廃園

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前編*ツアグとサーフィラ*11

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 ツアグは妻の変化に気付いた。

 笑顔を作り、王妃にふさわしく振る舞ってはいたが、おざなりに見えた。そして日を追う毎(ごと)に、心が空を漂っているように、ぼんやりする時が増えた。泣いたらしく、目を赤くしていることもある。

 ある時ツアグは偶然、サーフィラが隠れるようにして、きつく目を閉じているのを目撃した。憔悴(しょうすい)した顔で、痛みを堪(こら)えているようだった。それでツアグは思い至(いた)った。

(王妃は恋をしているのか。)

 ツアグは恋を経験していた。だからサーフィラがどういう状態にいるのかがわかった。だが恋する者を慰めたところで、大した効果は得られない。ツアグはそう思い、サーフィラの様子を見守るのに留(とど)めていた。

 それが変わったのは、サーフィラが美しくなったせいだ。決して幸福な美しさではなかった。妻が、研ぎ澄まされた刃(やいば)のような美しさを纏(まと)ってしまったのを知り、ツアグは見守るのをやめた。

 ツアグは務(つと)めの量を可能な限り制限した。夜はサーフィラと共にいられるように時間をやりくりした。

 初め、サーフィラはツアグが側(そば)にいることに気付かなかった。全てと自分との間に、膜一枚の隔(へだ)たりがあるようで、何も見なかったし、何も考えなかった。サーフィラの世界には、ラントラファスしかいなかった。

 だが、側(そば)にいるツアグの温(ぬく)もりが、サーフィラの膜を徐々(じょじょ)に薄くしていった。

 やがて膜が失われた時、サーフィラは現実を取り戻した。その時、彼女はツアグと共に執務室にいた。ツアグは執務机で、書類をチェックしている。ツアグの様子を見、室内を見回し、サーフィラは、自分がこの状況に全く気づいていなかったことに驚いた。

 ツアグがサーフィラに目をやり、静かな声で尋ねた。
「何か飲み物でも?」
「暖かなお茶を頂きたいわ…。」

 ツアグが命じ、侍女が馥郁(ふくいく)とした香りの花(はな)茶(ちゃ)を持ってきた。サーフィラはゆっくりと花茶を飲み、香りと温(あたた)かさを味わった。部屋に静かな時が流れる。ツアグは何も言わず、執務を続けていた。

 ツアグは自分のために側(そば)にいてくれていると、サーフィラは思った。つまりツアグは、サーフィラが恋をし、辛い状態にあることを知っているのだと、サーフィラは理解した。ツアグが、サーフィラの恋を知っているのは悲しいことだったが、それ以上に、今、側にいてくれることはありがたかった。


 <21>

 ツアグは元通りの多忙に戻ったが、ツアグとサーフィラは、必要な距離を保ちつつ、心の繋(つな)がりを作るために互いに模索(もさく)した。そして試行錯誤しながらも、寄り添うように毎日を過ごした。

 サーフィラのラントラファスへの想いは変わらなかったが、ツアグがいてくれると思うと、サーフィラは心が温(ぬく)もるのを知った。


 
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