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護る立場と護られる立場

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「んんっ!なにこれモチモチッ!美味しいっ!」

俺が食べたそれは、透明なスープの中に白い大きめのお団子っぽいものだけが入ってる物で、随分シンプルなスープだなぁ、と思って一口食べてみたらモチモチの生地に中に野菜とお肉の餡が入っていて、食べ応えのある初めて食べる美味しいスープだった。


今日はイルと新年のお祭り。
年末年始とぶっ続けで開いてるお店もあるけど、年末だけで新年は別のお店になっているのが大半だ。
出店費用を納めなくちゃ行けないし、年末と新年では出すものが違ってくるからだ。
年末はお肉系が多いけど、新年はお餅関係が多かったりするのもこのお祭りの特徴である。

「あ、ねぇねぇ!あそこのお店面白そう!餅みたいな生地で色々巻いてるって!」
「食べ物のお店なのに面白そうなの?」
「だってあんなの見た事無いよ??」

それはモチモチした生地を薄く焼いて、お肉と野菜を乗っけて巻いたり、フルーツ巻いたり、とにかく色んなものを乗せてクルクル巻いてある。

「ご飯系とデザート系と色々あるんだね。いくつか買って噴水広場に行こうか。」
「うん!そうしよ!スヴァル達も一緒に食べよ?」
「いえ、我々は職務中ですので。」

公爵家の騎士団はお堅いなぁ。
俺ら街の騎士団だったら普通に買って食べてたのに。お酒はダメだけどね。

今日のお祭りはイルと2人きりはダメ、必ず護衛を連れていくことって義母様達に言われたので、今日は公爵家騎士団から4人来てもらってる。イルに2人、俺に2人っていう感じかな?

年末に義父様達と来た時の方が護衛はもっと多かったけどね。近くに6人、遠くに6人、合わせて12人の護衛って3人に対して多いよね。俺達に12人も着いてたなんて後から知ったんだけどね。

まぁ、今日も何も無いとは思うけど、何かあったとしても俺も騎士団団長だし?魔物や魔獣相手なら今の身体強化じゃ無理だけれど、対人なら余裕だと思うし。

ふふふ、怖いもの無しの布陣だね。

イルと2人で屋台で買って噴水広場に向かう。

噴水の縁に座って買ってきたものを食べる。
お肉のもの2種類とフルーツのもの2種類。
1つが手のひら大サイズだからイルと仲良く半分こずつして。

「んー!これ包んである生地がモッチモチだねぇ。さっきからモチモチの天国だねぇ。んまぁい。お肉はやっぱり外れないね!こっちはフルーツものにして正解。きっと甘いヤツだと食べられなかったけど、これ中身イチゴだから甘酸っぱくて美味しい。バナナとチョコも合うんだねっ!」
「本当?それ食べさせて。」
「ん?はいっどーぞ。」
「食べさせてよ、折角だから。」

普通に手で渡そうとしたら食べさせてって、それってあーんしてって事!?

キョロキョロと周りを見回す。
あ、恋人同士っぽい人たち食べさせてあってるぞ、あれ、あっちでも?そっちでも?これって普通なの?
ちらっとスヴァル達を見ると「我々は周りを警戒していますので」とわざとそっぽを向いてくれた。

介護でよくイルには食べさせて貰ってたけど、いざ自分がやるとなると恥ずかしい。だって誰も俺らに注目はしてないと思うけど、でもこんな往来で!

でも、イルが望んでるなら。よし!

「イ、イルっ。はい、あ、あーんっ」
「あーんっ。ん、本当に美味しいね。あ、手にチョコレート付いちゃってるよ。」

そう言って恥ずかしげも無くチョコレートソースの付いた俺の指をぺろっと舐めた。

「っ!!?ちょっ、ここ外!」
「うん、外だね?大丈夫、誰も見てないよ。」

誰も見て無いかも知れないけど、スヴァル達には何してるかモロバレだよ!見てなくてもこういうのって分かるものなんだよ!

「ふふふ、顔真っ赤。ガイかわいい、ちゅっ。」
「なっ!!ちょぉお、俺もうゴミ!ゴミ捨てて来るっ!」
「ゴミでしたら我々が。」
「大丈夫、すぐそこだし!」

俺が小走りでゴミ箱に向かうとスヴァルともう1人が着いてくる。祭りの間はゴミのポイ捨て防止のために簡易ゴミ箱があちこちに置いてあるので、俺もすぐ近くのゴミ箱に向かった。食べてすぐ捨てられるようにゴミ箱の傍で食べてる人も少なくない。
俺が向かってるゴミ箱のそばにも、黒いローブを着た男が3人串焼きを頬張っていた。

「ガイ、置いていかないでよ。」

後ろからイルが追いかけてくる。

「もぅ、来なくてもすぐ戻るよ。」

イルがあんな事しなければ置いていかないのに。

俺は2~3歩離れた所からゴミ箱に向かって一纏めにしたゴミを投げ入れた。

それに気づいたローブの男が俺に声をかけてきた。

「あの、もしかしてガイウス様ですか?騎士団団長の。」
「ああ、はい。そうですけど。」

返事をすると後ろの1人の空気が変わるのを肌で感じた。良くない感じ、なんて言うのがいいのかな、悪意がある感じ。

俺は右手に冷気を纏わせる。バレないように、でも何か起こった際には瞬時に対応できるように。

俺の気配を感知してか、スヴァル達も身に纏う空気をピリッとさせていた。

「わぁ、俺すっげぇ運良いかも。噂のガイウス様に会えるなんて。良ければ握手してくれますか?」

そう言って男は笑顔で右手を差し出してきた。短剣を握った手を。

「っガイ!」
「ガイウス様!」

俺は瞬時に相手の右手を凍らせようとした。
けど、俺の目の前にスヴァルが割り込んできたのでそれは叶わなかった。するとイルの手が伸びてきて視界を遮られ、後ろから抱き込まれる。すぐそこで剣の交わる音と男の呻く声が聞こえる。

え、何がどうなってるのか見えない!

はっと思い立って索敵を展開する。が、その時にはもう、剣の交わる音も、殺気も消え、全てが終わっていた。

イルに抱き込まれたまま手が外されて視界が広がる。

先程のローブの3人が地面に組み敷かれていた。

「ガイウス様、大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫。スヴァル達すごい、強い、早業、一瞬だった。」
「お褒めのお言葉、ありがとうございます。しかしガイウス様、」

そこでスヴァルは一旦切って、屈んで俺と目線を合わせた。

「貴方様は私共の護衛対象です。例え騎士団団長でも、先程の奴らなんか片手でねじ伏せることが出来たとしても、護衛対象が自ら前に出て怪我でもされたら困るのです。何故なのかお分かり頂けますか?」
「う、はい、ごめんなさい。」

うん、分かるよ。だって俺も守る方の立場だもの。
幾ら護衛対象が勝手に動いて勝手に怪我をしたとしても、責任を追求されるのは護衛をしている騎士になる。
そして程度の度合いもあるが、怪我をさせてしまった場合にはクビも十分に有り得るのだ。
今回、俺はスヴァル達に守られる立場だった。だから勝手に相手に向かって行って不要な怪我をしたら、責められるのはスヴァル達 。
俺は軽率な行動をとろうとしていたのだ。

「分かって頂けなら充分です。お怪我が無くて本当に安心しました。」

スヴァルは人を安心させるような笑みを浮かべてから「騎士団に引き渡してきますね」と騒ぎで駆けつけた騎士団の元へと俺たちの傍を離れて行った。

落ち着いたら俺を抱き込んでいるイルの手が、震えてる事に気が付いた。

「イル?怖かった?ごめんね?」

俺はイルの腕を安心させるようにポンポンと軽く叩く。

けれどイルの返事は思ってもない言葉だった。

「っガイのバカ!!」

え、バカですと??
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