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27.皇后とのお茶会①
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皇后クラウディアから招待状を貰った二日後、アリスはお茶会に向けて身支度をしていた。
今日がクラウディアに誘われたお茶会の日だ。ただし、参加者はアリスのみ。面識のない貴婦人方が同席するよりはマシかもしれないが、皇后と二人きりで話すのは正直言って緊張する。
『ゆっくりお話ししたいですが、それは、またの機会に』
数日前、皇后は確かにそう言っていたが、こんなに早くその機会が訪れるとは思ってなかった。
支度を終えた頃、ランスロット伯爵夫人が皇后宮からの遣いとして迎えに来た。そして、
「アリス様。自分も同行致します」
護衛を務めるのは、レノワール王国でエリックと共にアリス達を助けてくれたクロード・フォーデンだ。
「フォーデン殿も皇宮近衛騎士だったんですね」
「いえ、自分は魔法騎士団所属です。貴女と面識があるという理由で、暫くの間護衛をするようにと」
魔法騎士団は、騎士の中でも魔法の扱いに長けた者が所属する。魔物が出現しやすい地区を見回って退治をしたり、戦争では魔法を用いて最前線で戦うと聞いている。
「魔法騎士としての任務がありますのに、私の護衛についてもよろしいんですか?」
アリスが申し訳なさそうに言うと、クロードは軽く笑みを溢して言った。
「大丈夫ですよ。護衛の任務に着くこともありますし、一人や二人抜けたところで、揺らぐような組織ではありませんから、ご安心下さい。あと、自分の事はクロードと呼んで下さい」
「ええ。よろしくお願いします、クロード殿」
こうして何事もなく皇后の住まいである皇后宮に到着したアリスは、花が咲き乱れる庭園の中に設られたテーブルへ案内された。
「皇后陛下がおいでになるまでお待ち下さい」
ランスロット伯爵夫人がそう言って席を離れ、クロードもアリスから距離をとって待機する。
そわそわとしながら待っていると、皇后クラウディアが現れた。アリスが立ち上がって淑女の礼をすると「楽になさって」と微笑む。
(楽に、と言われても・・・・・・)
アリスがクラウディアの言葉に素直に従えないのは、クラウディアが伴って来た少年にある。
それに気づいたクラウディアがフフッと笑って言った。
「まあ。この子のせいで緊張しているのね?気にしないで下さいな。貴女とお茶会をすると言ったら勝手に来ただけなんですから」
クラウディアがそう言いながら少年を軽く睨むと、苦笑した少年がアリスに話しかける。
「驚かせてしまい、申し訳ありません。姉上にきちんとご挨拶をと思いまして」
アリスを『姉上』と呼ぶ少年は、皇帝と皇后の子。そして、グランディエ帝国の皇太子だ。
歳はアリスより三つ年下の十五歳。銀の髪と緑色の瞳を持ち、顔立ちは少しだけ皇帝に似ている。
「フェリックス・グランディエです。お会いできて嬉しいです。姉上」
「アリス・ハミルトンと申します。お目通が叶い光栄に存じます」
「ハミルトン?」
「まだ皇女と承認されておりませんので」
不思議そうに聞き返したフェリックスにアリスが説明が説明する。すると、フェリックスは納得したのか頷いて言った。
「ああ、そうでしたね。早く国民の皆に姉上を紹介したいです」
屈託のない笑顔でそう言われて、アリスは戸惑う。
どう答えたものかと思っていると、クラウディアがフェリックスに言った。
「勉強を抜け出して来たのでしょう?そろそろ戻らなくて良いのですか?」
「ああ!そうでした!それでは、またお話ししましょう姉上!」
足早に立ち去る皇太子を見送ったクラウディアは、アリスの方に向き直ると困ったように笑った。
「驚かせてごめんなさい。あの子は、貴女に会えるのを楽しみにしていたものだから」
「いいえ・・・・・・」
「本当は、貴女が皇宮にいらっしゃった日に、私達も貴女とお話する予定だったのだけれど、皇帝陛下が早々に切り上げてしまったでしょう?」
随分と呆気ないと思ったが、皇帝の関係者にとっても予想外に短かい謁見だったらしい。
「さあ、お掛けになって。たくさんお話をしましょう」
クラウディアが穏やかに微笑んだ。
******
テーブルの上には、二人分にしてはやけにたくさんの焼き菓子やケーキが並んでいる。
「貴女はクッキーやマカロンが好きだと聞いたのだけれど、ケーキは苦手かしら?」
「いいえ。ケーキも好きです」
読書や勉強の合間に手軽に食べられるので、クッキーやマカロンを好んで食べていたが、アリスは甘い物全般が好きだ。
「よかった!ここにあるケーキは私のお勧めなの。是非食べてほしいわ!」
嬉しそうなクラウディアに勧められたケーキの中から、アリスは苺が乗ったシンプルなケーキを選んで口にする。
「・・・・・・っ!美味しいです」
アリスの感想を聞いたクラウディアの目が輝き、テーブルに身を乗り出さんばかりの勢いで話し始めた。
「でしょう?そのケーキは私も大好きなの。このお茶も頂いたものなのだけれど、とても風味が良くてーーあら!ごめんなさい。私ったら」
恥ずかしそうにそう言った後、クラウディアがアリスに尋ねた。
「私に聞きたい事があるのではなくて?」
「はい。皇后陛下は先日、私が夢で出会った方に心当たりがあると仰っていましたが、それはどのような意味ですか?」
「あら、その事でよろしいの?フフッ。わかりました。答えましょう」
違う質問を想定していたのか、皇后はキョトンとした表情をしたが、小さく笑って話し始めた。
「それは、簡単な話ですよ。私もその方に夢で会った事があるからです」
「えっ!皇后陛下もですか!?」
驚くアリスにクラウディアは頷く。
「ええ。初めて夢に現れたのは、私が当時の皇太子の婚約者になった時ね。その時は夢の中の出来事だと思っていたけれど、皇后になった時に実際にお会いしたの。その一度だけね」
「実際に・・・・・・実在する方なんですね」
「そうよ。私だけでなく、皇帝陛下も皇太子も夢や現実で会った事があるそうよ。だから、あなたも近いうちにまた会えると思うわ」
皇帝、皇后、皇太子・・・・・・。皇族の関係者の前に現れる謎めいた人物。
クラウディアの話で、アリスの頭の中に一人の人物が思い浮かんだ。
「あの、その方はもしかして・・・・・・」
「次にお会いした時に、本人に聞いてご覧なさい。たぶん、貴女の予想は合ってると思うから」
そう言ってクラウディアははぐらかし、悪戯っぽく微笑んだ。
今日がクラウディアに誘われたお茶会の日だ。ただし、参加者はアリスのみ。面識のない貴婦人方が同席するよりはマシかもしれないが、皇后と二人きりで話すのは正直言って緊張する。
『ゆっくりお話ししたいですが、それは、またの機会に』
数日前、皇后は確かにそう言っていたが、こんなに早くその機会が訪れるとは思ってなかった。
支度を終えた頃、ランスロット伯爵夫人が皇后宮からの遣いとして迎えに来た。そして、
「アリス様。自分も同行致します」
護衛を務めるのは、レノワール王国でエリックと共にアリス達を助けてくれたクロード・フォーデンだ。
「フォーデン殿も皇宮近衛騎士だったんですね」
「いえ、自分は魔法騎士団所属です。貴女と面識があるという理由で、暫くの間護衛をするようにと」
魔法騎士団は、騎士の中でも魔法の扱いに長けた者が所属する。魔物が出現しやすい地区を見回って退治をしたり、戦争では魔法を用いて最前線で戦うと聞いている。
「魔法騎士としての任務がありますのに、私の護衛についてもよろしいんですか?」
アリスが申し訳なさそうに言うと、クロードは軽く笑みを溢して言った。
「大丈夫ですよ。護衛の任務に着くこともありますし、一人や二人抜けたところで、揺らぐような組織ではありませんから、ご安心下さい。あと、自分の事はクロードと呼んで下さい」
「ええ。よろしくお願いします、クロード殿」
こうして何事もなく皇后の住まいである皇后宮に到着したアリスは、花が咲き乱れる庭園の中に設られたテーブルへ案内された。
「皇后陛下がおいでになるまでお待ち下さい」
ランスロット伯爵夫人がそう言って席を離れ、クロードもアリスから距離をとって待機する。
そわそわとしながら待っていると、皇后クラウディアが現れた。アリスが立ち上がって淑女の礼をすると「楽になさって」と微笑む。
(楽に、と言われても・・・・・・)
アリスがクラウディアの言葉に素直に従えないのは、クラウディアが伴って来た少年にある。
それに気づいたクラウディアがフフッと笑って言った。
「まあ。この子のせいで緊張しているのね?気にしないで下さいな。貴女とお茶会をすると言ったら勝手に来ただけなんですから」
クラウディアがそう言いながら少年を軽く睨むと、苦笑した少年がアリスに話しかける。
「驚かせてしまい、申し訳ありません。姉上にきちんとご挨拶をと思いまして」
アリスを『姉上』と呼ぶ少年は、皇帝と皇后の子。そして、グランディエ帝国の皇太子だ。
歳はアリスより三つ年下の十五歳。銀の髪と緑色の瞳を持ち、顔立ちは少しだけ皇帝に似ている。
「フェリックス・グランディエです。お会いできて嬉しいです。姉上」
「アリス・ハミルトンと申します。お目通が叶い光栄に存じます」
「ハミルトン?」
「まだ皇女と承認されておりませんので」
不思議そうに聞き返したフェリックスにアリスが説明が説明する。すると、フェリックスは納得したのか頷いて言った。
「ああ、そうでしたね。早く国民の皆に姉上を紹介したいです」
屈託のない笑顔でそう言われて、アリスは戸惑う。
どう答えたものかと思っていると、クラウディアがフェリックスに言った。
「勉強を抜け出して来たのでしょう?そろそろ戻らなくて良いのですか?」
「ああ!そうでした!それでは、またお話ししましょう姉上!」
足早に立ち去る皇太子を見送ったクラウディアは、アリスの方に向き直ると困ったように笑った。
「驚かせてごめんなさい。あの子は、貴女に会えるのを楽しみにしていたものだから」
「いいえ・・・・・・」
「本当は、貴女が皇宮にいらっしゃった日に、私達も貴女とお話する予定だったのだけれど、皇帝陛下が早々に切り上げてしまったでしょう?」
随分と呆気ないと思ったが、皇帝の関係者にとっても予想外に短かい謁見だったらしい。
「さあ、お掛けになって。たくさんお話をしましょう」
クラウディアが穏やかに微笑んだ。
******
テーブルの上には、二人分にしてはやけにたくさんの焼き菓子やケーキが並んでいる。
「貴女はクッキーやマカロンが好きだと聞いたのだけれど、ケーキは苦手かしら?」
「いいえ。ケーキも好きです」
読書や勉強の合間に手軽に食べられるので、クッキーやマカロンを好んで食べていたが、アリスは甘い物全般が好きだ。
「よかった!ここにあるケーキは私のお勧めなの。是非食べてほしいわ!」
嬉しそうなクラウディアに勧められたケーキの中から、アリスは苺が乗ったシンプルなケーキを選んで口にする。
「・・・・・・っ!美味しいです」
アリスの感想を聞いたクラウディアの目が輝き、テーブルに身を乗り出さんばかりの勢いで話し始めた。
「でしょう?そのケーキは私も大好きなの。このお茶も頂いたものなのだけれど、とても風味が良くてーーあら!ごめんなさい。私ったら」
恥ずかしそうにそう言った後、クラウディアがアリスに尋ねた。
「私に聞きたい事があるのではなくて?」
「はい。皇后陛下は先日、私が夢で出会った方に心当たりがあると仰っていましたが、それはどのような意味ですか?」
「あら、その事でよろしいの?フフッ。わかりました。答えましょう」
違う質問を想定していたのか、皇后はキョトンとした表情をしたが、小さく笑って話し始めた。
「それは、簡単な話ですよ。私もその方に夢で会った事があるからです」
「えっ!皇后陛下もですか!?」
驚くアリスにクラウディアは頷く。
「ええ。初めて夢に現れたのは、私が当時の皇太子の婚約者になった時ね。その時は夢の中の出来事だと思っていたけれど、皇后になった時に実際にお会いしたの。その一度だけね」
「実際に・・・・・・実在する方なんですね」
「そうよ。私だけでなく、皇帝陛下も皇太子も夢や現実で会った事があるそうよ。だから、あなたも近いうちにまた会えると思うわ」
皇帝、皇后、皇太子・・・・・・。皇族の関係者の前に現れる謎めいた人物。
クラウディアの話で、アリスの頭の中に一人の人物が思い浮かんだ。
「あの、その方はもしかして・・・・・・」
「次にお会いした時に、本人に聞いてご覧なさい。たぶん、貴女の予想は合ってると思うから」
そう言ってクラウディアははぐらかし、悪戯っぽく微笑んだ。
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