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13.皇宮への道中②

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 はしゃいでいた二人は、ギルバートの言葉で顔が赤くなり、恥ずかしそうに座り直した。

 「皇宮に着く前に聞いておきたい事はあるか?アリスちゃん」

 「はい。あの・・・・・・」

 アリスは少し迷ってからギルバートを見る。

 「どうして私の事を『アリスちゃん』と?」

 他にも聞きたい事はあったが、聞かずにはいられない。

 「俺、固苦しいの苦手なんだよ」

 ギルバートはそう言ってニヤリと笑った。
 
 「レノワール王国であんたに会った時はお上品にしていたから、『紳士的でかっこいい将軍閣下』と思っただろうが、あれは他所行きの姿で、こっちが素だから」

 諸事情から十歳まで市井育ちだったギルバートは、上流階級のマナーなどが苦手だと言う。

 「それでも、突然『アリスちゃん』と呼ぶのはどうかと思います」

 「良いだろう。初めて会う訳じゃないんだから。あんたとは伯父と姪の間柄だ。これでも弁えているから、お堅い場所では呼ばねえよ」

 「伯父と姪・・・・・・」

 アリスの父親だと言う現皇帝は先代皇帝の第三皇子。第一皇子だったギルバートの異母弟にあたる。
 アリスが皇帝の実子であれば、確かにアリスの伯父という事になるだろう。それでもだいぶ強引な理由だが。
 
 アリスは二つ目の質問を口にした。
 
 「あの・・・・・・私は本当に皇帝陛下の実子なのでしょうか。人違いという可能性も・・・・・・」

 いっそ人違いであって欲しい。そんな淡い希望はギルバートによってあっさりと打ち砕かれた。

 「あんたは間違いなく陛下の子だよ。その銀の髪に紅い瞳・・・・・・同じ色だ」

 そう言って、ギルバートがアリスを見つめる。アリスに慈しむような眼差しを注ぐのは紅い瞳だ。
 たしか、先代皇帝の瞳もその色だったと祖父から聞いた事がある。

 「母親は違う色だろう?」

 「・・・・・・はい」

 アリスは祖父の部屋に飾られていた肖像画を思い出す。
 若い頃の祖父母と共に描かれた幼い母は、淡い茶色の髪に藍色の瞳をしていた。

 「あの・・・・・・私の父は、私を引き取りたいと祖父に何度も打診をしていたと聞きました。皇帝という権威のある立場の方ならば、祖父の意向を聞かずとも無理矢理引き取る方法もあった筈です。どうして・・・・・・」

 「そうだな。そうする事もできただろう。だが、陛下は常々『エディアルド殿から無理矢理奪う事があってはならない』と仰っていた。だから、粘り強く交渉してたのさ」

 そこまで言うと、ギルバートは黙り込み眉根を寄せた。

 「・・・・・・ようやく『アリスが成長した時に、会いたいと望むのなら』って約束をとりつけた時に、レノワール王国の先代国王がアホ王子との婚約を決めやがった」
 
 忌々し気に呟き、溜め息をつく。

 「レノワールの先王陛下は、私と父の事をご存知だったのですか?」

 「ああ・・・・・・。こちらからの遣いには、慎重にエディアルド殿と接触させていたのに、どう嗅ぎつけたかんだか。ーーあのジジイ、恩着せがましく『二人の結婚の際にアリスと対面できるよう計らってやる』と言ってきて、取引を持ち掛けてきやがった」

 「まあ・・・・・・」

 アリスはジョナサンの祖父であるレノワール王国先代国王の事を思い出す。
 アリスの出自を蔑む者が多い中、先代国王はアリスを気にかけてくれていた一人だった。時にはジョナサンの振る舞いをきつく叱ってくれた事もある。
 国王に対しては口答えの多いジョナサンも、先代国王には逆らえないらしく、大人しく従っていた。

 (ジョナサン様からの扱いを理由に、私から婚約解消されたら困るものね・・・・・・)

 祖父が言っていた『価値がある』という言葉の意味がわかった。
 取引とやらはよくわからないが、帝国と縁ある者を孫の妃にできれば箔がつくだろう。その為に、先代国王はなんとしてでもアリスを手中に収めておきたかったに違いない。

 数少ない味方だと思っていた人物の真意を知り、アリスは失望した。

 「すまない。あんたにとっては気分の良い話じゃないだろう」

 自分を気遣うギルバートに、アリスは首を振る。

 「いいえ・・・・・・。今日だけで新しく知る事が多過ぎて」

 そう答えて力無く笑うアリスの頭にギルバートの手が置かれた。

 「今まで何も知らされてなかったからな。混乱して当然だ」

 「ありがとうございます、閣下」
 
 感謝を述べると、ギルバートは少々不満そうな顔をした。

 「そんな堅苦しい呼び方するなよ。ギルバートで良い」

 ここは『お堅い場所』ではないのだから、気安く呼んでほしい、と。
 正直、自分が皇帝の娘だと言う実感は無いが、目上のギルバートからそう言われて断るわけにもいかない。

 「ギルバート様、ありがとうございます」

 苦笑しながら言い直すと、調子に乗ったギルバートが

 「『ギル伯父様』でも構わないぞ」

 と言ってきたのには、流石に聞こえない振りをした。

 

 

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