上 下
46 / 167

義弟が(やっと)出来たのでこれから楽しくなりそうだ

しおりを挟む
俺の目の前にはソファに座ってるイルヴェスと、その膝の上に跨って胸元にしがみついてわんわん泣いてるガイウスが居た。

「もうヤダ、全部っ何もかも、ひっ、辞めてやるっうっうぅ゙~」
「ガイが辞めたら誰が団長やるの?皆困っちゃうんじゃない?」
「だからっ辞め゙られな゙っい゙んじゃん~」
「そうだよねぇ。うんうん、ガイは偉いよ、いつも立派だねぇ。ほら、クーグゥが来たから少し落ち着こう?」
「ゔゔぅ~、ヤダ帰゙るぅ」

おっっっと、これは俺のせいなのか?っていうかどういう状況でこうなったんだ?
俺はイルヴェスに そろそろ起きると思うから何か口に出来るものをって言われて、部屋の外に仕えさせてた使用人に言伝を頼んだだけのちょっとの間に一体何が?

「ええとガイウス、起きたなら何か口にし」
「いらないっ!」
「せめて水だけで」
「いらない!」
「・・・。」

え、俺どうしたらいいの?
視線でイルヴェスに訴える。

「・・・はぁ。」

溜息を吐かれたんですけれど?

「ガイ、ずっと寝てたから何か口にしないと体が持たないよ?」
「いらない。食べたくない飲みたくない、帰りたい。」
「・・・・・・。」

「クーグゥ、目が覚めたから医者を。」
「ああ。」
「医者なんて要らないし元気だし帰るし!」
「ご飯も食べられない子が何言ってるの?」

・・・うん?なんでイルヴェスは両手を獣化させてるんだ?

そのままイルヴェスは胸元に張り付いてたガイウスの両頬を包んでガッと引き剥がした。

「・・・食べられないんじゃなくて、食べたくない気分なだけだもん」

ガイウスはイルヴェスと目線を合わせずボソボソっと言うが、何故か両手は獣化した手に重ねている。
そしてイルヴェスはそのままガイウスの頬をむにむにしてる。

2人の行動が謎すぎる。・・・あーあ、ガイウスは泣いちゃったから目が腫れて赤くなってるし。

っていうかイルヴェスってガイウスの前だとこんな優しい顔するんだな、初めて見たわこんな顔。今恐らくガイウスは超絶面倒な感じになってるのに口調も優しいし、俺の知ってるこいつじゃない。

「ガイ。俺達からしたら仕事終えて体調不良で吐いて倒れて今までずうっと寝てたのにご飯も食べないなんて、まだ元気になってないんだとしか思えないんだよ?」
「ぇ、俺吐いたの?」
「あ、あー。それ半分以上は俺の親父が原因・・・。」
「ぇ?ぁ、そーいえばノア様がフランリード公爵様が来るって言ってた・・・。ずびっ。」
「はぁ、泣いたから鼻水出てんじゃん。ほら鼻かめ。」

両手がイルの獣化した手の上だったのでハンカチでガイウスの鼻を包んでやると、ずびーっと遠慮なく鼻をかんできた。

まぁ良いけどよ。もう殆ど俺の義弟おとうとだしね。面倒をみたってことで、うん。
それにどうやら親父に会った記憶は無いみたいだな?

コンコン

「ぁ、飯かな」

部屋がノックされたので確認に行くと先程言伝を頼んでおいた軽食が届いていた。
部屋までは入れずにカートを受け取って俺が運ぶ。
イルヴェスが、ガイウスが他人に気を使うから人を入れないでと言ったからだけど、正直面倒だ。テーブルまでは運んで更に並べて欲しい。その後出ていけばいいじゃん?

まぁ仕方がないので俺が全部やる。

「ほらガイウス、何でも良いから食え。」

先ずはパン粥かなと皿を渡そうとしたが。

「取り敢えず水」
「・・・食えよ、何かを。」

そう言いながら水を渡す俺って優しいね。もう既に義弟おとうと想いの良い兄貴じゃないか?

その後はイルヴェスが適当に摘んでガイウスの口元に持って行って食べさせてる。持ってきたものを嫌がる素振りは見えない。
因みにイルヴェスはフォークを持つ左手だけ獣化を解いて、獣化したままの右手はガイウスが揉んでいるという不思議な光景だ。

あー、親子?餌付け?・・・介護、介護かこれは。介護だな。

俺もなんとなく小さめにカットされたフルーツにフォークを突き刺してガイウスの口元に持って行った。

パクッもぐもぐもぐもぐ、ごっくん。

眉間にシワをこれでもか!という程寄せてはいたけれど、パクッと咥えて咀嚼し飲み込んでくれた。

「・・・俺の事嫌いなの?」

いや、食べてはくれたけどすっごい顔してるからさ、俺の事嫌いなのかと思っちゃうじゃん?

「・・・・・・。」

ぅん?ちょっと何も言わないで見つめられるとドキドキしてくるんだけど。

「・・・・・・ぃ。」
「え、なんて?」
「嫌いじゃないって言ったんです。・・・義兄にいさま。」

ん?俺の聞き間違いじゃないよな?今俺の事”にいさま”って言った?

俺自分でも今気持ち悪いくらいニヤニヤしてると思うけど、へへへ。

取り敢えず気が変わらない今のうちにと契約書を机の上に広げて俺も両手を広げた。

「俺の膝の上も空いてるぜ?」
「いえ、結構です。」

ん゙ん゙っ、即答過ぎない?

ペンを受け取って契約書と向き合うガイウスを見る。サインをしようとして手が止まった。
それからふっと俺を見て、次にイルヴェスを見てぽつりと呟いた。

「俺これにサインして血判したら明日にはケモ耳と尻尾が生えてたりして、」
「いや、それはねーから早く書け?」
「ゔゔぅ゙~。」
「いや、待て何で泣く!?」
「俺だってケモ耳と尻尾欲しいし、俺だけ無いし、ぅ゙ぅ~。」

ああ。獣人に憧れてたのは知ってたけどいつも無いものねだりしたって仕方が無いと言い張ってたけどやっぱり強がりだったんだな。そうだよなぁ、この国でヒト族なんて正直俺も、ガイウスしか見た事ない。閉鎖的な国だから外交らしい外交も無いし、外から来る旅人や商人も獣人ばっかできっとヒト族はこの国を避けてるんだろうな。
そりゃ、1人だけっていうのはずっと疎外感感じるよな。

「ああ、悪かった。無神経な事言って。」

ガイウスの頭をぽんぽんと撫でる。

「いえ。・・・義兄にい様のせいでは無いですし。俺も無いものねだりしても仕方ないって分かってます、から。」

そう言って契約書にサインをした。
次は血判だけど、小さなナイフを俺に寄越し、目を瞑って手を差し出した。

「・・・何?」
「じ、自傷行為なんて怖くて出来ないんでやって下さいっ」
「お前、本当そーいうとこあるよなぁ。」
「っ!」

ガイウスの親指をナイフの刃で軽く撫でるとスっと赤い筋が走る。それがぷっくり膨れるのを待ってから契約書のガイウスのサインの上に押し当てた。

ガイウスのサインがインクの黒色だったのが血判を押したことによって魔力で碧く染まっていく。

「お前の魔力、宝石みたいな綺麗な碧色だな。」

このインクは魔力によって色が変わる。ガイウスのは宝石のような綺麗な碧色に変わった。ここまで綺麗な色が出るのも珍しい。

ガイウスの文字の色が全部変わると、魔力の籠ったインクで捺した公爵印とガイウスの魔力で契約書が淡く光る。光がだんだん小さくなり、やがて消えると契約は完了だ。

「よし、これで今からお前はガイウス・フランリードで、俺の義弟おとうとだ。はぁ~、ここまで長かったなぁ。」
「俺もとうとう貴族社会に足を踏み入れてしまった・・・はぁ。っていうか義兄にい様って上にもう2人いらっしゃるんですよね?挨拶とかしてないけど、あ、義母かあ様?もすみません、えと、」
「ああ、大丈夫大丈夫。お前有名だから向こうはみんな知ってる。」
「それ逆に俺が危うくないですか?」
「まぁ母さんは家にいるからこれから行く?」
「え!あ、待って心の準備がっ」

胸に手を当ててスーハースーハーしてる義弟おとうとを見るて、くつくつと笑いが込み上げてくる。

「ははっ悪い、今日は行かねぇよ。お前病み上がりだしな?くくっ。」

ガイウスの騙された!って顔が何とも言えないな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

応募資格は、「治癒師、十三歳、男限定???」

若松だんご
BL
【お知らせ】 このたび、pixivさまで開催されていた、「ゆるキュンBLマンガ原作コンテスト3」で佳作を受賞しました。 しかーし! 書籍化、コミック化などの展開はありませんので、こちらに投稿している分は、非公開などせずにこのまま置いておきます。 ―――――――――――  ――俺のお仕えする殿下のお身体を診てあげてほしい。  治癒師のじいちゃんの弟子として暮らしていたリュカ。そのじいちゃんの患者だったオッサンから、仕事の依頼が来た。なんでも、オッサンの仕える相手は、皇太子殿下で。体が弱ってるのに、治療を嫌がってるらしい。……ガキかよ。  ――殿下と同い年のキミなら。キミにならきっと殿下もお心を開いてくれると思うんだ。  なんかさ。そう言われちゃったら、頑張るしかないじゃん? でも。  なんで、「治癒師、十三歳、男限定」なんだ???  疑問に思いつつも、治癒師として初仕事に胸踊らせながら皇宮を訪れたリュカ。  「天女みたいだ……」  皇宮の庭園。そこにたたずむ一人の少年。少年の目はとんでもなく青くて透き通ってて、湖面のようで、夏の空のようで宝石のようで……。見惚れるリュカ。だけど。  「必要ない」  少年、ルーシュン皇子は、取り付く島もない、島影すら見えないほど冷たくリュカを突き放す。  ……なんだよ。こっちはせっかく、わざわざここまで来てやったのに!   リュカの負けず魂に火がつく。  こうなったら、なにが何でも診てやらあっ! たとえそれが茨の道でも、危険な道でも、女装の道でも……って、え? 女装ぉぉぉっ!? なんでオレ、皇子の「閨事指南の姫」なんかにされてるわけっ!?  「いやなら、治療を降りてもいいんだぞ?」  居丈高にフフンと鼻を鳴らす皇子。  ええい、ままよ! こうなったら、意地だ! ヤケだ! 皇子の面倒、とことん診てやらあっ!  素直になれない皇子と、感情一直線治癒師の中華(っぽいかもしれない)物語。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~

てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」 仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。 フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。 銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。 愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。 それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。 オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。 イラスト:imooo様 【二日に一回0時更新】 手元のデータは完結済みです。 ・・・・・・・・・・・・・・ ※以下、各CPのネタバレあらすじです ①竜人✕社畜   異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――? ②魔人✕学生   日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!? ③王子・魔王✕平凡学生  召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。 ④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――? ⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

処理中です...