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12. 皇宮への道中①
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迎えの馬車は六人程度が余裕で乗れる広さだった。
馬車にはアリスとシェリル、ギルバートとエリックが乗り、クロードは他の兵達と共に馬で随行する。
「ーーなあ、機嫌を直してくれよ」
向かいに座るギルバートが困ったように笑う。
馬車に乗ってから、アリスが子供のようにシェリルにしがみついて離れないのだ。
しかも、一丁前に威嚇する子猫のようにギルバートを睨みつけている。
元皇族の将軍に対して無礼だという自覚はあったが、先ほどのギルバートの発言で、シェリルの命が自分の行動にかかっている事をアリスは思い知った。その結果、彼女の中で
(シェリルは私が守らないと・・・・・・!)
という使命感が生まれた。
「さっきは脅しまがいな事を言ったが、ちゃんと来てくれれば、あんた達の事は守るから」
そう言われても、すぐに信じる事はできない。
しかし、シェリルが困ったような顔をして、
「ありがとうございます、お嬢様。私は大丈夫ですから」
と言うので渋々離れた。
そんなやり取りの後、ギルバートがアリスに話し掛ける。
「さて、アリスちゃん。窓の外を見てみな」
「えっ?は、はい」
突然の馴れ馴れしい呼び方に驚いたものの、言われた通りに窓から外を見る。
「ーーもうこんなに移動していたんですか?」
外の景色を見たアリスはまたもや驚く。
グランディエ帝国の国境の街は、重厚な石造りの建物が建ち並んでいたが、窓の外には建物の姿はなく、のどかな花畑が広がっていたのだ。
馬車が動いた気配はしなかったのに、いつの間にか街を抜けていたらしい。
「高貴な方向けの馬車ですからね。『魔石』を馬車に埋め込んで、揺れないよう魔法で制御してあるんです」
エリックが説明をした。
『魔石』は魔力が高い土地で生成される、魔力を帯びた石の事。魔法道具の核に使われたり、魔法の使用による疲労を癒す作用がある。
アリスが育ったレノワール王国では採掘量が少ないので、他国からの輸入に頼っていた。それでも天然の魔石は高価なので、質の劣る人工の魔石も流通している。
(レノワール王国では貴重なあの石を馬車に・・・・・・それだけ資源が潤沢って事よね)
と、国力の差を思い知る。
「凄いですね・・・・・・」
シェリルも感心しながら呟いた。
「グランディエ帝国は精霊の加護がある国なので。こちらでは『精霊石』とも呼ばれています」
「石の話はそのくらいにしておけ。俺が見せたかったのは外だ。何か見えないか?」
ギルバートが再び外を見るよう促す。外に見せたい物があるらしい。
「綺麗な花畑が見えますが・・・・・・あっ」
よく見ようと外を凝視したアリスが声を上げた。
色とりどりに咲く花の間や、少し上のあたりをフワフワと何かが飛んでいる。初めは蝶かと思ったが、蝶よりも少し大きな何かも一緒に飛んでいた。
「あっ、あれは精霊ですか!?」
初めてみる精霊に声が上擦り、頬がほんのり赤くなるほど興奮してしまうアリスを見て、ギルバートが頷く。
「ああ。街中よりも自然の中の方が姿が見えやすいからな。あんたも見てみろよ」
ギルバートに言われて反対の窓から外を見たシェリルも、すぐに感嘆の声を漏らしてはしゃぎ始める。
「お嬢様!精霊ですよ!私、初めて見ました!」
「私もよ、シェリル!」
精霊の加護を受けるグランディエ帝国以外では、精霊の姿を見る事は滅多にない。絵本に描かれた精霊しか知らなかったアリスとシェリルは、初めて精霊を目の当たりにし、小さな子供のように喜んだ。
そんな二人を微笑ましく眺めていたギルバートだが暫くしても二人の興奮が静まりそうにないので、咳払いをする。
「ーーさて、思っていた以上に喜んでもらえて何よりだ。そろそろ良いか?」
馬車にはアリスとシェリル、ギルバートとエリックが乗り、クロードは他の兵達と共に馬で随行する。
「ーーなあ、機嫌を直してくれよ」
向かいに座るギルバートが困ったように笑う。
馬車に乗ってから、アリスが子供のようにシェリルにしがみついて離れないのだ。
しかも、一丁前に威嚇する子猫のようにギルバートを睨みつけている。
元皇族の将軍に対して無礼だという自覚はあったが、先ほどのギルバートの発言で、シェリルの命が自分の行動にかかっている事をアリスは思い知った。その結果、彼女の中で
(シェリルは私が守らないと・・・・・・!)
という使命感が生まれた。
「さっきは脅しまがいな事を言ったが、ちゃんと来てくれれば、あんた達の事は守るから」
そう言われても、すぐに信じる事はできない。
しかし、シェリルが困ったような顔をして、
「ありがとうございます、お嬢様。私は大丈夫ですから」
と言うので渋々離れた。
そんなやり取りの後、ギルバートがアリスに話し掛ける。
「さて、アリスちゃん。窓の外を見てみな」
「えっ?は、はい」
突然の馴れ馴れしい呼び方に驚いたものの、言われた通りに窓から外を見る。
「ーーもうこんなに移動していたんですか?」
外の景色を見たアリスはまたもや驚く。
グランディエ帝国の国境の街は、重厚な石造りの建物が建ち並んでいたが、窓の外には建物の姿はなく、のどかな花畑が広がっていたのだ。
馬車が動いた気配はしなかったのに、いつの間にか街を抜けていたらしい。
「高貴な方向けの馬車ですからね。『魔石』を馬車に埋め込んで、揺れないよう魔法で制御してあるんです」
エリックが説明をした。
『魔石』は魔力が高い土地で生成される、魔力を帯びた石の事。魔法道具の核に使われたり、魔法の使用による疲労を癒す作用がある。
アリスが育ったレノワール王国では採掘量が少ないので、他国からの輸入に頼っていた。それでも天然の魔石は高価なので、質の劣る人工の魔石も流通している。
(レノワール王国では貴重なあの石を馬車に・・・・・・それだけ資源が潤沢って事よね)
と、国力の差を思い知る。
「凄いですね・・・・・・」
シェリルも感心しながら呟いた。
「グランディエ帝国は精霊の加護がある国なので。こちらでは『精霊石』とも呼ばれています」
「石の話はそのくらいにしておけ。俺が見せたかったのは外だ。何か見えないか?」
ギルバートが再び外を見るよう促す。外に見せたい物があるらしい。
「綺麗な花畑が見えますが・・・・・・あっ」
よく見ようと外を凝視したアリスが声を上げた。
色とりどりに咲く花の間や、少し上のあたりをフワフワと何かが飛んでいる。初めは蝶かと思ったが、蝶よりも少し大きな何かも一緒に飛んでいた。
「あっ、あれは精霊ですか!?」
初めてみる精霊に声が上擦り、頬がほんのり赤くなるほど興奮してしまうアリスを見て、ギルバートが頷く。
「ああ。街中よりも自然の中の方が姿が見えやすいからな。あんたも見てみろよ」
ギルバートに言われて反対の窓から外を見たシェリルも、すぐに感嘆の声を漏らしてはしゃぎ始める。
「お嬢様!精霊ですよ!私、初めて見ました!」
「私もよ、シェリル!」
精霊の加護を受けるグランディエ帝国以外では、精霊の姿を見る事は滅多にない。絵本に描かれた精霊しか知らなかったアリスとシェリルは、初めて精霊を目の当たりにし、小さな子供のように喜んだ。
そんな二人を微笑ましく眺めていたギルバートだが暫くしても二人の興奮が静まりそうにないので、咳払いをする。
「ーーさて、思っていた以上に喜んでもらえて何よりだ。そろそろ良いか?」
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