9 / 32
2-5
しおりを挟む
友達といっても所詮は他人。
四六時中つきっきりでいれるわけでもない。寝込みに襲われることもあるだろうし、一緒にいたとしてもまとめて襲われる可能性だってある。
流姫が気を掛けていたとしても姉の死は避けられることではないのだ。
それを説明しようとしても、自分を責めている今の流姫には聞く耳を持ってもらえないだろう。
「――わかった。僕が聞いて回るから流姫姉ちゃんは余計なことをしないで後ろで見ていてよ」
僕がそう言うと、流姫は目元を緩ませて「わかった」と頷く。
諦める気配がないのなら付いてきてもらうのが一番だ。
結局そうするのが一番面倒じゃなくて済む。
「じゃあどこから行こっか?」
「待って。先に家に寄っていいかな」
やる気満々。といった様子の流姫を引き留める。
「いいけど、何か用事?」
「これが痛んじゃうからさ」
ケーキが入った小箱を持ち上げて見せる。
話している間にも結構な時間が経っていて、保冷剤で冷たかった箱は常温に近くなっていた。
箱にプリントされた猫のロゴを見て流姫が首を傾げる。
「ケーキ……? 慎ちゃんってこういうの好きだったっけ?」
流姫の言葉にドキリとさせられる。妙なところで鋭い。
「このケーキは姉のだよ」
「え、でも雫ちゃんは……」
「お供え的な奴だよ。姉ちゃんケーキ大好きだったからさ」
「あーね! 確かにっ!」
流姫は納得したように表情を明るいものにして両手を叩く。
「あんまり関係ないだろうけど、気分的に痛んだものを渡すのは嫌だからさ。冷蔵庫に入れておきたいんだ」
「そっかそっか。そういうことなら慎ちゃんの家から行こっか」
流姫は僕の前に出るようにして、家に向かう。
生ものを持って聞き込みなんて絶対に嫌だったので納得してくれて助かった。それにしても……。
「……さっきから反応がないけど、どうかした?」
前を歩く流姫に聞こえないように呟く。
さっきまでと違い鈴は壊れてしまったと思うくらい静かだった。もしかしたらいなくなってくれたのだろうか?
「――返事しないとケーキ捨てるよ」
チリン。
弱々しく鈴が鳴る。
どうやら近くにはいるらしい。
「流姫姉ちゃんがいるのにどうしてそんな静かなんだよ」
僕の記憶では流姫が遊びに来た時は姉のテンションも上がっていた。
普段は要求と愚痴ばかり話す姉がある程度普通に話している姿が貴重だったから鮮明に覚えている。
だから流姫の姿を見て鈴をかき鳴らしたり、自我を出して自己主張したりしないか心配していたのだが、予想と反面大人しいもので疑問に感じていた。
結局家に着くまで鈴は鳴らなかった。
琉姫を玄関で待たせて冷蔵庫にケーキが入った箱を詰め込んでいると、キッチンに置いていたペンが宙を舞った。
ペンがこちらに向かって近づいてきて僕はおどろいて身を引いた。
そのままペンは冷蔵庫に入り込んでケーキの箱に何かを書き始める。
『三人で話すの、無理』
「……は?」
何を言っているのかわからなかった。
どういう事かと頭を捻っていると、さっき姉に質問したのを思い出す。
「もしかして、僕と琉姫姉ちゃんが話してたから輪に入れなかったってことか?」
チリン。
チリン。
どうやらそういう事だったらしい。
『はい』か『いいえ』で答えられなかったから黙っていたということか。
「一応言っておくけど。急に無反応になったのが気になっただけで『反応してあげなよ』って意味ではないから。返事したり話しかけたりしちゃ駄目だよ。あと、こうやって何か書くのも駄目だからね」
僕が言うと、少し間を置いてから鈴が二回鳴った。どうにも信用できないが、とりあえずは大丈夫そうだ。
「慎ちゃ~~ん。まだ~~?」
玄関から琉姫の声が聞こえる。
「今いくよ」
冷蔵庫の蓋を閉めて玄関に向かうと、琉姫は退屈そうに髪を弄っていた。
「お待たせ」
「そんなに待ってないよ~。じゃあいこっか」
琉姫の態度に変わったところはない。
どうやら姉とのやり取りを見たり聞いたりはしていないようだ。僕は内心ホッとした。
四六時中つきっきりでいれるわけでもない。寝込みに襲われることもあるだろうし、一緒にいたとしてもまとめて襲われる可能性だってある。
流姫が気を掛けていたとしても姉の死は避けられることではないのだ。
それを説明しようとしても、自分を責めている今の流姫には聞く耳を持ってもらえないだろう。
「――わかった。僕が聞いて回るから流姫姉ちゃんは余計なことをしないで後ろで見ていてよ」
僕がそう言うと、流姫は目元を緩ませて「わかった」と頷く。
諦める気配がないのなら付いてきてもらうのが一番だ。
結局そうするのが一番面倒じゃなくて済む。
「じゃあどこから行こっか?」
「待って。先に家に寄っていいかな」
やる気満々。といった様子の流姫を引き留める。
「いいけど、何か用事?」
「これが痛んじゃうからさ」
ケーキが入った小箱を持ち上げて見せる。
話している間にも結構な時間が経っていて、保冷剤で冷たかった箱は常温に近くなっていた。
箱にプリントされた猫のロゴを見て流姫が首を傾げる。
「ケーキ……? 慎ちゃんってこういうの好きだったっけ?」
流姫の言葉にドキリとさせられる。妙なところで鋭い。
「このケーキは姉のだよ」
「え、でも雫ちゃんは……」
「お供え的な奴だよ。姉ちゃんケーキ大好きだったからさ」
「あーね! 確かにっ!」
流姫は納得したように表情を明るいものにして両手を叩く。
「あんまり関係ないだろうけど、気分的に痛んだものを渡すのは嫌だからさ。冷蔵庫に入れておきたいんだ」
「そっかそっか。そういうことなら慎ちゃんの家から行こっか」
流姫は僕の前に出るようにして、家に向かう。
生ものを持って聞き込みなんて絶対に嫌だったので納得してくれて助かった。それにしても……。
「……さっきから反応がないけど、どうかした?」
前を歩く流姫に聞こえないように呟く。
さっきまでと違い鈴は壊れてしまったと思うくらい静かだった。もしかしたらいなくなってくれたのだろうか?
「――返事しないとケーキ捨てるよ」
チリン。
弱々しく鈴が鳴る。
どうやら近くにはいるらしい。
「流姫姉ちゃんがいるのにどうしてそんな静かなんだよ」
僕の記憶では流姫が遊びに来た時は姉のテンションも上がっていた。
普段は要求と愚痴ばかり話す姉がある程度普通に話している姿が貴重だったから鮮明に覚えている。
だから流姫の姿を見て鈴をかき鳴らしたり、自我を出して自己主張したりしないか心配していたのだが、予想と反面大人しいもので疑問に感じていた。
結局家に着くまで鈴は鳴らなかった。
琉姫を玄関で待たせて冷蔵庫にケーキが入った箱を詰め込んでいると、キッチンに置いていたペンが宙を舞った。
ペンがこちらに向かって近づいてきて僕はおどろいて身を引いた。
そのままペンは冷蔵庫に入り込んでケーキの箱に何かを書き始める。
『三人で話すの、無理』
「……は?」
何を言っているのかわからなかった。
どういう事かと頭を捻っていると、さっき姉に質問したのを思い出す。
「もしかして、僕と琉姫姉ちゃんが話してたから輪に入れなかったってことか?」
チリン。
チリン。
どうやらそういう事だったらしい。
『はい』か『いいえ』で答えられなかったから黙っていたということか。
「一応言っておくけど。急に無反応になったのが気になっただけで『反応してあげなよ』って意味ではないから。返事したり話しかけたりしちゃ駄目だよ。あと、こうやって何か書くのも駄目だからね」
僕が言うと、少し間を置いてから鈴が二回鳴った。どうにも信用できないが、とりあえずは大丈夫そうだ。
「慎ちゃ~~ん。まだ~~?」
玄関から琉姫の声が聞こえる。
「今いくよ」
冷蔵庫の蓋を閉めて玄関に向かうと、琉姫は退屈そうに髪を弄っていた。
「お待たせ」
「そんなに待ってないよ~。じゃあいこっか」
琉姫の態度に変わったところはない。
どうやら姉とのやり取りを見たり聞いたりはしていないようだ。僕は内心ホッとした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
蠍の舌─アル・ギーラ─
希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七
結珂の通う高校で、人が殺された。
もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。
調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。
双子の因縁の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
きっと、勇者のいた会社
西野 うみれ
ミステリー
伝説のエクスカリバーを抜いたサラリーマン、津田沼。彼の正体とは??
冴えないサラリーマン津田沼とイマドキの部下吉岡。喫茶店で昼メシを食べていた時、お客様から納品クレームが発生。謝罪に行くその前に、引っこ抜いた1本の爪楊枝。それは伝説の聖剣エクスカリバーだった。運命が変わる津田沼。津田沼のことをバカにしていた吉岡も次第に態度が変わり…。現代ファンタジーを起点に、あくまでもリアルなオチでまとめた読後感スッキリのエンタメ短編です。転生モノではありません!
愛憎シンフォニー
はじめアキラ
ミステリー
「私、萬屋君のことが好きです。付き合ってください」
萬屋夏樹は唖然とした。今日転校してきたばかりの美少女、八尾鞠花に突然愛の告白を受けたのだから。
一目惚れ?それとも、別の意図がある?
困惑する夏樹だったが、鞠花は夏樹が所属する吹奏楽部にも追いかけるように入部してきて……。
鞠花が現れてから、夏樹の周囲で起き始める異変。
かつて起きた惨劇と、夏樹の弟の事故。
過去と現在が交錯する時、一つの恐ろしい真実が浮き彫りになることになる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる