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 書きなぐられた文字を見て、今までで一番心拍数が上がった気がした。
 一度落ち着くために間を置いて、思考に耽る。

 そういえば、殺されたとの話の出所は婆ちゃん連中の世間話だったな。
 ここは想像以上の田舎で住んでいるのは数人の若者と大多数の老人連中。
 後は山に向かう観光客程度だった。

 老人連中は仕事が生きがいで畑仕事に精を出して毎日が充実していそうだし、若者連中は暇があれば海側に繰り出してこの近くで見かける方が稀だ。
 引きこもり気味で人付き合いが苦手な姉が彼らに嫌われたり、殺意を持たれるなんて想像はできない。

「だ……だれに?」

 考えをまとめてから僕は姉に言う。
 ここで犯人の名前が出てきたらどうすればいいのかと悩んだが、聞かずにはいられなかった。

『わからない』
「……わからない? 殺されたと気付いているのに?」
『いきなり殴りつけられてどこかに連れていかれた。フードを被っていて顔も性別もわからない』
「……そっか」

 僕は深く息を吐いて頷いた。
 今の姉は、殺害されたのは理解しているが誰がやったのかはわからない状態という風に見える。

『暗いところに閉じ込められて、血がいっぱい出て動くことも声も出すこともできなくて、助けを呼びたかったのに何もできなかった。私はまだ死にたくなかった』
「……姉ちゃん」

 姉が見つかったのは廃屋。
 昔は納屋として使われていて、畑に使う薬品や備品などを保存していたのだが使われなくなって大分長い期間放置されていた場所だった。

 姉の言動は、その時の事を思い出しているのだろう。
 頭部から血を流した姉は廃屋に閉じ込められてなんとかしようと助かる術を必死に考えていたということか。
 それにしても犯人がわからないと言っておきながら僕を祟ろうとするなんて、死んでからも相変わらず我が儘というか傲慢というか。

「それで、僕にコンタクトを取ってきたってことは犯人を見つけたいってことだよね?」
『そう。犯人を見つけて同じ目に合わせてやりたい。協力しないと祟る』

 祟ってやるとはそういう意味かと僕は納得した。

「いいよ。手伝う」
『ほんとっ!?』

 余程嬉しかったのか、とても幽霊らくしくない喜びの感情が筆跡に滲み出ていた。

「だって、手伝わないと一生部屋に居ついて嫌がらせするつもりだろ?」

 いつでもどこでも姉が付きっきりで近くにいるなんて、正直とても困る。
 しばらく待ったが姉からの返事はなかった。
 沈黙は肯定也。予想通りこいつは絶対嫌がらせをしてくる。

「だからまぁ、手伝うよ。こんなふうに小物を動かされる度に掃除しないといけないなんて憂鬱だしね」
『ありがとう』

 簡潔なお礼の文字を見てため息を吐く。
 まさか死んでからもお願いを頼まれることになるなんて。
 姉弟に憑りつかれてパシりにされてる弟なんて僕ぐらいじゃないだろうか?
 そう思いながら小物を片付けて僕は自分の部屋に戻った。
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