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友達といっても所詮は他人。
四六時中つきっきりでいれるわけでもない。寝込みに襲われることもあるだろうし、一緒にいたとしてもまとめて襲われる可能性だってある。
流姫が気を掛けていたとしても姉の死は避けられることではないのだ。
それを説明しようとしても、自分を責めている今の流姫には聞く耳を持ってもらえないだろう。
「――わかった。僕が聞いて回るから流姫姉ちゃんは余計なことをしないで後ろで見ていてよ」
僕がそう言うと、流姫は目元を緩ませて「わかった」と頷く。
諦める気配がないのなら付いてきてもらうのが一番だ。
結局そうするのが一番面倒じゃなくて済む。
「じゃあどこから行こっか?」
「待って。先に家に寄っていいかな」
やる気満々。といった様子の流姫を引き留める。
「いいけど、何か用事?」
「これが痛んじゃうからさ」
ケーキが入った小箱を持ち上げて見せる。
話している間にも結構な時間が経っていて、保冷剤で冷たかった箱は常温に近くなっていた。
箱にプリントされた猫のロゴを見て流姫が首を傾げる。
「ケーキ……? 慎ちゃんってこういうの好きだったっけ?」
流姫の言葉にドキリとさせられる。妙なところで鋭い。
「このケーキは姉のだよ」
「え、でも雫ちゃんは……」
「お供え的な奴だよ。姉ちゃんケーキ大好きだったからさ」
「あーね! 確かにっ!」
流姫は納得したように表情を明るいものにして両手を叩く。
「あんまり関係ないだろうけど、気分的に痛んだものを渡すのは嫌だからさ。冷蔵庫に入れておきたいんだ」
「そっかそっか。そういうことなら慎ちゃんの家から行こっか」
流姫は僕の前に出るようにして、家に向かう。
生ものを持って聞き込みなんて絶対に嫌だったので納得してくれて助かった。それにしても……。
「……さっきから反応がないけど、どうかした?」
前を歩く流姫に聞こえないように呟く。
さっきまでと違い鈴は壊れてしまったと思うくらい静かだった。もしかしたらいなくなってくれたのだろうか?
「――返事しないとケーキ捨てるよ」
チリン。
弱々しく鈴が鳴る。
どうやら近くにはいるらしい。
「流姫姉ちゃんがいるのにどうしてそんな静かなんだよ」
僕の記憶では流姫が遊びに来た時は姉のテンションも上がっていた。
普段は要求と愚痴ばかり話す姉がある程度普通に話している姿が貴重だったから鮮明に覚えている。
だから流姫の姿を見て鈴をかき鳴らしたり、自我を出して自己主張したりしないか心配していたのだが、予想と反面大人しいもので疑問に感じていた。
結局家に着くまで鈴は鳴らなかった。
琉姫を玄関で待たせて冷蔵庫にケーキが入った箱を詰め込んでいると、キッチンに置いていたペンが宙を舞った。
ペンがこちらに向かって近づいてきて僕はおどろいて身を引いた。
そのままペンは冷蔵庫に入り込んでケーキの箱に何かを書き始める。
『三人で話すの、無理』
「……は?」
何を言っているのかわからなかった。
どういう事かと頭を捻っていると、さっき姉に質問したのを思い出す。
「もしかして、僕と琉姫姉ちゃんが話してたから輪に入れなかったってことか?」
チリン。
チリン。
どうやらそういう事だったらしい。
『はい』か『いいえ』で答えられなかったから黙っていたということか。
「一応言っておくけど。急に無反応になったのが気になっただけで『反応してあげなよ』って意味ではないから。返事したり話しかけたりしちゃ駄目だよ。あと、こうやって何か書くのも駄目だからね」
僕が言うと、少し間を置いてから鈴が二回鳴った。どうにも信用できないが、とりあえずは大丈夫そうだ。
「慎ちゃ~~ん。まだ~~?」
玄関から琉姫の声が聞こえる。
「今いくよ」
冷蔵庫の蓋を閉めて玄関に向かうと、琉姫は退屈そうに髪を弄っていた。
「お待たせ」
「そんなに待ってないよ~。じゃあいこっか」
琉姫の態度に変わったところはない。
どうやら姉とのやり取りを見たり聞いたりはしていないようだ。僕は内心ホッとした。
四六時中つきっきりでいれるわけでもない。寝込みに襲われることもあるだろうし、一緒にいたとしてもまとめて襲われる可能性だってある。
流姫が気を掛けていたとしても姉の死は避けられることではないのだ。
それを説明しようとしても、自分を責めている今の流姫には聞く耳を持ってもらえないだろう。
「――わかった。僕が聞いて回るから流姫姉ちゃんは余計なことをしないで後ろで見ていてよ」
僕がそう言うと、流姫は目元を緩ませて「わかった」と頷く。
諦める気配がないのなら付いてきてもらうのが一番だ。
結局そうするのが一番面倒じゃなくて済む。
「じゃあどこから行こっか?」
「待って。先に家に寄っていいかな」
やる気満々。といった様子の流姫を引き留める。
「いいけど、何か用事?」
「これが痛んじゃうからさ」
ケーキが入った小箱を持ち上げて見せる。
話している間にも結構な時間が経っていて、保冷剤で冷たかった箱は常温に近くなっていた。
箱にプリントされた猫のロゴを見て流姫が首を傾げる。
「ケーキ……? 慎ちゃんってこういうの好きだったっけ?」
流姫の言葉にドキリとさせられる。妙なところで鋭い。
「このケーキは姉のだよ」
「え、でも雫ちゃんは……」
「お供え的な奴だよ。姉ちゃんケーキ大好きだったからさ」
「あーね! 確かにっ!」
流姫は納得したように表情を明るいものにして両手を叩く。
「あんまり関係ないだろうけど、気分的に痛んだものを渡すのは嫌だからさ。冷蔵庫に入れておきたいんだ」
「そっかそっか。そういうことなら慎ちゃんの家から行こっか」
流姫は僕の前に出るようにして、家に向かう。
生ものを持って聞き込みなんて絶対に嫌だったので納得してくれて助かった。それにしても……。
「……さっきから反応がないけど、どうかした?」
前を歩く流姫に聞こえないように呟く。
さっきまでと違い鈴は壊れてしまったと思うくらい静かだった。もしかしたらいなくなってくれたのだろうか?
「――返事しないとケーキ捨てるよ」
チリン。
弱々しく鈴が鳴る。
どうやら近くにはいるらしい。
「流姫姉ちゃんがいるのにどうしてそんな静かなんだよ」
僕の記憶では流姫が遊びに来た時は姉のテンションも上がっていた。
普段は要求と愚痴ばかり話す姉がある程度普通に話している姿が貴重だったから鮮明に覚えている。
だから流姫の姿を見て鈴をかき鳴らしたり、自我を出して自己主張したりしないか心配していたのだが、予想と反面大人しいもので疑問に感じていた。
結局家に着くまで鈴は鳴らなかった。
琉姫を玄関で待たせて冷蔵庫にケーキが入った箱を詰め込んでいると、キッチンに置いていたペンが宙を舞った。
ペンがこちらに向かって近づいてきて僕はおどろいて身を引いた。
そのままペンは冷蔵庫に入り込んでケーキの箱に何かを書き始める。
『三人で話すの、無理』
「……は?」
何を言っているのかわからなかった。
どういう事かと頭を捻っていると、さっき姉に質問したのを思い出す。
「もしかして、僕と琉姫姉ちゃんが話してたから輪に入れなかったってことか?」
チリン。
チリン。
どうやらそういう事だったらしい。
『はい』か『いいえ』で答えられなかったから黙っていたということか。
「一応言っておくけど。急に無反応になったのが気になっただけで『反応してあげなよ』って意味ではないから。返事したり話しかけたりしちゃ駄目だよ。あと、こうやって何か書くのも駄目だからね」
僕が言うと、少し間を置いてから鈴が二回鳴った。どうにも信用できないが、とりあえずは大丈夫そうだ。
「慎ちゃ~~ん。まだ~~?」
玄関から琉姫の声が聞こえる。
「今いくよ」
冷蔵庫の蓋を閉めて玄関に向かうと、琉姫は退屈そうに髪を弄っていた。
「お待たせ」
「そんなに待ってないよ~。じゃあいこっか」
琉姫の態度に変わったところはない。
どうやら姉とのやり取りを見たり聞いたりはしていないようだ。僕は内心ホッとした。
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