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第一章
第五話 境界の先 前
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茜:『ここから先 立ち入るべからず』
『誰が決めたのか 境界線』
『この世とあの世の 境界線』
【間】
尾先:それで?
茜:うーん…色々調べてはみたんですけどね
尾先:前にも言ったが、ネットに出ていて、素人でも調べられるものは創作が多い
茜:それは、わかってますよ
だけど、創作でも関係ないじゃないですか
結局あの人たちは、それでも作るんですよね?
尾先:そうだな…
とりあえず、今日行く所は大丈夫だ
茜:ネットに書いてあるからですか?
尾先:それもあるが、俺もいるし
骸:僕もいるからね
茜:骸さん!
骸:今回の件、茜ちゃんは僕たちの真似をするといいよ
約束事があるんだ
茜:約束事、ですか?
尾先:今回行くところは禁足地と言われる場所だ
本来は立ち入ることは禁止されている
文字通りな
茜:…入って大丈夫なんですか?
骸:厳密に言えば、入っていい場所とダメな場所があるよ
法律的にというより、宗教や信仰もあれば、霊的にと、まぁ色々ね
尾先:今回の場所は半々だな
好んでは入らないし、入りたくもない
だが、依頼内容の関係で入らないといけない
茜:依頼の内容は聞きましたけど
それで約束事っていうのは?
骸:例えば、入る時に一礼しないといけない、とか
出る時は後ろ向きで、とか
それをしないと"祟られる"みたいなことだよ
禁足地は所謂、神域なんだ
茜:神域…神様の場所ってわけですね
たがら神社とかに多いんですね
尾先:あぁ、だが知らないだけで、至る所に禁足地はあるんだ
それが入っても問題ない、という場所だな
茜:分かりました
今日は凪もクダ様もいないから心配でしたけど、骸さんがいるなら大丈夫ですね!尾先さん
尾先:俺の立場がなくなるんだが?
骸:ははっ、素直だね
茜:あ!そういえば今回の依頼は、私に話した時に無理かもしれないって
言ってましたけどどういうことですか?
骸:僕も聞いてるから分かってるけど、オサキと僕の意見が一致しているなら
これは都市伝説だよ
茜:またですか!?
尾先:あぁ、ネット怪談の一つ
つまり、またアイツらが関わっている可能性がある
茜:うっ…それは…
骸:だけど、そうとも限らないからね
禁足地に行くのは、入り口を見つける為だよ
茜:入り口?ですか
尾先:今回の依頼は、対象者の母親からだ
娘がおかしくなった、が、病院でも異常なし
精神的なものと判断して、今は精神病院で入院中だと
出ている症状の一つは、髪を食うらしい
骸:髪にまつわる怪異はいくらでもいるけど、僕も見てきて取り憑かれているわけじゃなかった
だったら考えられるのは、入ってはいけない場所に入ったんだよ
茜:骸さん見に行ったんですか!?
なるほど、それで禁足地に行くんですね
私が言っても大丈夫なんですか?
尾先:入り口を見つける、と言っただろ?
その鍵が男女で変わる可能性もある
人数の場合もある
今回はとりあえず、ってわけだ
骸:さて、ここで長話をしても無駄だね
向かいながら話そうか、二人とも
【目的地に向かう三人】
茜:都市伝説っていうのは、わかりました
それで、何で禁足地に行くんですか?
尾先:禁足地は神域と言ったが、別の意味もある
それは、境界線だ
茜:境界線、ですか
尾先:あの世とこの世とでも言おうか
その境界線の役割もあると考えている
骸:都市伝説の中にも禁足地とは言われなくても、そういった役割をしている話はあるんだ
当然、都市伝説じゃなくてもだけどね
茜ちゃんにも分かりやすいのは…うーん
きさらぎ駅、かな
茜:あ!それ調べました!
結構、有名な話だったんですね
読んでて、ちょっと怖かったです
骸:きさらぎ駅の解釈は、人それぞれだけど、僕が見るには三つの境界があった
一つは、この世と駅を結ぶ境界、それが電車
茜:たしか、普通の電車に乗ってて、眠っていたら知らない場所に行くんでしたね
尾先:きさらぎ駅以外でも、そう言う話はある
有名なアニメ映画にも境界として電車が使われていたり
"眠る"という鍵を使う話もよくある
骸:二つ目は、電車ときさらぎ駅
ここで降りる選択をするのか、残る選択をするのか
これも境界線だね
茜:降りなかったらどうなるんですかね
あの話は降りてましたけど
骸:別の駅に行くよ
茜:え?知ってるんですか?
骸:きさらぎ駅は一つの境界なんだ
別の場所もあるってだけなんだよ
そして、三つ目…駅とその土地
茜:話の主人公が降りて彷徨った場所ですね
尾先:簡単な話だな
降りた土地が、あの世ってわけだ
茜:え?
骸:太鼓の音やトンネルっていう
鍵になる要素は覚えてる?
茜:はい、覚えてます
トンネルで人に出会ったとか
骸:それが案内人の役割になってるんだ
着いて行くと、あの世に連れていかれるってわけ
尾先:簡単に言えば三途の川だな
案内人がいるのも同じだ
知ってるか?奪衣婆や(懸衣翁ってやつだ
茜:うっ…そこまでは
骸:ま、死後の世界や地獄の話はまた今度とりあえず、境界があるってこと
それで今回の禁足地に行くのは、禁足地から禁足地への入り口、境界線を見つけるため
茜:繋がってる…?
都市伝説だから本当に存在しない場所
だから、存在してる場所から、違う場所に行く
そういうことですね?
尾先:中々、察しが良くなってきたな
だが、これも推測だから繋がるとは限らない
だから、無理かもしれないと言ったんだ
茜:骸さんでも無理なんですか?
骸:流石に繋げることは無理かな
入り口を見つける事はできてもね
茜:なんだか、難しい依頼だったんですね
尾先:単なる除霊じゃないからな
【間】
茜:ここですか?
尾先:あぁ、俺らの後ろを歩け
それで、やったことを真似ろ
骸:間違うと迷うからね
しっかり見ておくこと
茜:は、はい!
骸:うん、それじゃあ行こうか
【三人、禁足地へ入る】
茜:声って出しても平気ですか…?
尾先:ん?…あぁ、此処は大丈夫だ
次、一礼
茜:はい
骸:右足から歩き出すよ
一旦、揃えてね
茜:すごく厳しくないですか…?
尾先:神域、神様が見てると思ったらどうだ?
これくらいで厳しいと思うか?
茜:そう言われると…ごめんなさい…
骸:人はよく神に縋るけど
近い存在じゃないからね
本当に会ったり、見てもらう時は、礼儀や作法をしっかりしないとね
怒られちゃうよ
茜:そう言われたら、ぐうの音も出ません…
尾先:今日の経験を活かして、神様に頼み事をする時は、軽く考えず相手のことも考えないとな
茜:そうします、本当に
骸:来た
茜:え?
骸:止まって
尾先:視えるか?
骸:うん、ここの神域だけど
どうやら当たりではないね
尾先:よし、行くか
茜:あの、何かあるんですか?
目の前だけ、ぐにゃーとしてる様な
骸:茜ちゃんも視えるのかい?
茜:うーん、どうなんですかね?
ちょっと変な感じです
尾先:…どうやら、そっちの方も得意みたいだな
茜:そっち?
尾先:空間系の霊力と言おうか
俺は感じ取れるが、見えないんだ
骸:ちなみに僕は、はっきり視えてるよ
うん、茜ちゃんも少し視えてるなら問題ないね
そのまま真似してついて来て
茜:は、はい!
【間】
骸:いい?さっきの変な感じ
あれが境界線って思えばいいよ
つまり、此処からが本当の禁足地
本来は入っちゃいけない場所
茜:神域、ですね
あれ?じゃあさっきまでは
尾先:神様に見られている
そう言っただろ?
門前払いされずに中に入れてもらえたんだ
骸:そういうこと
今までが庭、玄関前
それで今は家の中…って言えば解りやすいよね
茜:なるほど!
うぅっ…寒いっていうか、重い…?ですかね?
尾先:あぁ、視線が鋭くなったんだろう
さて、ここで無礼があっては意味がない
此処でいいか
骸:そうだね
茜ちゃん、手を合わせて祈って
ここから出して下さいって
茜:え?出るんですか?
尾先:あぁ、長居するわけじゃない
此処を出る時の境界線で繋がればいいんだ
此処が目的地じゃないからな
茜:わかりました
【祈る三人】
骸:視える?
茜:また目の前が、ぐにゃーってなってます
尾先:どうやら本物だな
境界線の見分けができるようだ
骸:オサキ
尾先:ん?どうした?
骸:どうやら当たりだよ
この先に別の場所がある
尾先:本当か?
骸:うん、多分同じ世界だけど
禁足地の外じゃないみたいだ
茜:てことは、都市伝説の?
尾先:…いや、この場合…
骸:都市伝説じゃなくなった
茜:…え?
骸:とりあえず行こうか
繋がりが消えたら意味がなくなってしまう
尾先:…あぁ
【次の境界へ】
茜:さっきと変わらないですけど
重さは無くなりましたね
骸:あった、アレだよ
【建物が一つ、其処にはあった】
尾先:調べよう
茜:あっ!待ってください!
【周りを調べる骸】
骸:うん、一周見て回ったけど本物だね
茜:なんですか?この家
結構古いですね…しかも玄関も無いですし
尾先:パンドラ
茜:え?
尾先:都市伝説として語られていた場所だ
だが、これは都市伝説なんかじゃない
……本物だ
茜:本…物…?
骸:僕が説明するよ
今回の件、もし新解釈怪異譚だとすれば
こんな手順、踏まなくていいはずなんだ
依頼主の話を聞いただろう?
精神異常のような霊障があるんだ
一々、こんな手順を踏ませるなんて考えられない
茜:たしかに今までだったら
そういうの抜きにして強制的にって感じでしたね
骸:そう、だから"あえて"今回は手順を踏んだんだ
だけど、見当外れ
どうやら作られた物じゃ無い
本物が出てきたってわけ
茜:じゃ、じゃあ!その子はどうやってここに!?
確か、10歳前後の女の子でしたよね?
一人で禁足地に行くなんてあり得ないですよ!?
尾先:それは話しただろ
禁足地は至る所にあるんだ
偶々、偶然、チャンネルが合ったんだ
俺たちみたいに手順を踏んだわけじゃ無いが、同じように二つの境界を越えたんだろう
茜:そんなことってあるんですか?
骸:わかりやすい例で言えば神隠しに近いかな
あれも、そういうことだよ
茜:……納得です
それで、パンドラって?
尾先:……これ、読めるか?
【尾先、茜に禁后と打った携帯を見せる】
茜:きん…こう?ですか?
尾先:いいや、これに読み方はない
正確に言えば読み方を知っているのは一人だけ
そして、これは人の名前だ
茜:名前?これが?
骸:この怪異は、読めないから名前がない
何が有るのか、何が無いのか解らない
玄関、つまり出入り口すらない箱
色んなことを含めてパンドラって呼ばれてる
茜:それでこの家は何なんですか?
尾先:この話は、まだ調べてなかったか?
茜:そうですね…すみません
尾先:この家、というよりこの文字に意味がある
読み方がないから、話通りパンドラとする
この話は所謂、儀式というものだ
茜:儀式…ですか?
てことは、幽霊が出るー!とか
呪われるー!って話じゃないんですね
骸:いや、呪われるよ
これは、幽霊の話じゃなくて
どちらかと言えば呪い、祟りの方だから
茜:てことは、その字を見ると呪われる…?
あっ、てことは入院してる子ってもしかして、その字を見たってことですか!?
尾先:そういうことだ
……元の話は、天国に行く方法の話だ
茜:天国?
尾先:あぁ、母親が子どもを犠牲にしてな
その時に使われる物の一つがこの名前
茜:……子どもを犠牲?
骸:子供って漢字、供えるって書くでしょ?
昔から子を供物とする風習や怪異は多い
コトリバコだってそうだったよね?
こう言った話に子供と女は付き物だよ
茜:女?母親ってことですか?
尾先:いや、そうじゃないが、その話はまた追々な
話を戻すと、このパンドラの概要は
母親が子どもを犠牲に天国、楽園と言ってもいい
そこに行くための方法、儀式を行った
そして、その場所に迷い込んだって話なんだ
茜:子どもを犠牲にしてまで行きたい楽園って…
そんなもの、あるわけ!
尾先:母親は、二人または三人の娘を産み
その内の一人を『材料』に選ぶ
選んだ子に二つの名前を付けて
一つは母親だけが知る本当の名として、生涯隠し通すのが一つの条件
骸:その名前が禁后ってわけで
名前からも推測できるように、禁には神域って意味があるんだ
禁足地にも付いてるでしょ?
次に后、これは分かると思うけど、特別な存在ってこと
茜:これが本当の場所ってことは、そんなことを本当にやってたってことですよね?
そんなの酷すぎる…
尾先:…それで、儀式を終えた後、母親は、楽園へと到達する
それは誰も知り得ることがない場所
そして、現実世界には髪を食べる抜け殻だけが残る
茜:髪を…食べる?
尾先:二つ目の条件、と三つ目も合わせるが、鏡と年齢だ
隠し通す名をつけた後、鏡台を用意する
そして、10歳、13歳、16歳の誕生日以外、それを見せてはいけないルールがある
そして、その年齢毎に儀式があり、最後の16歳の時
隠し名を告げ、娘を殺し、娘の髪を食べるんだ
茜:なんですか、それ…
そんなもので天国って…
ふざけてる……ふざけてる!
骸:茜ちゃん、君もこっちに関わって知ったはずだよ
怪異っていうのは、そういうものなんだ
汚い、醜い、非道、なんでもありさ
怪異は怖いだけじゃない
人間の醜さも、アイツらの様に霊に対して、非道を行う者も、そんな奴等を憎悪する者もいる
ハハッ、オサキよりも、ずっと、ね
茜:っ…
尾先:あまり感情移入するなよ
慣れも必要だ
そうしなければならない時だって
茜:それでも、私は…慣れたくないです
尾先:…あぁ、そうだな
骸:さて、概要も知ったところで、中に入ってみようじゃないか
何が出るかお楽しみ、正にパンドラの箱だ
茜:…はい!
【中へ入る三人】
茜:まさか、窓ガラス割って入るなんて…
骸:ははっ、これでいいんだよ
尾先:茜、初めに言っておく
鏡台を見つけても触るな、いいな
茜:あの話の…ですね
尾先:あぁ、隠されていた鏡台だ
普段は見えないはずだが、何がきっかけで、現れるか解らんからな
見つけて強制的に触る羽目になったら、中の紙は見るな、それが元凶だからな
茜:わかりました
骸:緊張しないで大丈夫
僕が後ろに居るからね
茜:心強いです!骸さん!
尾先:骸、視えるか?
骸:いや、全然だね
けど、居るよ
尾先:わかった
茜:えっ?
尾先:どうした?
茜:あれ…何で…涙が
骸:これは…取り憑いた、いや違う
共感、かな
尾先:茜、大丈夫か?
茜:うっあ…この感情は…
骸:茜ちゃんは僕が見てるよ
オサキは探してきて
尾先:あぁ、頼む
骸:茜ちゃん、落ち着いていいよ
大丈夫、深呼吸して
茜:止まらないんです…涙が…うっ…私…
骸:うん、大丈夫
今、どんな気持ち?
怒っているのかい?それとも憎んでる?
茜:私、…私は…
【間】
尾先:2階に上がる階段、ここか
尾先:……あれか
【鏡台を見つける】
尾先:なるほど、茜を引き込もうとしたのか?
俺には何もしてこない…いや、いるな
入ってきた時からずっと見てたのか?
【尾先の後ろに女の子が立っていた】
尾先:お前が視えるのが珍しいか?
そういう仕事をしてるんだ、俺はな
(何かおかしい…何もして来ない…?)
【口を開く女の子の霊】
尾先:何か言いたいのか?
【その頃、茜、骸たちは……】
茜?:私は…怒ってない…憎んでもない…
私は…私はただ…
骸:パンドラの材料になった子の魂に共感して、その子の意思が入ってるんだ
大丈夫、全部吐き出していいんだよ
茜:何で……あなたを、あなたに酷いことをしたのに
骸:(会話…?茜ちゃん…君は…)
茜?:それでも私は…悲しくもないの
私は、私はただ、もっと、お母さんと一緒に居たかった…
骸:……そうか
呪いや祟りの元は憎悪や怒りが多いけど、創作物なら尚更、面白おかしくするためにその色は強い
だが、本物だったら?紙を見た現象が、呪いや祟りじゃなく強制的なモノだとしたら?
僕としたことが見逃していた
純粋な子供なのか、このパンドラの中身は
……だとしたら、この子の魂は…
【間】
尾先:母親と一緒に居たかった…か
だが、その思いも母親の手で消されたんだ
怒って、憎んでもおかしくない
【笑いかける女の子の霊】
尾先:…とんだお人好しだな
お前に似て、人を恨むことをしない馬鹿を一人知ってるが……
だから、あいつに共感したのか?
骸:オサキ
尾先:大丈夫だっか?
骸:あぁ、それに茜ちゃんも大したモンだよ
尾先:どういうことだ?
骸:ほら
茜:この子の気持ち、聞けました
ずっと寂しかったんだって
尾先:会話したのか?
骸:うん、どうやらね
共感中に相手と会話するなんて、強靭な精神の持ち主だよ、全く
茜?:久しぶりに誰かと話せて楽しかった
この前、ここに来た子は私が見えなくて
紙を見てしまったけど…それが申し訳無くて…
あと、このお姉ちゃんが良いよって口を貸してくれたの
尾先:…なるほどな
あと、その子にも会った
というか、その関係でここに来たんだ
茜:え?返してくれるの?
あっ、じゃあ、尾先さんに
【尾先の手に髪が置かれる】
尾先:なんだ?…っと、これは髪か?
茜:あの子の髪らしいです
尾先:わかった、返しておく
【女の子の霊が一礼する】
茜:あ、そこに居たんですね!はじめまして!
骸:ハハッ、あの子は年下だよ
尾先:そういうことじゃないと思うが…
骸:ねぇ、君
お母さんと一緒に居たいんでしょ?
僕が会わせてあげるよ
茜?:え?本当に?会えるの?
骸:うん、もちろん
君は恨みや怒りはないにしても、ここに縛られているんだ
後悔や悲しみの思いも、もちろんだけど、1番はその鏡台と名前かな
そのせいで成仏できていない
尾先:何が目的だ?骸
骸:慈善事業
尾先:嘘だな
骸:ははっ!そうだね
ほしいものがあるんだ
茜:なんですか?
ちょっと不安な気持ちが湧いてきたんですけど
骸:名前だよ、君の
茜?:私の名前?
骸:僕に祟りや呪いの類は効かないからさ
君の名前を持ち帰ってもいいかな?
茜?:お母さんに会えるなら
ここにあっても意味ないのであげます
その代わりお母さんに会わせてください
骸:うん、いいよ
じゃあ、目を閉じて
あ、茜ちゃんとの共感も解いてね
【成仏する女の子の霊】
茜:あっ…
尾先:おっと…、大丈夫か?
茜:すみません…少しフラっときて
骸:取り憑いてたわけじゃないけど
もう一人の意思が入ってたからね
さて、……これかな
尾先:……楽妃?
骸:読み方はないでしょ、これもパンドラ
うん、名前はやっぱり楽園と存在を現してるね
茜:それ、どうするんですか?
骸:元々は祟りの元だし、これも蒐集品の一つだよ
うん、霊力や呪力は感じられない
茜:あの子は会えるんですか?
尾先:さぁな、死後の世界は知らんが
骸、お前なら解るんだろ?
骸:楽園、天国…
そんなもの人間が作った空想さ
……ってことで済ましてもいいかな
あっちのことについて僕からは語れない
尾先:その発言が問題じゃないのか?
骸:ははっ、どう捉えてもいいよ
それはその人の勝手だ
茜:会えますよね、絶対
骸:そんな純粋な目を向けられると困るなぁ
じゃあ少しだけ
同じ場所には行けたよ
母親が髪を食べる抜け殻になるって話
あれは魂が死んだわけじゃない、一種の廃人と同じだよ
茜:じゃあ、死んでない…
生きてたってことですか?
尾先:途中で気づくんじゃないか?
自分の手で娘を殺し、髪を食べる
どこかで正気に戻って、またどこかで狂うんだろ
本当に楽園に行けるのは、ずっと狂ったままの奴かもな
茜:…やっぱり酷い話です
私は許せないです
尾先:珍しいな、自分事ならなんでも許すお前がな
いや、そういう奴か、お前は
他人事だと怒り、助けようとする
茜:……
骸:その思考は時に自分を壊すからね
ほどほどにしなよ、特に霊には、ね
茜:…はい
尾先:さて、帰るか
これも渡さないとな
骸:そうだね、思わぬ収穫もあったことだし
……ん?これは…
尾先:どうした?
骸:…どうやら、まだ帰れないみたいだ
茜:…え?どういうことですか?
骸:三つ目の境界が繋がったみたいだ
ハハッ、これはこれは…
尾先:な、なんだ…この雰囲気は…
茜:『ここから先 立ち入るべからず』
『誰が決めたのか 境界線』
『この世とあの世の 境界線』
『誰が決めたのか 境界線』
『この世とあの世の 境界線』
【間】
尾先:それで?
茜:うーん…色々調べてはみたんですけどね
尾先:前にも言ったが、ネットに出ていて、素人でも調べられるものは創作が多い
茜:それは、わかってますよ
だけど、創作でも関係ないじゃないですか
結局あの人たちは、それでも作るんですよね?
尾先:そうだな…
とりあえず、今日行く所は大丈夫だ
茜:ネットに書いてあるからですか?
尾先:それもあるが、俺もいるし
骸:僕もいるからね
茜:骸さん!
骸:今回の件、茜ちゃんは僕たちの真似をするといいよ
約束事があるんだ
茜:約束事、ですか?
尾先:今回行くところは禁足地と言われる場所だ
本来は立ち入ることは禁止されている
文字通りな
茜:…入って大丈夫なんですか?
骸:厳密に言えば、入っていい場所とダメな場所があるよ
法律的にというより、宗教や信仰もあれば、霊的にと、まぁ色々ね
尾先:今回の場所は半々だな
好んでは入らないし、入りたくもない
だが、依頼内容の関係で入らないといけない
茜:依頼の内容は聞きましたけど
それで約束事っていうのは?
骸:例えば、入る時に一礼しないといけない、とか
出る時は後ろ向きで、とか
それをしないと"祟られる"みたいなことだよ
禁足地は所謂、神域なんだ
茜:神域…神様の場所ってわけですね
たがら神社とかに多いんですね
尾先:あぁ、だが知らないだけで、至る所に禁足地はあるんだ
それが入っても問題ない、という場所だな
茜:分かりました
今日は凪もクダ様もいないから心配でしたけど、骸さんがいるなら大丈夫ですね!尾先さん
尾先:俺の立場がなくなるんだが?
骸:ははっ、素直だね
茜:あ!そういえば今回の依頼は、私に話した時に無理かもしれないって
言ってましたけどどういうことですか?
骸:僕も聞いてるから分かってるけど、オサキと僕の意見が一致しているなら
これは都市伝説だよ
茜:またですか!?
尾先:あぁ、ネット怪談の一つ
つまり、またアイツらが関わっている可能性がある
茜:うっ…それは…
骸:だけど、そうとも限らないからね
禁足地に行くのは、入り口を見つける為だよ
茜:入り口?ですか
尾先:今回の依頼は、対象者の母親からだ
娘がおかしくなった、が、病院でも異常なし
精神的なものと判断して、今は精神病院で入院中だと
出ている症状の一つは、髪を食うらしい
骸:髪にまつわる怪異はいくらでもいるけど、僕も見てきて取り憑かれているわけじゃなかった
だったら考えられるのは、入ってはいけない場所に入ったんだよ
茜:骸さん見に行ったんですか!?
なるほど、それで禁足地に行くんですね
私が言っても大丈夫なんですか?
尾先:入り口を見つける、と言っただろ?
その鍵が男女で変わる可能性もある
人数の場合もある
今回はとりあえず、ってわけだ
骸:さて、ここで長話をしても無駄だね
向かいながら話そうか、二人とも
【目的地に向かう三人】
茜:都市伝説っていうのは、わかりました
それで、何で禁足地に行くんですか?
尾先:禁足地は神域と言ったが、別の意味もある
それは、境界線だ
茜:境界線、ですか
尾先:あの世とこの世とでも言おうか
その境界線の役割もあると考えている
骸:都市伝説の中にも禁足地とは言われなくても、そういった役割をしている話はあるんだ
当然、都市伝説じゃなくてもだけどね
茜ちゃんにも分かりやすいのは…うーん
きさらぎ駅、かな
茜:あ!それ調べました!
結構、有名な話だったんですね
読んでて、ちょっと怖かったです
骸:きさらぎ駅の解釈は、人それぞれだけど、僕が見るには三つの境界があった
一つは、この世と駅を結ぶ境界、それが電車
茜:たしか、普通の電車に乗ってて、眠っていたら知らない場所に行くんでしたね
尾先:きさらぎ駅以外でも、そう言う話はある
有名なアニメ映画にも境界として電車が使われていたり
"眠る"という鍵を使う話もよくある
骸:二つ目は、電車ときさらぎ駅
ここで降りる選択をするのか、残る選択をするのか
これも境界線だね
茜:降りなかったらどうなるんですかね
あの話は降りてましたけど
骸:別の駅に行くよ
茜:え?知ってるんですか?
骸:きさらぎ駅は一つの境界なんだ
別の場所もあるってだけなんだよ
そして、三つ目…駅とその土地
茜:話の主人公が降りて彷徨った場所ですね
尾先:簡単な話だな
降りた土地が、あの世ってわけだ
茜:え?
骸:太鼓の音やトンネルっていう
鍵になる要素は覚えてる?
茜:はい、覚えてます
トンネルで人に出会ったとか
骸:それが案内人の役割になってるんだ
着いて行くと、あの世に連れていかれるってわけ
尾先:簡単に言えば三途の川だな
案内人がいるのも同じだ
知ってるか?奪衣婆や(懸衣翁ってやつだ
茜:うっ…そこまでは
骸:ま、死後の世界や地獄の話はまた今度とりあえず、境界があるってこと
それで今回の禁足地に行くのは、禁足地から禁足地への入り口、境界線を見つけるため
茜:繋がってる…?
都市伝説だから本当に存在しない場所
だから、存在してる場所から、違う場所に行く
そういうことですね?
尾先:中々、察しが良くなってきたな
だが、これも推測だから繋がるとは限らない
だから、無理かもしれないと言ったんだ
茜:骸さんでも無理なんですか?
骸:流石に繋げることは無理かな
入り口を見つける事はできてもね
茜:なんだか、難しい依頼だったんですね
尾先:単なる除霊じゃないからな
【間】
茜:ここですか?
尾先:あぁ、俺らの後ろを歩け
それで、やったことを真似ろ
骸:間違うと迷うからね
しっかり見ておくこと
茜:は、はい!
骸:うん、それじゃあ行こうか
【三人、禁足地へ入る】
茜:声って出しても平気ですか…?
尾先:ん?…あぁ、此処は大丈夫だ
次、一礼
茜:はい
骸:右足から歩き出すよ
一旦、揃えてね
茜:すごく厳しくないですか…?
尾先:神域、神様が見てると思ったらどうだ?
これくらいで厳しいと思うか?
茜:そう言われると…ごめんなさい…
骸:人はよく神に縋るけど
近い存在じゃないからね
本当に会ったり、見てもらう時は、礼儀や作法をしっかりしないとね
怒られちゃうよ
茜:そう言われたら、ぐうの音も出ません…
尾先:今日の経験を活かして、神様に頼み事をする時は、軽く考えず相手のことも考えないとな
茜:そうします、本当に
骸:来た
茜:え?
骸:止まって
尾先:視えるか?
骸:うん、ここの神域だけど
どうやら当たりではないね
尾先:よし、行くか
茜:あの、何かあるんですか?
目の前だけ、ぐにゃーとしてる様な
骸:茜ちゃんも視えるのかい?
茜:うーん、どうなんですかね?
ちょっと変な感じです
尾先:…どうやら、そっちの方も得意みたいだな
茜:そっち?
尾先:空間系の霊力と言おうか
俺は感じ取れるが、見えないんだ
骸:ちなみに僕は、はっきり視えてるよ
うん、茜ちゃんも少し視えてるなら問題ないね
そのまま真似してついて来て
茜:は、はい!
【間】
骸:いい?さっきの変な感じ
あれが境界線って思えばいいよ
つまり、此処からが本当の禁足地
本来は入っちゃいけない場所
茜:神域、ですね
あれ?じゃあさっきまでは
尾先:神様に見られている
そう言っただろ?
門前払いされずに中に入れてもらえたんだ
骸:そういうこと
今までが庭、玄関前
それで今は家の中…って言えば解りやすいよね
茜:なるほど!
うぅっ…寒いっていうか、重い…?ですかね?
尾先:あぁ、視線が鋭くなったんだろう
さて、ここで無礼があっては意味がない
此処でいいか
骸:そうだね
茜ちゃん、手を合わせて祈って
ここから出して下さいって
茜:え?出るんですか?
尾先:あぁ、長居するわけじゃない
此処を出る時の境界線で繋がればいいんだ
此処が目的地じゃないからな
茜:わかりました
【祈る三人】
骸:視える?
茜:また目の前が、ぐにゃーってなってます
尾先:どうやら本物だな
境界線の見分けができるようだ
骸:オサキ
尾先:ん?どうした?
骸:どうやら当たりだよ
この先に別の場所がある
尾先:本当か?
骸:うん、多分同じ世界だけど
禁足地の外じゃないみたいだ
茜:てことは、都市伝説の?
尾先:…いや、この場合…
骸:都市伝説じゃなくなった
茜:…え?
骸:とりあえず行こうか
繋がりが消えたら意味がなくなってしまう
尾先:…あぁ
【次の境界へ】
茜:さっきと変わらないですけど
重さは無くなりましたね
骸:あった、アレだよ
【建物が一つ、其処にはあった】
尾先:調べよう
茜:あっ!待ってください!
【周りを調べる骸】
骸:うん、一周見て回ったけど本物だね
茜:なんですか?この家
結構古いですね…しかも玄関も無いですし
尾先:パンドラ
茜:え?
尾先:都市伝説として語られていた場所だ
だが、これは都市伝説なんかじゃない
……本物だ
茜:本…物…?
骸:僕が説明するよ
今回の件、もし新解釈怪異譚だとすれば
こんな手順、踏まなくていいはずなんだ
依頼主の話を聞いただろう?
精神異常のような霊障があるんだ
一々、こんな手順を踏ませるなんて考えられない
茜:たしかに今までだったら
そういうの抜きにして強制的にって感じでしたね
骸:そう、だから"あえて"今回は手順を踏んだんだ
だけど、見当外れ
どうやら作られた物じゃ無い
本物が出てきたってわけ
茜:じゃ、じゃあ!その子はどうやってここに!?
確か、10歳前後の女の子でしたよね?
一人で禁足地に行くなんてあり得ないですよ!?
尾先:それは話しただろ
禁足地は至る所にあるんだ
偶々、偶然、チャンネルが合ったんだ
俺たちみたいに手順を踏んだわけじゃ無いが、同じように二つの境界を越えたんだろう
茜:そんなことってあるんですか?
骸:わかりやすい例で言えば神隠しに近いかな
あれも、そういうことだよ
茜:……納得です
それで、パンドラって?
尾先:……これ、読めるか?
【尾先、茜に禁后と打った携帯を見せる】
茜:きん…こう?ですか?
尾先:いいや、これに読み方はない
正確に言えば読み方を知っているのは一人だけ
そして、これは人の名前だ
茜:名前?これが?
骸:この怪異は、読めないから名前がない
何が有るのか、何が無いのか解らない
玄関、つまり出入り口すらない箱
色んなことを含めてパンドラって呼ばれてる
茜:それでこの家は何なんですか?
尾先:この話は、まだ調べてなかったか?
茜:そうですね…すみません
尾先:この家、というよりこの文字に意味がある
読み方がないから、話通りパンドラとする
この話は所謂、儀式というものだ
茜:儀式…ですか?
てことは、幽霊が出るー!とか
呪われるー!って話じゃないんですね
骸:いや、呪われるよ
これは、幽霊の話じゃなくて
どちらかと言えば呪い、祟りの方だから
茜:てことは、その字を見ると呪われる…?
あっ、てことは入院してる子ってもしかして、その字を見たってことですか!?
尾先:そういうことだ
……元の話は、天国に行く方法の話だ
茜:天国?
尾先:あぁ、母親が子どもを犠牲にしてな
その時に使われる物の一つがこの名前
茜:……子どもを犠牲?
骸:子供って漢字、供えるって書くでしょ?
昔から子を供物とする風習や怪異は多い
コトリバコだってそうだったよね?
こう言った話に子供と女は付き物だよ
茜:女?母親ってことですか?
尾先:いや、そうじゃないが、その話はまた追々な
話を戻すと、このパンドラの概要は
母親が子どもを犠牲に天国、楽園と言ってもいい
そこに行くための方法、儀式を行った
そして、その場所に迷い込んだって話なんだ
茜:子どもを犠牲にしてまで行きたい楽園って…
そんなもの、あるわけ!
尾先:母親は、二人または三人の娘を産み
その内の一人を『材料』に選ぶ
選んだ子に二つの名前を付けて
一つは母親だけが知る本当の名として、生涯隠し通すのが一つの条件
骸:その名前が禁后ってわけで
名前からも推測できるように、禁には神域って意味があるんだ
禁足地にも付いてるでしょ?
次に后、これは分かると思うけど、特別な存在ってこと
茜:これが本当の場所ってことは、そんなことを本当にやってたってことですよね?
そんなの酷すぎる…
尾先:…それで、儀式を終えた後、母親は、楽園へと到達する
それは誰も知り得ることがない場所
そして、現実世界には髪を食べる抜け殻だけが残る
茜:髪を…食べる?
尾先:二つ目の条件、と三つ目も合わせるが、鏡と年齢だ
隠し通す名をつけた後、鏡台を用意する
そして、10歳、13歳、16歳の誕生日以外、それを見せてはいけないルールがある
そして、その年齢毎に儀式があり、最後の16歳の時
隠し名を告げ、娘を殺し、娘の髪を食べるんだ
茜:なんですか、それ…
そんなもので天国って…
ふざけてる……ふざけてる!
骸:茜ちゃん、君もこっちに関わって知ったはずだよ
怪異っていうのは、そういうものなんだ
汚い、醜い、非道、なんでもありさ
怪異は怖いだけじゃない
人間の醜さも、アイツらの様に霊に対して、非道を行う者も、そんな奴等を憎悪する者もいる
ハハッ、オサキよりも、ずっと、ね
茜:っ…
尾先:あまり感情移入するなよ
慣れも必要だ
そうしなければならない時だって
茜:それでも、私は…慣れたくないです
尾先:…あぁ、そうだな
骸:さて、概要も知ったところで、中に入ってみようじゃないか
何が出るかお楽しみ、正にパンドラの箱だ
茜:…はい!
【中へ入る三人】
茜:まさか、窓ガラス割って入るなんて…
骸:ははっ、これでいいんだよ
尾先:茜、初めに言っておく
鏡台を見つけても触るな、いいな
茜:あの話の…ですね
尾先:あぁ、隠されていた鏡台だ
普段は見えないはずだが、何がきっかけで、現れるか解らんからな
見つけて強制的に触る羽目になったら、中の紙は見るな、それが元凶だからな
茜:わかりました
骸:緊張しないで大丈夫
僕が後ろに居るからね
茜:心強いです!骸さん!
尾先:骸、視えるか?
骸:いや、全然だね
けど、居るよ
尾先:わかった
茜:えっ?
尾先:どうした?
茜:あれ…何で…涙が
骸:これは…取り憑いた、いや違う
共感、かな
尾先:茜、大丈夫か?
茜:うっあ…この感情は…
骸:茜ちゃんは僕が見てるよ
オサキは探してきて
尾先:あぁ、頼む
骸:茜ちゃん、落ち着いていいよ
大丈夫、深呼吸して
茜:止まらないんです…涙が…うっ…私…
骸:うん、大丈夫
今、どんな気持ち?
怒っているのかい?それとも憎んでる?
茜:私、…私は…
【間】
尾先:2階に上がる階段、ここか
尾先:……あれか
【鏡台を見つける】
尾先:なるほど、茜を引き込もうとしたのか?
俺には何もしてこない…いや、いるな
入ってきた時からずっと見てたのか?
【尾先の後ろに女の子が立っていた】
尾先:お前が視えるのが珍しいか?
そういう仕事をしてるんだ、俺はな
(何かおかしい…何もして来ない…?)
【口を開く女の子の霊】
尾先:何か言いたいのか?
【その頃、茜、骸たちは……】
茜?:私は…怒ってない…憎んでもない…
私は…私はただ…
骸:パンドラの材料になった子の魂に共感して、その子の意思が入ってるんだ
大丈夫、全部吐き出していいんだよ
茜:何で……あなたを、あなたに酷いことをしたのに
骸:(会話…?茜ちゃん…君は…)
茜?:それでも私は…悲しくもないの
私は、私はただ、もっと、お母さんと一緒に居たかった…
骸:……そうか
呪いや祟りの元は憎悪や怒りが多いけど、創作物なら尚更、面白おかしくするためにその色は強い
だが、本物だったら?紙を見た現象が、呪いや祟りじゃなく強制的なモノだとしたら?
僕としたことが見逃していた
純粋な子供なのか、このパンドラの中身は
……だとしたら、この子の魂は…
【間】
尾先:母親と一緒に居たかった…か
だが、その思いも母親の手で消されたんだ
怒って、憎んでもおかしくない
【笑いかける女の子の霊】
尾先:…とんだお人好しだな
お前に似て、人を恨むことをしない馬鹿を一人知ってるが……
だから、あいつに共感したのか?
骸:オサキ
尾先:大丈夫だっか?
骸:あぁ、それに茜ちゃんも大したモンだよ
尾先:どういうことだ?
骸:ほら
茜:この子の気持ち、聞けました
ずっと寂しかったんだって
尾先:会話したのか?
骸:うん、どうやらね
共感中に相手と会話するなんて、強靭な精神の持ち主だよ、全く
茜?:久しぶりに誰かと話せて楽しかった
この前、ここに来た子は私が見えなくて
紙を見てしまったけど…それが申し訳無くて…
あと、このお姉ちゃんが良いよって口を貸してくれたの
尾先:…なるほどな
あと、その子にも会った
というか、その関係でここに来たんだ
茜:え?返してくれるの?
あっ、じゃあ、尾先さんに
【尾先の手に髪が置かれる】
尾先:なんだ?…っと、これは髪か?
茜:あの子の髪らしいです
尾先:わかった、返しておく
【女の子の霊が一礼する】
茜:あ、そこに居たんですね!はじめまして!
骸:ハハッ、あの子は年下だよ
尾先:そういうことじゃないと思うが…
骸:ねぇ、君
お母さんと一緒に居たいんでしょ?
僕が会わせてあげるよ
茜?:え?本当に?会えるの?
骸:うん、もちろん
君は恨みや怒りはないにしても、ここに縛られているんだ
後悔や悲しみの思いも、もちろんだけど、1番はその鏡台と名前かな
そのせいで成仏できていない
尾先:何が目的だ?骸
骸:慈善事業
尾先:嘘だな
骸:ははっ!そうだね
ほしいものがあるんだ
茜:なんですか?
ちょっと不安な気持ちが湧いてきたんですけど
骸:名前だよ、君の
茜?:私の名前?
骸:僕に祟りや呪いの類は効かないからさ
君の名前を持ち帰ってもいいかな?
茜?:お母さんに会えるなら
ここにあっても意味ないのであげます
その代わりお母さんに会わせてください
骸:うん、いいよ
じゃあ、目を閉じて
あ、茜ちゃんとの共感も解いてね
【成仏する女の子の霊】
茜:あっ…
尾先:おっと…、大丈夫か?
茜:すみません…少しフラっときて
骸:取り憑いてたわけじゃないけど
もう一人の意思が入ってたからね
さて、……これかな
尾先:……楽妃?
骸:読み方はないでしょ、これもパンドラ
うん、名前はやっぱり楽園と存在を現してるね
茜:それ、どうするんですか?
骸:元々は祟りの元だし、これも蒐集品の一つだよ
うん、霊力や呪力は感じられない
茜:あの子は会えるんですか?
尾先:さぁな、死後の世界は知らんが
骸、お前なら解るんだろ?
骸:楽園、天国…
そんなもの人間が作った空想さ
……ってことで済ましてもいいかな
あっちのことについて僕からは語れない
尾先:その発言が問題じゃないのか?
骸:ははっ、どう捉えてもいいよ
それはその人の勝手だ
茜:会えますよね、絶対
骸:そんな純粋な目を向けられると困るなぁ
じゃあ少しだけ
同じ場所には行けたよ
母親が髪を食べる抜け殻になるって話
あれは魂が死んだわけじゃない、一種の廃人と同じだよ
茜:じゃあ、死んでない…
生きてたってことですか?
尾先:途中で気づくんじゃないか?
自分の手で娘を殺し、髪を食べる
どこかで正気に戻って、またどこかで狂うんだろ
本当に楽園に行けるのは、ずっと狂ったままの奴かもな
茜:…やっぱり酷い話です
私は許せないです
尾先:珍しいな、自分事ならなんでも許すお前がな
いや、そういう奴か、お前は
他人事だと怒り、助けようとする
茜:……
骸:その思考は時に自分を壊すからね
ほどほどにしなよ、特に霊には、ね
茜:…はい
尾先:さて、帰るか
これも渡さないとな
骸:そうだね、思わぬ収穫もあったことだし
……ん?これは…
尾先:どうした?
骸:…どうやら、まだ帰れないみたいだ
茜:…え?どういうことですか?
骸:三つ目の境界が繋がったみたいだ
ハハッ、これはこれは…
尾先:な、なんだ…この雰囲気は…
茜:『ここから先 立ち入るべからず』
『誰が決めたのか 境界線』
『この世とあの世の 境界線』
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