上 下
1 / 36

1. 婚約破棄

しおりを挟む
 レノワール王国王立学園。
 ここは、レノワール王国の貴族子女と魔法士候補、そして一部の平民達が通う学園だ。
 『貴族クラス』『魔法クラス』『特待生クラス』にそれぞれ分かれて三年間学び、卒業時には盛大なパーティーが催される。


 「アリス・ハミルトン!!俺は今ここでお前との婚約破棄を宣言する!!」

 その卒業記念パーティーの席で、王太子ジョナサンは高らかに叫んだ。
 王太子に腰を抱かれ寄り添うのは伯爵令嬢のアンジェリカ。

 パーティーに集う生徒達の好奇の視線が、銀髪の少女に向けられた。
 名指しされた婚約者のアリス・ハミルトンは、藍色の瞳で壇上の二人を見つめる。

 人目を憚らない寵愛ぶりだったので、二人の仲はアリスも知っていた。
 もともと自分を嫌っているジョナサンだ。いずれ愛人を作るだろうと思っていたので驚きすらない。

 「・・・・・・それは、私との婚約を解消し、そちらのご令嬢と婚約なさるという事でしょうか」

 自分でも驚くくらい静かな声で、アリスが尋ねる。

 「そうだ。お前は我が妃に相応しくない」

 「私達の婚約は、先王陛下と現国王陛下が私を未来の王妃としてお認めになり、お決めになった事。それを覆す理由は何でございましょう」

 「白々しい!お前の悪行はわかっているのだぞ!」

 どこまでも冷静なアリスに苛立った王太子が声を荒げた。

 「お前はアンジェリカに嫌がらせをしていたな」
 
 「・・・・・・嫌がらせ?」

 首を傾げるアリスに「とぼけるな!」とジョナサンが怒鳴る。

 「すれ違う度に『身の程知らず』とか『調子に乗るな』と嫌味を言っていたそうじゃないか!アンジェリカの友人が証言しているぞ!」

 「はあ・・・・・・」

 アリスの視界に、意地の悪い笑みを浮かべている令嬢数人が見えた。
 いつもアンジェリカにゾロゾロ付いて行っている令嬢達だ。
 むしろ、その嫌味はアリスがその令嬢達に言われていたのだが。

 「覚えがございませんわ。そちらのご令嬢達の記憶違いでは?」

 そう言って令嬢達の方を見ると、他の生徒達の注目を浴びた彼女らは顔を赤くして狼狽えた。

 「まあ!私のお友達になんて事を!!」

 アンジェリカがわざとらしく口元に手を当てて叫ぶが、アリスは無視して続ける。

 「そもそも、私はアンジェリカ様とはクラスが違いますし、わざわざ意地悪をしに近づくほど暇ではありません」 

 そう答えるとジョナサンは鼻で笑ってアリスを嘲笑う。

 「ああ・・・・・・そうだな。お前は『貴族クラス』ではなく『魔法クラス』所属だからな。身分の卑しい者に混じって魔法の研究をするのに忙しいようだったな」

 学園では、貴族階級の者は『貴族クラス』に振り分けられるが、魔力がある者には『魔法クラス』の選択肢も与えられる。
 しかし、そのほとんどは『貴族クラス』を選択する。
 『魔法クラス』には平民出身の魔法士が多く、平民と並んで学ぶのを嫌がる為だ。
 一方で、魔法士になれば引くて数多なので、貴族階級でも実家が困窮していたり、嫡男でない者の中にはあえて『魔法クラス』を選ぶ者もいる。

 アリスが『魔法クラス』を選んだのは、魔法の勉強が好きという事はもちろん、自分を嫌うジョナサンと顔を合わせる機会が減るからだが。

 「『身分の卑しい者』などと・・・・・・。平民の方もいらっしゃいますが、皆さん将来は魔法士として国に貢献される方々です。もちろん『特待生クラス』の方々も、その能力の高さ故に各分野での活躍を期待され、こちらで学ぶ事を許可された方々。いずれ王となり、国民を慈しむ立場に立たれる方が、そのような事を口にされるのは如何なものでしょうか」

 アリスからの指摘にジョナサンは言葉に詰まり、居合わせた平民の生徒たちは賞賛の眼差しでアリスを見つめる。

 「・・・・・・う、うるさい!俺に指図をするな!・・・・・・た、たしかに、今の言い方は誤解を与えるな」

 ジョナサンはそれだけ口にすると、居心地悪そうに目を泳がせる。
 平民だけでなく、貴族の生徒達もそんなジョナサンを冷ややかに見ている。

 (この女・・・・・・何でこんなに堂々としてるんだ。立場をわからせてやらないと)

 顔色を変えないアリスをなんとか負かしたい、自分が優位に立ちたいジョナサンは、しばらく考える。
 そして、何か思いついたのか、嘲りの笑みを浮かべてこう言った。

 「侯爵家の者でありながら『貴族クラス』を選ばないとは・・・・・・さすがのお前にも、『貴族の恥晒し』の娘という自覚があったのか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...