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「てか、こうやって意思疎通できるならなんですぐに教えてくれなかったのよ」
『覚えてなかったの。思い出したのはついさっき。伸一と琉姫を探していた時』
「私を……」
琉姫は今まで慎一と犯人探しをしていたことを思い出していた。
伸一はフードを被った不審者に並々ならぬ不信感を抱いていた。
絶対に犯人はそいつだと決めつけるように。
だが実際は違う。
フード姿の不審者は私のことなのだから。
夜に遊びに行くいかがわしい不良少女。
そんな素行の悪い噂が出回って家族に迷惑がかからないように、私は遊びに出掛ける際にフードを被っていた。
それをたまたま誰かに見られて、タイミング悪く殺人犯だと勘違いされてしまった。
万が一にでもそんなもので捕まりたくなかったわたしは全力で犯人を捜そうとしていた。
私は見た目も相まってなにかと誤解を受けやすい。
だからこそ、真犯人を見つけて、汚点一つなく潔白を証明したかったのだ。
もっとも……実際に犯人がすぐ横にいたのは想像もしてなかったし、このままの状況が進めばわたしも殺された一人になってしまいそうなのだけど。
「待ってよ……慎一と探してたってことは、あいつも雫が幽霊になって彷徨ってるって気付いてるの?」
『うん。慎一を頼って犯人を捜していたの……ごめんなさい』
言葉尻が震えて元気がないように見えた。
記憶がないのをいいことに、慎一は自分で殺した幽霊と一緒に犯人探しをしていたのだ。
だが実際は自分が捕まらない為に冤罪を仕立て上げる為の都合のいい存在を探していただけだった。
そしてそれがたまたま私だった。
雫が言った謝罪の言葉は、それに対してのものだと感じた。
私だって、立場が同じなら自責の念に囚われていたと思う。
「自分は殺されてるってのに、人に謝ってる場合じゃないでしょ。ばか雫」
雫の優しさに自然と表情が緩む。
こういう娘だから、私とも友達になってくれたのだ。
組んでいた膝を崩して、拳を作った手をもう片方で受け止める。
パチンと可愛い音がして、体中に電気のように痛みが走って身もだえそうになった。
だけど辛いと感じていた痛みも、今はアドレナリンを分泌させて興奮状態を高めてくれる。
「慎一のやつ、絶、対、に、許せない!」
大事な友達を、そしてわたし自身をこんな目に合わせた慎一は社会にのさばらせていい存在ではない。
アドレナリンは最高潮で、なんとしても仕返しをしてやらないと落ち着きそうになかった。
と、いっても……。
「まずはこの状況をなんとかしないとだね……」
崖に手をついて立ち上がろうと試みる。
痛みに耐えて身体を持ち上げていくと、なんとか中腰に近い体勢までは持っていくことができた。
しかし、そこから膝を伸ばそうとすると腰や足首に激痛が走って反射的に体が座り込んでしまう。
駄目だ……とても動けそうにない。
見た目ではそこまで酷くは見えないが、足首は強く熱を持っている。もしかしたら骨折しているのかも。
「ごめん雫ちゃん。 やっぱり足が痛くて全然動けないや」
大丈夫だと言った手前、申し訳なさを感じてしまう。
急いで何か、別の方法を考えないと雫を困らせてしまう。
『大丈夫だよ琉姫ちゃん』
「大丈夫って……もしかして雫ちゃん、私を持ち上げたりとかできるの?」
姿の見えない雫に問いかける。
持ち上げることができたとしたら、周りからはまるで浮いているように見えるのだろう。
そう考えるとこんな状況なのに、少しだけワクワクとした。
『それは無理かな、重すぎるもの』
「おい、もう一度殺すわよ」
枝に対して睨みつけると、急いで地面をほじくり返して『わたしの身体は軽いものしか持てないみたいなの』と地面に殴り書いた。
勘違いしないようにフォローを入れたつもりなのだろうが、全然フォローになっていないのは雫の人柄のようなものだった。
「じゃあどうするつもりよ」
『助けを呼んでくる』
「助けって……」
いきなり幽霊が現れて『人を助けてくれ』と宣ったところで、殆どの人は驚き、逃げ出す気がするのだが。
それは雫も理解している様子だった。
『ひとりだけ、私の言葉を素直に聞いてくれそうな人がいる。その人に掛け合ってみる』
「そう……誰かわからないけど、雫ちゃんに任せるよ」
どのみち移動することも、どこかに連絡をすることんもできない私には選択肢はない。
幽霊の話を真に受けてこんなところにやってくる酔狂な人間がいるのかわからないが、私は雫を信じることにした。
意識がなくなったように真っすぐと立っていた枝がパタリと倒れる。
雫が枝を放してこの場から立ち去ったのだろう。
「死んからも友達を助ける人間なんて、あんたくらいだと思う……ありがとう」
聞こえているかわからない。
それでも私は伝えたかった。
「あんたみたいな娘と友達になれて、わたしは幸せだよ」
周りから奇異の目を向けられても好きなものを好きといった。
結果的に、私の周りから人はいなくなったけれど、雫はそんな私と一緒にいてくれた。
「どうして、生きているあいだに言ってあげなかったのかな。私は」
姿の見えない雫と話をして、改めて自分の不甲斐なさが身に染みる。
それでも……ずっと、ずっと伝えたかったことを言葉にして、私は岩肌にもたれかかるようにして目を閉じた。
『覚えてなかったの。思い出したのはついさっき。伸一と琉姫を探していた時』
「私を……」
琉姫は今まで慎一と犯人探しをしていたことを思い出していた。
伸一はフードを被った不審者に並々ならぬ不信感を抱いていた。
絶対に犯人はそいつだと決めつけるように。
だが実際は違う。
フード姿の不審者は私のことなのだから。
夜に遊びに行くいかがわしい不良少女。
そんな素行の悪い噂が出回って家族に迷惑がかからないように、私は遊びに出掛ける際にフードを被っていた。
それをたまたま誰かに見られて、タイミング悪く殺人犯だと勘違いされてしまった。
万が一にでもそんなもので捕まりたくなかったわたしは全力で犯人を捜そうとしていた。
私は見た目も相まってなにかと誤解を受けやすい。
だからこそ、真犯人を見つけて、汚点一つなく潔白を証明したかったのだ。
もっとも……実際に犯人がすぐ横にいたのは想像もしてなかったし、このままの状況が進めばわたしも殺された一人になってしまいそうなのだけど。
「待ってよ……慎一と探してたってことは、あいつも雫が幽霊になって彷徨ってるって気付いてるの?」
『うん。慎一を頼って犯人を捜していたの……ごめんなさい』
言葉尻が震えて元気がないように見えた。
記憶がないのをいいことに、慎一は自分で殺した幽霊と一緒に犯人探しをしていたのだ。
だが実際は自分が捕まらない為に冤罪を仕立て上げる為の都合のいい存在を探していただけだった。
そしてそれがたまたま私だった。
雫が言った謝罪の言葉は、それに対してのものだと感じた。
私だって、立場が同じなら自責の念に囚われていたと思う。
「自分は殺されてるってのに、人に謝ってる場合じゃないでしょ。ばか雫」
雫の優しさに自然と表情が緩む。
こういう娘だから、私とも友達になってくれたのだ。
組んでいた膝を崩して、拳を作った手をもう片方で受け止める。
パチンと可愛い音がして、体中に電気のように痛みが走って身もだえそうになった。
だけど辛いと感じていた痛みも、今はアドレナリンを分泌させて興奮状態を高めてくれる。
「慎一のやつ、絶、対、に、許せない!」
大事な友達を、そしてわたし自身をこんな目に合わせた慎一は社会にのさばらせていい存在ではない。
アドレナリンは最高潮で、なんとしても仕返しをしてやらないと落ち着きそうになかった。
と、いっても……。
「まずはこの状況をなんとかしないとだね……」
崖に手をついて立ち上がろうと試みる。
痛みに耐えて身体を持ち上げていくと、なんとか中腰に近い体勢までは持っていくことができた。
しかし、そこから膝を伸ばそうとすると腰や足首に激痛が走って反射的に体が座り込んでしまう。
駄目だ……とても動けそうにない。
見た目ではそこまで酷くは見えないが、足首は強く熱を持っている。もしかしたら骨折しているのかも。
「ごめん雫ちゃん。 やっぱり足が痛くて全然動けないや」
大丈夫だと言った手前、申し訳なさを感じてしまう。
急いで何か、別の方法を考えないと雫を困らせてしまう。
『大丈夫だよ琉姫ちゃん』
「大丈夫って……もしかして雫ちゃん、私を持ち上げたりとかできるの?」
姿の見えない雫に問いかける。
持ち上げることができたとしたら、周りからはまるで浮いているように見えるのだろう。
そう考えるとこんな状況なのに、少しだけワクワクとした。
『それは無理かな、重すぎるもの』
「おい、もう一度殺すわよ」
枝に対して睨みつけると、急いで地面をほじくり返して『わたしの身体は軽いものしか持てないみたいなの』と地面に殴り書いた。
勘違いしないようにフォローを入れたつもりなのだろうが、全然フォローになっていないのは雫の人柄のようなものだった。
「じゃあどうするつもりよ」
『助けを呼んでくる』
「助けって……」
いきなり幽霊が現れて『人を助けてくれ』と宣ったところで、殆どの人は驚き、逃げ出す気がするのだが。
それは雫も理解している様子だった。
『ひとりだけ、私の言葉を素直に聞いてくれそうな人がいる。その人に掛け合ってみる』
「そう……誰かわからないけど、雫ちゃんに任せるよ」
どのみち移動することも、どこかに連絡をすることんもできない私には選択肢はない。
幽霊の話を真に受けてこんなところにやってくる酔狂な人間がいるのかわからないが、私は雫を信じることにした。
意識がなくなったように真っすぐと立っていた枝がパタリと倒れる。
雫が枝を放してこの場から立ち去ったのだろう。
「死んからも友達を助ける人間なんて、あんたくらいだと思う……ありがとう」
聞こえているかわからない。
それでも私は伝えたかった。
「あんたみたいな娘と友達になれて、わたしは幸せだよ」
周りから奇異の目を向けられても好きなものを好きといった。
結果的に、私の周りから人はいなくなったけれど、雫はそんな私と一緒にいてくれた。
「どうして、生きているあいだに言ってあげなかったのかな。私は」
姿の見えない雫と話をして、改めて自分の不甲斐なさが身に染みる。
それでも……ずっと、ずっと伝えたかったことを言葉にして、私は岩肌にもたれかかるようにして目を閉じた。
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