃなくて…

尾先:……

啓太:暗い…さっきよりも、もっと暗い

茜:暗い?たしかに夜の森は暗いですけど
  尾先さん、クダ様の結界のおかけで
  明るい方だと思うんですけど

尾先:あぁ、そうだな
   まぁ、もう赤羽様の領域内だからな
   何か感じているのかもな

啓太:本当に大丈夫なんでしょうか…
   俺の目、返ってきますか?

尾先:断言はできないが
   まだ持っていれば可能性はある

茜:ん?…あれは、狸?
  えっ!?

尾先:止まれ

茜の近くに動物霊が現れる
それは、何かを伝えようとこちらを見ていた

茜:あの!行っちゃだめだって
  多分、狸の幽霊です!

尾先:あれか……
   はぁ…ダメだな、動物霊は
   すまない茜、他に何か言ってるか?

茜:行くな、としか言わないです
  ずっとそう言ってます

尾先:……『我が憑いている、心配はいらない』

茜:えっ…?今のは

尾先:クダの言葉を借りたんだ
   警告してくれたんだろうが
   進まないわけにはいかないからな

茜:ごめんね、行かせてもらうね

狸の霊はまた、森の中へ姿を消していく

啓太:……



【間】



尾先:ここか

啓太:もしかして、橋に着いたんですか?

茜:はい、目の前ですよ

啓太:っ…

尾先:進むぞ、大丈夫か?

啓太:は、はい……大丈夫です

茜:気をつけてくださいね

啓太:アッ…?これは…?

茜:どうかしました?

啓太:あ、いや、なんだろう…
   暗さが消えたというか

尾先:何か見えるのか?

啓太:え?

尾先:俺の家の時もそうだが
   森に入ってから、それと橋に着いてから
   お前、何か見ているな?

啓太:な、何言って……
   目が無いんですよ!?見えるわけが!

尾先:とぼけるな
   助けられるものも助けられなくなる

啓太:……分からないんだ
   何か見てる気がする
   けど、何を見てるのか分からない
   だから、本当に……

茜:尾先さん!あれ!
  祠じゃないですか?

尾先:何?橋からまだ全く進んでない…
   いや、これは…

啓太:うわぁぁぁぁぁぁあああ!!

茜:!?大丈夫ですか!?

啓太:目……目だ…
   沢山の目だ……

茜:沢山の目?何を見てるんですか!?

啓太:ヒッ…こっちを見てる!
   見られてる…!!
   やめろ!やめてくれ!

一人、何かを考えている尾先

尾先:どういうことだ
   祠があるとされる場所までは、まだ先のはず
   そもそもからの祠だ
   …移動?何故?
   いや待て、そもそもなぜ赤羽は駅に行く?
   目を対価に切符を買ってどうする?

啓太:見るな!俺を見るな!
   見るなら返してくれ!俺の!俺の目ェ!
   あぁぁぁああぁあ!!

茜:あっ…どうしよう…
  !?凪?えっ、どういう…
  うん…分かった
  “許す”

尾先:っ!?茜!?

啓太:うっ…

茜に憑依する凪

茜:『見てられない』

憑依した凪は、啓太に触り
その瞬間、啓太は気絶してしまう

茜:『少し落ち着いてもらうよ、人間』

尾先:凪か…?

茜:『あぁ、そうだよオサキ』

尾先:何してる?茜に勝手に憑依して

茜:『茜から話は聞いてる
  霊の女の子と共感したんでしょ?
  だったらえにしのある僕との憑依はできる
  それに茜は動物霊と相性が良い』

尾先:それで何の用だ?

茜:『今回の会談の件、聞いたよね?クダから
  僕は顕現して茜を見ることはできない
  だから、玉になって守るしか無い』

尾先:あぁ、そうだ

茜:『だったら、僕は茜だけを守る
  お前も他の人間も関係ない
  それの宣言と警告を伝えにきた』

尾先:警告だと?

茜:『道中、狸に遭っただろ?
  お前は勘違いしているよ、オサキ
  アイツは茜に行くなと言ったんだ
  お前とその人間には何も言っていない』

尾先:…何?

茜:『嫌われているとかじゃない
  はなから茜にしか伝えてない
  解るかい?茜だけを守ろうとしたんだよ』

尾先:まさか…!

茜:『ここの住人は全部知ってるよ
  気づくのが遅かったね
  それじゃ、僕は茜を守ることに徹するよ』

尾先:…あぁ

茜:うっ…凪…?
  えっ…これは凪の結界!?

啓太:はぁ…はぁ…何だったんだ…
   あれ?何も…見えなくなった?

尾先:此処から離れるぞ

啓太:は……?
   待ってくれ!俺の目は!?
   俺の目はどこにあるんだ!?

尾先:目を見たんだろう?

啓太:あ、あぁ…

尾先:今思えば、あそこにあった目は
   一人二人の量じゃなかった
   それを見たということは、もう持って行かれた
   あそこは俺にも手出しできない

啓太:ちょっと待ってくれ
   じゃあ、俺の目は?

尾先:すまないが、諦めるしかない

啓太:嘘…だ…

尾先:しかし、何故駅に目を……
   違う、この森の動物霊は赤羽を知っている
   行くなと言うほどに畏れている?
   赤羽はもう……神に近い霊体に成った…?

茜:凄く厚い結界?壁があるみたい

啓太:アッ……あぁ……

尾先:切符を買う為に駅に行ってない
   …骸は、切符を渡された
   それは他も例外じゃない?
   保管……か?保管する為に駅に
   じゃあ、祠は何だ?
   移動する…?停留所…?
   待て、だとすれば
   茜!!

啓太:ああああアァァァァァァア!!!

尾先:っ!?まずい!

茜:凪!結界を止めて!
  尾先さん!結界が厚すぎて触れない!

尾先:くそっ!おい!吉田 啓太!
   黙れ!今叫ぶとまずい!

啓太:俺の目!俺のォォォオオオ!!

茜:痛っ!?何この声…

尾先:嘘だろ……赤羽はそこまで…

茜:尾先さん!!!後ろ!

尾先:!?
   なっ……

ナニカが結界の外から覗いている

尾先:うっ……

茜:っ……ぅ……(怖くて……声が…出ない…)

啓太:アァ、解る、いる、いるいるいる、いる
   俺の目を盗ったアイツが
   笑ってる……また笑ってる…

尾先:行くな、吉田 啓太……

啓太:返せ…返せよぉ……

結界を叩き出す啓太

尾先:(クダ…結界を強めろ!)

茜:ダメ…ダメです…行っちゃ……

尾先:下がれ、茜…
   さっきから全く効いてない

茜:効いてない?

尾先:除霊だ
   これは神と同等の霊体だ
   甘かった……
   俺が思っていたよりずっと前から
   赤羽様の話は言い伝えられていた

茜:啓太さんはどうするんですか?

尾先:…結界の外に出たらズレが戻る

茜:ズレが戻る?

尾先:アイツから目だけ奪われ、逃げ切れたわけじゃないんだ
   本当は死んでいておかしくないんだ
   一緒に行った奴と一緒にな
   だが、ズレたんだ死の境界線が

茜:だから、偶々生き残った?

尾先:だが、また赤羽に会ったらダメだ
   一度は、ズレて生きられても
   次はない、ズレが戻る
   まだ結界のせいで認識されていない

茜:っ!戻ってください!啓太さん!

啓太:目だ、目だ!目、目、目、目!
   目を!目を、出せ!

尾先:共感…?これはもう……

茜:なんでそんなに…おかしいですよ、尾先さん

尾先:一度赤羽に会ったことで共感しているかもしれん
   あの異様なまでの執着は命より…
   ……あぁなってしまったら戻れない
   助けられない

茜:そんな……

尾先:茜、これから辛い現場を見ることになる
   お前は凪に守られている
   先に森を出ていてもいい

茜:…できません
  関わってしまったから
  私も、最後まで

尾先:……わかった



啓太:あぁ!クソ!クソ!
   開けてくれ!俺に目を!
   俺に目を取らせてくれ!

尾先:本当にいいんだな?吉田 啓太

啓太:いい、いい、いい、いい、いい!
   目がとれるならなんでもいい

尾先:そうか…

一部結界を解く尾先

啓太:ハッ!ハハハハ!目だ!目を取りにきた!
   お前だ!お前だ!お前だな!
   目、目をよこ……せ?
   あれ……?裕?なんでお前、ここに
   あぁ、ああ!お前も一緒に取りに来たのか!
   あはははははははははは
   行くぞ!俺たちの目を!あははははは

茜:えっ、赤羽様が動いて…
  あっ、そっちは!

尾先:………

啓太:あははははははは!
   目だ!2つだ!こっちだ!
   ははは…はっ?



崖から落ちていくーーー


茜:っ!?

尾先:誘ったな……

尾先たちを見ている赤羽

茜:ひっ……

尾先:俺だ
   俺を見ている

茜:ど、どうするんですか…

尾先:アイツは解ってる、全部な

森の中に消えていく赤羽

茜:……はぁ…はぁ…
  急に凄い汗が……

尾先:緊張が解けたんだろう
   あれは…除霊とかそういう次元の話じゃないな

茜:神様…ですか?

尾先:あぁ…祠は確かに空っぽだが
   ずっと昔から話が伝えられたせいで
   誰かが信仰したんだろう
   ただの霊体に力を与えたんだ

茜:元々はただの幽霊……

尾先:目に関する妖怪、怪異だろうな
   俺たちは、この領域を荒らす為に来たわけじゃないと
   赤羽も解ったから襲わなかったんだろう
   そういうルールだな

茜:肝試しや森を荒らしに来る人に罰を与える
  確かに神様みたいに思えますね

尾先:さて、行くか

茜:どこに行くんですか?

尾先:俺たちは、全部救えない
   見過ごすこともある
   それは骸もそうだ

茜:…はい

尾先:見過ごした、助けられなかった
   そんな人の最期だけはきっちりな
   アフターケアだ

茜:……はい



【間】


啓太が落ちたであろう場所に着く

尾先:茜、そこで待ってろ
   見る必要はない

茜:わ、私も

尾先:無理するな、休め

茜:……


【間】


尾先:……すまないな
   今回は助けられなかった
   馬鹿な真似をしたお前を責めたいが
   そうなってしまったら、責めれないからな
   まぁ、眠れ


どこかに電話をする尾先

尾先:あぁ、俺だ
   一体だ
   数日前に見つかっているはずだが
   あぁ、赤羽山だ
   ズレが戻った、としか言えんな
   あと、この山に関する情報は切った方がいい
   赤羽は本物だ、俺じゃ対処できない
   ……使えるかよ
   じゃあな、場所は不知火を置いておく
   あぁ、頼んだ



【間】


茜:あっ…

尾先:大丈夫か?

茜:…はい

尾先:そういえば初めてか
   人が死ぬのは

茜:尾先さんはその…慣れているんですか?

尾先:…あぁ、慣れている
   子供の頃から、ずっと

茜:私、何も役に立てなかった

尾先:買い被りすぎだ
   お前は最近まで普通の人だった
   急にこんなことになってしまっただけだ
   それに今回は嫌なもんも見ただろう

茜:それでも怪異に関わるなら
  私は強くならないと

尾先:呪いの件、か

茜:はい…私は許せないから

尾先:帰ろう

茜:はい……


茜:『目 目が欲しい
   全てが見えるように、見渡せるように
   誰からも見られないように』


茜:尾先さん

尾先:何だ

茜:今は無理かもしれないけど
  私は見ます
  この目で、ちゃんと

尾先:あぁ……俺も見てきた
   強くなれ、茜



神の森 終
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