最強執事の裏の顔 ~うちのメイドは問題児ばかりのようです~

シサク

文字の大きさ
上 下
5 / 16

紆余曲折

しおりを挟む
「ロイドの指示があった各部屋の入口と屋敷中の廊下と大部屋に魔法陣を刻んできたよ。ホント使い魔使いが荒いよね。半分くらい自分でやってもいいんじゃないかな」

「これでも甘いほうだと思いますよ」

 文句を言いながらもしっかり仕事をしてくれるルルには感謝しかありません。
 あとは自室から各場所を監視すれば、ある程度は人の動きと仕事ぶりが把握できるでしょう。
 流石にメイド個人の部屋の内部を監視するのはよくないでしょうし、目を瞑ってあげましょう。
  
遠隔透視魔法スパイラル・ゲイズ

 魔法陣を通して映像が浮かび上がり、音声も問題なく聞こえてきました。
 もし侵入者が現れても、最低限の状況は把握できるでしょう。
 しかし、まだまだ安心はできませんね。

「ルル、全員の髪の毛を確保してきてください」

「えー、また仕事ぉ~~」

「あなたの仕事がこれなんですから、しっかりやってください」

 猫の姿だと性格まで猫になってしまうのでしょうか。
 これなら犬にしたほうがよかったかもしれませんね。

「今日はこれが最後だからね。終わったら寝るんだから」

 その割りには尻尾をピンと立てて……やる気十分のようですね。
 私はその間に粘土からここの住人全員分の操り人形を作るとしましょうか。
 屋敷周辺には上質な粘土層があるのはわかっています。

機械仕掛け人形魔法クレイ・オートマトン
 
 小窓を開けると、屋敷周辺の林から手のひらサイズのメイドの格好をした人形、そして雇い主の娘であるシャリア・ブラックストンの人形がトコトコ歩いてやってきました。
 私の記憶通りに作ったはずですが、合っているのはシャリア・ブラックストンとエマ・キサラギ、それにミカエラ・ アッシュフィールドだけのようですね。

「クロエ・シンクレアはもう少し胸が大きいでしょうか。反対にシャーロット・エインズワースは胸がありすぎですね。ここは忠実に再現しておきましょう」

 もし誰かに見られた場合、恣意的な何かを感じられても困りますから。

「ロイド、髪の毛集めてきたから置いとくよ。ボクはもう働かないから!」

「ご苦労さまです。流石ルルですね、仕事が早い」

 おやおや、私の労いの言葉を聞くことなく姿を消してしまいましたか。
 これから一般的に面白いといわれるものが見られるというのに……もったいない。
 この髪の毛をこうやって、人形の中に埋めると――――。

「行き場に困ってグルグル回りだしましたね。本来いるべき拠り所が存在しないがための行動なのですが。放って置くとこのままどこかへ走って逃げてしまいますから、あまり長時間観察できないのは残念です。逃走した人形を誰かに見られるわけにもいきませんから、さっさと拠り所を作ってあげましょう」

 大きさはベッドの半分くらいでいいでしょうか。
 いつでも中が見られるように屋根に当たる部分はなくしてしまいましょう。

反鏡再現魔法ミラージュ・クリエイト
 
 屋敷と別棟を含む範囲の全てを縮小し、眼の前のテーブルに再構築。
 本物そっくりのミニチュアができあがりました。
 予定通り、人形たちはいそいそとその中へ移動を開始しましたね。
 みなさん鈍臭い中、一人だけ素早く移動するのはミカエラ・アッシュフィールドですか。
 しっかり身体能力も反映されているようで何よりです。
 これで、今、誰が、どこで、何をしているかひと目でわかるようになりました。
 さて、この時間で一番活発なのは、料理担当の二人でしょうか。
 遠隔透視魔法スパイラル・ゲイズで覗くとしましょう。



「ミカエラさん、包丁は使えるんですか? できればそこの野菜をこんな風に全部乱切りにしてほしいんですけど」

 流石メイド歴五年のエマ・キサラギですね。
 野菜を慣れた手つきで切ってゆく姿は様になっていて、見ていて頼もしい。
 それを目にしても物怖じしないミカエラ・アッシュフィールドも、なかなか見所があるといっていいでしょう。

「……刃物なら扱いは大丈夫。見てて」

 やる気十分のミカエラ・アッシュフィールドが手にしたのは包丁ではなく、太ももに装着していたナイフとは、これはまた悪手ですね。

「ミカエラさん! そんなものどこから持ってきたんですかっ!」

「ほら、太もものここだけど。これのほうが使い慣れてるから切りやすい」

「そういう問題じゃないんです。野菜はしっかり包丁で切ってください。それにそんなものを持ち歩いているのが見つかったら、本当にクビになっちゃいますよ」

 既に私に見つかっているのですがね。
 とはいえ、逆に彼女には身につけていてもらわなくては困ります。
 私が覗いていることは隠しておくので大丈夫ですよ。

「でもこれは必要だから無理。今はその包丁で切ってあげるけど」

 面倒そうに包丁を使っても、ちゃんと切れているのは流石です。
 少し雑で切っているというよりは叩き切っているようにも見えますが、しっかり乱切りになっているので及第点はあげましょう。

「黙っておいてあげますけど、なるべく早く自分から申告してくださいね。クビを免れたとしても、危険だと判断されれば没収されるかもしれませんよ」

「それはダメ。なるべく早くロイドくんに言う」

「ロイドくん!? 立場は私たちより上ですし、ロイド様のほうがいいと思うんですけど」

「年下っぽいし、ロイドくんのほうがいい」

 君づけは初めてでしょうか。
 ミカエラ・アッシュフィールドはリストによれば二十二歳、実際私のほうが年下とはいえ、ほぼ変わらないのですがね。
 メイド未経験のうえ、やる気がなかった彼女が働いてくれているということは、課題の一つはクリアできたと思っていいでしょう。
 
「ミカエラさんは自由でいいすね。ちょっと羨ましいです」

 エマ・キサラギは水が大量に入った大鍋を火にかけ始めましたか。
 一体何を作ろうというのか、腕前を拝見するとしましょう。

 「ミカエラさんは趣味はあるんですか?」

「――銃の手入れかな」

「まさかとは思いますけど、持ち歩いてるなんてことは……ないですよね?」

「ナイフも銃も持ち歩かないと意味がない。今も腰にあるよ」

 困った人ですね。
 持ち歩くことに関して何も言うつもりはありませんが、その情報を広めるのはいただけません。
 あとで注意しておきましょう。

「屋敷内では決して取り出さないでくださいね。誰も擁護できなくなっちゃいますから」

「わかった……」

「それと――――ミカエラさん、危ないっ!」

 ミカエラ・アッシュフィールドの腰のリボンが大鍋の取っ手に引っかかりましたか。
 あのままなら彼女は足に大火傷を負っていたはず。
 ですが、エマ・キサラギの咄嗟の行動で事なきを得たようです。
 本来ならば避けることなど不可能と思われる状況において、あの動きは人の反応速度を超えているようにしか思えません。
 人間の反射反応速度は平均でも四分の一秒程度で、限界速度であるコンマ一秒でもってしても、さっきのあれは間に合いそうにありません。
 
「これはどういうことでしょうか? 私が見えない角度からリボンが引っかるところが見えていたということでしょうか? それとも違う要因があったのか……」

「ミカエラさん、大丈夫でしたか!?」

「――大丈夫。ゴメン……鍋ひっくり返っちゃった」

「こんなもの何回でもやりなおせばいいんです。怪我がないことが一番ですよ」

 ミカエラ・アッシュフィールドを利用して信用させるためにやったとすれば、前もって動くことは可能ですが、彼女の安堵している様子からして計画性はないとみていいでしょう。
 ならばあの反応速度は一体どういうことなのか、これから調べなくてはなりませんか。
 魔法ではなく、直接目で確認していればもう少し違った印象だったかもしれず残念です。

「やはり普通のメイドが集まっているというわけではないようですね。これがシャリア・ブラックストンの害となるのかどうか……」

 他のメイドたちも癖が強そうですし、早めにコミュニケーションを取ったほうがよさそうですね。
 では、次はクロエ・シンクレアのところへ実際に足を運びましょうか。    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

処理中です...