上 下
123 / 167

人ってびっくりすると思いもよらない音が喉から出るんだよ?

しおりを挟む
「あー、えーと、丁重に辞退します。」
「だから辞退が出来ないんだって言ってるだろう。諦めろ。」

俺は黒い人、殿下と同じようなやり取りを繰り返している。

「えーと、俺一人では決定出来ないので義母様と義父様にご相談を。」
「だから既に決定事項なんだって言ってるし、お前のおかあさまは今持ってきた手紙を読んでる最中だろう?」

なんでこうなってしまったのか。
俺には全くもって理解ができない、いや理解したくない。



王様の側近の中のとある1人がふと口にした言葉が「騎士団長はそういえば以前、第2王子殿下をお救いになられてますよね。その時の褒美も辞退されてますし、龍の狩場の被害がこれまでと比べて極端に少ないのも団長の功績であれば、やはり辞退されたとしても何かしらはないとこちらの立場としても。」という言葉らしい。

その時は周りが「まぁ本人が辞退してるんだから無理に押し付けてもね?」みたいな意見が大半で終わったらしいのだが。

ところがつい最近、海沿いの街の護岸と港湾工事を終えたその地の領主に今後の発展の期待を込めた褒美を贈ろう、という事になったのだがその工事の指揮を務めた青年が「大きな功績を出している騎士団団長様は何一つ褒美を受け取っていないのに、こちらが褒美を受け取れるものだろうか。」と言い出したらしい。

いや、誰だよそいつ。俺のことはいいから褒美受け取りなよ。工事って1人で出来るものでも無いんだし、街の為にもさぁ。

その青年はその町の領主が運営してる学校の首席卒業者で、後継のいなかった領主夫妻の養子になっていて、ってそんな情報要らないよ。俺からしたらなんの関わりもない赤の他人だよ。なんで俺の事気にしたんだよ、俺はいいんだよ、だって職務だもの。お給料が対価ですよ、それで充分なんですけれど。

それにさぁ、その街って南の国との貿易で使ってる港町でしょ?義母様の弟さん?だっけ、が嫁いでちょっと国として交流のある街なら港湾工事はかなり重要じゃない?俺は職務。あっちは今後の未来の発展に重要な工事の完成。ほらぁ、重要度が全然違うのにぃぃぃ。


「はぁ~、どうやったら辞退出来るんですかぁ。」
「だから出来ないんだ。いい加減言わせるな。」
「マシューお義兄様ぁ~。」

俺は殿下のお付で着いてきたマシュー義兄様に助けを求めたが「ごめんね、今日は私は殿下の付き人だから」と呆気なく振られてしまった。

「そうか。ふむ、これは断れないな。」

義母様が手紙を読み終えて殿下に向き直った。
義母様がそういうって事はそうなんですね。

「殿下、この内容承知した。すぐ返事を書くから今しばらくお待ち願いたい。」
「ああ。」

殿下は簡単に義母様に返事をすると俺に向き直った。

「残念だったな。参加決定だ。今回は終わったらその後夜会もあるからな?」
「あああ、不参加でお願いし」
「却下だ。」

そんな被せ気味で拒否しなくても~。

「殿下。お待たせした。これを。」
「ああ、急かして悪かったな。では当日待っているぞ。」








「嵐が去っていった・・・。」
「まぁ、丁度いいじゃないか。この際この時に色々公表してしまおうか。全部終わらせて夜会を楽しもう。美味しい料理が沢山出るぞ?ダンスの演奏もうちとは比べ物にならないしな、見学する気持ちで気軽に参加すればいいんだよ。」
「義母様もしかして夜会好き?」
「ああ、嫌いじゃないな。特に王宮主催の物は規模が違うからな。色々な物が色々すごいぞ。そうだ、衣装もまた仕立てなくちゃだな。すぐ手配しよう。ふ、ガイウス今からそんなに緊張しなくても大丈夫。今回は病み上がりという事にして事前にダンスには誘われないようにしておくから。」
「お心遣いありがとうございます。」

ダンスが嫌だなぁっていう心が義母様に筒抜けだった。あはは。まぁ、今の俺じゃ不意の接触も怖いもの。壁の花に、いや端っこの観葉植物に、いやぁ、壁紙かな!壁紙になりきろうかな。うん、美味しい物食べてその後は壁紙になりきろう!

俺がそんな事を考えてる間に、義母様はお針子さんたちが明日来るように、イルも一緒に採寸するように手配していた。仕事が早いです義母様。

「ああ、あと、うちでは他の目が無いから構わないが、外で殿下とあの口調は辞めなさい。」
「はい、心得ております。」

本当は騎士団詰所内でも殿下とあの口調はダメなんだよね。次から気をつけよう。次があったら、ね。
まぁ、次回は場所も雰囲気も違うんだし大丈夫。

「ふふ、本当に綺麗な黒髪だねぇ。瞳は真っ黒かと思いきや光の当たり様によっては琥珀色に輝くし、不思議な色だね。さて、衣装の希望は?」

俺の髪を優しく撫でて瞳を覗き込んだ後に衣装の希望を聞かれたが「特にないです」って答えたらイルと2人でなんかひらひら衣装にされそうな気配を感じたので「シンプルなのが良いです」って答えておいた。
「なるべく希望に添える様に努力しよう」って返ってきたけど、努力する気ないよね、それ。


次の日から慌ただしく準備が始まった。

まず1日かけて採寸と衣装の打ち合わせ。
総勢10名でやってきたお針子さんたちは、俺の手首に着いているブレスレットを見て即座に「ご婚約おめでとうございます」とお祝いの言葉を言ってくれた。
嬉しいやら恥ずかしいやらで居たたまれなかったけど、直ぐに始まった採寸と衣装の打ち合わせでそんな気持ちはすぐどこかに飛んで行った。
と言っても採寸の後はイルと義母様とお針子さんであーだこーだ言っているのを俺はそばで聞き流す。時々意見を聞かれるので答えるだけ。
それでもそれを1日かけてやれば相当疲れるのだ。夕飯の頃には俺はグッタリしてたけど、イルと義母様はその後も衣装のことで話し合っていたらしい。
好きだねぇ、2人とも。

そのあとは数日かけて授与式の練習とか受け答えとか、夜会のあるある話を聞いたりとか、マナー講習とか。

そういえば肝心の褒美って何貰えるんだろう?当日まで秘密なのかな?

「義母様、そういえば褒美って具体的に何ですかね?当日まで秘密だったりするんですか?」
「いや、既に決まっているが、伝えてなかったか?」
「はい、俺は何も聞いてません。」

それを聞いていたエイデン義兄様が俺を見て義母様を見る。

「母さん、それ1番先に伝えなくちゃいけない事だよ。」

へ?もしかしてそんなすごいもの貰えるの?

「ああ、ごめんガイウス。伝えたつもりになっていた。褒美の内容なんだがな。」
「はい。」

俺はドキドキしながら義母様の次の言葉を待った。

「子爵位と領地。後は当日のお楽しみと書いてあった。」

「・・・・・・ん゙ぇ??」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

応募資格は、「治癒師、十三歳、男限定???」

若松だんご
BL
【お知らせ】 このたび、pixivさまで開催されていた、「ゆるキュンBLマンガ原作コンテスト3」で佳作を受賞しました。 しかーし! 書籍化、コミック化などの展開はありませんので、こちらに投稿している分は、非公開などせずにこのまま置いておきます。 ―――――――――――  ――俺のお仕えする殿下のお身体を診てあげてほしい。  治癒師のじいちゃんの弟子として暮らしていたリュカ。そのじいちゃんの患者だったオッサンから、仕事の依頼が来た。なんでも、オッサンの仕える相手は、皇太子殿下で。体が弱ってるのに、治療を嫌がってるらしい。……ガキかよ。  ――殿下と同い年のキミなら。キミにならきっと殿下もお心を開いてくれると思うんだ。  なんかさ。そう言われちゃったら、頑張るしかないじゃん? でも。  なんで、「治癒師、十三歳、男限定」なんだ???  疑問に思いつつも、治癒師として初仕事に胸踊らせながら皇宮を訪れたリュカ。  「天女みたいだ……」  皇宮の庭園。そこにたたずむ一人の少年。少年の目はとんでもなく青くて透き通ってて、湖面のようで、夏の空のようで宝石のようで……。見惚れるリュカ。だけど。  「必要ない」  少年、ルーシュン皇子は、取り付く島もない、島影すら見えないほど冷たくリュカを突き放す。  ……なんだよ。こっちはせっかく、わざわざここまで来てやったのに!   リュカの負けず魂に火がつく。  こうなったら、なにが何でも診てやらあっ! たとえそれが茨の道でも、危険な道でも、女装の道でも……って、え? 女装ぉぉぉっ!? なんでオレ、皇子の「閨事指南の姫」なんかにされてるわけっ!?  「いやなら、治療を降りてもいいんだぞ?」  居丈高にフフンと鼻を鳴らす皇子。  ええい、ままよ! こうなったら、意地だ! ヤケだ! 皇子の面倒、とことん診てやらあっ!  素直になれない皇子と、感情一直線治癒師の中華(っぽいかもしれない)物語。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

処理中です...