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6.僕は知らない。

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「ブレア様っ、上から順番に、頭からで良いですか?顔は自分でやりますよね?」

「ああ、それで構わない。」

ブレア様を浴室のイスに座らせて、石鹸に手を伸ばす。

わぁすごい、頭用と顔用と体用に3つも石鹸が置いてある!

固めの生地で出来た布に石鹸を擦り付けて、水を足してくしゅくしゅしてもこもこ泡を作る。

泡立ちも良すぎる!香りも良すぎる!高級品過ぎる石鹸にテンションが上がる。

ある程度泡を作ったら、お湯で溶けて流れていかないように桶に溜めておいて、「お湯流しますね~」と声掛けてブレア様の頭からざばーっとお湯を流す。
「次はあわあわしまーす。」とまた声をかけて先程桶に避けておいたたっぷりの泡を手に取って、頭に乗せる。
お風呂場でのお仕事はしたことないけど、こんな感じかなと、マッサージするようにわしゃわしゃと頭を洗う。

「気持ちいいですか?」

「ああ、キーリーは上手だな。」

「ふふふ、お褒めに預かり光栄にございます。」

頭の泡を洗い流して次は体。僕よりも体が大きいから沢山泡を作る。大きな背中に分厚い体。太い腕と脚。

これで僕より1個下なのか。
ふむ、羨ましい限りである。

手の届きづらい背中を中心にゴシゴシと洗う。

いやいや、僕もここの食事を食べてトレーニングをしたら同じ位になれるんじゃない?可能性はあるよね?
希望は無いよりあった方が良いし。

ざばーっとお湯で泡を流す。

「どうですか?洗い残しとか、ここもっととかってありますか?」

「いや、充分だ。では次はキーリーだな。ほら、ここに座って。」

「え、僕!?」

なんで僕も!?僕のお仕事は今終わったばかりでは!?

あれよあれよという間にブレア様に座らされて、頭を洗われてしまった。

僕よりも大きくな手で優しく、でもしっかり洗われる。

気持ちいい・・・。

人に洗ってもらう事がこんなに気持ちいいなんて知らなかった。

ぽーっと堪能していると、泡が流されて体を洗われる。手の平で伸ばされる泡。場所によってはちょっと擽ったいけれど、ブレア様の大きな手が暖かくて気持ちがいい。

「よし、では浸かろうか。」

綺麗に泡を流されて湯船を示される。

やっぱり僕も一緒にですか。
これは使用人としては良いのだろうか。

躊躇していると手を引かれて一緒に入らされた。

大きめに作ってあるみたいで、僕とブレア様が使ってもまだまだ余裕の湯船だ。壁からにょきっと、これはヤマネコ?なのかな、多分ヤマネコと思われる石で出来た像が生えていて、開いた口から湯船にざばばばーっとお湯が流れ込んでいる。

「すごい、こんなの初めて見た。」

ついつい口が感嘆の言葉を吐く。

「湯船は初めてか?」

「いえ、ハープ子爵家に来た日に1度だけ。」

「そうか。」

お風呂は高級品で贅沢品である。
貴族でもお金が無いところには無いし、貴族じゃなくてもお金がある所にはあるものなのである。

ハープ子爵家は金回りだけは良かったから本邸に大きなお風呂があって、初日のたったの1度だけ使ったことがある。

まぁ、そのあとは本邸から追い出されたので言わずもがなだけども。

「じゃぁ寒い日にお湯だとしても体を拭くのは辛かっただろう?」

「まぁ修行みたいなものですね。体が痒くなるのを我慢するか、一時でも寒いのを我慢するかの2択でした。」

「なるほど。じゃぁこれからは毎日一緒に入ればいいな。」

「え、毎日、ですか?」

「なんだ?不服か?」

「いえ、むしろとてもありがたいですけれども。」

いやでも僕使用人枠なのに流石にダメでしょ。

そう思ってブレア様の表情を伺うも、何故か少し悩んでいるような表情だ。

なぜブレア様が悩むのだろう?
じっと見つめていると、少ししてブレア様が口を開いた。

「キーリー。1つ聞きたいのだが、なんと言われてここまで来たのだ?」

「え?"お前は今日から隣国のモラレス家で世話になれ。だから今すぐ出ていけ"と。」

「そうか。それでキーリーどう思った?」

「いや、えっと。正直な所"売られたな"と。奴隷のような立場じゃなければ良いかな、と。あ、ルーランが着いてきてくれたので奴隷枠は早々に消えました。」

「なるほど、合点がいったよ。キーリー、私はお前に会えるのを楽しみに待っていたんだよ。決して金で買った訳では無い。」

「はぁ。」

まぁ、あのハープ子爵の事だから、一日でも早く僕が家から出ればなんでも良かったのだろうな。

会えるのを待っていたは正直よく分かんないし、奴隷でなければ金で買われようが良いのだけども。

「キーリー。私が今日出迎えた時なんて言ったか覚えてるか?」

「え?えーと?」

なんだっけ?は、伴侶?でも仮初のでしょ?

「伴侶だ。私はお前を嫁として迎え入れたのだ。支度金は渡してはいるが 金で買った訳では無い。まぁ、その支度金もハープ子爵の懐に入ったようだが。」

「よ、よよよ、嫁!?」

支度金なんて僕に回って来るはずが無いのはいいんだ 
わかってる。でも待って、よ、嫁って!?

「あの、てっきりそれは仮初のかと。ふ、普段は使用人でそういう時だけって言うのかと。」

「はぁぁぁ、なんでそう思うんだ。部屋も食事もおそらくハープ家では与えられなかったものだと思うが。」

ブレア様が眉間を揉み始めてしまった。
僕より歳下とは到底思えないその仕草に申し訳ない気持ちが沸き上がりながら理由を述べた。

「だって、っだって僕には選ばれる理由が無いです。っていうかそもそもハープ子爵家に僕がいる事は公にされてないはずなので、だから、僕がっていうことはどこかで僕の存在を知って、それで何かいいように使おうとしてくらいしか思い当たりません・・・。」

「あ、あー、なるほど。そっかそういう思考回路か。」

僕は言いながら耳も尻尾もしゅんっと垂れ下がってしまっているのに、ブレア様は何か納得がいったようで、目を右手で覆って天を仰いでいる。

かと思ったらすっと戻して、僕の事を抱き寄せてお互いの顔が近くなった。

「私はキーリーの事を国境沿いの街に居た時から知っている。というよりそこで私はお前に助けられたのだ。」

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