最強執事の裏の顔 ~うちのメイドは問題児ばかりのようです~

シサク

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報告

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「ねえロイド、組織のことをあの軍の偉い人に伝えたんだけど、あの山が隣国との境界だから凄く嫌がってたよ。もう一度顔出してくれってさ」

「ルル、そういう時はその場で断っていいんですよ。私の許可など必要ありません。また返事をしにいくあなたが面倒になるだけですから。私が話せることなど何もありませんし、話すのも面倒です」

「ええええ! また返事しにいかないといけないの!? もう自分で言いにいってよ」

 ルルはいつも以上に気怠けですね。
 窓際での日向ぼっこから動く気配がありません。 
  私が代わって報告に行ってあげても構わないのですが、残念ながら私はシャリア・ブラックストンに呼ばれているので無理なのです。
 ああ、本当に残念です。

「すみません、私も仕事があるので行けないのですよ。ここはルルが責任を持って報告に行ってください」

「仕事って何さ! いつもそんな風に言って逃げるんだから。ボクも忙しいのに行ってるんだよ」

「それはわかっていますよ。ですがシャリア・ブラックストンへの報告のあとは、シャーロット・エインズワースへの報告、それから休んでいた間に溜まった執事としての仕事もこなさなければいけないのです」

「うぅぅ~っ」

 納得してくれたようですね。
 起き上がって大きな伸びをしたと思ったら、そのまま消えてしまいました。
 では時間も押しているようですし、こちらも予定をこなすとしましょう。

 シャリア・ブラックストンに呼ばれたのは食堂室。
 既にミカエラ・アッシュフィールドを側に置いた彼女が、入口に顔を向けて待っていたようです。

「遅かったわね」

「申し訳ございません。これでもかなり早く事態を収められたと自負しているのですが」

「そうじゃないわ。あなたなら約束の時間の五分前には来ると思っていたから」

「これは失礼しました。少々資料を纏めるのに時間がかかってしまいました」

 全てルルの責任ですね。
 まあ、多少失敗するほうが人間らしいでしょう。

「それで、お父様には会えたのかしら」

「ええ、かなり高圧的で、一時は解雇されそうになりましたよ」

 なぜ白い歯を見せて微笑むのでしょう?
 私が解雇されそうになったことが楽しいのでしょうか。
 それとも、自分の思い通りに事が運んで嬉しいのでしょうか。
 どちらにしても、小馬鹿にされているような気分です。
  
「それでもあなたのお父上は賢明な方でいらした。私の話を聞いてすぐさま炭鉱への投資をお決めになられた。これでもう今までのように頻繁に災害は起こらないでしょう。よかったですね、これで孤児が増えることもありませんよ」

 おや、今度は大変驚かれている。
 コロコロと表情が表に出るのは助かりますが、私の発言を信じていないのがあからさまですね。

「あのお父様が? 信じられないわ。わたしのお願いだって聞いてくれないときがあるのに」

「今回は人命がかかっているのですから、例外だったのではないでしょうか。お父上の迅速なご判断に感謝しなければいけませんね」

 何か不満でもあるような表情ですね。
 事実かどうかは自分で確認すればいいだけですし、これ以上私が答えるものはないでしょう。

「これで私のことを多少信用していただけましたか?」

「そうね。お父様を言いくるめられたのなら、わたしが想像していたよりも有能なのでしょう。でも、この件一つであなたのことを判断しろというのは無理というものよ。これからまだまだ披露してもらえると助かるわ」

「そういうことでしたら結構。これから幾らでも披露できますよ。では、私は執事としての仕事へ戻らせていただきます」



 この時間のシャーロット・エインズワースはクロエ・シンクレアと表玄関の掃除ですね。
 表玄関と言ってもかなりの広さがありますし、あの広さを一人でするのは無理があるでしょう
 二人で協力してやっていてくれればいいのですが。

「おや? クロエ・シンクレア、あなた一人ですか?」

 そこには箒を手にしたクロエ・シンクレアの姿のみ。
 どこにもシャーロット・エインズワースの姿は見当たりません。

「彼女はどこへ行ったのです? 休憩ですか? それともサボっているのですか?」

「おーミスターバーン! シャーロットは新聞を受け取りに行ったデース! もうすぐ帰ってくるはすデスネ」

 セキュリティ上、ポストは敷地の一番端にありましたか。
 面倒ではありますが、不審者を敷地内に入れるよりはいいのでしょう。

「彼女は真面目に働いていますか?」

「シャーロットはとても真面目ナノネ! ほら、もう戻ってきまシタヨ」

 右手には畳まれた新聞、それを掲げて走ってきました。

「ロイド! 戻ってきたのね!」

「ダメですネー! ミスターバーンは執事なのデス。馴れ馴れしいのはいけないと教わりまシタ」

「クロエは堅苦しいの。もっとフランクでいいじゃん」

 二人は水と油ではないはずなのですが、意見が合わないとこうも空気が悪くなるのですね。

「クロエ・シンクレア、あなたの注意は尤もだと思いますが、私は細かいことは気にしませんので、好きに呼んでもらって結構ですよ。しっかり仕事をこなしてくれるのが一番ですので」

 シャーロット・エインズワースの態度の急変、それは秘密を共有したためでしょうか。
 人間は秘密の共有によって無意識に相手との距離を縮めるらしいですし。
 他に害が出なければ気にする必要はありませんね。

「戻ってきたってことは、もしかして上手くいったの?」

「それは後々話しましょう。それより新聞は私が預かりましょう。掃除の邪魔でしょうから」

 受け取った新聞には号外が挟まっていますね。
 読んでくださいとばかりに主張しているそれは、どうやら戦争についてのようです。

「北方のサザーランド王国でクーデターのようですね。軍が暴走とは厄介ですね」

 国王は捕らえられてしまったようですが、命までは奪っていませんか。
 号外によると、王政に不満を持った軍が暴走したというより、他国と共謀し、唆された軍のトップの暴走とありますし、サザーランド王国の脇が甘かったと考えるべきでしょう。

「クロエ・シンクレア、どうかしたのですか? 顔色が優れないようですが。体調が良くないなら休んでいただいて結構ですよ。その分シャーロット・ エインズワースに働いてもらいますので」

「えーー! この広さは無理に決まってるじゃん!」

 彼女の不満はクロエ・シンクレアには届いていないようですね。
 箒を壁に立てかけて帰り支度をしています。

「申し訳ないデース。今日はちょっと休ませてもらいマース……」

「しっかり休んでください。あとのことは気にせず、私に任せておいてください」

「ミスターバーンは紳士なのデスネ。お言葉に甘えまスル」

 何が彼女を急激に疲れさせたのでしょうか?
 元々疲れていたのを我慢していたようには見えませんし、かといって仮病のようにも見えない。
 強いて言えば、号外の内容を知ったからという仮説は立ちますが、サザーランド王国はここからかなり北ですし、彼女の出身であるサビリ公国ともかなりの距離があったはず。

「友人とやらでもいるのでしょうか?」

 私には友人という概念がよくわかりませんが、人間は友人というものを大切にするそうですし、身を案じているのかもしれませんね。

「ねえ、本当に手伝ってくれるんでしょうね? アタシ一人じゃ無理だからね」

「そうですね、魔法でさっさと終わらせましょうか」

「やったぁ!」

 シャーロット・エインズワースにも組織について説明しましょうか。
 先程の様子から、私に期待しているのは間違いないようですし、証拠がなくても大丈夫でしょう。
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