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21.精霊の国

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 「精霊に承認を貰うなんて、やはり驚かれましたよね」

 戸惑うアリスを見て、サブリナがクスッと笑う。出会ってから初めて見た柔らかい表情だ。

 「ええ、まあ・・・・・・あまり聞いた事がないので」

 正直に答えるとサブリナは頷いた。

 「無理もありませんわ。この国は精霊の加護を受け、精霊と共にある国ですから」

 そう言って再び真面目な表情に戻る。

 「・・・・・・グランディエ帝国は、初代皇帝がこの地に巣食う魔物を退治した功績で、精霊王より統治を命じられたのが始まりだとされています。それ故に、皇帝をはじめとする皇族は、この地を治める一族に相応しいか、精霊王に審査されるのです。アリス様は外国でお生まれになりましたが、陛下のご息女でいらっしゃいますので」

 「あの、精霊王というのは」

 「全ての精霊達の王です」

 「へえー」

 アリスは思わず声を洩らす。グランディエ帝国について習ったのは、国土や産業などの基本的情報と主要な人物についての事ばかりで、成り立ちについて聞くのは初めてだった。
 精霊王という存在は俄には信じられないが、数日前にこの目で精霊を見たばかりのアリスは信じるしかない。

 「では、ええと、その精霊王にも認めてもらう必要があるという事ですか?」
 
 「そうですね。精霊王と、その下に四大精霊と呼ばれる精霊方がいらっしゃいますので、その方達の承認も必要ですね」

 (なんだか面倒ね・・・・・・)

 これは皇族と貴族の承認よりも難しそうだ。どこに行けば会えるのだろうかと考えた時、アリスは唐突に思いついた。

 (そうだ。承認されないなら、それでも良いじゃないの)

 承認をもらえなければ、皇女として不適格と見做されて解放されるかもしれない。皇宮に連れて来られてもう逃げられないかもと思っていたアリスは、一縷の希望を見出した。

 おそらく、精霊王の承認がなければ、皇族や貴族もアリスを認めづらいだろう。ならば、躍起になって精霊を探さなくても良いではないか。
 いつまで経っても精霊達の承認を得られないならば、貴族あたりから反論が出て皇帝も諦めてくれるかもしれない。

 (そうすれば、自由の身になれる!)

 我ながら名案だと、アリスの口元に自然と笑みが溢れた。

 「アリス様?どうかなさいましたか?」

 様子がおかしいアリスに、サブリナが訝しんで声をかける。

 「い、いいえ。精霊王や四大精霊ともなると、遠い存在のようで。お会いするのも難しそうですね」

 「ああ、そうですね。精霊王と四大精霊にはそれぞれ精霊宮と呼ばれる居所がありますが、皆さん祭事以外はいらっしゃらないと聞いています。精霊の方々の承認は気長に参りましょう」

 「は、はい」
 
 サブリナの言葉にほっと胸を撫でおろした。精霊の承認は気長で良いと言われた安堵からだ。お言葉に甘えて、できるだけ先延ばしにしようと思う。

 「では、皇族と貴族の方々の承認が先ですね」

 「はい。承認を頂く皇族の方々は六名ですが、現在四名の方に承認して頂いています」

 この言葉にアリスは二度目の衝撃を受けた。まさか、皇族の半分が既に承認済みだったとは。

 「どなたが承認して下さったのですか?」

 「皇帝陛下、皇后陛下、皇太子殿下。あとは、アイザック将軍閣下もですね」

 ギルバートは臣籍降下したので正確には皇族ではないが、血縁という事で数に入れられているらしい。
 それはともかく、皇帝が承認しているのはわかるが、まさか皇后と皇太子もアリスを認めてくれてるのには驚いた。

 (昨日、対面の場で会ったばかりなのに、お二人ともどうして・・・・・・)

 実は、皇帝の方に気を取られていて、皇后と皇太子の事はよく見ていなかったのだ。会話も無かったから、二人も自分の事を知らないだろうに、何故自分を認めてくれたのだろう。

 (もし皇女になる事があれば、私の存在が皇太子殿下の地位を脅かす事になるのかもしれないのに)
 
 アリスにはそんなつもりは毛頭無いが、アリスを利用してそうしようとする輩はいるかもしれない。

 (・・・・・・そうならないように、皇女と認められないようにしないと!)

 アリスはそう密かに決心したのだった。
 
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