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シャワーは万能じゃないらしい

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「ええと、俺まだ書類捌くからクーグゥ義兄様も帰って大丈夫ですよ?」
「いや、イルヴェスが迎えに来るまで居るよ。」
「そう?ですか。」

俺はまた書類を手に取って捌き始めた。
あー、途端に面倒になってきた。ニールがまとめてくれた入団志望者の書類でも眺めるか。

「ガイウス、なんかごめんな?」

突然クーグゥ義兄様が小さく謝罪をした。疑問符付きで。

「ぇぇぇぇ。なんかって何ですか。何で疑問形です??っていうか心当たりが多すぎて何に対する謝罪です??」
「え、俺そんなにガイウスに謝らなきゃいけないことあるか?」
「あるでしょう!?全部がそうでしょう!?」
「はぁ?全部!?お前俺が下手に出たからって大きく出てんじゃねぇよ!」
「どこが下手に出てますか!?そして何に対しての謝罪何ですか!」
「あーもー!なんでわかんねぇんだよ!」
「わかるわけないじゃないですか!」
「それは、えーとだな。その、団長やらせちゃった事とか、あんま説明もしないで父上の養子にさせた事とか、勉強詰め込みすぎて反省してるとか、正直今回のだって俺は、ガイウスが色々嫌になってまじで逃げ出したかと思ったし。俺のせいで、とか。」
「それ、クーグゥ義兄様も1から10まで自分のせいだって思ってるじゃん。」
「だからごめんて。」
「まぁ、俺も気づいたら団長ってもっと早く気付ける場面いっぱいあったろって思ったし。」
「え、あれまじで気づいてなかったの?」
「は?ちょっと義兄様が俺の事嵌めたのが始まりでしょ?」
「だからごめんて。」
「義弟にしてくれたのも、イルとの事とか、俺には分からない王宮でのゴタゴタとかあったから俺の事考えてくれてるのは分かってるし。」
「俺がお前を義弟にしたい気持ちは強かったぞ?」
「なんですと??え、俺クーグゥ様に囲われたって事?」
「でもおかげでイルヴェスと結婚しやすくなったぞ?」
「ん?え?あれ??そうですね??」
「じゃぁガイウスは俺に感謝だな?」
「え?うん?ありがとうございます??え、そういう話でしたっけ?」

面倒な書類は片付けたし、夜も遅いし、俺もう頭働かないよ。

「俺新しいお茶煎れますね。」
「いや、辞めとけ?俺が淹れる」
「いやいや、お茶くらいは煎れられるんですよ。なんてったってリックステンが良いものを取り入れて下さったんで 。」
「何、どんな良いもの?」
「じゃっじゃーん。ティーバッグというものです!これをカップに入れてお湯を注いで、好みの濃さになったらこれ取れば、ほら出来ました!」
「ほぉ、これが今話題のねぇ。」
「リックの親戚が商人しててぜひ俺にって!凄くないですか?俺の料理出来ない噂はどこまで広がってるんでしょうね?」
「料理以前の問題だろ。」
「そうですか、そうですよね、そんな気はしてました。」

お茶とお茶菓子を持って簡易ソファに移動する。
そういえば、クーグゥ義兄様と2人っきりって今まで殆ど無かったかも?

「そういえばガイウスの首都に来るまでの話が聞きたいなと思って。」
「・・・どこから?俺が生まれてから?」

まぁどこから話しても義兄様には異次元の話だろうね。

「んー、そうなるよな。じゃぁ、あ、そーいえば魔法陣かけるのか?」
「そういえば首都ってかける人、っていうか多分この国でかける人が少ないんですかね?俺が出来るのはちょっとだけですよ。基本だけ。少しだけ勉強して、あ、俺には無理だなって諦めました。」
「それは教えて貰える環境にあったってこと?」
「うーん、秘密です。」
「じゃぁ、魔術を教わったのは別の人って事か?」
「そうですそうです。全く別の人。首都まで一緒に来てもらいました、っていうか偶々目的地が一緒だっただけですけど。」
「その人は今どこに居るんだ?」
「さぁ?色々見て回ってるって言ってたから、国外じゃないですか?あ、そもそもこの国の人じゃないですよ?どこかは知らないですけれど。」
「何でその人に教えて貰えたんだ?」
「んーとなんだっけかな。何か俺が飯狩ってて、偶々そこに居て、なんか突然『魔力の使い方が勿体なさすぎる!』って何だかんだでそうなった。」
「え、お前今でも結構な使い方してるよな?」
「えへへ。まぁ、魔力量だけはありますしね?」
「っていうか、元々そんなに魔力量多かった、のか?ってこれお前に聞いてわかる事?」
「元々は普通よりちょっと多いかな位だったって聞いてます。ただ、えーと、あのですね。まぁよく死にかけてたって言うか、ほら俺オオカミ族の中で1人ポツンとヒト族のガキで、皆も力加減が分かるわけないって言うか、骨折なんて日常茶飯事だったし、飲み薬とか俺には濃すぎて3日間目覚めなかったとかあったし?」
「え、死の淵を彷徨うと魔力量が上がるってやつは本当だったのか。」
「んー、多分?」
「いやっつぅか、お前よく今まで生きてたな?」

そう言ってクーグゥ義兄様は俺を軽くぎゅっと抱きしめた。

「本当に俺も思います。まぁでも俺悪運強いんですよ。良い人にも当たるし。多分この2運だけで生き延びてこられた感じですかね?」

にへらっと笑って俺は大事なことを義兄様に伝えた。

「あと、イルは迎えに来ないと思いますよ?きちんと帰るって言ってあるし。だからそろそろ帰りましょう!」

「・・・は?来ないのか?イルヴェスは。」

なんでそこで当たり前にイルの迎えが来ると思ってるんだろうか。俺とっくに成人してる大人ですけれど?まさか職場にお迎えって無いでしょう??

「普通に考えて来ないでしょうよ。はいはい、片付けて片付けて。日付が変わる前に帰りますよー?」
「え?本当に来ないの?」
「だから来ないってば!」

んもー、なんなのこの人は!来ないって言ってるじゃんか!と俺は少しぷりぷりしながら義兄様を急かして詰所を出る。

「っていうかお前そのまま帰って大丈夫なのか?って言ってもシャワーで落ちるものでもないしな。」
「へ?」
「だって、ルーカス様とマシュー兄さんにめっちゃスリスリされてたじゃん?」
「・・・あ。う、ん。何とかなるよ。なんとかするよ。なるようにしかならないよ。」
「まぁ、頑張れ。」


案の定というか、なんというか。
帰ったらイルに物凄い笑顔で「書類裁きに行ったんだよね?」「どういう事?」「なんで?」「俺放っておいて何してたの?」と質問攻めにされて、答えられない俺に、というか答えても聞いてくれないイルにお風呂へと直行された。

イルとお風呂は嬉しいけども!心の底から嬉しいけれども!
でもこれ確実に俺の人権は無いお風呂だよね?
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