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山口の顔をがあると思ったところに視線を向けたが、そこに彼はいなくて。視界の端に映った姿を追うと、山口は地面に突っ伏していた。何が起きたのかわからず、頭で考えるより先に、倒れている山口に駆け寄った。
「どうしたんですかっ、山口さん!」
「う、うしろ……」
「うしろ?」
言われるままに、山口の背後に目を向けると闇に溶けるような黒い服装を身にまとった男が立っていた。頭にはフードを被っていて、うっすら見える顔の部分には髪の毛がかかり、誰かを認識できない。だが、今重要なのはそこではない。
男の手――黒男の手には三十センチくらいある棒状の工具が握られていた。コの形をした先端には血が伝っていて、水滴になって地面に落ちる。まさかと思うと同時に、山口の頭を抱えている腕に水気を感じた。見てみると、私の服には赤黒い液体がびっちりと付着していた。
「――お前たち、香を探ってどうするつもりだ?」
「え?」
唐突に話しかけられ、私は理解できずに声を漏らした。
「彼女に何の用事だ? 男だけじゃなく女まで一緒になって、彼女を手籠めにしようとしていたのか?」
「香って、月下さんのこと? 私たちはただ話を聞きに来ただけで」
「嘘をつくな。お前たちは決まってそういう嘘をつく。本当に嫌気がさすよ」
「お前たち? お前たちって誰のこと? そもそも貴方は何者なの?」
こちらの話を聞いているのかいないのか、男は聞き取れないくらい小さな声でぶつぶつと話し続ける。質問の答えも返ってこなくて、とても会話が成立する状況ではないと感じて危機感が募る。
体が竦んで冷えていくのを感じる。今逃げようとしても、上手く走れずに追いつかれるのが目に見えていた。何より山口を置いて逃げることなど出来ない。何の前触れもなく人間の後頭部に鈍器を叩きつける男だ。こんな相手の前で彼を置き去りにしてしまったら、確実に殺されてしまう。
――考えている間にかなり長い時間が経った気がする。私の顔を見続けている男は独り言を話し続けていた。そして、そのまま工具を握った腕を持ち上げる。
「俺が、守るから。ずっと」
スローモーションに感じる世界の中、振り上げた男の腕をじっと見ていた私はその言葉だけはっきりと聞こえた。穏やかな、強い意志を感じる声だった。聞き覚えのある声に、私は思わず声を漏らす。
「森田さん?」
言うのと同時に腕が振り下ろされた。次の瞬間。私の視界から街灯すら消えさり、辺りは真っ暗闇になった。体から徐々に力が抜けていき、ちゃんと山口を支えられているのか不安に感じたあたりで、真っ暗闇の世界から音すらも聞こえなくなった。
「どうしたんですかっ、山口さん!」
「う、うしろ……」
「うしろ?」
言われるままに、山口の背後に目を向けると闇に溶けるような黒い服装を身にまとった男が立っていた。頭にはフードを被っていて、うっすら見える顔の部分には髪の毛がかかり、誰かを認識できない。だが、今重要なのはそこではない。
男の手――黒男の手には三十センチくらいある棒状の工具が握られていた。コの形をした先端には血が伝っていて、水滴になって地面に落ちる。まさかと思うと同時に、山口の頭を抱えている腕に水気を感じた。見てみると、私の服には赤黒い液体がびっちりと付着していた。
「――お前たち、香を探ってどうするつもりだ?」
「え?」
唐突に話しかけられ、私は理解できずに声を漏らした。
「彼女に何の用事だ? 男だけじゃなく女まで一緒になって、彼女を手籠めにしようとしていたのか?」
「香って、月下さんのこと? 私たちはただ話を聞きに来ただけで」
「嘘をつくな。お前たちは決まってそういう嘘をつく。本当に嫌気がさすよ」
「お前たち? お前たちって誰のこと? そもそも貴方は何者なの?」
こちらの話を聞いているのかいないのか、男は聞き取れないくらい小さな声でぶつぶつと話し続ける。質問の答えも返ってこなくて、とても会話が成立する状況ではないと感じて危機感が募る。
体が竦んで冷えていくのを感じる。今逃げようとしても、上手く走れずに追いつかれるのが目に見えていた。何より山口を置いて逃げることなど出来ない。何の前触れもなく人間の後頭部に鈍器を叩きつける男だ。こんな相手の前で彼を置き去りにしてしまったら、確実に殺されてしまう。
――考えている間にかなり長い時間が経った気がする。私の顔を見続けている男は独り言を話し続けていた。そして、そのまま工具を握った腕を持ち上げる。
「俺が、守るから。ずっと」
スローモーションに感じる世界の中、振り上げた男の腕をじっと見ていた私はその言葉だけはっきりと聞こえた。穏やかな、強い意志を感じる声だった。聞き覚えのある声に、私は思わず声を漏らす。
「森田さん?」
言うのと同時に腕が振り下ろされた。次の瞬間。私の視界から街灯すら消えさり、辺りは真っ暗闇になった。体から徐々に力が抜けていき、ちゃんと山口を支えられているのか不安に感じたあたりで、真っ暗闇の世界から音すらも聞こえなくなった。
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