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紆余曲折

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「ロイドの指示があった各部屋の入口と屋敷中の廊下と大部屋に魔法陣を刻んできたよ。ホント使い魔使いが荒いよね。半分くらい自分でやってもいいんじゃないかな」

「これでも甘いほうだと思いますよ」

 文句を言いながらもしっかり仕事をしてくれるルルには感謝しかありません。
 あとは自室から各場所を監視すれば、ある程度は人の動きと仕事ぶりが把握できるでしょう。
 流石にメイド個人の部屋の内部を監視するのはよくないでしょうし、目を瞑ってあげましょう。
  
遠隔透視魔法スパイラル・ゲイズ

 魔法陣を通して映像が浮かび上がり、音声も問題なく聞こえてきました。
 もし侵入者が現れても、最低限の状況は把握できるでしょう。
 しかし、まだまだ安心はできませんね。

「ルル、全員の髪の毛を確保してきてください」

「えー、また仕事ぉ~~」

「あなたの仕事がこれなんですから、しっかりやってください」

 猫の姿だと性格まで猫になってしまうのでしょうか。
 これなら犬にしたほうがよかったかもしれませんね。

「今日はこれが最後だからね。終わったら寝るんだから」

 その割りには尻尾をピンと立てて……やる気十分のようですね。
 私はその間に粘土からここの住人全員分の操り人形を作るとしましょうか。
 屋敷周辺には上質な粘土層があるのはわかっています。

機械仕掛け人形魔法クレイ・オートマトン
 
 小窓を開けると、屋敷周辺の林から手のひらサイズのメイドの格好をした人形、そして雇い主の娘であるシャリア・ブラックストンの人形がトコトコ歩いてやってきました。
 私の記憶通りに作ったはずですが、合っているのはシャリア・ブラックストンとエマ・キサラギ、それにミカエラ・ アッシュフィールドだけのようですね。

「クロエ・シンクレアはもう少し胸が大きいでしょうか。反対にシャーロット・エインズワースは胸がありすぎですね。ここは忠実に再現しておきましょう」

 もし誰かに見られた場合、恣意的な何かを感じられても困りますから。

「ロイド、髪の毛集めてきたから置いとくよ。ボクはもう働かないから!」

「ご苦労さまです。流石ルルですね、仕事が早い」

 おやおや、私の労いの言葉を聞くことなく姿を消してしまいましたか。
 これから一般的に面白いといわれるものが見られるというのに……もったいない。
 この髪の毛をこうやって、人形の中に埋めると――――。

「行き場に困ってグルグル回りだしましたね。本来いるべき拠り所が存在しないがための行動なのですが。放って置くとこのままどこかへ走って逃げてしまいますから、あまり長時間観察できないのは残念です。逃走した人形を誰かに見られるわけにもいきませんから、さっさと拠り所を作ってあげましょう」

 大きさはベッドの半分くらいでいいでしょうか。
 いつでも中が見られるように屋根に当たる部分はなくしてしまいましょう。

反鏡再現魔法ミラージュ・クリエイト
 
 屋敷と別棟を含む範囲の全てを縮小し、眼の前のテーブルに再構築。
 本物そっくりのミニチュアができあがりました。
 予定通り、人形たちはいそいそとその中へ移動を開始しましたね。
 みなさん鈍臭い中、一人だけ素早く移動するのはミカエラ・アッシュフィールドですか。
 しっかり身体能力も反映されているようで何よりです。
 これで、今、誰が、どこで、何をしているかひと目でわかるようになりました。
 さて、この時間で一番活発なのは、料理担当の二人でしょうか。
 遠隔透視魔法スパイラル・ゲイズで覗くとしましょう。



「ミカエラさん、包丁は使えるんですか? できればそこの野菜をこんな風に全部乱切りにしてほしいんですけど」

 流石メイド歴五年のエマ・キサラギですね。
 野菜を慣れた手つきで切ってゆく姿は様になっていて、見ていて頼もしい。
 それを目にしても物怖じしないミカエラ・アッシュフィールドも、なかなか見所があるといっていいでしょう。

「……刃物なら扱いは大丈夫。見てて」

 やる気十分のミカエラ・アッシュフィールドが手にしたのは包丁ではなく、太ももに装着していたナイフとは、これはまた悪手ですね。

「ミカエラさん! そんなものどこから持ってきたんですかっ!」

「ほら、太もものここだけど。これのほうが使い慣れてるから切りやすい」

「そういう問題じゃないんです。野菜はしっかり包丁で切ってください。それにそんなものを持ち歩いているのが見つかったら、本当にクビになっちゃいますよ」

 既に私に見つかっているのですがね。
 とはいえ、逆に彼女には身につけていてもらわなくては困ります。
 私が覗いていることは隠しておくので大丈夫ですよ。

「でもこれは必要だから無理。今はその包丁で切ってあげるけど」

 面倒そうに包丁を使っても、ちゃんと切れているのは流石です。
 少し雑で切っているというよりは叩き切っているようにも見えますが、しっかり乱切りになっているので及第点はあげましょう。

「黙っておいてあげますけど、なるべく早く自分から申告してくださいね。クビを免れたとしても、危険だと判断されれば没収されるかもしれませんよ」

「それはダメ。なるべく早くロイドくんに言う」

「ロイドくん!? 立場は私たちより上ですし、ロイド様のほうがいいと思うんですけど」

「年下っぽいし、ロイドくんのほうがいい」

 君づけは初めてでしょうか。
 ミカエラ・アッシュフィールドはリストによれば二十二歳、実際私のほうが年下とはいえ、ほぼ変わらないのですがね。
 メイド未経験のうえ、やる気がなかった彼女が働いてくれているということは、課題の一つはクリアできたと思っていいでしょう。
 
「ミカエラさんは自由でいいすね。ちょっと羨ましいです」

 エマ・キサラギは水が大量に入った大鍋を火にかけ始めましたか。
 一体何を作ろうというのか、腕前を拝見するとしましょう。

 「ミカエラさんは趣味はあるんですか?」

「――銃の手入れかな」

「まさかとは思いますけど、持ち歩いてるなんてことは……ないですよね?」

「ナイフも銃も持ち歩かないと意味がない。今も腰にあるよ」

 困った人ですね。
 持ち歩くことに関して何も言うつもりはありませんが、その情報を広めるのはいただけません。
 あとで注意しておきましょう。

「屋敷内では決して取り出さないでくださいね。誰も擁護できなくなっちゃいますから」

「わかった……」

「それと――――ミカエラさん、危ないっ!」

 ミカエラ・アッシュフィールドの腰のリボンが大鍋の取っ手に引っかかりましたか。
 あのままなら彼女は足に大火傷を負っていたはず。
 ですが、エマ・キサラギの咄嗟の行動で事なきを得たようです。
 本来ならば避けることなど不可能と思われる状況において、あの動きは人の反応速度を超えているようにしか思えません。
 人間の反射反応速度は平均でも四分の一秒程度で、限界速度であるコンマ一秒でもってしても、さっきのあれは間に合いそうにありません。
 
「これはどういうことでしょうか? 私が見えない角度からリボンが引っかるところが見えていたということでしょうか? それとも違う要因があったのか……」

「ミカエラさん、大丈夫でしたか!?」

「――大丈夫。ゴメン……鍋ひっくり返っちゃった」

「こんなもの何回でもやりなおせばいいんです。怪我がないことが一番ですよ」

 ミカエラ・アッシュフィールドを利用して信用させるためにやったとすれば、前もって動くことは可能ですが、彼女の安堵している様子からして計画性はないとみていいでしょう。
 ならばあの反応速度は一体どういうことなのか、これから調べなくてはなりませんか。
 魔法ではなく、直接目で確認していればもう少し違った印象だったかもしれず残念です。

「やはり普通のメイドが集まっているというわけではないようですね。これがシャリア・ブラックストンの害となるのかどうか……」

 他のメイドたちも癖が強そうですし、早めにコミュニケーションを取ったほうがよさそうですね。
 では、次はクロエ・シンクレアのところへ実際に足を運びましょうか。    
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