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3. 帝国の青年
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アリスを庇った青年に、会場の者達の視線が一斉に向けられた。
「お前は、たしかグランディエ帝国の・・・・・・エリック・ドリトンだったか」
断罪劇に酔いしれていたジョナサンは、突然割って入った青年ーーエリックを睨みつける。
「おや。私のような者を認識して頂いて光栄です、殿下」
「・・・・・・お前は見目が良いからな」
隣のアンジェリカに目をやり、ジョナサンが舌打ちした。
うっとりとエリックを見ていたアンジェリカが慌ててジョナサンの方へ笑みを向ける。
彼に目を奪われたのはアンジェリカだけではない。
金の髪にエメラルド色の瞳。そして、優しげな整った顔立ち。
エリックは、『見目が良い』というジョナサンの言葉通り、ため息が出る程の美しい青年だった。
エリックは、レノワール王国の隣国、グランディエ帝国の子爵令息で、アリス達が二年生の時に留学生として編入した。
魔力保持者だが、「こちらでの人脈を作っておきたい」と『貴族クラス』を希望。
クラスが違うアリスとの接点は殆ど無いが、二人は一度だけ会話をした事がある。
***
それは、去年の秋頃。
アリスはアンジェリカの友人達に捕まり、嫌味を言われていた。
次は得意な実技魔法の授業。早く教室へ行きたいのにとアリスはイライラしていたが、早めに解放されるのを願いながら、いつものように応対する。
そこへ、通りがかったエリックが声を掛けたのだ。
「何をしているのですか」
突然麗しい留学生に話しかけられた令嬢達は色めき立つ。
「まあ、エリック様」
「な、なんでもありませんわ。少し、アリス様と世間話を」
などと取り繕い、エリックに駆け寄った。
もうアリスの事などどうでも良いらしい。
「次の授業の教室までご一緒しませんこと?」
令嬢の一人が上目遣いでエリックを誘う。
「せっかくのお誘いですが・・・・・・私は職員室に寄りますので。エスコートできずに申し訳ありません」
「いいえ!そんな!」
「私達はお先に参りますわね」
「はい。後ほど」
エリックが軽く手を振ると、令嬢達は黄色い悲鳴をあげながら立ち去っていった。
(随分と手慣れているわね・・・・・・)
エリックが令嬢達をあしらうのを半ば感心しながら眺めていると、振り返ったエリックと目が合う。
「あの、ありがとうございました。ドリトン卿」
「私の事をご存知でしたか」
エリックが驚いた様子で言う。
クラスが違うアリスが自分を知っていたのが意外だったのだろう。
「はい。学園に通う方の名は覚えるようにしています」
「光栄です、アリス嬢。ああ、あと、私の事は『エリック』とお呼び下さい」
「畏まりました、エリック様」
そう呼ぶと、エリックは嬉しそうに笑みを浮かべた。
(笑顔になると、幼く見えるのね)
口には出さないが、可愛らしいと思って、アリスの表情も和らぐ。
「そのような表情もされるのですね」
「えっ?」
「お見かけする度、ずっと険しい顔をされていたので。そちらの方が素敵ですよ」
「っ!?」
予想していなかった言葉に固まってしまったアリスに、エリックはクスッと笑うと、「それでは」と行ってしまった。
「変わった方ね・・・・・・」
エリックの後ろ姿を見送りながら、アリスはポツリと呟いた。
それが、アリスがエリックに抱いた感想だった。
***
「ーーふん、そこの罪人を庇っても身を滅ぼすだけだというのに、酔狂な事だ」
「罪人、ですか」
静かに呟いたエリックが、冷たい眼差しをジョナサンに向ける。
「そこの令嬢の言いなりになって碌に調べもせずに。『恋は盲目』とはよく言ったものですね」
淡々と話す声は静かだが怒りを帯びていて、それは聞いている誰もがわかった。ーーただ一人を除いては。
「なんだと!?」
頭に血が上っているジョナサンだけはその事に気づいていない。
エリックはさらに続ける。
「晴れの場である卒業パーティーでこのような茶番で婚約者を侮辱して・・・・・・そんな方が王太子とはね」
そう言って侮蔑を帯びた目でジョナサンを見つめる。
「お前は、たしかグランディエ帝国の・・・・・・エリック・ドリトンだったか」
断罪劇に酔いしれていたジョナサンは、突然割って入った青年ーーエリックを睨みつける。
「おや。私のような者を認識して頂いて光栄です、殿下」
「・・・・・・お前は見目が良いからな」
隣のアンジェリカに目をやり、ジョナサンが舌打ちした。
うっとりとエリックを見ていたアンジェリカが慌ててジョナサンの方へ笑みを向ける。
彼に目を奪われたのはアンジェリカだけではない。
金の髪にエメラルド色の瞳。そして、優しげな整った顔立ち。
エリックは、『見目が良い』というジョナサンの言葉通り、ため息が出る程の美しい青年だった。
エリックは、レノワール王国の隣国、グランディエ帝国の子爵令息で、アリス達が二年生の時に留学生として編入した。
魔力保持者だが、「こちらでの人脈を作っておきたい」と『貴族クラス』を希望。
クラスが違うアリスとの接点は殆ど無いが、二人は一度だけ会話をした事がある。
***
それは、去年の秋頃。
アリスはアンジェリカの友人達に捕まり、嫌味を言われていた。
次は得意な実技魔法の授業。早く教室へ行きたいのにとアリスはイライラしていたが、早めに解放されるのを願いながら、いつものように応対する。
そこへ、通りがかったエリックが声を掛けたのだ。
「何をしているのですか」
突然麗しい留学生に話しかけられた令嬢達は色めき立つ。
「まあ、エリック様」
「な、なんでもありませんわ。少し、アリス様と世間話を」
などと取り繕い、エリックに駆け寄った。
もうアリスの事などどうでも良いらしい。
「次の授業の教室までご一緒しませんこと?」
令嬢の一人が上目遣いでエリックを誘う。
「せっかくのお誘いですが・・・・・・私は職員室に寄りますので。エスコートできずに申し訳ありません」
「いいえ!そんな!」
「私達はお先に参りますわね」
「はい。後ほど」
エリックが軽く手を振ると、令嬢達は黄色い悲鳴をあげながら立ち去っていった。
(随分と手慣れているわね・・・・・・)
エリックが令嬢達をあしらうのを半ば感心しながら眺めていると、振り返ったエリックと目が合う。
「あの、ありがとうございました。ドリトン卿」
「私の事をご存知でしたか」
エリックが驚いた様子で言う。
クラスが違うアリスが自分を知っていたのが意外だったのだろう。
「はい。学園に通う方の名は覚えるようにしています」
「光栄です、アリス嬢。ああ、あと、私の事は『エリック』とお呼び下さい」
「畏まりました、エリック様」
そう呼ぶと、エリックは嬉しそうに笑みを浮かべた。
(笑顔になると、幼く見えるのね)
口には出さないが、可愛らしいと思って、アリスの表情も和らぐ。
「そのような表情もされるのですね」
「えっ?」
「お見かけする度、ずっと険しい顔をされていたので。そちらの方が素敵ですよ」
「っ!?」
予想していなかった言葉に固まってしまったアリスに、エリックはクスッと笑うと、「それでは」と行ってしまった。
「変わった方ね・・・・・・」
エリックの後ろ姿を見送りながら、アリスはポツリと呟いた。
それが、アリスがエリックに抱いた感想だった。
***
「ーーふん、そこの罪人を庇っても身を滅ぼすだけだというのに、酔狂な事だ」
「罪人、ですか」
静かに呟いたエリックが、冷たい眼差しをジョナサンに向ける。
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淡々と話す声は静かだが怒りを帯びていて、それは聞いている誰もがわかった。ーーただ一人を除いては。
「なんだと!?」
頭に血が上っているジョナサンだけはその事に気づいていない。
エリックはさらに続ける。
「晴れの場である卒業パーティーでこのような茶番で婚約者を侮辱して・・・・・・そんな方が王太子とはね」
そう言って侮蔑を帯びた目でジョナサンを見つめる。
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