14 / 40
14.皇宮到着
しおりを挟む国境の街を出発してから二日後。アリス達が乗った馬車はグランディエ帝国皇都に入った。
「普通なら七日はかかるのに、二日で到着するなんて」
ここまでの行程を振り返って呆然と呟くアリスにシェリルが頷く。
「はい。貴重な経験を致しました」
どうして通常より五日も早く到着できたのか。それは、途中の大きな街で転移の魔法陣を使い、移動距離を大幅に短縮したからだ。
「馬車ごと魔法陣で移動だなんて、帝国の魔法士の方々は優秀な方ばかりですのね」
レノワール王国では上級魔法士の資格を持っていたアリスは、物だけでなく、自身に転移魔法をかけて移動する事ができる。
しかし、転移魔法は転移させる対象の大きさ、数、移動距離が増えると、それだけ難易度が上がる。
魔法陣でそれを補う事はできるが、それでも成功させる事ができる魔法士は少数だろう。
「魔石を使っている馬車なので、あのような事ができるのですよ。他の馬車ではそうはいきません」
向かいの席に座るエリックが説明をする。彼はこの二日間、アリス達に不便がないよう常に気を配り、わからない事もこうやって親切に教えてくれた。
その隣に座るギルバートは、腕組みをしたまま寝息を立てている。
「閣下はお疲れのようですね」
「宿泊先で皇宮への連絡や他の仕事の調整をしていましたからね。眠れていないのでしょう」
たしかに宿泊先でのギルバートは、アリス達と別行動をとる事が多かった。
「そんなにお忙しい中、私の迎えに?」
「ええ。自分が迎えに行くと行って聞きませんでしたから」
「・・・・・・おい、余計な事を言うな」
いつの間にか起きていたギルバートがエリックを睨む。
「面識のある人間が行った方が、アリスちゃんも気が楽だろうって思っただけだ」
(むしろ緊張したのだけれど!?)
アリスにとっては『社交でニ、三度会った他国の上位貴族(しかも元皇族)』という認識だったので、心の中でつっこんだ。
しかし、彼なりの気遣いだと思うと、それはそれでありがたいと思った。
「ギルバート様には本当にお世話になりました」
「礼を言うのはまだ早いんじゃないか?」
この二日間の感謝を述べるアリスに、ギルバートがそう言って笑う。
「あんたを皇帝陛下に引き合わせるまでが、俺の役目だからな」
「・・・・・・」
そうだった。その為に来たんだったと、アリスは頭を抱えた。それを見たギルバートが呆れた顔で話し掛ける。
「おいおい。元々、父親に会う為にこの国に来たんだろう?」
「はい。ですが、まだ信じられないというか、心の準備が・・・・・・」
「いい加減覚悟を決めろ」
(そんな事を言われても・・・・・・)
この後に及んでも、『この者は儂の娘では無い』と言われて解放される事を期待してしまう。
間違いだったと言われる方がマシだ。皇帝の娘として迎えられれば、皇宮に軟禁されるのではないのだろうか。
「あ、あの・・・・・・閣下、よろしいでしょうか」
アリスが悶々としていると、シェリルが遠慮がちに口を開いた。
「どうした、シェリル?」
「はい。あの、お嬢様が皇宮に入られると、私はどうなるのですか?」
堅い表情のまま、少し震えた声で尋ねられた問いに対して、ギルバートはエリックと顔を見合わせる。
「どうなるも何も・・・・・・あんたはアリスちゃんの侍女だろ?アリスちゃんと一緒に皇宮に入るが?」
「えっ・・・・・・よろしいのですか?」
ギルバートの返答に、シェリルは目を丸くする。
アリスが皇帝の娘として迎えられるのならば、側に仕える者達も揃えられているだろう。
それならば、自分がお供できるのは皇宮まで。アリスが皇宮に到着すれば、用済みとして追い払われるのではないか・・・・・・。
そう思っていたのだ。
シェリルの不安を払拭するように、エリックが穏やかな口調で付け加える。
「貴女の事も、ハミルトン殿から頼まれています。場所が変わるだけで、今までと何も変わりませんよ」
「いきなり知らない奴に世話されるよりも、あんたが側にいた方がアリスちゃんも安心だろ?」
「ありがとうございます」
二人にそう言われて、シェリルはようやく安堵の表情を浮かべて深々とお辞儀をした。
******
皇宮に到着したアリス達を迎えたのは、濃紺のドレスを着た女性だった。
「私は皇宮で女官長を務めております、サブリナ・キールズと申します。以後、お見知りおきを」
「アリス・ハミルトンです。よろしくお願い致します」
サブリナからの挨拶にそう答えると、彼女は切長の目を一層細めてアリスを見つめた。
「私は貴女様にお仕えする身です。そのように畏まらないで下さいませ」
「は、はい・・・・・・っ!」
アリスの返事にサブリナは何か言おうとしたが、諦めたように小さく溜め息をついて話し始めた。
「・・・・・・では、お部屋にご案内致します。湯浴みとお着替えの後、皇帝陛下との謁見がございますので」
「・・・・・・ッ!?」
『皇帝陛下との謁見』という言葉に、アリスは心臓が跳ね上がる。それと同時に襲いかかるのは今まで経験した事のないような胃痛。
「来たばっかりだぞ?少しは休ませてやれよ」
一気に顔色が悪くなったアリスを気遣ってギルバートが抗議をする。
「そのようにして差し上げたいのですが、陛下は明日から十日ほどご予定がおありです。できれば今日お会いになりたいと・・・・・・」
「ふうん。相変わらずお忙しいねえ。ま、十日も待たされる方がアリスちゃんの心臓に悪そうだな」
ギルバートがアリスを見ながら苦笑する。
「悪いな、アリスちゃん。謁見の時は俺も一緒だから」
そう言って、アリス達を残して去って行った。
その後ろ姿にサブリナは大きな溜め息をつく。
「まったく、あの方は・・・・・・。では、参りましょう」
1,503
お気に入りに追加
4,823
あなたにおすすめの小説

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる