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山嵐たちが家にやってきた次の日。
僕はリビングのソファに腰かけて電話をかけていた。
電話をかけている相手は琉姫だ。
昨日逃げられた感触では、話をしようと直接家に行くと居留守をつかわれる可能性がある。
だから電話を使って連絡を取ろうとしていた。
もちろん僕のスマホを使って連絡すると着信画面に僕の名前が映ってしまう。
それだと意味がない。
だから家に備え付けてある固定電話を使って連絡していた。
「……出ない」
それだけ気を遣ったにもかかわらず、琉姫は電話にでなかった。
コール音がなくなってツーツーと電話が切れた音がするまで待っても琉姫は出ることはなくて、何度か掛け直してみたがやはり出ることはなかった。
まさか、と思った。
フードの不審者は琉姫だ。
来客が来て最後まで聞けず終いだったが、そのことを追求されようとしていたのは琉姫本人も気づいているはずだ。
僕がその立場なら、再び言及される前に逃げてしまうだろう。
折角運よく追及を逃れることができたのだから、このチャンスを生かさない手はない。
だがそれは同時に自分が不審者。
突き詰めれば犯人だと自白しているようなものだった。
自分に何も非がないのなら、隠れる必要なんかなくて堂々と自分ではないと言えばいいのだから。
部屋に戻って上着を取り出すと、机の上に置いていたペンが動き始めた。
『どこにいくの?』
「琉姫姉ちゃんの家。電話したけど出ないんだ。やっぱり姉ちゃんを殺した犯人は琉姫姉ちゃんかもしれない」
上着を羽織りながら言うと、ペンが慌ただしく動く。
『いそがしいだけじゃない?』
「何度もかけたんだ。忙しかったとしても何かあったのかって対応くらいするだろう」
『わたしはしない。大事な用事ならまたかかってくるだろうから。琉姫もそう思ってるのかも』
「姉ちゃん……どうしてそこまで琉姫姉ちゃんを庇うんだよ」
着替えを終わらせた僕は深いため息を吐いた。
「自分を殺した犯人かもしれないんだよ。成仏できずにこうやって彷徨っているのも犯人を見つけるためじゃないの?」
『でも、琉姫は友達だよ』
「友達だからなんなんだよ」
『彼女が犯人だとは思えない』
「……っ、いい加減にしろっ!」
煮え切らない態度をとる姉に苛立ちを覚えてしまい、衝動のまま机に手を叩きつける。
大きな音と鳴るとペンがびくりと揺れて床に落ちた。
「友達だから犯人じゃないって、姉ちゃんは真面目に犯人を捜す気があるの? 世の中には友達だろうが、肉親だろうが関係なく手に掛ける奴だっている。ニュースでもそういう話がいくらでも出てくるじゃないか。それなのに『友達だから犯人じゃない』って? 否定する理由にしてはいい加減すぎると自分で思わないの?」
床に落ちたペンが浮き上がってゆっくりとした動きで戻ってくる。振動するように震えたペンはペン先を紙に向ける。
『ごめんなさい。でも――』
「でも、じゃない!」
僕の意見に構わず否定を続けようとする姉に怒鳴りつけるように言うと、ペンはその場に倒れ込んで続きを書くことはなくなった。
その様子を確認してから一度息を整える。
何回か深呼吸を繰り返していると、少しだけ落ち着くことができた。
ベッドに座った僕はどこかにいるであろう姉を探して部屋を見回した。
「急に怒鳴ってごめんね姉ちゃん。でも、姉ちゃんがおかしなことを言ってるって気付いて欲しかったんだ。ほら、姉ちゃんが生きてる時から、僕の言うことに間違いなんてなかっただろ?」
姉が冷静に話を聞けるように、僕は出来るだけ優しい口調で話すように心がけた。
姿は見えないけれど、今の姉はきっと部屋のどこかで泣いているはずだ。
――昔から姉はそうだった。
外に出れないくらい気弱な癖して、自分の思っている意見と食い違いがあれば反論をしてくる。
しかも感情ばかりを優先した意見で全く話にならないことが多かった。
そういう言い争いが起こるたびに姉は僕の意見を聴かなくて、僕は正論を強い口調で返すのが常だった。
そうすると姉は決まって逃げるように部屋の隅に移動して泣き出してしまう。
――そんな姉のことだ、きっとペンを置いた今も変わらず泣いていると思った。
感情のままに振舞い、怒られてしまう可哀想な姉。
彼女は馬鹿だから、何で怒られているのかすらわからない。
他の人に怒られたら僕に怒られるよりもっと可哀想な目にあってしまう。
だからその前に、優しく諭してあげないといけない。
「姉ちゃんは友達という存在を過信しすぎているよ」
少し時間がたってから、僕は独り言のように話し始めた。
本当は姉の顔を見て話しをしたかったが、どこにいるのかわからないので床を見るように顔を下に向ける。
せっかく真面目な話をしているのに、見当違いの方向を見ていたら何を言っても説得力が無くなる気がした。
「人間関係なんて希薄なものだよ。どれだけ仲が良かったとしても、いや、仲が良くなるほど。ちょっとしたきっかけで関係は拗れる。許せたものが許せなくなる。そうなれば殺意なんて簡単に湧いてくるものだよ」
出来るだけゆっくりと、丁寧に教え聞かせるように伝える。
反応は帰ってこないが、それはこうなった時のいつもの反応だった。
姉はいつも言い聞かせている時はこちらの様子を伺って、僕の言葉に反応して軽く頷く。
きっと今もそうやっているのだろうと想像ができた。
「じゃあ琉姫姉ちゃんはどうだろう? 僕から見ても姉ちゃんと琉姫姉ちゃんは仲が良いと思う。ということはそれだけ些細な確執で、内心良く思っていないところとかあるんじゃないかな?」
そこまで言ってから、僕は会話を止めた。
姉の様子を伺うように周りを見渡す。
こうすれば、僕は姉の反応を待っているのだと気付いてくれるだろう。
少し待っているとゆっくりと、遠慮がちにペンが動きはじめた。
僕の予想通り、やはり部屋のどこかで話を聞いていてくれたようだ。
ペンは紙に向かってスラスラと動き、その場に倒れ込む。一連の動きを確認していた僕はベッドから立ち上がり机に向かって紙に目を通した。
『最後に食べようとしていたショートケーキの苺を、琉姫に取られたことがある』
「……そっか」
おそらく姉は、自分が琉姫に対して持っているわだかまりを伝えたいのだと思った。
子供が癇癪を起すみたいな他愛無い鬱憤だが、それでも姉はこの件に関して快く思っていないというのは事実だ。
「ほら、姉ちゃんだって琉姫姉ちゃんに許せないところがある訳だ。それなら僕たちが知らないだけで琉姫姉ちゃんも何か思う所があるかもしれない。それが心の中で大きくなって、殺意が芽生えたのかも」
僕の言葉に姉は応えない。
今までのことを思い起こして琉姫のわだかまりを探しているのだろうか。
そうだとしても、相手に対して良くない印象なんて、直接口に出すことなんてしないだろう。
だから考えても答えなんか出てこないと思うけど。
「もちろん僕は、琉姫姉ちゃんが一番怪しいと踏んでいる。でも事実はわからない、本人に聞いてみないとね。だから確認に行こうと思ってるんだ。わかってくれるかな?」
ペンが反応して姉の返事が書かれたのは少し経ってからだった。
『――わかった』
たった四文字の了承。
それでも僕は、姉が疑うということを知ってくれて嬉しくなる。
生きている間に、そうなってくれたらもっと良かったのだけど、過ぎてしまったことは仕方がない。
「それじゃあ早速、琉姫姉ちゃんの家に行ってみよう。電話に出ないだけで家にはいるかも」
時計をチラリと見て見るとまだ午前十時。
この近辺には買い物が出来る場所なんて殆どないし、遊びに出かける場所もない。
たまに畑仕事を手伝うために若者が畑にいることもあるが、琉姫姉ちゃんは見た目通りそういう手伝いを毛嫌いしていた。
となれば家に籠っているのが一番可能性が高い。
僕は部屋の電気を消して、家を出た。
琉姫の家は僕たちの家からそれほど遠くないところにある。
といってもあくまで田舎基準である。
一軒家よりも畑の数が多いこの土地ではそもそも隣の家というのがかなり遠い場所にあった。
それほど距離のある家を十戸ばかり超えて海側に移動すると、山側と海側の中央、ケーキ屋があった場所よりも山側の方に住宅街がある。その一つに琉姫の家があった。
歩いて移動すること四十分と少し、僕たちは琉姫の家の前までやってきた。
元々この辺りは畑が並んでいた。しかし住民の平均年齢が上がっていくばかりで、ここを管理できる人間がいなくなっていった結果、新興住宅地として再開発されたのだ。
そのせいかこの一帯にある住宅はどれもこれも新しいものばかりで、近代的な見た目をしている。
琉姫の家も例に漏れず、白と黒で外装を塗られたモダン調の三階建ての一軒家。
玄関から見える三階の窓が琉姫の部屋だったはずだ。
家の前から窓を覗くとカーテンは閉められていた。
両親は仕事に出ているのか生活音もない。僕は試しにインターホンを鳴らした。
しんとした住宅街にチャイムの音が響く。
「――反応がないな」
静けさにある程度の予想はしていたが、インターホンは反応がなかった。
二度、三度と鳴らしてみるが結果は同じ。
うんともすんとも言うことはない。
僕は顔を見上げて琉姫の部屋を確認する。
もしも居留守なら誰がきたのかとこちらの様子を伺っているかと思ったが、最初に見た時と同様にカーテンは閉め切られたままだった。もしかしたら琉姫は本当にいないのかもしれない。
僕は腕を組んでから頭を捻った。
家にいないとしたらどこにいるのだろうか。
いつもと同じように、街にでも繰り出してしまったのだろうか?
そうなられたら僕の力では見つけることは不可能だ。
琉姫が遊びにいくのにここから出るのは知っているが、どこに遊びにいっているのまでは知らないのだから。
どこにいるのかなんて見当もつかない。
考えたくはないが、もしも琉姫が既に逃げ出していたのなら、詰みだと言ってもいい状況にどうしたものかと考えていた。
僕はリビングのソファに腰かけて電話をかけていた。
電話をかけている相手は琉姫だ。
昨日逃げられた感触では、話をしようと直接家に行くと居留守をつかわれる可能性がある。
だから電話を使って連絡を取ろうとしていた。
もちろん僕のスマホを使って連絡すると着信画面に僕の名前が映ってしまう。
それだと意味がない。
だから家に備え付けてある固定電話を使って連絡していた。
「……出ない」
それだけ気を遣ったにもかかわらず、琉姫は電話にでなかった。
コール音がなくなってツーツーと電話が切れた音がするまで待っても琉姫は出ることはなくて、何度か掛け直してみたがやはり出ることはなかった。
まさか、と思った。
フードの不審者は琉姫だ。
来客が来て最後まで聞けず終いだったが、そのことを追求されようとしていたのは琉姫本人も気づいているはずだ。
僕がその立場なら、再び言及される前に逃げてしまうだろう。
折角運よく追及を逃れることができたのだから、このチャンスを生かさない手はない。
だがそれは同時に自分が不審者。
突き詰めれば犯人だと自白しているようなものだった。
自分に何も非がないのなら、隠れる必要なんかなくて堂々と自分ではないと言えばいいのだから。
部屋に戻って上着を取り出すと、机の上に置いていたペンが動き始めた。
『どこにいくの?』
「琉姫姉ちゃんの家。電話したけど出ないんだ。やっぱり姉ちゃんを殺した犯人は琉姫姉ちゃんかもしれない」
上着を羽織りながら言うと、ペンが慌ただしく動く。
『いそがしいだけじゃない?』
「何度もかけたんだ。忙しかったとしても何かあったのかって対応くらいするだろう」
『わたしはしない。大事な用事ならまたかかってくるだろうから。琉姫もそう思ってるのかも』
「姉ちゃん……どうしてそこまで琉姫姉ちゃんを庇うんだよ」
着替えを終わらせた僕は深いため息を吐いた。
「自分を殺した犯人かもしれないんだよ。成仏できずにこうやって彷徨っているのも犯人を見つけるためじゃないの?」
『でも、琉姫は友達だよ』
「友達だからなんなんだよ」
『彼女が犯人だとは思えない』
「……っ、いい加減にしろっ!」
煮え切らない態度をとる姉に苛立ちを覚えてしまい、衝動のまま机に手を叩きつける。
大きな音と鳴るとペンがびくりと揺れて床に落ちた。
「友達だから犯人じゃないって、姉ちゃんは真面目に犯人を捜す気があるの? 世の中には友達だろうが、肉親だろうが関係なく手に掛ける奴だっている。ニュースでもそういう話がいくらでも出てくるじゃないか。それなのに『友達だから犯人じゃない』って? 否定する理由にしてはいい加減すぎると自分で思わないの?」
床に落ちたペンが浮き上がってゆっくりとした動きで戻ってくる。振動するように震えたペンはペン先を紙に向ける。
『ごめんなさい。でも――』
「でも、じゃない!」
僕の意見に構わず否定を続けようとする姉に怒鳴りつけるように言うと、ペンはその場に倒れ込んで続きを書くことはなくなった。
その様子を確認してから一度息を整える。
何回か深呼吸を繰り返していると、少しだけ落ち着くことができた。
ベッドに座った僕はどこかにいるであろう姉を探して部屋を見回した。
「急に怒鳴ってごめんね姉ちゃん。でも、姉ちゃんがおかしなことを言ってるって気付いて欲しかったんだ。ほら、姉ちゃんが生きてる時から、僕の言うことに間違いなんてなかっただろ?」
姉が冷静に話を聞けるように、僕は出来るだけ優しい口調で話すように心がけた。
姿は見えないけれど、今の姉はきっと部屋のどこかで泣いているはずだ。
――昔から姉はそうだった。
外に出れないくらい気弱な癖して、自分の思っている意見と食い違いがあれば反論をしてくる。
しかも感情ばかりを優先した意見で全く話にならないことが多かった。
そういう言い争いが起こるたびに姉は僕の意見を聴かなくて、僕は正論を強い口調で返すのが常だった。
そうすると姉は決まって逃げるように部屋の隅に移動して泣き出してしまう。
――そんな姉のことだ、きっとペンを置いた今も変わらず泣いていると思った。
感情のままに振舞い、怒られてしまう可哀想な姉。
彼女は馬鹿だから、何で怒られているのかすらわからない。
他の人に怒られたら僕に怒られるよりもっと可哀想な目にあってしまう。
だからその前に、優しく諭してあげないといけない。
「姉ちゃんは友達という存在を過信しすぎているよ」
少し時間がたってから、僕は独り言のように話し始めた。
本当は姉の顔を見て話しをしたかったが、どこにいるのかわからないので床を見るように顔を下に向ける。
せっかく真面目な話をしているのに、見当違いの方向を見ていたら何を言っても説得力が無くなる気がした。
「人間関係なんて希薄なものだよ。どれだけ仲が良かったとしても、いや、仲が良くなるほど。ちょっとしたきっかけで関係は拗れる。許せたものが許せなくなる。そうなれば殺意なんて簡単に湧いてくるものだよ」
出来るだけゆっくりと、丁寧に教え聞かせるように伝える。
反応は帰ってこないが、それはこうなった時のいつもの反応だった。
姉はいつも言い聞かせている時はこちらの様子を伺って、僕の言葉に反応して軽く頷く。
きっと今もそうやっているのだろうと想像ができた。
「じゃあ琉姫姉ちゃんはどうだろう? 僕から見ても姉ちゃんと琉姫姉ちゃんは仲が良いと思う。ということはそれだけ些細な確執で、内心良く思っていないところとかあるんじゃないかな?」
そこまで言ってから、僕は会話を止めた。
姉の様子を伺うように周りを見渡す。
こうすれば、僕は姉の反応を待っているのだと気付いてくれるだろう。
少し待っているとゆっくりと、遠慮がちにペンが動きはじめた。
僕の予想通り、やはり部屋のどこかで話を聞いていてくれたようだ。
ペンは紙に向かってスラスラと動き、その場に倒れ込む。一連の動きを確認していた僕はベッドから立ち上がり机に向かって紙に目を通した。
『最後に食べようとしていたショートケーキの苺を、琉姫に取られたことがある』
「……そっか」
おそらく姉は、自分が琉姫に対して持っているわだかまりを伝えたいのだと思った。
子供が癇癪を起すみたいな他愛無い鬱憤だが、それでも姉はこの件に関して快く思っていないというのは事実だ。
「ほら、姉ちゃんだって琉姫姉ちゃんに許せないところがある訳だ。それなら僕たちが知らないだけで琉姫姉ちゃんも何か思う所があるかもしれない。それが心の中で大きくなって、殺意が芽生えたのかも」
僕の言葉に姉は応えない。
今までのことを思い起こして琉姫のわだかまりを探しているのだろうか。
そうだとしても、相手に対して良くない印象なんて、直接口に出すことなんてしないだろう。
だから考えても答えなんか出てこないと思うけど。
「もちろん僕は、琉姫姉ちゃんが一番怪しいと踏んでいる。でも事実はわからない、本人に聞いてみないとね。だから確認に行こうと思ってるんだ。わかってくれるかな?」
ペンが反応して姉の返事が書かれたのは少し経ってからだった。
『――わかった』
たった四文字の了承。
それでも僕は、姉が疑うということを知ってくれて嬉しくなる。
生きている間に、そうなってくれたらもっと良かったのだけど、過ぎてしまったことは仕方がない。
「それじゃあ早速、琉姫姉ちゃんの家に行ってみよう。電話に出ないだけで家にはいるかも」
時計をチラリと見て見るとまだ午前十時。
この近辺には買い物が出来る場所なんて殆どないし、遊びに出かける場所もない。
たまに畑仕事を手伝うために若者が畑にいることもあるが、琉姫姉ちゃんは見た目通りそういう手伝いを毛嫌いしていた。
となれば家に籠っているのが一番可能性が高い。
僕は部屋の電気を消して、家を出た。
琉姫の家は僕たちの家からそれほど遠くないところにある。
といってもあくまで田舎基準である。
一軒家よりも畑の数が多いこの土地ではそもそも隣の家というのがかなり遠い場所にあった。
それほど距離のある家を十戸ばかり超えて海側に移動すると、山側と海側の中央、ケーキ屋があった場所よりも山側の方に住宅街がある。その一つに琉姫の家があった。
歩いて移動すること四十分と少し、僕たちは琉姫の家の前までやってきた。
元々この辺りは畑が並んでいた。しかし住民の平均年齢が上がっていくばかりで、ここを管理できる人間がいなくなっていった結果、新興住宅地として再開発されたのだ。
そのせいかこの一帯にある住宅はどれもこれも新しいものばかりで、近代的な見た目をしている。
琉姫の家も例に漏れず、白と黒で外装を塗られたモダン調の三階建ての一軒家。
玄関から見える三階の窓が琉姫の部屋だったはずだ。
家の前から窓を覗くとカーテンは閉められていた。
両親は仕事に出ているのか生活音もない。僕は試しにインターホンを鳴らした。
しんとした住宅街にチャイムの音が響く。
「――反応がないな」
静けさにある程度の予想はしていたが、インターホンは反応がなかった。
二度、三度と鳴らしてみるが結果は同じ。
うんともすんとも言うことはない。
僕は顔を見上げて琉姫の部屋を確認する。
もしも居留守なら誰がきたのかとこちらの様子を伺っているかと思ったが、最初に見た時と同様にカーテンは閉め切られたままだった。もしかしたら琉姫は本当にいないのかもしれない。
僕は腕を組んでから頭を捻った。
家にいないとしたらどこにいるのだろうか。
いつもと同じように、街にでも繰り出してしまったのだろうか?
そうなられたら僕の力では見つけることは不可能だ。
琉姫が遊びにいくのにここから出るのは知っているが、どこに遊びにいっているのまでは知らないのだから。
どこにいるのかなんて見当もつかない。
考えたくはないが、もしも琉姫が既に逃げ出していたのなら、詰みだと言ってもいい状況にどうしたものかと考えていた。
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