最強執事の裏の顔 ~うちのメイドは問題児ばかりのようです~

シサク

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 期限よりかなり早く屋敷についてしまいましたね。
 このくらいの時間ならば不可能というレベルでもありませんし、不審がられることもないはずです。

「ただいま戻りました。件の品物はこの柱時計で……」

 おや、おかしいですね。
 どうして老人が既に戻っているのでしょうか?
 車椅子の レイア・リンドンの隣に並んでいる姿は、最早勝負などどうでもいいというくらい穏やかに見えます。

「これはどういうことなのか、説明はしていただけるのでしょうね? そこの老人は街にさえ出ていないように思うのですが。まさかとは思ますが、最初からお二人はグルだったというわけではないでしょうね」

 修理屋の店主とのやりとりから薄々感じてはいましたが、どうやら私の予想通りだったというわけですか。

「まずは、おめでとうという言葉を送ろうかしら。ロイド・バーン、あなたが持ち帰った品こそが、わたしが受け取りにいく予定だった品物で間違いないわ。よく間違えず持ち帰って来られたわね。そして、このジェームズとわたしが最初から繋がっていたと見破ったのは見事の一言と言うべきかしら」

「最初から私を試すおつもりだったのでしょう。それは問題ありませんが、やり方が不快ですね。やるのなら、このようなまどろこしい方法ではなく、正々堂々と試験を実施されればよかったのですよ」

「ごめんなさい。があなたを信用してなかったのよ。ミカエラ・アッシュフィールド、彼女も本業は軍の兵士で、メイドじゃないの。わたしの護衛を兼ねて父が雇ったのよ。これを見破れず、彼女をクビにするようなら、あなたは採用しないと決めていたらしいわ」

 幾重にも罠を張っていたというわけですか。
 いやはや、ここまで私を信用していない者が雇い主というのも困ったものですね。
 それにも増して、私が護衛対象を見抜けなかったという事実がもどかしい限りです。

「あなたがシャリア・ブラックストンだっとは、流石の私も見抜けませんでしたよ」

「それは仕方がないことだと思うわ。わたしの情報は軍にさえ一切伝えていないはずだから。わたしを護衛することで雇われたミカエラ・アッシュフィールドでさえ、わたしを認識していなかったはずよ」

「わたくしのほうからも謝罪を。わたくしはブラックストン家にて庭師を務めさせていただいているジェームスと申します。この度はバーン様を試すような真似をしたこと、心よりお詫び申し上げます」

 この老人もなかなかの演者でしたね。
 まさか庭師があのような演技をするなどとは思いもしませんでしたよ。

「で、私は執事として認められた、ということでよろしいですね? ならば早速メイドたちと仕事について話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 どこからか覗いていたのでしょうか。
 見計らったように四人が出てきましたね。

 ――申し訳無さそうに出てくる者。
 ――何も考えていないかのように、ただ元気に出てくる者。
  ――面倒臭そうに、イヤイヤ出てくる者。
 ――眠たそうな目をこすりながら出てくる者。

 事前に把握していた通り、こちらにやってくる姿にも各々性格がよく出ています。
 
「本日からブラックストン家で執事をするロイド・バーンです。今後みなさんを指導する立場でもあります。わからないことがあれば、今から決めるメイド長を通して伝えてもらっても結構ですし、直接でも構いません。些細なことであろうと自分ひとりで解決しようとせず、助け合うことを前提で働いてください。では自己紹介からしていただきましょうか」

「じゃあ、まずは私からしますね」

 真っ先に前へ出たのは、やはりエマ・キサラギですか。
 メイド長は彼女しかいないと思っていましたが、率先して前へ出る姿勢も好感が持てますね。

「私はエマ・キサラギです。見てもらえばわかると思うんですけど、私はこの国、いえ、西側諸国出身ではありません。この黒髪が示す通り極東のパンジャ国出身です。メイドの仕事はひと通り、計五年は経験しているので、何でもお申し付けください」

「それは頼もしいですね。何かあれば私もエマ・キサラギを頼るとしましょう。私も黒髪なのですが、残念ながらパンジャ国出身ではありません。では次の方どうぞ」

「それでは、次はわたくしの番なのデース! わたくしはクロエ・シンクレアといいマース! 北のサビリ公国出身デース。メイドは一年やったことがありますネ。まだ言葉は不慣れデース。エマはぺらぺらで尊敬ですネー!」

 この中で一番元気がいいのが、このクロエ・シンクレアですね。
 ミカエラ・アッシュフィールドに次いで年齢が高い二十歳ということですが、その割に子供っぽいところが散見されるのはなぜでしょうか。
 リストで確認したときは、ここまで突き抜けた性格だとは思いもしませんでしたが、これはこれでいいムードメーカーになりそうです。

「元気がいいのは好感が持てますね。その調子でみなさんを盛り立ててくれると助かります」

「次はアタシね。アタシはシャーロット・エインズワース。メイド経験はないけど、孤児院出身で小さな頃から何でもやってきたから、自分で言うのもなんだけど結構器用な方だと思うわ。安定した仕事に就きたかったからここへやってきたの」

 リストによれば、四人の中で一番若いのがエインズワースで、確か十五歳だったはず。
 年齢の割に以前は踊り子をやっていたという情報ですし、他の者より過酷な世界を生きてきたのは間違いないでしょう。

「シャーロット・エインズワース、君はこの中で一番若く可能性を感じます。期待しているので頑張ってください」

「言われなくても頑張るし」

  ツインテールの髪の毛を弄りながらそっけなく答える姿は、反抗的なのか照れ隠しというものなのか判断に迷いますね。
 人間は同じ行動でも違う心境で取ったりするらしいので、まだ確証が持てません。

「……じゃあ最後に、私はミカエラ・アッシュフィールド。上層部から三食昼寝付きだって聞いたからここへ来た。メイドはしたことないし何をするかも知らないけど、それなりにはできると思う。終わり」

 気怠けな態度は相変わらずですか。
 これは本当に三食昼寝付きと言われてやってきたのかもしれません。
 彼女にはシャリアの護衛という仕事をメインに、メイドの仕事も少しやってもらうことになるでしょうか。

「全員把握しました。ではこの中で一番経験があるエマ・キサラギにメイド長をやってもらいます。シャリアお嬢様、問題ありませんね?」

「問題はないけど、そのシャリアお嬢様呼びはやめてもらえるかしら」

「では、シャリア様でよろしいでしょうか」

「ええ。彼女たちの部屋は北の別棟を使わせてあげて。わたしは疲れたから部屋で休みたいわ」

「かしこまりました。ではミカエラ・アッシュフィールド、シャリア様の車椅子をお部屋までお願いします」

 本来の仕事であるシャリア・ブラックストンの世話は嫌な顔一つせず引き受けるのですね。
 庭師のジェームスも同時に一礼して出ていったわけですが、あの老人も一応注意しておいたほうがいいのでしょうね。

「それではメイドの仕事を役割分担したいと思うのですが、何か希望はありますか?」

「わたくしは掃除がいいのデース。お料理は苦手なのですネ」

 ふむ……クロエ・シンクレア以外に掃除をしたい者はいないようですね。
 ミカエラ・アッシュフィールドには向いていなそうな仕事ですし、掃除は彼女で決まりでしょうか。

「そうですね、掃除はあなたにお任せしましょう。――とは言っても、一人一つの仕事では回りません。あとはそうですね……シャーロット・エインズワースとともに洗濯を担当しいたただきましょう」

「わかったのデース! シャーロット、頑張りまショウ」

「それはいいけど、アタシはそれ以外に何をやればいいのよ」

 なかなか不機嫌なところを見ると、重労働の洗濯は好みじゃなかったようですね。
 一番体も小さい彼女にはキツかったでしょうか。
 しかし、彼女は器用ということらしいので幅広くやってもらいましょう。

「シャーロット・エインズワース、あなたには洗濯以外にベッドメイキングと貯蔵庫の管理、買い出しをお願いしましょう」

「買い出し……外出できるってことね。だったらいいわ」

 ふむ、機嫌がよくなりましたか。
 わかりやすいのは結構ですが、買い出しの何がいいのでしょうか。
 気晴らしになるとは思いますが、買い出しは大量の荷物になり大変なはずなのですが。
 唯一外部の人間と接触できる仕事ですし、もし害意を持ち込むつもりだとすれば都合がいいはず。
 これは注意しておく必要がありますか……。

「残ったのは料理ですね。これはエマ・キサラギ、あなたとミカエラ・アッシュフィールドにお任せします。あなたにはメイド長として、他のメイドの補助もお願いしたいのですが大丈夫ですか?」

 ミカエラ・アッシュフィールドは軍にいたのであれば、包丁くらいは使えるでしょう。 彼女の性格上、他の仕事は期待できそうもないですし。

「問題ありません。もし無理があると判断すれば、バーン様に相談いたしますので」

「そうですか、ならば全員仕事に就いてください」

 これから全員の仕事を監視する方法を考えなければいけませんね。
 私の本来の仕事は、シャリア・ブラックストンへ危害を加える者の排除ですから、その因子となる者がいないか警戒する必要がありますから。
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