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後編*ヴィルヴィとラントラファス*13
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<20>
ヴィルヴィと長(おさ)たちは、園(その)で祈りを捧(ささ)げた。来る日も来る日も祈りは続き、同時に指が力を象(かたど)った。園(その)の気は醸成(じょうせい)されていった。樹々は緊張を孕(はら)んでざわめき、動物や草花は気配に敏感になった。園(その)の全てが、これから起きることに身構えているようだった。
<21>
ヴィルヴィは祈りを捧げながら、設計者と時を探した。
時はすぐに見つけた。混沌の言葉通り、宇宙全体に大時間が流れていた。そして極小時間は、個体を作る最小単位の粒の中にあった。
極小時間を見つけるために、ヴィルヴィは意識を最小粒子に合わせた。ヴィルヴィの意識が全ての感覚を最小粒子の大きさに合わせると、驚くべき世界がヴィルヴィの前に広がった。
世界は全て、最も小さな粒(つぶ)で造られていた。この最小の粒はとんでもなく小さく、肉眼(にくがん)では見えない。この最小粒子(りゅうし)はほんのわずかな隙間(すきま)を保ったまま、他の最小粒子と結合している。結合した最小粒子はグループを作り、グループがさらにいくつも結合して、大きなグループを作った。そのグループはさらに他のグループと結合し、重なり、あるいは絡み合い、その度(たび)に複雑な形態(けいたい)となった。
世界に存在する全てのものは、生物であろうと非生物であろうと、最小粒子が結合してグループを作り、さらに結合して絡み合い、その度(たび)に複雑化した。その結果が現在の姿である。そのことをヴィルヴィは知った。
「最終の姿や形がどうあれ、全ては最小粒子から始まっている。」自分たちがそれを意識することは困難だ。が、ヴィルヴィの眼前(がんぜん)で繰り広げられているのは、そういう現実だった。そして全ての最小粒子は、極小時間を持っていた。
最少粒子は、他の多くの最小粒子と結びついて、複雑な構造物を作っているが、一つ一つの粒子はあくまで独立している。粒子同士が溶けて一体化しているわけではない。つまり構造物は、どれほど複雑であれ、最小粒子が集合し結合しているだけである。互いの間には、隙間さえある。従って構造物は、つまり物質は、最小粒子に解体することが可能なのである。
但(ただ)し、最小粒子は独立しているが、他の粒子と互いに影響し合っている。その影響は結合状態やグループの特色など、条件によって様々(さまざま)だ。問題は、粒子同士の影響が、極小時間に関わるということだ。実は外からの影響は、極小時間の速さを左右するのである。
つまり最小粒子の時間の速さは、粒子ごとに違う。極小時間は同一ではないのだ。これを知ったヴィルヴィは衝撃を受けた。
(ではどうやって時間を取りだせばよいのだ?一体どれが「時間」なのか?時の実体はどこにあるのだ?大時間が時の実体なのか?だが現実に、私の目の前に極小時間がある……。)
(いや、もしかしたら本当に、大時間が時の実体なのかもしれない。)
そう思い直したヴィルヴィは、意識を、最小の世界から宇宙の広がりへと移動させた。
<22>
宇宙では数えきれないほどの恒星が輝き、空間を鮮やかに彩(いろど)っていた。が、それでも宇宙の暗がりを埋(う)めるほどではない。
恒星もその光も惑星や衛星、星々に存在する何もかも、さらには空間さえも、最小粒子で構成されている。そこには真(しん)の意味で「無」は存在しない。
全ての最小粒子は、振動している。さらに全ての最小粒子に組み込まれた極小時間が、各々(おのおの)の速さで時を刻む。宇宙空間は無音だが、振動と時の刻(きざ)みに満ちていた。
ヴィルヴィは、宇宙に広がる「管理する者」の存在を強く感じた。と同時に、ヴィルヴィの体中の細胞が身構えた。それが設計者だろうと、ヴィルヴィは見当をつけた。恐らく設計者はヴィルヴィを察知(さっち)しただろうが、取るに足らずと判断したのだろう、気を向ける様子もなかった。
ヴィルヴィには、設計者のやっていることがわかった。設計者は、混沌が産んだものを宇宙の構成物としてデザインし、組み立てて作り上げ、管理していた。基本的に、関わるのは種(しゅ)の発生の時と消滅の時のようだが、自分の創った法則とデザインに則(のっと)って行動しており、同時に、常時監視し管理していた。
その管理に最も重要なのが「時」だった。ヴィルヴィはそれを、感覚で捉(とら)えることができた。
ヴィルヴィは、設計者が全ての極小時間を束(たば)ねることができることも知った。そしてそれを秩序付け、大時間として宇宙に流していることもわかった。
ヴィルヴィは、これで設計者と時についてほぼ理解できたと思った。しかし、設計者と時を狩る方策は、依然(いぜん)としてわからなかった。どれも全て実体であり、偏(かたよ)ることなく、あまねく全宇宙、全世界に存在していた。
全世界、全宇宙に存在する実体でありながら、核が無い。それはつまり、設計者と時は掴(つか)みようがない存在だということだった。どこであろうといつであろうと、彼らは実際に存在する。だが掴むことができない。これでどうやって狩ればよいのか…。ヴィルヴィは途方に暮れた。
ヴィルヴィと長(おさ)たちは、園(その)で祈りを捧(ささ)げた。来る日も来る日も祈りは続き、同時に指が力を象(かたど)った。園(その)の気は醸成(じょうせい)されていった。樹々は緊張を孕(はら)んでざわめき、動物や草花は気配に敏感になった。園(その)の全てが、これから起きることに身構えているようだった。
<21>
ヴィルヴィは祈りを捧げながら、設計者と時を探した。
時はすぐに見つけた。混沌の言葉通り、宇宙全体に大時間が流れていた。そして極小時間は、個体を作る最小単位の粒の中にあった。
極小時間を見つけるために、ヴィルヴィは意識を最小粒子に合わせた。ヴィルヴィの意識が全ての感覚を最小粒子の大きさに合わせると、驚くべき世界がヴィルヴィの前に広がった。
世界は全て、最も小さな粒(つぶ)で造られていた。この最小の粒はとんでもなく小さく、肉眼(にくがん)では見えない。この最小粒子(りゅうし)はほんのわずかな隙間(すきま)を保ったまま、他の最小粒子と結合している。結合した最小粒子はグループを作り、グループがさらにいくつも結合して、大きなグループを作った。そのグループはさらに他のグループと結合し、重なり、あるいは絡み合い、その度(たび)に複雑な形態(けいたい)となった。
世界に存在する全てのものは、生物であろうと非生物であろうと、最小粒子が結合してグループを作り、さらに結合して絡み合い、その度(たび)に複雑化した。その結果が現在の姿である。そのことをヴィルヴィは知った。
「最終の姿や形がどうあれ、全ては最小粒子から始まっている。」自分たちがそれを意識することは困難だ。が、ヴィルヴィの眼前(がんぜん)で繰り広げられているのは、そういう現実だった。そして全ての最小粒子は、極小時間を持っていた。
最少粒子は、他の多くの最小粒子と結びついて、複雑な構造物を作っているが、一つ一つの粒子はあくまで独立している。粒子同士が溶けて一体化しているわけではない。つまり構造物は、どれほど複雑であれ、最小粒子が集合し結合しているだけである。互いの間には、隙間さえある。従って構造物は、つまり物質は、最小粒子に解体することが可能なのである。
但(ただ)し、最小粒子は独立しているが、他の粒子と互いに影響し合っている。その影響は結合状態やグループの特色など、条件によって様々(さまざま)だ。問題は、粒子同士の影響が、極小時間に関わるということだ。実は外からの影響は、極小時間の速さを左右するのである。
つまり最小粒子の時間の速さは、粒子ごとに違う。極小時間は同一ではないのだ。これを知ったヴィルヴィは衝撃を受けた。
(ではどうやって時間を取りだせばよいのだ?一体どれが「時間」なのか?時の実体はどこにあるのだ?大時間が時の実体なのか?だが現実に、私の目の前に極小時間がある……。)
(いや、もしかしたら本当に、大時間が時の実体なのかもしれない。)
そう思い直したヴィルヴィは、意識を、最小の世界から宇宙の広がりへと移動させた。
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宇宙では数えきれないほどの恒星が輝き、空間を鮮やかに彩(いろど)っていた。が、それでも宇宙の暗がりを埋(う)めるほどではない。
恒星もその光も惑星や衛星、星々に存在する何もかも、さらには空間さえも、最小粒子で構成されている。そこには真(しん)の意味で「無」は存在しない。
全ての最小粒子は、振動している。さらに全ての最小粒子に組み込まれた極小時間が、各々(おのおの)の速さで時を刻む。宇宙空間は無音だが、振動と時の刻(きざ)みに満ちていた。
ヴィルヴィは、宇宙に広がる「管理する者」の存在を強く感じた。と同時に、ヴィルヴィの体中の細胞が身構えた。それが設計者だろうと、ヴィルヴィは見当をつけた。恐らく設計者はヴィルヴィを察知(さっち)しただろうが、取るに足らずと判断したのだろう、気を向ける様子もなかった。
ヴィルヴィには、設計者のやっていることがわかった。設計者は、混沌が産んだものを宇宙の構成物としてデザインし、組み立てて作り上げ、管理していた。基本的に、関わるのは種(しゅ)の発生の時と消滅の時のようだが、自分の創った法則とデザインに則(のっと)って行動しており、同時に、常時監視し管理していた。
その管理に最も重要なのが「時」だった。ヴィルヴィはそれを、感覚で捉(とら)えることができた。
ヴィルヴィは、設計者が全ての極小時間を束(たば)ねることができることも知った。そしてそれを秩序付け、大時間として宇宙に流していることもわかった。
ヴィルヴィは、これで設計者と時についてほぼ理解できたと思った。しかし、設計者と時を狩る方策は、依然(いぜん)としてわからなかった。どれも全て実体であり、偏(かたよ)ることなく、あまねく全宇宙、全世界に存在していた。
全世界、全宇宙に存在する実体でありながら、核が無い。それはつまり、設計者と時は掴(つか)みようがない存在だということだった。どこであろうといつであろうと、彼らは実際に存在する。だが掴むことができない。これでどうやって狩ればよいのか…。ヴィルヴィは途方に暮れた。
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