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2.伴侶の意味と現実逃避
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僕の生まれはアロガン帝国の最西端の街。庶民の両親の元に生まれた立派な平民だ。
隣の穏やかな国と面してるから、その境には両国の警備隊と検問所がある。
敵対してないし、国としての友好とかはあまり無いらしいけれど、警備隊の人達はいつも和やかに警備をしていたと思う。
僕の両親の仕事は、知らない。
大体いつも夜に喧嘩をしてた。喧嘩をすると父親が2~3日帰って来ない、帰ってきて喧嘩をして、また帰ってこなくて、それが僕の普通だった。
記憶に1度だけ、父と一緒に街に出た事がある。
旬の果物を買ってくれて嬉しかった記憶があるが、肝心の父の顔も声も記憶にない。
ある夜、いつもの様に両親は喧嘩をしていて、それに慣れてる僕は気にもせず残り物の硬くなりつつあるパンを牛乳に浸して食べてた。
それから両親の喧嘩の声が大きくなって、父が僕の名前を呼んで、頭に衝撃があった、様な気がする。
殆ど覚えてないけど周りの人から聞いた話で多分こんな感じの記憶になってる。
気が付いたら寝場所で寝てて、左耳に包帯が巻かれてて、左耳の上半分が無くなっていた。周りには吃驚されるけど、痛みは全然感じなかった。いや、痛みの記憶だけすっぽり抜けてるのか、いや、その前の記憶もあやふやだ。
僕はパンを牛乳に浸して食べてたら、頭に衝撃があって、起きたら耳が半分無くなってた。そういう事だ。
そしてそれから父は帰って来なくなって、母は夜に出掛けるようになった。
きっかけは覚えてないけれど、国の境の検問所でお手伝いを始めて、お駄賃にリンゴやパンなど食べ物を貰う様になった。簡単な読み書き計算もここで教えて貰った様な気がする。
それで多分街中でも仕事を始める事が出来たのかな。やっぱり詳しくは覚えてないんだけど、お仕事の帰りにリンゴを買ってこいって言われて、数が足りないって母に怒られてる記憶もある。
母と2人で暮らしていた筈なのに、この街の記憶では母と喋ってる記憶はほぼ無い。
それから何かがどうかなって、母がハープ子爵家の後妻になるからと街を離れた。
ハープ子爵は前妻と死別してしまったらしく、子供が2人居たが僕よりも年下だった。
母は本邸だけど、僕は別邸に追いやられた事や子爵の態度から先手を打って「僕は成人したら家をでます。」と宣言してきてたし、子爵からも「お前に継がせるつもりは無い。」とハッキリ断言されてきたから、僕は成人になるこの歳までに1人で生きて行く覚悟を決めてきた。
なのに突然「お前は隣国に行け。今すぐ準備をして行け。」と言われてしまって、はるばる1日掛けてご主人様の所までやって来た。
なのでてっきり使用人として売られたのだと思っていた。いや、正直今でも思っている。
元は平民。特に勉学に励んだことも無い、読み書き計算は出来るが、それは生きて行く為に必要だったから。
お供にルーランが着いて来てくれたのも、子爵の体裁ってものだと思っていた。
あぁ、でも今思えば使用人なのにお供がいるって変かもしれない。
だから、なんで使用人風情の僕にこんな豪華な部屋が与えられているのだろう?って思うのは間違っているのか。
ご主人様は先程、とても朗らかな笑顔で「長旅で疲れただろう?夕餉までゆっくり寛いで欲しい。」と僕たちを部屋に案内して去っていった。
「あれ、これ部屋間違えてるよね?絶対間違えてるよね!?っていうかルーランさっきの何!?帰らなくていいの!?」
しばらく経ってからハッとしてルーランに問い詰める。
しかしルーランは平然としながら「間違える訳無いと思いますけれど。俺もあそこに戻るならこっちの方が絶対待遇とか給料も良いし、帰らなくて良いなんて万々歳。」と俺に応えた。
本音が過ぎるよ・・・!
まぁ、こんな彼だから当時みんなに遠巻きにされてる僕に平然と話しかけて来てくれて、それがとても嬉しかったんだけど。
「まぁ、寛げって言われたんだから寛ぎましょう。キーリー様こちらへ。」
ルーランは部屋の入口近くにある小さめのソファセットに僕を促してお茶を入れてくれる。
「突然の従者対応、滅茶苦茶気持ち悪い・・・。」
「本日から雑務係からキーリー様の専属侍従に劇的な昇格をしたものですから。」
ああ、張り切ってるって事なのね。
促されたソファに腰を下ろすと、ふわっとお尻が柔らかい感触に包まれて、でも体は沈み込まず丁度いい沈み具合で体が支えられる。
「え何このソファ。高級品過ぎてやばい、柔らかいのに全然体が沈み込まない、何だこれ。僕の知ってるソファじゃない。」
「あれだけ嬉しそうに伴侶を出迎えたんですからこれくらい当然では?」
「は、伴侶って聞き間違いじゃなかった!?待ってそもそも伴侶ってなんだっけ?この国では使用人って意味だったかな?」
「伴侶とは、一緒に連れ立つ者の事です。夫に対しては妻。妻に対しては夫、というのが一般的です。国を超えても意味は変わりませんよ。」
え、まぢで?うそーん。
お嫁に出されるだなんて聞いてないよ。え、俺が嫁ですか?男同士ってそもそも有なの?あれ、貴族の次男以降は後継者問題とか何とかでそういう風習の国があるってどこかで耳にしたけどそれってこの国のこと!?
「あー、お茶美味しい。最高~。」
ルーランが淹れてくれた紅茶を1口飲む。
暖かく、優しい香りの紅茶にほっと息を吐く。
「現実逃避ですね。成るようにしか成らないですからね。」
分かってるよそんな事。
でも伴侶と言われて何をどうしたら良いのか分からないんだもの。使用人とか雑用とかだったら仕事してればいいんだもの。
伴侶って何するの?仕事、あるのかな?
廊下とか窓磨いてる方が落ち着くんだけどなー。
高級ソファにぐでっと体を預けて脱力する。
「こんな豪華な部屋じゃ寛げないぃぃぃ。」
「滅茶苦茶寛いでますよね。」
一々うるさいルーランを無視して、天井を見上げる。
うむ、天井が高い。
コンコンッ
軽く現実逃避を続けているとドアがノックされ声がかけられた。
「私だ。夕飯の準備が出来たので迎えに上がった。」
あー、知ってるよ僕。
これオレオレ詐欺ってやつだよね。
隣の穏やかな国と面してるから、その境には両国の警備隊と検問所がある。
敵対してないし、国としての友好とかはあまり無いらしいけれど、警備隊の人達はいつも和やかに警備をしていたと思う。
僕の両親の仕事は、知らない。
大体いつも夜に喧嘩をしてた。喧嘩をすると父親が2~3日帰って来ない、帰ってきて喧嘩をして、また帰ってこなくて、それが僕の普通だった。
記憶に1度だけ、父と一緒に街に出た事がある。
旬の果物を買ってくれて嬉しかった記憶があるが、肝心の父の顔も声も記憶にない。
ある夜、いつもの様に両親は喧嘩をしていて、それに慣れてる僕は気にもせず残り物の硬くなりつつあるパンを牛乳に浸して食べてた。
それから両親の喧嘩の声が大きくなって、父が僕の名前を呼んで、頭に衝撃があった、様な気がする。
殆ど覚えてないけど周りの人から聞いた話で多分こんな感じの記憶になってる。
気が付いたら寝場所で寝てて、左耳に包帯が巻かれてて、左耳の上半分が無くなっていた。周りには吃驚されるけど、痛みは全然感じなかった。いや、痛みの記憶だけすっぽり抜けてるのか、いや、その前の記憶もあやふやだ。
僕はパンを牛乳に浸して食べてたら、頭に衝撃があって、起きたら耳が半分無くなってた。そういう事だ。
そしてそれから父は帰って来なくなって、母は夜に出掛けるようになった。
きっかけは覚えてないけれど、国の境の検問所でお手伝いを始めて、お駄賃にリンゴやパンなど食べ物を貰う様になった。簡単な読み書き計算もここで教えて貰った様な気がする。
それで多分街中でも仕事を始める事が出来たのかな。やっぱり詳しくは覚えてないんだけど、お仕事の帰りにリンゴを買ってこいって言われて、数が足りないって母に怒られてる記憶もある。
母と2人で暮らしていた筈なのに、この街の記憶では母と喋ってる記憶はほぼ無い。
それから何かがどうかなって、母がハープ子爵家の後妻になるからと街を離れた。
ハープ子爵は前妻と死別してしまったらしく、子供が2人居たが僕よりも年下だった。
母は本邸だけど、僕は別邸に追いやられた事や子爵の態度から先手を打って「僕は成人したら家をでます。」と宣言してきてたし、子爵からも「お前に継がせるつもりは無い。」とハッキリ断言されてきたから、僕は成人になるこの歳までに1人で生きて行く覚悟を決めてきた。
なのに突然「お前は隣国に行け。今すぐ準備をして行け。」と言われてしまって、はるばる1日掛けてご主人様の所までやって来た。
なのでてっきり使用人として売られたのだと思っていた。いや、正直今でも思っている。
元は平民。特に勉学に励んだことも無い、読み書き計算は出来るが、それは生きて行く為に必要だったから。
お供にルーランが着いて来てくれたのも、子爵の体裁ってものだと思っていた。
あぁ、でも今思えば使用人なのにお供がいるって変かもしれない。
だから、なんで使用人風情の僕にこんな豪華な部屋が与えられているのだろう?って思うのは間違っているのか。
ご主人様は先程、とても朗らかな笑顔で「長旅で疲れただろう?夕餉までゆっくり寛いで欲しい。」と僕たちを部屋に案内して去っていった。
「あれ、これ部屋間違えてるよね?絶対間違えてるよね!?っていうかルーランさっきの何!?帰らなくていいの!?」
しばらく経ってからハッとしてルーランに問い詰める。
しかしルーランは平然としながら「間違える訳無いと思いますけれど。俺もあそこに戻るならこっちの方が絶対待遇とか給料も良いし、帰らなくて良いなんて万々歳。」と俺に応えた。
本音が過ぎるよ・・・!
まぁ、こんな彼だから当時みんなに遠巻きにされてる僕に平然と話しかけて来てくれて、それがとても嬉しかったんだけど。
「まぁ、寛げって言われたんだから寛ぎましょう。キーリー様こちらへ。」
ルーランは部屋の入口近くにある小さめのソファセットに僕を促してお茶を入れてくれる。
「突然の従者対応、滅茶苦茶気持ち悪い・・・。」
「本日から雑務係からキーリー様の専属侍従に劇的な昇格をしたものですから。」
ああ、張り切ってるって事なのね。
促されたソファに腰を下ろすと、ふわっとお尻が柔らかい感触に包まれて、でも体は沈み込まず丁度いい沈み具合で体が支えられる。
「え何このソファ。高級品過ぎてやばい、柔らかいのに全然体が沈み込まない、何だこれ。僕の知ってるソファじゃない。」
「あれだけ嬉しそうに伴侶を出迎えたんですからこれくらい当然では?」
「は、伴侶って聞き間違いじゃなかった!?待ってそもそも伴侶ってなんだっけ?この国では使用人って意味だったかな?」
「伴侶とは、一緒に連れ立つ者の事です。夫に対しては妻。妻に対しては夫、というのが一般的です。国を超えても意味は変わりませんよ。」
え、まぢで?うそーん。
お嫁に出されるだなんて聞いてないよ。え、俺が嫁ですか?男同士ってそもそも有なの?あれ、貴族の次男以降は後継者問題とか何とかでそういう風習の国があるってどこかで耳にしたけどそれってこの国のこと!?
「あー、お茶美味しい。最高~。」
ルーランが淹れてくれた紅茶を1口飲む。
暖かく、優しい香りの紅茶にほっと息を吐く。
「現実逃避ですね。成るようにしか成らないですからね。」
分かってるよそんな事。
でも伴侶と言われて何をどうしたら良いのか分からないんだもの。使用人とか雑用とかだったら仕事してればいいんだもの。
伴侶って何するの?仕事、あるのかな?
廊下とか窓磨いてる方が落ち着くんだけどなー。
高級ソファにぐでっと体を預けて脱力する。
「こんな豪華な部屋じゃ寛げないぃぃぃ。」
「滅茶苦茶寛いでますよね。」
一々うるさいルーランを無視して、天井を見上げる。
うむ、天井が高い。
コンコンッ
軽く現実逃避を続けているとドアがノックされ声がかけられた。
「私だ。夕飯の準備が出来たので迎えに上がった。」
あー、知ってるよ僕。
これオレオレ詐欺ってやつだよね。
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