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「――怖いのか?」
「あはは、バレちゃいましたか?」
引きつった笑顔を見せた愛は俺の手を強く握る。
「夢を見たからなのか、受け入れていたはずのことがとても怖くなってきたんです。このまま消えてしまって、時間が経って、みんなの中から私が消えていって……そう考えてしまうと暗闇の中で一人になったような気がして、耐えられなくて」
「それで俺のベッドに入り込んできた?」
「はい。どうしても翔琉君を近くで感じたくて。起こしてしまってすいません」
「別にいいよ」
言ってから、愛の手を握り返した。離れて行かないように、離さないように強く。
「何度も言ったけど、俺は愛のことを大人しく渡すつもりはない。絶対に逃げ切ってみせる」
愛の不安を払拭するように強く言い放つ。今の俺に出来る精一杯の気遣いだった。
「ありがとうございます」
愛はそう言って笑った。引きつった顔も少しだけ柔らかくなっていた。すると愛がさらに体を寄せてきた。
「お、おい……」
「もっとしっかり捕まっていないと創造主に連れていかれてしまうので」
ふざけたことを言いながら愛の顔が近づいてくる。もはや近いどころではなく抱きつかれていた。
「おい、あんまりふざけないでくれ」
恥ずかしくて振りほどこうとするが、そうすると愛の腕が万力みたいに力強くなり引き離すどころかビクともしない。
くそ、こんな時だけ機械らしいところを見せやがって。
「翔琉君、体も暖かいですね」
「何ごともないように振舞うな……っ、離せって」
「いやです、離しません」
ギュウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ。
「いたたたたたっ、痛い、痛いって」
「そこまで強くは掴んでません。暴れるから痛いんです。大人しくしてください」
「そう言われても」
愛と俺の身体は密着している。そうなれば当然いろいろなところが押しつぶされてそれはそれは大変なことになってしまっているわけで。かといって逃げようとするたびに愛の力は強くなるばかりで、体力だけが奪われてしまっていた。
「……わかった、もう好きにしてくれ」
疲弊してどうしようもないことを悟った俺は体の力を抜いて完全に諦めた。
愛は嬉々として俺の身体にまとわりついて、抱き枕のように体をすりよせる。愛の髪の毛が鼻先にスルリと落ちてきてくすぐったさに髪をかきわける。すると愛と目が合った。
「――どうした?」
「……」
愛からの返事はなかった。さっきまではしゃいでいた表情は呆けたようなものに変わってじっとこちらを見つめていた。俺も愛の顔を見つめるばかりで黙り込む。
ずっと続く沈黙――。
でもさっきまでの不安感はない。ただ目の前には愛がいて、愛を見つめる俺がいる。時計の音すら聞こえない静寂の世界で、愛はゆっくりと目を閉じた。
「ん……」
俺の唇と愛の唇がゆっくりと重なる。ただ軽く触れあっただけなのに、愛の温もりや気持ちが驚くほどに伝わってくる。愛の身体に腕を回し、同じように目を閉じる。
このまま本当に時間が止まってしまえばいい。本気でそう思った。そうなれば愛は消えてしまうこともなく、こうしてずっとつながったままでいられる。
そう考えていると唇がゆっくりと離れる。目を開けると愛が微笑みかけていた。
「勢い余ってしてしまいました。キス」
「うん」
「初めてのキスです、翔琉君もでしょうか?」
「うん」
「……もう一度、してもいいですか?」
「うん」
頷くと同時に愛は体を引き寄せ唇を重ねた。さっきと同じように軽く触れる。不安も現実もすべてを置き去りにして、俺たちは唇を重ね続けた。
「あはは、バレちゃいましたか?」
引きつった笑顔を見せた愛は俺の手を強く握る。
「夢を見たからなのか、受け入れていたはずのことがとても怖くなってきたんです。このまま消えてしまって、時間が経って、みんなの中から私が消えていって……そう考えてしまうと暗闇の中で一人になったような気がして、耐えられなくて」
「それで俺のベッドに入り込んできた?」
「はい。どうしても翔琉君を近くで感じたくて。起こしてしまってすいません」
「別にいいよ」
言ってから、愛の手を握り返した。離れて行かないように、離さないように強く。
「何度も言ったけど、俺は愛のことを大人しく渡すつもりはない。絶対に逃げ切ってみせる」
愛の不安を払拭するように強く言い放つ。今の俺に出来る精一杯の気遣いだった。
「ありがとうございます」
愛はそう言って笑った。引きつった顔も少しだけ柔らかくなっていた。すると愛がさらに体を寄せてきた。
「お、おい……」
「もっとしっかり捕まっていないと創造主に連れていかれてしまうので」
ふざけたことを言いながら愛の顔が近づいてくる。もはや近いどころではなく抱きつかれていた。
「おい、あんまりふざけないでくれ」
恥ずかしくて振りほどこうとするが、そうすると愛の腕が万力みたいに力強くなり引き離すどころかビクともしない。
くそ、こんな時だけ機械らしいところを見せやがって。
「翔琉君、体も暖かいですね」
「何ごともないように振舞うな……っ、離せって」
「いやです、離しません」
ギュウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ。
「いたたたたたっ、痛い、痛いって」
「そこまで強くは掴んでません。暴れるから痛いんです。大人しくしてください」
「そう言われても」
愛と俺の身体は密着している。そうなれば当然いろいろなところが押しつぶされてそれはそれは大変なことになってしまっているわけで。かといって逃げようとするたびに愛の力は強くなるばかりで、体力だけが奪われてしまっていた。
「……わかった、もう好きにしてくれ」
疲弊してどうしようもないことを悟った俺は体の力を抜いて完全に諦めた。
愛は嬉々として俺の身体にまとわりついて、抱き枕のように体をすりよせる。愛の髪の毛が鼻先にスルリと落ちてきてくすぐったさに髪をかきわける。すると愛と目が合った。
「――どうした?」
「……」
愛からの返事はなかった。さっきまではしゃいでいた表情は呆けたようなものに変わってじっとこちらを見つめていた。俺も愛の顔を見つめるばかりで黙り込む。
ずっと続く沈黙――。
でもさっきまでの不安感はない。ただ目の前には愛がいて、愛を見つめる俺がいる。時計の音すら聞こえない静寂の世界で、愛はゆっくりと目を閉じた。
「ん……」
俺の唇と愛の唇がゆっくりと重なる。ただ軽く触れあっただけなのに、愛の温もりや気持ちが驚くほどに伝わってくる。愛の身体に腕を回し、同じように目を閉じる。
このまま本当に時間が止まってしまえばいい。本気でそう思った。そうなれば愛は消えてしまうこともなく、こうしてずっとつながったままでいられる。
そう考えていると唇がゆっくりと離れる。目を開けると愛が微笑みかけていた。
「勢い余ってしてしまいました。キス」
「うん」
「初めてのキスです、翔琉君もでしょうか?」
「うん」
「……もう一度、してもいいですか?」
「うん」
頷くと同時に愛は体を引き寄せ唇を重ねた。さっきと同じように軽く触れる。不安も現実もすべてを置き去りにして、俺たちは唇を重ね続けた。
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