最強執事の裏の顔 ~うちのメイドは問題児ばかりのようです~

シサク

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紆余曲折3

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 現在十一時、朝の八時過ぎからクロエ・シンクレアと共に洗濯ものを洗っていたシャーロット・エインズワースでしたが、反鏡再現魔法ミラージュ・クリエイトの中で動いていた彼女の人形がやっと屋敷の敷地外へ動き出したようですね。

「――――で、どうしてボクがあの人間の後をつけなきゃいけないのさ」

「それはルルが猫でうってつけだからですよ」

「そうじゃなくて、どうしてボクの役目なのかって言ってるの。自分で動けばいいじゃん」

 不満たらたらの使い魔ですね。
 使い魔すら主人にここまで歯向かうのですから、やはりメイドが雇い主の娘に意見できないなどというのは間違いですね。
 それはさておき、しっかりこの使い魔を論破しないといけません。

「理由は二つあります。一つは猫の姿であるルルは彼女の側まで寄れるでしょう。これは私ではできないことです。もう一つは、私には別の仕事があるからですよ」

「そうやって逃げようたってダメだから。仕事ってなんなのさ」

「簡単なものですよ。この反鏡再現魔法ミラージュ・クリエイトでは侵入者がやってきてもわからないですからね、それに対応させる魔法を組み込もうかと思っているのですよ」

「むぅ……それなら仕方ないな」

 理解が早くて助かります。

「くれぐれも彼女から目を離さないでくださいね。ルルの目を通したものしか私の魔法では認識できないのですから」

「ボクを誰だと思ってるのさ。こんな簡単な仕事は欠伸が出るくらい楽だっての、じゃあね」

 文句を言いながらも素直に出発したようですね。
 では、こちらも仕事に取り掛かりましょうか。
 機械仕掛け人形魔法クレイ・オートマトンは髪の毛が必要なため、侵入者相手に使うわけにもいきませんし、違う方法を取るしかないでしょう。
 細かい動きは必要ありませんから、どのルートから、何人侵入したかわかる程度にしておくのがいいですね。
 反鏡再現魔法ミラージュ・クリエイトに組み込み、侵入者がやってきたときに反応するようにしておきましょう。
「――――操侵同期魔法インヴェイダー・トラック

 侵入者はひと目でわかるよう、ゴブリンの形にでもしておきましょう。
 屋敷の大きさを考慮すれば、二十体もあれば十分役割は果たせるはずです。
 こればかりは実際に侵入者が現れない限りどう動くかわかりませんが、私が失敗するはずありませんから大丈夫でしょう。
 あとは発動と同時に私が認知できるようにしておけばいいでしょう。

「それでは、ルルが仕事をしているか確認するとしますか――」

  彼は悪魔ですから、もしかするとサボっている可能性もなきにしもあらず、ですからね。

「ねえねえオジサン、これとこれちょうだい」

「嬢ちゃん見ない顔だね。その格好は、もしかしてあのお屋敷かい?」

 既に街で買い物をしているようですね。
 ルルの視界に映っているのはブラックストン家の車、運転手は庭師のジェームというわけですか。
 それにしても人間が多く視界が悪いですね……。

 ――――ルル、周りに人間が多いようですから、もう少し近づいてもらえませんか。

「注文が多いなぁ。ボクだって怪しまれないように振る舞ってるんだよ。人間はボクの姿を目にしたら触ってくるし嫌なんだ」

 そう言いながらも近づいてくれるルルはわかってますね。

 ――――ルル、近づきすぎです。スカートの中しか見えませんよ。

「人間はこういうのを喜ぶらしいよ。ロイドも少しは人間を見習ってそれらしい反応を見せればいいのに」

 ――――すみませんが、私には布切れ一枚に何も感じないのですよ。
 そんなことより、彼女の姿が急に見えなくなったのですが。

「え? そんなはずないんだけど。さっきまでここにいたんだし――――あ、そこの路地に入ろうとしてるよ!」

 ――――キョロキョロと挙動不審なのは、周りを気にしている証拠でしょうか。
 さっきまでとは警戒度が違うようですし、気づかれないよう距離を取ってください。
 
「了解。でも今日はこれで終わるから!」

 あまり時間が経っていないのですが……まあいいでしょう。
 興味が湧く場面に遭遇できたわけですし、仕事は完遂したとみて問題ありません。

「あ、路地裏で怪しい男となんか話してるよ」

 ――――内容は聞こえますか?

「無理無理。距離あるしわざと小声で話してるようだから、なーんにも聞こえないよ」

 雰囲気から察するに、逢い引きをしているというわけではなさそうですね。
 かといってメイドとしての仕事をしている風でもない。
 こそこそと何かを話し――手渡したのは手紙? それとも紙幣でしょうか。
 その割りに何かを受け取った様子がないところを見ると、芳しくない状況と言えそうです。
 彼女個人の問題であればいいのですが、こちらが介入せざるを得ない状況であるならば、引き続き調べる必要が出てきますか。

 ――――今日はもう引き上げて結構ですよ。
 ただし、彼女と会っていた男は引き続き調査する必要があります。
  後日でいいので、男が何者なのか報告してください。

「ええええっ! それって報告が後日なだけで、仕事を続けろってことじゃない!」

 声が大きいですね……仮にも悪魔でしょうに何とも情けない。
 方法なら幾らでもあるのですから、ここまで嫌がる必要はないと思うのですが。
 記憶力はいいのですし、顔を覚える、魔力波動を覚える、魔法でマーキングしておく、やりようはいくらでもあるというのに。

 ――――楽をする方法ならルルの得意とするところでしょう。
 方法は問いませんから、結果だけ報告していただければ結構ですよ。

「わかった。だったら男が一人になったところで拷問に――」

  ――――一つ言い忘れていましたが、接触は禁止ですよ。
 彼女の周りで異変が起きて警戒されては意味がありませんから。

「もう面倒臭いなぁ……わかったよ、何者か調べておけばいいんでしょ」

 私の返事を聞くことなく思念波を遮断してしまいましたか。
 それでも仕事はこなしてくれるでしょうし、放っておいても問題ないでしょう。

「これで三人全員ですね。程度の差はあれ、三人とも何かしら隠している部分があるのは人間なら当然でしょうか。まあ、ホムンクルスである私も彼女たちには話さない部分はありますし。しかし、シャリア・ブラックストンを護る上で、見過ごせない部分であるのも間違いありません。一度まとめてみたほうがいいですね」


 エマ・キサラギ
 年齢十七 黒髪のストレート
 出身国パンジャ国 
  メイド経験が五年というものに偽りは見当たらない。
 ただし、人としては異常ともいえる力が垣間見られた。
 偶然なのか意図的なのかは別として、今のところ緊急性は低い。


 クロエ・シンクレア
 年齢二十 ウェーブがかかった金髪
  出身国サビリ公国
 メイド歴一年というが、その割りに基本はなっていない。
 何かを偽っているのかもしれないが、緊急性は見当たらない。


 シャーロット・エインズワース
 年齢十五 髪は薔薇色のツインテール
 出身国未申告
 孤児院で育ったというだけあり、メイド歴はないが手際はよい。
 年齢に見合わず踊り子の経験があり、年齢の割りにしっかりしていることから他の者より厳しい世界を生きてきたことが窺える。
 しかし、彼女の取った行動は三人の中で最も怪しく危険度が高い。


「やはり、最初に解決しなければいけないのはシャーロット・エインズワース、彼女ということになりますね」

 私としてもあまり疑いたくはないのですが……最小限の注意だけで様子を見ることにしましょうか。


 シャーロット・エインズワースが帰ってきてから数時間が経ちましたが、遠隔透視魔法スパイラル・ゲイズに映る彼女に変わった様子は見られませんね。
 乾いたシーツを畳む姿は手慣れたもので、経験者のはずのクロエ・シンクレアに対して逆に指導するほどとは。
 これは今すぐ私が直接指導する必要があるようです。

「クロエ・シンクレア、あなたは経験者のはずでしょう。もう少ししっかりしてください」

「オー、ミスターバーン! これはイタいところを見られたのデース! わたくし、見ての通り不器用なのデスネ。上手くなるにはもっと数をこなさないといけないのデース」

「幸運なことにこの場においては全員が等しく、先輩も後輩もありません。そこのシャーロット・エインズワースは手先が器用なようですので、彼女とともに精進してください。私としては現在はどうでもいいのです。成長さえしてくれればという条件つきですが」

「ガンバるのデスネ! ミスターバーンは優しいのデース!」

「やる気があるのは素晴らしいですよ」

 本来なら一言で終わらせるべきではないのでしょうが、底抜けに明るい彼女にはこれで十分でしょう。
 残りのシーツは一人で挑戦するようですし、手持ち無沙汰なシャーロット・エインズワースを見るところ今がチャンスでしょう。
  
「シャーロット・エインズワース、少し早いですが、君にはお茶を淹れてもらいましょうか。ついてきてください」

 この時間はお茶の時間ではないため、誰も湯を必要としていません。
 彼女と二人になるにはこれ以上ないタイミングです。
 まだ食器類の位置の把握がまだのため手間取っているようですが、手際は悪くありませんね。

「君は仕事覚えも早そうで助かります」

「……ありがと。でも、アタシじゃなくてもこれくらいはできると思うけど」

「そうかもしれませんが、人には得手不得手というものがありますからね、おそらくクロエ・シンクレアではもっと四苦八苦してますよ」

「それはそうかも。クロエはちょっとドジなところがありそうだしね」

 少し楽しくなってきたのでしょうか。
 彼女の表情が少し緩んだように見えますね。
 これから私が指摘することで、どこまで変化するのでしょうか。

「そんな優秀な君に一つ忠告しておこうと思うのですが、よろしいですか?」

「何か言いたいことがあるならハッキリ言ってよ」

 少し不機嫌になったのは、疚しいことについてというよりも彼女の性格によるものでしょう。
 まだ自分がつけられていたなどと知る由もないでしょうし。
  
「ブラックストン家のメイドになった以上、怪しい男と接点を持つのはやめていただきます。路地裏の男が何者か問うつもりはありませんが、今後疑いを持たれるような行動は慎むようお願いします」

 平静を装ってはいますが、明らかに動揺していますね。
 瞳孔は若干開き、さっきまでの余裕などどこかに飛んでいってしまいましたか。
 本当に害意を持っていての行動ならば、事実を知る私に向けられるのは敵意や殺意であってもいいものですが、今のところそれは感じられません。

「……つけてたの?」

「似たようなものです。私も執事としてシャリア様を護る必要がありますので。かといって余計な仕事をしたくはありませんので、これ以上手をかけさせないでもらえると助かりますが」

「……わかったわよ……。でも勘違いしてほしくないんだけど、アタシは何も悪いことはしてないから」

「そうあってほしいものです」

 釘はさしておきましたから、暫くは様子見でいきましょう。
 これで動きがあれば対処すればいいだけのこと。
 あとはルルからの報告を待つだけですね。
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