私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり

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30.倒れた原因②

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 「ギルバート様までご一緒なんて・・・・・・まさか、皇后陛下が・・・・・・」 

 突然三人の訪問を受けたアリスに悪い予感が過ぎる。

 「落ち着けアリス嬢。皇后陛下の容態は落ち着いている。今の所はな」

 「『今の所は』?」

 ギルバートの言葉への疑問に答えたのはサブリナだった。

 「あの後、皇后陛下は熱を出し苦しんでおられたので、医師や治癒魔法士の治療が行われました。しかし、全く効果がありませんでした」

 「効果が無かった?」

 「ええ」

 高熱があるならば、医師は解熱薬を処方し、そこに治癒魔法が加われば、たいていの熱ならすぐに下がるだろう。それが下がらなかったということは・・・・・・。

 「闇の魔法・・・・・・呪いですか」

 呪いは、相手への憎悪の念に魔力を加えて発動する魔法の一種だ。他の魔法との性質の違いから、『闇の魔法』とも呼ばれる。
 呪いをかける方法は、術者が対象に直接呪文を唱えるか、魔力が入った呪具と呼ばれる道具を使用するかの二つ。
 術者が呪いを解くか、呪具を壊さない限り呪いは続く。

 「その通りです。呪いに治癒魔法は効きません。そこで、皇后陛下の部屋に結界を張ったら、熱は下がりました。だいぶ体力を消耗されていますが」

 結界を外すと再び呪いの影響を受ける為、現在は、魔法士が交代でクラウディアの部屋に結界を張っているという。

 「だが、それでは根本的解決にならない」

 悔しそうに言ったギルバートが頭を掻いた。解呪をしない限り、クラウディアはずっと呪いに怯えなければならない。

 「心当たりはあるのですか?そういえば、昨日の侍女が何か知ってる様子でしたね」

 「その事ですが、あの侍女に皇后陛下が倒れる事を仄めかしたのは、ジェルマン伯爵夫人だとわかりました」

 「何か問題のある方なのですか?」

 「ええ、まあ」
 
 サブリナが言葉を濁すと、すかさずランスロット伯爵夫人が大きな声で叫んだ。

 「問題も何も、昔から皇后陛下を目の敵にしている方ですわ!」

******

 ジェルマン伯爵夫人は、侯爵家出身で容姿が良い自信家だった。昔から自分が皇后候補だと周りに言って憚らなかったという。
 しかし、クラウディアが当時の皇太子である第二皇子の婚約者に選ばれると、悔しさからよく嫌がらせをしていたらしい。その後、第二皇子が亡くなり、新たな皇太子の妃にクラウディアがなると、根も葉もない噂話を吹聴するようになったので、親が田舎の伯爵家に嫁がせた。

 「けれど、華やかな場がお好きな方ですから、皇都のお屋敷にずっといらっしゃって派手に過ごしておいでです。噂好きな取り巻きの方がいらっしゃいますが、全体の評判は良くないですわね!」

 一息に喋った後、ランスロット伯爵夫人はフンッと息を吐いた。他の二人と一緒に呆然として聞いていたアリスだが、気を取り直して質問をする。

 「その方と侍女は、どのような繋がりがあったのでしょう?」
 
 「もともと、その侍女の親がジェルマン伯爵夫人のご実家に仕えていて、二年前まで彼女も侯爵家にいたそうです。夫人がご実家を訪ねて来られた時に知り合ったとか」

 そして、ジェルマン伯爵夫人が侯爵に口添えをして、侯爵家の推薦で皇宮勤めを始めたのだという。

 「先日のお茶会で久しぶりに再会して、言われたそうです。『皇后陛下が命を狙われているらしいわ。もし、皇后陛下が倒れる事があれば、近くにいる者が毒を入れたのよ。そう言いなさい。犯人が掴まれば貴女の株が上がるわよ』と」

 アリスは呆れてしまった。それを信じて実行するなんて、考え無しにも程がある。

 「そのご婦人が関わってる事は明白ですね。呪具も、お茶会の時に持ち込んでどこかに隠したのでは?あれは、呪いの対象者に近い程効果を発揮するといいますから」

 「よく知ってるな、アリス嬢。だが、茶会の時に身体検査と魔力検査をしたが、そういった物は見つからなかったそうだ。侍女に預けた可能性も考えて、その部屋も調べてみたが、何も出なかった」

 ギルバートが言うには、ジェルマン伯爵夫人は魔力無しだという。それならば、術者に依頼して呪具を使ったのは確実だが、呪具には魔石を使うので、魔力の検査をすればすぐに見つかるだろう。

 (皇后陛下の状態からして、呪具は近くにあるはずなのに。どうやって怪しまれずに持ち込んだのかしら)

 「・・・・・・あ」

 ふと、アリスは一つの可能性に思い至った。

 「アリス様?どうなさいました?」

 アリスに声を掛けたサブリナに尋ねた。

 「あの、ジェルマン伯爵夫人は、精霊と契約をされていますか?」

 「ええ。たしか、炎の精霊だったはずです」

 「ギルバート様。契約している精霊は、お茶会の時はどうなるんですか?」

 「守護みたいなものだからな。そのまま連れて入れるが・・・・・・」

 ギルバートはハッとして黙り込んだ。どうやら、気づいたらしい。
 それでも迷っているのか、「いや・・・・・・まさか」と何度か呟いていたが、やがて立ち上がって言った。

 「アリス嬢、助言に感謝する。まだ半信半疑だが、皇后宮を徹底的に捜索させよう」
 
 その後、二時間ほどで呪具は呆気なく見つかった。皇后宮の植え込みの根元に埋められていたのだ。
 そして、その呪具にはぐったりと弱り果てた精霊が縛り付けられていたという。
 
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