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第一章
第十話 神の森
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茜:『目 目が欲しい
全てが見えるように、見渡せるように
誰からも見られないように』
【間】
尾先:“赦す”
尾先に憑依するクダ
尾先:『今回の会談での返答、不問とすると
しかし、我らを使役する意味を理解しろとのこと
我が表に出て逃げられたのであれば
人間が対処できなかったのも事実であろうと
それと、名付けをした凪については
護る役目を請け負ったとて出過ぎと判断
よって、これより玉(ぎょく)と成す
以上』
憑依が解け、戻る尾先
尾先:まぁ、寛大なことだな
凪にまで言及したのは予想外だが
外から急いで戻ってくる茜
どうやら、依頼者が来ている様子
茜:尾先さん!連れてきました
一応、外で待ってもらってますけど
尾先:あぁ、分かった
茜、凪のことだが
茜:あ…直接聞きました
非常事態じゃないと出てこないって
代わりってこれを貰いました
尾先:あぁ、そうか
それは肩身離さず持っておけ、必ずだ
茜:はい、分かりました
尾先:よし、話を聞こうか
依頼者を連れてくる茜
依頼者は目が見えないのか、茜が介助している
茜:あ、足元気をつけて下さい、段差があるので
啓太:はい……えっ、暗い!何だ!?
どこに連れてきたんだ!?
尾先:…………
啓太:ウッ……臭い…何だこの臭い…
茜:臭いですか?
啓太:なんか…気持ち悪い……
尾先:だろうな
啓太:うわっ!?誰!?どこ!?
あー…クソ…何も見えない……
尾先:当たり前だ、文字通り目が無いんだからな
啓太:なん…で
茜:この人ですよ
その…幽霊とかに詳しいのは
啓太:えっ…アンタは?
尾先:そいつは俺の助手みたいなもんだ
悪いな、女じゃ無くて
啓太:いや、別に…そんなことは
尾先:名前
啓太:えっ?
尾先:名前だよ、お前の
啓太:吉田 啓太です
尾先:粗方、話は聞いている
もう一人のツレの
茜:(遮って)え!?あれ言わないんですか!?
尾先:…は?
あれってなんだ?
茜:私の時は名前聞いて
普通普通~って言ってたじゃないですか!
すっごい感じ悪く
尾先:事情が違うだろ
ここにコイツをこんな風にした奴はいない
あと、お前の名前は普通だ
茜:何か納得できない……
啓太:あの…話してもいいですか?
尾先:あぁ、無視してくれ
それで?ツレの名前は?
啓太:……中山…裕…です
尾先:亡くなったんだろう?
啓太:はい……
尾先:そうか
茜:その、亡くなった…中山さんは
友達なんですか?
啓太:はい…幼稚園からの幼馴染で……
尾先:辛いな
流れる涙も無いんだからな
茜:ちょっと!尾先さん!
尾先:同情も、共感もできない
茜、そろそろ分かれ
この状態は普通の霊障じゃない
まずは話より見てみるか
啓太:あ、あの
尾先:動くな
目の包帯を取っていく尾先
茜:ッッ!?
啓太:あぁ…暗い……暗い…
尾先:これを見てまだ同情するか?
お前も見てきただろ?
これは普通じゃない
茜:闇……みたい
もうそこに何も無いみたいな
尾先:そう見えるのか?
茜:はい…ただ目が無くなったんじゃなくて
そこに何も無いみたいな
上手く言えないですけど
啓太:俺の目は…どうなっているんですか?
もう自分じゃ何も見えない…
尾先:漫画で描かれるような綺麗な空洞
といえば想像つくか?
形状が人間の目の形じゃない
抉られている、とも言えるような
円の空洞、という感じだな
啓太:うっ…あっ…俺の目
返して…返してくれ……
茜:あの、落ち着いて
啓太:俺の目…俺のものだ…!
返して!返して!
尾先:落ち着け
啓太:ウッ…
尾先:この部屋に入った瞬間、暗く感じたな?
匂いにも敏感だった
目が取られて感覚が鋭くなった
というわけではない
お前は今、霊体に近い
啓太:霊体…?俺は死んでるのか?
尾先:いや、生きている
ただ、少しズレているというか
茜:どういうことですか?ズレてる?
尾先:簡単に言えば幽体離脱みたいなもんだ
これとはまた別なんだが
本当は……
啓太:…解ります…俺、本当は……
死んでるんだ…
茜:え?
尾先:自分の身体は自分がよく知ってる、か
正しく言えば、死ぬはずだった
茜:それは…その、友達と同じように?
啓太:認めたくなくて、死んだって
俺もあいつも…まだ生きてるんだって
茜:……
尾先:今回の件、赤羽様だ
茜:赤羽様?
尾先:お前も見ただろ?あの駅で
目を集める怪異だ
茜:あっ…あれですか?
尾先:まさかこんなに早く関わるとはな
啓太:ただの噂だと思ったんだ
ただの肝試しのつもりだった!
本当にいるなんて、誰も思わなかった!
茜:私も今回の話を聞いて調べたんですけど、赤羽様……だったんですね
尾先:近くにもう一つ、心霊スポットで有名な場所があったな
そこを調べたな?
あれはフェイクだろう
茜:出回ってる嘘、ですか
尾先:あぁ、怪異を隠すには怪異の中だな
さて、今から話すが間違いがあったら言ってくれ
啓太:わかりました……
尾先:赤羽様
赤羽森にある赤羽橋を渡ったところに祠がある
その祠に祀られている、それが赤羽様
啓太:はい、俺が聞いた噂はそれです
尾先:祠に祀られている神としての赤羽様
だが、目を取っているのは違うだろうな
茜:違う赤羽様?
神様、なんですよね?
禁足地みたいに礼儀がなかったとか、勝手に入ったからって
神様が怒ったってわけじゃないんですか?
尾先:そう考えるのもアリだが
残念なことに赤羽なんて神はいない
何も祀られてないんだよ
茜:何も祀られていない?
啓太:じゃ、じゃあ!アイツは?
アイツはなんだったんだ!
尾先:道路に花を置いてある場所を見たことはあるか?
啓太:あ、あぁ、事故で亡くなった人に供えてるやつじゃ
茜:私もそうだと思います
花以外にもジュースとか置かれてたり
尾先:あぁ、じゃあこっちはどうだ?
仏像やそれに近いものが置かれている場所だ
啓太:それは聞いたことがある程度で
それも事故で亡くなった人を弔うというか
尾先:そうだ、半分は、な
茜:半分?ですか?
尾先:亡くなったやつを弔う為に置かれている花も供物もそうだ
だが、全部半分なんだよ
啓太:どういう意味ですか?
尾先:あれの半分は事故防止なんだよ
見通しの悪いところだったり
そういうものが置いてあると人は嫌悪感を抱く
ここは危険なんだと潜在的に思うだろ
だから中身は空っぽなんだ
茜:じゃあ、赤羽様の祠は空っぽ?
尾先:そういうことだ
だが、近くの村、町なんかで
人伝いに、赤羽様がいるから山に入るな
なんてことが伝わった
啓太:それも噂にあった!
子供が夜に山に入らないように、親が言い聞かせる怖い話だ
だから俺たちも肝試し程度で山に行ったんだ!
尾先:伝わった結果、新しい怪異が生まれた
それが赤羽様だ
成り立ちは口裂け女に近いな
茜:親が子どもに言い聞かせる話が、そのまま怪異になった……
赤羽様の話は目を取るんですか?
尾先:俺も調べてみたが
どうやら何件か不審死があっている
どれも目が無い
ただ、話の中では赤羽という神様が
自分の家に勝手に入られたと、怒って怖いことをしてくる
だから、山に入ると怖い目に遭うとしか言われていない
啓太:目は?俺の目はなんで取られたんだ!?
尾先:生まれた怪異が目に惹かれたんだろう
人の目に、恐怖に濁った目にな
啓太:あっ…あいつは…笑ってた
俺が最後に見たのは笑ってる顔だ……
尾先:話は終わりだ
さぁ、行こうか赤羽山に
覚悟はいいな?
茜:は、はい!
【間】
赤羽山に到着する三人
茜:ここが赤羽山…
啓太:うっ…あっ…あぁ!
茜:ちょっ!大丈夫ですか!?
啓太:身体が…震えて……
ごめんなさい…ごめんなさい……
茜:安心してください
今は尾先さんがいるので
尾先:今、クダの結界を張っている
落ち着いて呼吸しろ
何も感じない筈だ
啓太:クダ…?結界?
尾先:怪異には怪異だ、気にするな
啓太:はい……
深呼吸をし、落ち着く啓太
尾先:茜、お前は油断するな
もし何かあれば凪を呼べ
その玉に念じろ
茜:は、はい!
ごめんね、凪
何かあったら助けてね
茜の首から下げている玉が光る
茜:ありがとう、凪
尾先:よし、まずは赤羽橋を目指す
茜、そいつの介助を頼む
茜:わかりました
山道を進んでいく
啓太:はぁ…はぁ…
茜:見えないの、不安ですよね
啓太:え?あ、あぁ、そうですね……うっ…
茜:あ、何か踏みました?
啓太:いや……そうじゃなくて…
尾先:……
啓太:暗い…さっきよりも、もっと暗い
茜:暗い?たしかに夜の森は暗いですけど
尾先さん、クダ様の結界のおかけで
明るい方だと思うんですけど
尾先:あぁ、そうだな
まぁ、もう赤羽様の領域内だからな
何か感じているのかもな
啓太:本当に大丈夫なんでしょうか…
俺の目、返ってきますか?
尾先:断言はできないが
まだ持っていれば可能性はある
茜:ん?…あれは、狸?
えっ!?
尾先:止まれ
茜の近くに動物霊が現れる
それは、何かを伝えようとこちらを見ていた
茜:あの!行っちゃだめだって
多分、狸の幽霊です!
尾先:あれか……
はぁ…ダメだな、動物霊は
すまない茜、他に何か言ってるか?
茜:行くな、としか言わないです
ずっとそう言ってます
尾先:……『我が憑いている、心配はいらない』
茜:えっ…?今のは
尾先:クダの言葉を借りたんだ
警告してくれたんだろうが
進まないわけにはいかないからな
茜:ごめんね、行かせてもらうね
狸の霊はまた、森の中へ姿を消していく
啓太:……
【間】
尾先:ここか
啓太:もしかして、橋に着いたんですか?
茜:はい、目の前ですよ
啓太:っ…
尾先:進むぞ、大丈夫か?
啓太:は、はい……大丈夫です
茜:気をつけてくださいね
啓太:アッ…?これは…?
茜:どうかしました?
啓太:あ、いや、なんだろう…
暗さが消えたというか
尾先:何か見えるのか?
啓太:え?
尾先:俺の家の時もそうだが
森に入ってから、それと橋に着いてから
お前、何か見ているな?
啓太:な、何言って……
目が無いんですよ!?見えるわけが!
尾先:とぼけるな
助けられるものも助けられなくなる
啓太:……分からないんだ
何か見てる気がする
けど、何を見てるのか分からない
だから、本当に……
茜:尾先さん!あれ!
祠じゃないですか?
尾先:何?橋からまだ全く進んでない…
いや、これは…
啓太:うわぁぁぁぁぁぁあああ!!
茜:!?大丈夫ですか!?
啓太:目……目だ…
沢山の目だ……
茜:沢山の目?何を見てるんですか!?
啓太:ヒッ…こっちを見てる!
見られてる…!!
やめろ!やめてくれ!
一人、何かを考えている尾先
尾先:どういうことだ
祠があるとされる場所までは、まだ先のはず
そもそも空の祠だ
…移動?何故?
いや待て、そもそもなぜ赤羽は駅に行く?
目を対価に切符を買ってどうする?
啓太:見るな!俺を見るな!
見るなら返してくれ!俺の!俺の目ェ!
あぁぁぁああぁあ!!
茜:あっ…どうしよう…
!?凪?えっ、どういう…
うん…分かった
“許す”
尾先:っ!?茜!?
啓太:うっ…
茜に憑依する凪
茜:『見てられない』
憑依した凪は、啓太に触り
その瞬間、啓太は気絶してしまう
茜:『少し落ち着いてもらうよ、人間』
尾先:凪か…?
茜:『あぁ、そうだよオサキ』
尾先:何してる?茜に勝手に憑依して
茜:『茜から話は聞いてる
霊の女の子と共感したんでしょ?
だったら縁のある僕との憑依はできる
それに茜は動物霊と相性が良い』
尾先:それで何の用だ?
茜:『今回の会談の件、聞いたよね?クダから
僕は顕現して茜を見ることはできない
だから、玉になって守るしか無い』
尾先:あぁ、そうだ
茜:『だったら、僕は茜だけを守る
お前も他の人間も関係ない
それの宣言と警告を伝えにきた』
尾先:警告だと?
茜:『道中、狸に遭っただろ?
お前は勘違いしているよ、オサキ
アイツは茜に行くなと言ったんだ
お前とその人間には何も言っていない』
尾先:…何?
茜:『嫌われているとかじゃない
はなから茜にしか伝えてない
解るかい?茜だけを守ろうとしたんだよ』
尾先:まさか…!
茜:『ここの住人は全部知ってるよ
気づくのが遅かったね
それじゃ、僕は茜を守ることに徹するよ』
尾先:…あぁ
茜:うっ…凪…?
えっ…これは凪の結界!?
啓太:はぁ…はぁ…何だったんだ…
あれ?何も…見えなくなった?
尾先:此処から離れるぞ
啓太:は……?
待ってくれ!俺の目は!?
俺の目はどこにあるんだ!?
尾先:目を見たんだろう?
啓太:あ、あぁ…
尾先:今思えば、あそこにあった目は
一人二人の量じゃなかった
それを見たということは、もう持って行かれた
あそこは俺にも手出しできない
啓太:ちょっと待ってくれ
じゃあ、俺の目は?
尾先:すまないが、諦めるしかない
啓太:嘘…だ…
尾先:しかし、何故駅に目を……
違う、この森の動物霊は赤羽を知っている
行くなと言うほどに畏れている?
赤羽はもう……神に近い霊体に成った…?
茜:凄く厚い結界?壁があるみたい
啓太:アッ……あぁ……
尾先:切符を買う為に駅に行ってない
…骸は、切符を渡された
それは他も例外じゃない?
保管……か?保管する為に駅に
じゃあ、祠は何だ?
移動する…?停留所…?
待て、だとすれば
茜!!
啓太:ああああアァァァァァァア!!!
尾先:っ!?まずい!
茜:凪!結界を止めて!
尾先さん!結界が厚すぎて触れない!
尾先:くそっ!おい!吉田 啓太!
黙れ!今叫ぶとまずい!
啓太:俺の目!俺のォォォオオオ!!
茜:痛っ!?何この声…
尾先:嘘だろ……赤羽はそこまで…
茜:尾先さん!!!後ろ!
尾先:!?
なっ……
ナニカが結界の外から覗いている
尾先:うっ……
茜:っ……ぅ……(怖くて……声が…出ない…)
啓太:アァ、解る、いる、いるいるいる、いる
俺の目を盗ったアイツが
笑ってる……また笑ってる…
尾先:行くな、吉田 啓太……
啓太:返せ…返せよぉ……
結界を叩き出す啓太
尾先:(クダ…結界を強めろ!)
茜:ダメ…ダメです…行っちゃ……
尾先:下がれ、茜…
さっきから全く効いてない
茜:効いてない?
尾先:除霊だ
これは神と同等の霊体だ
甘かった……
俺が思っていたよりずっと前から
赤羽様の話は言い伝えられていた
茜:啓太さんはどうするんですか?
尾先:…結界の外に出たらズレが戻る
茜:ズレが戻る?
尾先:アイツから目だけ奪われ、逃げ切れたわけじゃないんだ
本当は死んでいておかしくないんだ
一緒に行った奴と一緒にな
だが、ズレたんだ死の境界線が
茜:だから、偶々生き残った?
尾先:だが、また赤羽に会ったらダメだ
一度は、ズレて生きられても
次はない、ズレが戻る
まだ結界のせいで認識されていない
茜:っ!戻ってください!啓太さん!
啓太:目だ、目だ!目、目、目、目!
目を!目を、出せ!
尾先:共感…?これはもう……
茜:なんでそんなに…おかしいですよ、尾先さん
尾先:一度赤羽に会ったことで共感しているかもしれん
あの異様なまでの執着は命より…
……あぁなってしまったら戻れない
助けられない
茜:そんな……
尾先:茜、これから辛い現場を見ることになる
お前は凪に守られている
先に森を出ていてもいい
茜:…できません
関わってしまったから
私も、最後まで
尾先:……わかった
啓太:あぁ!クソ!クソ!
開けてくれ!俺に目を!
俺に目を取らせてくれ!
尾先:本当にいいんだな?吉田 啓太
啓太:いい、いい、いい、いい、いい!
目がとれるならなんでもいい
尾先:そうか…
一部結界を解く尾先
啓太:ハッ!ハハハハ!目だ!目を取りにきた!
お前だ!お前だ!お前だな!
目、目をよこ……せ?
あれ……?裕?なんでお前、ここに
あぁ、ああ!お前も一緒に取りに来たのか!
あはははははははははは
行くぞ!俺たちの目を!あははははは
茜:えっ、赤羽様が動いて…
あっ、そっちは!
尾先:………
啓太:あははははははは!
目だ!2つだ!こっちだ!
ははは…はっ?
崖から落ちていくーーー
茜:っ!?
尾先:誘ったな……
尾先たちを見ている赤羽
茜:ひっ……
尾先:俺だ
俺を見ている
茜:ど、どうするんですか…
尾先:アイツは解ってる、全部な
森の中に消えていく赤羽
茜:……はぁ…はぁ…
急に凄い汗が……
尾先:緊張が解けたんだろう
あれは…除霊とかそういう次元の話じゃないな
茜:神様…ですか?
尾先:あぁ…祠は確かに空っぽだが
ずっと昔から話が伝えられたせいで
誰かが信仰したんだろう
ただの霊体に力を与えたんだ
茜:元々はただの幽霊……
尾先:目に関する妖怪、怪異だろうな
俺たちは、この領域を荒らす為に来たわけじゃないと
赤羽も解ったから襲わなかったんだろう
そういうルールだな
茜:肝試しや森を荒らしに来る人に罰を与える
確かに神様みたいに思えますね
尾先:さて、行くか
茜:どこに行くんですか?
尾先:俺たちは、全部救えない
見過ごすこともある
それは骸もそうだ
茜:…はい
尾先:見過ごした、助けられなかった
そんな人の最期だけはきっちりな
アフターケアだ
茜:……はい
【間】
啓太が落ちたであろう場所に着く
尾先:茜、そこで待ってろ
見る必要はない
茜:わ、私も
尾先:無理するな、休め
茜:……
【間】
尾先:……すまないな
今回は助けられなかった
馬鹿な真似をしたお前を責めたいが
そうなってしまったら、責めれないからな
まぁ、眠れ
どこかに電話をする尾先
尾先:あぁ、俺だ
一体だ
数日前に見つかっているはずだが
あぁ、赤羽山だ
ズレが戻った、としか言えんな
あと、この山に関する情報は切った方がいい
赤羽は本物だ、俺じゃ対処できない
……使えるかよ
じゃあな、場所は不知火を置いておく
あぁ、頼んだ
【間】
茜:あっ…
尾先:大丈夫か?
茜:…はい
尾先:そういえば初めてか
人が死ぬのは
茜:尾先さんはその…慣れているんですか?
尾先:…あぁ、慣れている
子供の頃から、ずっと
茜:私、何も役に立てなかった
尾先:買い被りすぎだ
お前は最近まで普通の人だった
急にこんなことになってしまっただけだ
それに今回は嫌なもんも見ただろう
茜:それでも怪異に関わるなら
私は強くならないと
尾先:呪いの件、か
茜:はい…私は許せないから
尾先:帰ろう
茜:はい……
茜:『目 目が欲しい
全てが見えるように、見渡せるように
誰からも見られないように』
茜:尾先さん
尾先:何だ
茜:今は無理かもしれないけど
私は見ます
この目で、ちゃんと
尾先:あぁ……俺も見てきた
強くなれ、茜
神の森 終
全てが見えるように、見渡せるように
誰からも見られないように』
【間】
尾先:“赦す”
尾先に憑依するクダ
尾先:『今回の会談での返答、不問とすると
しかし、我らを使役する意味を理解しろとのこと
我が表に出て逃げられたのであれば
人間が対処できなかったのも事実であろうと
それと、名付けをした凪については
護る役目を請け負ったとて出過ぎと判断
よって、これより玉(ぎょく)と成す
以上』
憑依が解け、戻る尾先
尾先:まぁ、寛大なことだな
凪にまで言及したのは予想外だが
外から急いで戻ってくる茜
どうやら、依頼者が来ている様子
茜:尾先さん!連れてきました
一応、外で待ってもらってますけど
尾先:あぁ、分かった
茜、凪のことだが
茜:あ…直接聞きました
非常事態じゃないと出てこないって
代わりってこれを貰いました
尾先:あぁ、そうか
それは肩身離さず持っておけ、必ずだ
茜:はい、分かりました
尾先:よし、話を聞こうか
依頼者を連れてくる茜
依頼者は目が見えないのか、茜が介助している
茜:あ、足元気をつけて下さい、段差があるので
啓太:はい……えっ、暗い!何だ!?
どこに連れてきたんだ!?
尾先:…………
啓太:ウッ……臭い…何だこの臭い…
茜:臭いですか?
啓太:なんか…気持ち悪い……
尾先:だろうな
啓太:うわっ!?誰!?どこ!?
あー…クソ…何も見えない……
尾先:当たり前だ、文字通り目が無いんだからな
啓太:なん…で
茜:この人ですよ
その…幽霊とかに詳しいのは
啓太:えっ…アンタは?
尾先:そいつは俺の助手みたいなもんだ
悪いな、女じゃ無くて
啓太:いや、別に…そんなことは
尾先:名前
啓太:えっ?
尾先:名前だよ、お前の
啓太:吉田 啓太です
尾先:粗方、話は聞いている
もう一人のツレの
茜:(遮って)え!?あれ言わないんですか!?
尾先:…は?
あれってなんだ?
茜:私の時は名前聞いて
普通普通~って言ってたじゃないですか!
すっごい感じ悪く
尾先:事情が違うだろ
ここにコイツをこんな風にした奴はいない
あと、お前の名前は普通だ
茜:何か納得できない……
啓太:あの…話してもいいですか?
尾先:あぁ、無視してくれ
それで?ツレの名前は?
啓太:……中山…裕…です
尾先:亡くなったんだろう?
啓太:はい……
尾先:そうか
茜:その、亡くなった…中山さんは
友達なんですか?
啓太:はい…幼稚園からの幼馴染で……
尾先:辛いな
流れる涙も無いんだからな
茜:ちょっと!尾先さん!
尾先:同情も、共感もできない
茜、そろそろ分かれ
この状態は普通の霊障じゃない
まずは話より見てみるか
啓太:あ、あの
尾先:動くな
目の包帯を取っていく尾先
茜:ッッ!?
啓太:あぁ…暗い……暗い…
尾先:これを見てまだ同情するか?
お前も見てきただろ?
これは普通じゃない
茜:闇……みたい
もうそこに何も無いみたいな
尾先:そう見えるのか?
茜:はい…ただ目が無くなったんじゃなくて
そこに何も無いみたいな
上手く言えないですけど
啓太:俺の目は…どうなっているんですか?
もう自分じゃ何も見えない…
尾先:漫画で描かれるような綺麗な空洞
といえば想像つくか?
形状が人間の目の形じゃない
抉られている、とも言えるような
円の空洞、という感じだな
啓太:うっ…あっ…俺の目
返して…返してくれ……
茜:あの、落ち着いて
啓太:俺の目…俺のものだ…!
返して!返して!
尾先:落ち着け
啓太:ウッ…
尾先:この部屋に入った瞬間、暗く感じたな?
匂いにも敏感だった
目が取られて感覚が鋭くなった
というわけではない
お前は今、霊体に近い
啓太:霊体…?俺は死んでるのか?
尾先:いや、生きている
ただ、少しズレているというか
茜:どういうことですか?ズレてる?
尾先:簡単に言えば幽体離脱みたいなもんだ
これとはまた別なんだが
本当は……
啓太:…解ります…俺、本当は……
死んでるんだ…
茜:え?
尾先:自分の身体は自分がよく知ってる、か
正しく言えば、死ぬはずだった
茜:それは…その、友達と同じように?
啓太:認めたくなくて、死んだって
俺もあいつも…まだ生きてるんだって
茜:……
尾先:今回の件、赤羽様だ
茜:赤羽様?
尾先:お前も見ただろ?あの駅で
目を集める怪異だ
茜:あっ…あれですか?
尾先:まさかこんなに早く関わるとはな
啓太:ただの噂だと思ったんだ
ただの肝試しのつもりだった!
本当にいるなんて、誰も思わなかった!
茜:私も今回の話を聞いて調べたんですけど、赤羽様……だったんですね
尾先:近くにもう一つ、心霊スポットで有名な場所があったな
そこを調べたな?
あれはフェイクだろう
茜:出回ってる嘘、ですか
尾先:あぁ、怪異を隠すには怪異の中だな
さて、今から話すが間違いがあったら言ってくれ
啓太:わかりました……
尾先:赤羽様
赤羽森にある赤羽橋を渡ったところに祠がある
その祠に祀られている、それが赤羽様
啓太:はい、俺が聞いた噂はそれです
尾先:祠に祀られている神としての赤羽様
だが、目を取っているのは違うだろうな
茜:違う赤羽様?
神様、なんですよね?
禁足地みたいに礼儀がなかったとか、勝手に入ったからって
神様が怒ったってわけじゃないんですか?
尾先:そう考えるのもアリだが
残念なことに赤羽なんて神はいない
何も祀られてないんだよ
茜:何も祀られていない?
啓太:じゃ、じゃあ!アイツは?
アイツはなんだったんだ!
尾先:道路に花を置いてある場所を見たことはあるか?
啓太:あ、あぁ、事故で亡くなった人に供えてるやつじゃ
茜:私もそうだと思います
花以外にもジュースとか置かれてたり
尾先:あぁ、じゃあこっちはどうだ?
仏像やそれに近いものが置かれている場所だ
啓太:それは聞いたことがある程度で
それも事故で亡くなった人を弔うというか
尾先:そうだ、半分は、な
茜:半分?ですか?
尾先:亡くなったやつを弔う為に置かれている花も供物もそうだ
だが、全部半分なんだよ
啓太:どういう意味ですか?
尾先:あれの半分は事故防止なんだよ
見通しの悪いところだったり
そういうものが置いてあると人は嫌悪感を抱く
ここは危険なんだと潜在的に思うだろ
だから中身は空っぽなんだ
茜:じゃあ、赤羽様の祠は空っぽ?
尾先:そういうことだ
だが、近くの村、町なんかで
人伝いに、赤羽様がいるから山に入るな
なんてことが伝わった
啓太:それも噂にあった!
子供が夜に山に入らないように、親が言い聞かせる怖い話だ
だから俺たちも肝試し程度で山に行ったんだ!
尾先:伝わった結果、新しい怪異が生まれた
それが赤羽様だ
成り立ちは口裂け女に近いな
茜:親が子どもに言い聞かせる話が、そのまま怪異になった……
赤羽様の話は目を取るんですか?
尾先:俺も調べてみたが
どうやら何件か不審死があっている
どれも目が無い
ただ、話の中では赤羽という神様が
自分の家に勝手に入られたと、怒って怖いことをしてくる
だから、山に入ると怖い目に遭うとしか言われていない
啓太:目は?俺の目はなんで取られたんだ!?
尾先:生まれた怪異が目に惹かれたんだろう
人の目に、恐怖に濁った目にな
啓太:あっ…あいつは…笑ってた
俺が最後に見たのは笑ってる顔だ……
尾先:話は終わりだ
さぁ、行こうか赤羽山に
覚悟はいいな?
茜:は、はい!
【間】
赤羽山に到着する三人
茜:ここが赤羽山…
啓太:うっ…あっ…あぁ!
茜:ちょっ!大丈夫ですか!?
啓太:身体が…震えて……
ごめんなさい…ごめんなさい……
茜:安心してください
今は尾先さんがいるので
尾先:今、クダの結界を張っている
落ち着いて呼吸しろ
何も感じない筈だ
啓太:クダ…?結界?
尾先:怪異には怪異だ、気にするな
啓太:はい……
深呼吸をし、落ち着く啓太
尾先:茜、お前は油断するな
もし何かあれば凪を呼べ
その玉に念じろ
茜:は、はい!
ごめんね、凪
何かあったら助けてね
茜の首から下げている玉が光る
茜:ありがとう、凪
尾先:よし、まずは赤羽橋を目指す
茜、そいつの介助を頼む
茜:わかりました
山道を進んでいく
啓太:はぁ…はぁ…
茜:見えないの、不安ですよね
啓太:え?あ、あぁ、そうですね……うっ…
茜:あ、何か踏みました?
啓太:いや……そうじゃなくて…
尾先:……
啓太:暗い…さっきよりも、もっと暗い
茜:暗い?たしかに夜の森は暗いですけど
尾先さん、クダ様の結界のおかけで
明るい方だと思うんですけど
尾先:あぁ、そうだな
まぁ、もう赤羽様の領域内だからな
何か感じているのかもな
啓太:本当に大丈夫なんでしょうか…
俺の目、返ってきますか?
尾先:断言はできないが
まだ持っていれば可能性はある
茜:ん?…あれは、狸?
えっ!?
尾先:止まれ
茜の近くに動物霊が現れる
それは、何かを伝えようとこちらを見ていた
茜:あの!行っちゃだめだって
多分、狸の幽霊です!
尾先:あれか……
はぁ…ダメだな、動物霊は
すまない茜、他に何か言ってるか?
茜:行くな、としか言わないです
ずっとそう言ってます
尾先:……『我が憑いている、心配はいらない』
茜:えっ…?今のは
尾先:クダの言葉を借りたんだ
警告してくれたんだろうが
進まないわけにはいかないからな
茜:ごめんね、行かせてもらうね
狸の霊はまた、森の中へ姿を消していく
啓太:……
【間】
尾先:ここか
啓太:もしかして、橋に着いたんですか?
茜:はい、目の前ですよ
啓太:っ…
尾先:進むぞ、大丈夫か?
啓太:は、はい……大丈夫です
茜:気をつけてくださいね
啓太:アッ…?これは…?
茜:どうかしました?
啓太:あ、いや、なんだろう…
暗さが消えたというか
尾先:何か見えるのか?
啓太:え?
尾先:俺の家の時もそうだが
森に入ってから、それと橋に着いてから
お前、何か見ているな?
啓太:な、何言って……
目が無いんですよ!?見えるわけが!
尾先:とぼけるな
助けられるものも助けられなくなる
啓太:……分からないんだ
何か見てる気がする
けど、何を見てるのか分からない
だから、本当に……
茜:尾先さん!あれ!
祠じゃないですか?
尾先:何?橋からまだ全く進んでない…
いや、これは…
啓太:うわぁぁぁぁぁぁあああ!!
茜:!?大丈夫ですか!?
啓太:目……目だ…
沢山の目だ……
茜:沢山の目?何を見てるんですか!?
啓太:ヒッ…こっちを見てる!
見られてる…!!
やめろ!やめてくれ!
一人、何かを考えている尾先
尾先:どういうことだ
祠があるとされる場所までは、まだ先のはず
そもそも空の祠だ
…移動?何故?
いや待て、そもそもなぜ赤羽は駅に行く?
目を対価に切符を買ってどうする?
啓太:見るな!俺を見るな!
見るなら返してくれ!俺の!俺の目ェ!
あぁぁぁああぁあ!!
茜:あっ…どうしよう…
!?凪?えっ、どういう…
うん…分かった
“許す”
尾先:っ!?茜!?
啓太:うっ…
茜に憑依する凪
茜:『見てられない』
憑依した凪は、啓太に触り
その瞬間、啓太は気絶してしまう
茜:『少し落ち着いてもらうよ、人間』
尾先:凪か…?
茜:『あぁ、そうだよオサキ』
尾先:何してる?茜に勝手に憑依して
茜:『茜から話は聞いてる
霊の女の子と共感したんでしょ?
だったら縁のある僕との憑依はできる
それに茜は動物霊と相性が良い』
尾先:それで何の用だ?
茜:『今回の会談の件、聞いたよね?クダから
僕は顕現して茜を見ることはできない
だから、玉になって守るしか無い』
尾先:あぁ、そうだ
茜:『だったら、僕は茜だけを守る
お前も他の人間も関係ない
それの宣言と警告を伝えにきた』
尾先:警告だと?
茜:『道中、狸に遭っただろ?
お前は勘違いしているよ、オサキ
アイツは茜に行くなと言ったんだ
お前とその人間には何も言っていない』
尾先:…何?
茜:『嫌われているとかじゃない
はなから茜にしか伝えてない
解るかい?茜だけを守ろうとしたんだよ』
尾先:まさか…!
茜:『ここの住人は全部知ってるよ
気づくのが遅かったね
それじゃ、僕は茜を守ることに徹するよ』
尾先:…あぁ
茜:うっ…凪…?
えっ…これは凪の結界!?
啓太:はぁ…はぁ…何だったんだ…
あれ?何も…見えなくなった?
尾先:此処から離れるぞ
啓太:は……?
待ってくれ!俺の目は!?
俺の目はどこにあるんだ!?
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啓太:あ、あぁ…
尾先:今思えば、あそこにあった目は
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それを見たということは、もう持って行かれた
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啓太:ちょっと待ってくれ
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尾先:しかし、何故駅に目を……
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茜:凄く厚い結界?壁があるみたい
啓太:アッ……あぁ……
尾先:切符を買う為に駅に行ってない
…骸は、切符を渡された
それは他も例外じゃない?
保管……か?保管する為に駅に
じゃあ、祠は何だ?
移動する…?停留所…?
待て、だとすれば
茜!!
啓太:ああああアァァァァァァア!!!
尾先:っ!?まずい!
茜:凪!結界を止めて!
尾先さん!結界が厚すぎて触れない!
尾先:くそっ!おい!吉田 啓太!
黙れ!今叫ぶとまずい!
啓太:俺の目!俺のォォォオオオ!!
茜:痛っ!?何この声…
尾先:嘘だろ……赤羽はそこまで…
茜:尾先さん!!!後ろ!
尾先:!?
なっ……
ナニカが結界の外から覗いている
尾先:うっ……
茜:っ……ぅ……(怖くて……声が…出ない…)
啓太:アァ、解る、いる、いるいるいる、いる
俺の目を盗ったアイツが
笑ってる……また笑ってる…
尾先:行くな、吉田 啓太……
啓太:返せ…返せよぉ……
結界を叩き出す啓太
尾先:(クダ…結界を強めろ!)
茜:ダメ…ダメです…行っちゃ……
尾先:下がれ、茜…
さっきから全く効いてない
茜:効いてない?
尾先:除霊だ
これは神と同等の霊体だ
甘かった……
俺が思っていたよりずっと前から
赤羽様の話は言い伝えられていた
茜:啓太さんはどうするんですか?
尾先:…結界の外に出たらズレが戻る
茜:ズレが戻る?
尾先:アイツから目だけ奪われ、逃げ切れたわけじゃないんだ
本当は死んでいておかしくないんだ
一緒に行った奴と一緒にな
だが、ズレたんだ死の境界線が
茜:だから、偶々生き残った?
尾先:だが、また赤羽に会ったらダメだ
一度は、ズレて生きられても
次はない、ズレが戻る
まだ結界のせいで認識されていない
茜:っ!戻ってください!啓太さん!
啓太:目だ、目だ!目、目、目、目!
目を!目を、出せ!
尾先:共感…?これはもう……
茜:なんでそんなに…おかしいですよ、尾先さん
尾先:一度赤羽に会ったことで共感しているかもしれん
あの異様なまでの執着は命より…
……あぁなってしまったら戻れない
助けられない
茜:そんな……
尾先:茜、これから辛い現場を見ることになる
お前は凪に守られている
先に森を出ていてもいい
茜:…できません
関わってしまったから
私も、最後まで
尾先:……わかった
啓太:あぁ!クソ!クソ!
開けてくれ!俺に目を!
俺に目を取らせてくれ!
尾先:本当にいいんだな?吉田 啓太
啓太:いい、いい、いい、いい、いい!
目がとれるならなんでもいい
尾先:そうか…
一部結界を解く尾先
啓太:ハッ!ハハハハ!目だ!目を取りにきた!
お前だ!お前だ!お前だな!
目、目をよこ……せ?
あれ……?裕?なんでお前、ここに
あぁ、ああ!お前も一緒に取りに来たのか!
あはははははははははは
行くぞ!俺たちの目を!あははははは
茜:えっ、赤羽様が動いて…
あっ、そっちは!
尾先:………
啓太:あははははははは!
目だ!2つだ!こっちだ!
ははは…はっ?
崖から落ちていくーーー
茜:っ!?
尾先:誘ったな……
尾先たちを見ている赤羽
茜:ひっ……
尾先:俺だ
俺を見ている
茜:ど、どうするんですか…
尾先:アイツは解ってる、全部な
森の中に消えていく赤羽
茜:……はぁ…はぁ…
急に凄い汗が……
尾先:緊張が解けたんだろう
あれは…除霊とかそういう次元の話じゃないな
茜:神様…ですか?
尾先:あぁ…祠は確かに空っぽだが
ずっと昔から話が伝えられたせいで
誰かが信仰したんだろう
ただの霊体に力を与えたんだ
茜:元々はただの幽霊……
尾先:目に関する妖怪、怪異だろうな
俺たちは、この領域を荒らす為に来たわけじゃないと
赤羽も解ったから襲わなかったんだろう
そういうルールだな
茜:肝試しや森を荒らしに来る人に罰を与える
確かに神様みたいに思えますね
尾先:さて、行くか
茜:どこに行くんですか?
尾先:俺たちは、全部救えない
見過ごすこともある
それは骸もそうだ
茜:…はい
尾先:見過ごした、助けられなかった
そんな人の最期だけはきっちりな
アフターケアだ
茜:……はい
【間】
啓太が落ちたであろう場所に着く
尾先:茜、そこで待ってろ
見る必要はない
茜:わ、私も
尾先:無理するな、休め
茜:……
【間】
尾先:……すまないな
今回は助けられなかった
馬鹿な真似をしたお前を責めたいが
そうなってしまったら、責めれないからな
まぁ、眠れ
どこかに電話をする尾先
尾先:あぁ、俺だ
一体だ
数日前に見つかっているはずだが
あぁ、赤羽山だ
ズレが戻った、としか言えんな
あと、この山に関する情報は切った方がいい
赤羽は本物だ、俺じゃ対処できない
……使えるかよ
じゃあな、場所は不知火を置いておく
あぁ、頼んだ
【間】
茜:あっ…
尾先:大丈夫か?
茜:…はい
尾先:そういえば初めてか
人が死ぬのは
茜:尾先さんはその…慣れているんですか?
尾先:…あぁ、慣れている
子供の頃から、ずっと
茜:私、何も役に立てなかった
尾先:買い被りすぎだ
お前は最近まで普通の人だった
急にこんなことになってしまっただけだ
それに今回は嫌なもんも見ただろう
茜:それでも怪異に関わるなら
私は強くならないと
尾先:呪いの件、か
茜:はい…私は許せないから
尾先:帰ろう
茜:はい……
茜:『目 目が欲しい
全てが見えるように、見渡せるように
誰からも見られないように』
茜:尾先さん
尾先:何だ
茜:今は無理かもしれないけど
私は見ます
この目で、ちゃんと
尾先:あぁ……俺も見てきた
強くなれ、茜
神の森 終
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