隣の家のありす

FEEL

文字の大きさ
上 下
14 / 27

5-3

しおりを挟む
「ちょっと貸してみろ」

 ありすから本を受け取り中身を確認してみるが、やはりおおよそ間違いはないようだった。

「ほらみろ、合ってるじゃないか」
「違うよ、みんなで楽しく遊んでるお話だよ」
「遊んでる……?」

 改めて本に目を通してみると、描かれている動物たちはみんな頬を緩ませて楽しそうにしてる、ように見える。

「なるほど、確かにそう見えるな」
「でしょっ。うーさんもちゃんと見た方がいいよ」
「なんでちょっと上から?」

 でも確かにありすの言い分は参考になった。作者の意図を深読みするあまりに見たまんまの印象をないがしろにしてしまっていた。そもそも絵本は子供に向けたものなのだから、深く考えるよりもそのままの印象を受け取る方が自然だ。簡単に、わかりやすく、明確な。

「あ……」

 そこまで考えて、頭の中から押し出されるように声が漏れた。
 俺の作品がわかりにくいと言われる理由、俺は今まで複雑で難解な世界観が原因だと思っていた。自分の見ている景色を伝えるためには大量の情報が必要で、それを伝えるためにびっしりと文章を並べていた。でもそれがいけなかったんじゃないか? 大量に並べた情報の波が、伝えたい物語の本質を見えにくくしているんじゃないだろうか。
 本質が見えないから情報を頼りに物語を探る。しかし複雑に絡んだ情報は無差別に読み手を運び、独自の解釈に繋げていく。いや、それどころか迷走したまま溺れてしまうことだってありえる。
 だとしたら、俺のしてきた事はなんだ。伝えたい事が伝えられず、ただ文字を並べていただけだとしたら――。

「うっ……」

 腹でむかむかとした不快感が暴れ回り、堪らず呻き声を上げた。
 自分のやってきた事は意味がなかったのでは。そう考えた瞬間、とてつもない徒労感が体にのしかかってきていた。今までの人生を否定されたような感覚に押しつぶされそうで胸やけが止まらない。

「うーさん? 大丈夫?」

 顔を上げるとありすが泣きそうな表情でこちらを見ていた。

「……大丈夫。ちょっと気分が悪くなっただけだ」

 狼狽しているありすにそういって、息を整える。ありすから見れば急に嗚咽を上げた俺はさぞ気味が悪かっただろう。悪いことをした。
平静を装い心配そうにしているありすの頭を撫でてやると、こちらの様子を伺いながらもありすは視線を本に戻した。それから暫くの間、ありすと読書に勤しんだ後、食事を取ってテレビに流れている番組をぼーと見ていた。テレビを眺めていると時折ありすは演者の物真似をする。それが割と似ているものだから思わず笑ってしまったりして、ゆったりとした時間を過ごしていると、ありすはゆっくりと眠りについた。
 眠るありすに布団をかけてやり、急いで部屋に戻るとそのまま机に向かう。途中まで書いていた原稿を放り捨てて真っ白な原稿用紙を用意した俺は、憑りつかれたようにペンを走らせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...