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頷く夏凪を尻目に俺は頭を傾げる。
確かに垣花がロボットならば製作者がいるはずだ。そして彼女は製作者の命令に従って動いているはずだと思った。機械が自発的に学校にやってくるなんて、そんな話があるわけがない。それだと人間と何も変わらない。
「しかし、だとしたら作ったのはいったい誰だ?」
「そりゃああの娘でしょ、十二月晦五月さん」
「あぁ、朝に言ってた子か。確か人工なんたらを作ったとかいう」
「小型人工知能。私も良く知らないけど、凄い発明らしいよ。あの娘ならロボット一体作るのなんてわけないかも」
「じゃあ、十二月晦さんが何かしら俺に用事があるってことか? でも俺、彼女のことも全然知らないぞ」
どんな姿だったか頭の中で浮かべてみても、ぼんやりとした姿すら浮かんでこない。それぐらい関係性の薄い人間が、そこまでして俺にどんな用事があるというのだ。
頭を捻って考えていると、ふと我に返ってかぶりを振った。
「待て待て。すっかり夢中になってたけど、そもそもロボットって前提がおかしいんだ」
彼女の容姿は間違いなく人間だ。とても作られた存在とは思えない。なんだかすっかりその気になっていたけど、こんな仮定は考えるだけ無駄だ。
「じゃあ結局、彼女はなんなのよ」
「知るわけないだろ、だからこうして考えてるんじゃないか」
なんにしても、垣花がこちらに興味を持っているのは間違いない。意図がわからない以上、恐怖しかないけど、これ以上考えても何も思いつきそうにはなかった。
「あ、チャイム」
「やべ、全然食べてない」
予鈴が鳴って、夏凪は弁当箱を閉じようとした。話している間にもしっかり食べていたようで、弁当箱の中身は綺麗になくなっていた。弁当の残りを慌てて口に詰め込んでから立ち上がると、夏凪と並んで教室に戻った。
教室に戻る途中、夏凪が呟く。
「でも、良かった。本当に何もなさそうで」
「何のことだ?」
「ううん、何でもなーい」
なんだか楽しそうに振舞う夏凪は笑みを浮かべて前を歩いていた。勢いよく教室の扉を開けた夏凪に続いて、俺も教室に入ると視線を感じた。まさかと思って振り向くと、垣花がこちらを見ていた。
目が合っても彼女は眉の位置一つ変えようとしない。無機質な表情を見ていると、本当に彼女はロボットなのではないかと思えてきてしまう。目を離し、彼女の横を通り過ぎて自分の机に戻ろうとすると、いきなり袖口を掴まれた。驚いて振り返ると、掴んでいるのは垣花だった。
「どこに行ってたんですか?」
「ひ、昼飯食べてただけだよ」
戸惑いながらも言うと、垣花は頭だけ動かして夏凪の方向を見る。夏凪も驚いた様子でこちらを見ていた。
「あの人は、翔琉さんの彼女ですか?」
「はぁっ?」「ふぇっ⁉」
予想もしなかった垣花の質問に俺と夏凪は同時に声を上げた。しかし垣花は驚く様子もなく、人形のような無表情のままこちらの答えを待っているようだった。
「べ、べ、べつに翔琉とはそういうんじゃないっていうか、友達、ただの友達だからっ。確かに他の人と比べたら付き合いも長いけど、そういうのじゃないからっ⁉」
「そうだぞ」
夏凪の言葉に同意すると、なぜか睨みつけられた。
「そうですか。支障がなさそうで良かったです」
「支障……?」
袖口を離した垣花に聞き返したが、返事を待つ前に先生が教室にやってきて、チャイムが鳴る。垣花の発言が気になっていたが、仕方なく席に戻った。夏凪を見ると俺以上に狼狽した様子で、しきりに垣花を見ては俺の様子をうかがっていた。
その日はこれ以上何事もなく授業が終わった。放課後になってから、垣花に話をしようとしたが彼女はすでに帰ったようで、探した時には既にいなかった。
「ね、ねぇ……」
「ん、どうした夏凪?」
「あんた本当に、ほんとーに垣花さんと何もないのよね」
「しつこいな。本当に何もないって」
「それにしてはあの距離感、おかしくない……?」
「あぁ、それも含めて垣花さんに話を聞こうとしたんだけど、もういないみたいだな」
「本当……?」
なんだか夏凪は挙動不審で、俺の顔をちらちらと見ていた。まさかこれだけ言っても俺と垣花の間に何かあると疑っているのだろうか。いや、だとしてもここまで来ると本当に何かあるのかもしれない。
もちろん俺には身に覚えはないのだが、あっちが何かを考えている可能性はある。そうじゃなきゃここまで俺に固執してくることはないだろう。
「大丈夫だよ。露骨な敵意は感じないから、話してみたら案外簡単に収まるかも」
「丸く収まられるのも困るんだけど……」
「えっ?」
「なんでもないっ」
明らかに不機嫌な顔をして夏凪は教室を出て行った。俺、何か気に障ることでも言ったかな?
確かに垣花がロボットならば製作者がいるはずだ。そして彼女は製作者の命令に従って動いているはずだと思った。機械が自発的に学校にやってくるなんて、そんな話があるわけがない。それだと人間と何も変わらない。
「しかし、だとしたら作ったのはいったい誰だ?」
「そりゃああの娘でしょ、十二月晦五月さん」
「あぁ、朝に言ってた子か。確か人工なんたらを作ったとかいう」
「小型人工知能。私も良く知らないけど、凄い発明らしいよ。あの娘ならロボット一体作るのなんてわけないかも」
「じゃあ、十二月晦さんが何かしら俺に用事があるってことか? でも俺、彼女のことも全然知らないぞ」
どんな姿だったか頭の中で浮かべてみても、ぼんやりとした姿すら浮かんでこない。それぐらい関係性の薄い人間が、そこまでして俺にどんな用事があるというのだ。
頭を捻って考えていると、ふと我に返ってかぶりを振った。
「待て待て。すっかり夢中になってたけど、そもそもロボットって前提がおかしいんだ」
彼女の容姿は間違いなく人間だ。とても作られた存在とは思えない。なんだかすっかりその気になっていたけど、こんな仮定は考えるだけ無駄だ。
「じゃあ結局、彼女はなんなのよ」
「知るわけないだろ、だからこうして考えてるんじゃないか」
なんにしても、垣花がこちらに興味を持っているのは間違いない。意図がわからない以上、恐怖しかないけど、これ以上考えても何も思いつきそうにはなかった。
「あ、チャイム」
「やべ、全然食べてない」
予鈴が鳴って、夏凪は弁当箱を閉じようとした。話している間にもしっかり食べていたようで、弁当箱の中身は綺麗になくなっていた。弁当の残りを慌てて口に詰め込んでから立ち上がると、夏凪と並んで教室に戻った。
教室に戻る途中、夏凪が呟く。
「でも、良かった。本当に何もなさそうで」
「何のことだ?」
「ううん、何でもなーい」
なんだか楽しそうに振舞う夏凪は笑みを浮かべて前を歩いていた。勢いよく教室の扉を開けた夏凪に続いて、俺も教室に入ると視線を感じた。まさかと思って振り向くと、垣花がこちらを見ていた。
目が合っても彼女は眉の位置一つ変えようとしない。無機質な表情を見ていると、本当に彼女はロボットなのではないかと思えてきてしまう。目を離し、彼女の横を通り過ぎて自分の机に戻ろうとすると、いきなり袖口を掴まれた。驚いて振り返ると、掴んでいるのは垣花だった。
「どこに行ってたんですか?」
「ひ、昼飯食べてただけだよ」
戸惑いながらも言うと、垣花は頭だけ動かして夏凪の方向を見る。夏凪も驚いた様子でこちらを見ていた。
「あの人は、翔琉さんの彼女ですか?」
「はぁっ?」「ふぇっ⁉」
予想もしなかった垣花の質問に俺と夏凪は同時に声を上げた。しかし垣花は驚く様子もなく、人形のような無表情のままこちらの答えを待っているようだった。
「べ、べ、べつに翔琉とはそういうんじゃないっていうか、友達、ただの友達だからっ。確かに他の人と比べたら付き合いも長いけど、そういうのじゃないからっ⁉」
「そうだぞ」
夏凪の言葉に同意すると、なぜか睨みつけられた。
「そうですか。支障がなさそうで良かったです」
「支障……?」
袖口を離した垣花に聞き返したが、返事を待つ前に先生が教室にやってきて、チャイムが鳴る。垣花の発言が気になっていたが、仕方なく席に戻った。夏凪を見ると俺以上に狼狽した様子で、しきりに垣花を見ては俺の様子をうかがっていた。
その日はこれ以上何事もなく授業が終わった。放課後になってから、垣花に話をしようとしたが彼女はすでに帰ったようで、探した時には既にいなかった。
「ね、ねぇ……」
「ん、どうした夏凪?」
「あんた本当に、ほんとーに垣花さんと何もないのよね」
「しつこいな。本当に何もないって」
「それにしてはあの距離感、おかしくない……?」
「あぁ、それも含めて垣花さんに話を聞こうとしたんだけど、もういないみたいだな」
「本当……?」
なんだか夏凪は挙動不審で、俺の顔をちらちらと見ていた。まさかこれだけ言っても俺と垣花の間に何かあると疑っているのだろうか。いや、だとしてもここまで来ると本当に何かあるのかもしれない。
もちろん俺には身に覚えはないのだが、あっちが何かを考えている可能性はある。そうじゃなきゃここまで俺に固執してくることはないだろう。
「大丈夫だよ。露骨な敵意は感じないから、話してみたら案外簡単に収まるかも」
「丸く収まられるのも困るんだけど……」
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