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後編*ヴィルヴィとラントラファス*6
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ラントラファスには、思いついたことがあった。それで何かできるとは思えなかったが、ともかく伝えてみることにした。
「一つよろしいでしょうか?」
「うむ。」
「以前お目にかかった時、お手の中で色んな物をお造りになっていましたね。あれは今でもおできになりますか?」
「できるぞ。ほら。」
ヴィルヴィは両手の中に、非常に複雑で高度な造形を、誰にでもできそうに思えるほど簡単にやってのけた。さらに大きさを変え、思い通りに動かして見せた。
「これらが自分で動くようにもできる。」
言葉通り、ヴィルヴィの造った造形が、勝手に動いた。
ラントラファスが尋ねた。
「女王、このようなお尋(たず)ねをお許しください。そのお力は、何のお力だとお考えですか?」
ヴィルヴィはきょとんとした。
「申している意味がわからぬが、私の力であろう?」
「エウデアトの王は、園(その)の力を使って儀式をなさいます。王の力は、園(その)の力を引き出し、利用する力です。ツアグ王はその力が並外(なみはず)れておられました。女王と同じです。」
「そうか。」
「はい。ですが、ツアグ王は園(その)の力だけではなく、混沌のお力を利用できたお方(かた)でした。」
「どういうことだ?」
「実は、園(その)は混沌がお造りになりました。この星になぜ園(その)をお造りになったのか、私にはわかりません。園(その)に流れる川は、本当は川でなく、混沌が水分に姿を変えておられるのです。そしてエウデアトは混沌の側(そば)で花になり、混沌を流れて吞み込まれます。つまりエウデアトでは、混沌が直(じか)に関(かかわ)っておられるのです。」
「それで、混沌の力とはどう繋(つな)がる?」
「私は、園(その)の力は、混沌のお力のほんの一部が表面に現れたものではないかと思うのです。ですから、園(その)の力を強力に使うことができる者は、混沌のお力も使えるのではないでしょうか。付け加えるならば、園(その)のように、混沌が剥(む)き出しで深く関わっている場所ならば、その力も剥き出しでしょうから、混沌のお力に触れやすいことでしょう。とはいえ混沌のお力は無限の強大な力ですから、誰でも触れられるわけではありません。ツアグ王やあなた様のように、特別な方(かた)だけが混沌のお力を直接利用できるのだと、私は推測いたします。」
「そうか。」
ヴィルヴィが頷(うなず)き、ラントラファスは続けた。
「ヴィルヴィ様が手の中で作っておられるご造形ですが、恐らく、混沌のお力を直接利用なさっているのだろうと、私は思います。初めて拝見した時は、心底(しんそこ)驚きました。混沌のお力を直接お使いになったのは、ツアグ王だけでしたから。それも、極限状態での、ほんのひと時でした。他に混沌のお力をお使いになられる方がおいでとは、全く予想しておりませんでした。しかも小さいお方(かた)が、手遊びとして操っておられたのですから。」
「私のできることが、そんなに大層(たいそう)なことだとは思えないが。私は物心つく頃には、ああやって遊んでいたのだし、難しいどころか簡単だった。」
ヴィルヴィは、そこではっと思い出した。
「何者かがいつも側(そば)にいた。幼い頃から。もしかしたら赤子(あかご)の頃から。あれは何者だったのだ?エウデアトではなかった。何か、形はないが、側で見守ってくれる者だった。とても心地よかった気がする。」
「ヴィルヴィ様。それはもしやすると、混沌かもしれません。混沌はあなた様をお気に召され、側(そば)におられ、その力を使うことをお許しになったのかもしれません。」
「あれは混沌だったのか?」
「その可能性は大きいと存じます。」
ヴィルヴィは眉をひそめた。
「だが、私をお気に召したかもしれぬが、我らを滅ぼそうとなさっておられる。どういうことか?」
「それは…。」
ラントラファスは口ごもった。
エウデアトの消滅を決めたのは設計者と時であり、混沌ではない。混沌が何かを反対することは、まずない。だが混沌の肚(はら)は、設計者と時にも読めない。ルールを持っているのかどうかさえわからない。混沌はきまぐれなのか、それとも先を見越しているのか、誰も知らない。ヴィルヴィのことも、エウデアトのことも同様だった。
だが、それをそのまま口にするわけにもいかない。
「混沌のお考えは深く遠く、私には計(はか)りかねるのでした。余計なことを申しました。お許しください。」
ヴィルヴィは
「気にすることはない。」
と言い、続けた。「つまり私は混沌の力を、かなり利用することができるということか。」
「はい。」
「確実に?」
「あれほどの力を、いとも容易(たやす)く使えるということは、とんでもない能力の持ち主でいらっしゃるということです。私は、ツアグ王をはるかに凌駕(りょうが)なさっていると思います。」
「そうか。混沌の力とは、どれほどに強大なのか?」
「それはもう、万物をお造りになるのですから。誰もそのお力の全貌(ぜんぼう)をうかがうことはできませんが、無限と申してよろしいでしょう。」
「そうか。」
ヴィルヴィは頷(うなず)いた。
ラントラファスには、思いついたことがあった。それで何かできるとは思えなかったが、ともかく伝えてみることにした。
「一つよろしいでしょうか?」
「うむ。」
「以前お目にかかった時、お手の中で色んな物をお造りになっていましたね。あれは今でもおできになりますか?」
「できるぞ。ほら。」
ヴィルヴィは両手の中に、非常に複雑で高度な造形を、誰にでもできそうに思えるほど簡単にやってのけた。さらに大きさを変え、思い通りに動かして見せた。
「これらが自分で動くようにもできる。」
言葉通り、ヴィルヴィの造った造形が、勝手に動いた。
ラントラファスが尋ねた。
「女王、このようなお尋(たず)ねをお許しください。そのお力は、何のお力だとお考えですか?」
ヴィルヴィはきょとんとした。
「申している意味がわからぬが、私の力であろう?」
「エウデアトの王は、園(その)の力を使って儀式をなさいます。王の力は、園(その)の力を引き出し、利用する力です。ツアグ王はその力が並外(なみはず)れておられました。女王と同じです。」
「そうか。」
「はい。ですが、ツアグ王は園(その)の力だけではなく、混沌のお力を利用できたお方(かた)でした。」
「どういうことだ?」
「実は、園(その)は混沌がお造りになりました。この星になぜ園(その)をお造りになったのか、私にはわかりません。園(その)に流れる川は、本当は川でなく、混沌が水分に姿を変えておられるのです。そしてエウデアトは混沌の側(そば)で花になり、混沌を流れて吞み込まれます。つまりエウデアトでは、混沌が直(じか)に関(かかわ)っておられるのです。」
「それで、混沌の力とはどう繋(つな)がる?」
「私は、園(その)の力は、混沌のお力のほんの一部が表面に現れたものではないかと思うのです。ですから、園(その)の力を強力に使うことができる者は、混沌のお力も使えるのではないでしょうか。付け加えるならば、園(その)のように、混沌が剥(む)き出しで深く関わっている場所ならば、その力も剥き出しでしょうから、混沌のお力に触れやすいことでしょう。とはいえ混沌のお力は無限の強大な力ですから、誰でも触れられるわけではありません。ツアグ王やあなた様のように、特別な方(かた)だけが混沌のお力を直接利用できるのだと、私は推測いたします。」
「そうか。」
ヴィルヴィが頷(うなず)き、ラントラファスは続けた。
「ヴィルヴィ様が手の中で作っておられるご造形ですが、恐らく、混沌のお力を直接利用なさっているのだろうと、私は思います。初めて拝見した時は、心底(しんそこ)驚きました。混沌のお力を直接お使いになったのは、ツアグ王だけでしたから。それも、極限状態での、ほんのひと時でした。他に混沌のお力をお使いになられる方がおいでとは、全く予想しておりませんでした。しかも小さいお方(かた)が、手遊びとして操っておられたのですから。」
「私のできることが、そんなに大層(たいそう)なことだとは思えないが。私は物心つく頃には、ああやって遊んでいたのだし、難しいどころか簡単だった。」
ヴィルヴィは、そこではっと思い出した。
「何者かがいつも側(そば)にいた。幼い頃から。もしかしたら赤子(あかご)の頃から。あれは何者だったのだ?エウデアトではなかった。何か、形はないが、側で見守ってくれる者だった。とても心地よかった気がする。」
「ヴィルヴィ様。それはもしやすると、混沌かもしれません。混沌はあなた様をお気に召され、側(そば)におられ、その力を使うことをお許しになったのかもしれません。」
「あれは混沌だったのか?」
「その可能性は大きいと存じます。」
ヴィルヴィは眉をひそめた。
「だが、私をお気に召したかもしれぬが、我らを滅ぼそうとなさっておられる。どういうことか?」
「それは…。」
ラントラファスは口ごもった。
エウデアトの消滅を決めたのは設計者と時であり、混沌ではない。混沌が何かを反対することは、まずない。だが混沌の肚(はら)は、設計者と時にも読めない。ルールを持っているのかどうかさえわからない。混沌はきまぐれなのか、それとも先を見越しているのか、誰も知らない。ヴィルヴィのことも、エウデアトのことも同様だった。
だが、それをそのまま口にするわけにもいかない。
「混沌のお考えは深く遠く、私には計(はか)りかねるのでした。余計なことを申しました。お許しください。」
ヴィルヴィは
「気にすることはない。」
と言い、続けた。「つまり私は混沌の力を、かなり利用することができるということか。」
「はい。」
「確実に?」
「あれほどの力を、いとも容易(たやす)く使えるということは、とんでもない能力の持ち主でいらっしゃるということです。私は、ツアグ王をはるかに凌駕(りょうが)なさっていると思います。」
「そうか。混沌の力とは、どれほどに強大なのか?」
「それはもう、万物をお造りになるのですから。誰もそのお力の全貌(ぜんぼう)をうかがうことはできませんが、無限と申してよろしいでしょう。」
「そうか。」
ヴィルヴィは頷(うなず)いた。
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