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33.皇帝の帰還
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帝国西部の視察を終えた皇帝の帰還とあって、出迎えには皇太子フェリックスとギルバートを始めとする貴族達も揃っていた。
フェリックスはアリスに気づくと満面の笑みを向ける。アリスを隣に立たせたかった様子だが、そうすると皇后と皇太子の間に立つ事になるので、アリスは皇后の斜め後ろに立つ。
貴族達は、皇后に連れられたアリスに好奇の視線を向けていた。
「あの女性が皇宮に迎えられた・・・・・・」
「随分と若いな」
「もしや陛下ではなく殿下の・・・・・・」
「いやいや。殿下はご婚約されたばかりではないか」
好き勝手に囁き合う者にじっとアリスを見つめる者と反応は別れたが、「皇帝陛下のご帰還でございます!」という声に、皆一斉に扉の方へ視線を移す。
やがて、近衛騎士や兵士に厳重に囲まれて、皇帝アレックス・ファレ・グランディエが姿を現した。
「お帰りなさいませ。ご無事のお戻り、何よりでございます」
「ああ。・・・・・・皇后、体調はもう良いのか」
皇帝は、クラウディアの近くにいるアリスに気づいて一瞬驚いたものの、クラウディアに話し掛ける。呪いの件は皇帝の耳にも入っていたらしい。
「はい。公務も支障なく行えています」
「そうか。アイザック将軍、この度の働きご苦労だった。関わった騎士、兵士達にも労いを」
「身に余るお言葉光栄に存じます。これも、アリス嬢のご
助力のお陰でございます」
「!?」
ギルバートの発言に、アリスは思わず声をあげそうになった。貴族達はざわめき、皇帝も、これは初耳だったのか片眉を上げる。
「ほう?」
「アリス嬢のご助言が無ければ、証拠を見つける事は難しかったでしょう」
「そうか。礼を言う」
「あ、も、勿体無いお言葉でございます」
皇帝に感謝の言葉を告げられて、アリスは慌ててお辞儀をした。
「陛下、よろしいでしょうか」
貴族達の先頭にいた年配の男が皇帝に声を掛けた。
「良い。ロレンソ公爵、何だ?」
男は筆頭公爵のロレンソ公爵だった。クラウディアの兄で、エリックの父親でもある。髪と瞳の色こそ二人と同じだが、顔立ちはどちらにも似ていないとアリスは思った。
「良い機会ですので、そちらのお嬢様の事を皆にご紹介されては如何でしょうか?」
『そちらのお嬢様』というのは、アリスの事だ。その口調から、彼はアリスの正体を知る一部の貴族のようだ。妹であるクラウディアと、息子であるエリックが知っているのだから当然かもしれない。
「皆、このお嬢様と陛下のご関係に興味がお有りの様子なので」
含みのある言い方に、何人かの貴族がバツが悪そうに下を向く。
ロレンソ公爵の提案に皇帝は少し考えて、「そうだな」と呟いた。
「後日伝える予定だったが、先に伝えておこう。ここにいるアリス・ハミルトンは、私の実の娘だ」
「なんと!」
皇帝の発表に驚いた貴族達が騒がしくなる。
「皇女様と認められるのは先ですが、既に両陛下と皇太子殿下、アイザック公爵閣下と、大地の大精霊から承認を受けていらっしゃいます」
ロレンソ公爵が付け加えた情報に貴族達のざわめきは大きくなった。中には、
「成程、先日の現象はあの方の承認故か」
と、例の騒動を話題に出す声も聞こえてくる。
「紹介は改めてしよう。今日は皆様ご苦労であった」
そう言って、皇帝が歩き出すと、クラウディアとフェリックス、ギルバートも後に続く。
自分はどうすれば良いのかと戸惑うアリスに、サブリナが声を掛けた。
「アリス様はお部屋に。ご案内致しますわ」
「ありがとう」
アリスはサブリナの申し出にホッとした。残った貴族達がチラチラと見てきて居心地が悪く、早く帰りたいと思っていたのだ。その時、
「アリス・ハミルトン殿」
ロレンソ公爵が声を掛けてきた。
「ご挨拶をさせて頂いても?」
こちらに許可を得る体ではあるが、嫌とは言えない雰囲気である。
「・・・・・・はい」
「ありがとうございます。私はグランディエ帝国筆頭公爵、ダニエル・ロレンソと申します」
「アリス・ハミルトンです」
「貴女には、我が妹クラウディア皇后を救って頂いた件でお礼を申し上げたい」
「お礼など・・・・・・。首謀者を捕らえたのは将軍閣下ですし」
アリスにとっては、喋っていた時に思いついた事を話したに過ぎない。本当にそれだけの認識だ。しかし、公爵は謙遜と捉えたらしい。
「はっはっは。慎み深い方だ。身内が世話になったのです。貴女が皇女と認められるよう、私も尽力致しますよ」
遠巻きに二人のやり取りを見ていた貴族達に聞こえるような声でロレンソ公爵が言った。
この発言は、筆頭公爵家が味方についたと宣言したようなものだ。
「いえ、私の方がお世話になってばかりです。ご子息のエリック・ロレンソ卿にも」
エリックの名を出すと、ロレンソ公爵は「ほう」と言って険しい表情を見せたが、すぐに人の良さそうな笑みを浮かべる。
「あれが役に立てたようで何よりです。よろしければ、これからも仲良くしてやって下さい」
その言葉に、アリスは言いようのない嫌悪感を覚える。
何も言わずにいると、ロレンソ公爵はフッと笑い、
「お時間を頂きありがとうございます。それでは」
そう言って立ち去った。
「・・・・・・アリス様、参りましょう」
ずっとロレンソ公爵の後ろ姿を見つめ続けるアリスをサブリナが促す。
「ええ」
そう応えてアリスは踵を返した。
フェリックスはアリスに気づくと満面の笑みを向ける。アリスを隣に立たせたかった様子だが、そうすると皇后と皇太子の間に立つ事になるので、アリスは皇后の斜め後ろに立つ。
貴族達は、皇后に連れられたアリスに好奇の視線を向けていた。
「あの女性が皇宮に迎えられた・・・・・・」
「随分と若いな」
「もしや陛下ではなく殿下の・・・・・・」
「いやいや。殿下はご婚約されたばかりではないか」
好き勝手に囁き合う者にじっとアリスを見つめる者と反応は別れたが、「皇帝陛下のご帰還でございます!」という声に、皆一斉に扉の方へ視線を移す。
やがて、近衛騎士や兵士に厳重に囲まれて、皇帝アレックス・ファレ・グランディエが姿を現した。
「お帰りなさいませ。ご無事のお戻り、何よりでございます」
「ああ。・・・・・・皇后、体調はもう良いのか」
皇帝は、クラウディアの近くにいるアリスに気づいて一瞬驚いたものの、クラウディアに話し掛ける。呪いの件は皇帝の耳にも入っていたらしい。
「はい。公務も支障なく行えています」
「そうか。アイザック将軍、この度の働きご苦労だった。関わった騎士、兵士達にも労いを」
「身に余るお言葉光栄に存じます。これも、アリス嬢のご
助力のお陰でございます」
「!?」
ギルバートの発言に、アリスは思わず声をあげそうになった。貴族達はざわめき、皇帝も、これは初耳だったのか片眉を上げる。
「ほう?」
「アリス嬢のご助言が無ければ、証拠を見つける事は難しかったでしょう」
「そうか。礼を言う」
「あ、も、勿体無いお言葉でございます」
皇帝に感謝の言葉を告げられて、アリスは慌ててお辞儀をした。
「陛下、よろしいでしょうか」
貴族達の先頭にいた年配の男が皇帝に声を掛けた。
「良い。ロレンソ公爵、何だ?」
男は筆頭公爵のロレンソ公爵だった。クラウディアの兄で、エリックの父親でもある。髪と瞳の色こそ二人と同じだが、顔立ちはどちらにも似ていないとアリスは思った。
「良い機会ですので、そちらのお嬢様の事を皆にご紹介されては如何でしょうか?」
『そちらのお嬢様』というのは、アリスの事だ。その口調から、彼はアリスの正体を知る一部の貴族のようだ。妹であるクラウディアと、息子であるエリックが知っているのだから当然かもしれない。
「皆、このお嬢様と陛下のご関係に興味がお有りの様子なので」
含みのある言い方に、何人かの貴族がバツが悪そうに下を向く。
ロレンソ公爵の提案に皇帝は少し考えて、「そうだな」と呟いた。
「後日伝える予定だったが、先に伝えておこう。ここにいるアリス・ハミルトンは、私の実の娘だ」
「なんと!」
皇帝の発表に驚いた貴族達が騒がしくなる。
「皇女様と認められるのは先ですが、既に両陛下と皇太子殿下、アイザック公爵閣下と、大地の大精霊から承認を受けていらっしゃいます」
ロレンソ公爵が付け加えた情報に貴族達のざわめきは大きくなった。中には、
「成程、先日の現象はあの方の承認故か」
と、例の騒動を話題に出す声も聞こえてくる。
「紹介は改めてしよう。今日は皆様ご苦労であった」
そう言って、皇帝が歩き出すと、クラウディアとフェリックス、ギルバートも後に続く。
自分はどうすれば良いのかと戸惑うアリスに、サブリナが声を掛けた。
「アリス様はお部屋に。ご案内致しますわ」
「ありがとう」
アリスはサブリナの申し出にホッとした。残った貴族達がチラチラと見てきて居心地が悪く、早く帰りたいと思っていたのだ。その時、
「アリス・ハミルトン殿」
ロレンソ公爵が声を掛けてきた。
「ご挨拶をさせて頂いても?」
こちらに許可を得る体ではあるが、嫌とは言えない雰囲気である。
「・・・・・・はい」
「ありがとうございます。私はグランディエ帝国筆頭公爵、ダニエル・ロレンソと申します」
「アリス・ハミルトンです」
「貴女には、我が妹クラウディア皇后を救って頂いた件でお礼を申し上げたい」
「お礼など・・・・・・。首謀者を捕らえたのは将軍閣下ですし」
アリスにとっては、喋っていた時に思いついた事を話したに過ぎない。本当にそれだけの認識だ。しかし、公爵は謙遜と捉えたらしい。
「はっはっは。慎み深い方だ。身内が世話になったのです。貴女が皇女と認められるよう、私も尽力致しますよ」
遠巻きに二人のやり取りを見ていた貴族達に聞こえるような声でロレンソ公爵が言った。
この発言は、筆頭公爵家が味方についたと宣言したようなものだ。
「いえ、私の方がお世話になってばかりです。ご子息のエリック・ロレンソ卿にも」
エリックの名を出すと、ロレンソ公爵は「ほう」と言って険しい表情を見せたが、すぐに人の良さそうな笑みを浮かべる。
「あれが役に立てたようで何よりです。よろしければ、これからも仲良くしてやって下さい」
その言葉に、アリスは言いようのない嫌悪感を覚える。
何も言わずにいると、ロレンソ公爵はフッと笑い、
「お時間を頂きありがとうございます。それでは」
そう言って立ち去った。
「・・・・・・アリス様、参りましょう」
ずっとロレンソ公爵の後ろ姿を見つめ続けるアリスをサブリナが促す。
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