18 / 21
番外編
秘め事は隠された小部屋の中で ①
しおりを挟む
とある休日の午後のこと。
莉緒と恭吾は、篁家の屋敷内にある『開かずの間』にいた。ここは、かつての執事が鍵を紛失して以来、使う予定もなかったため三十年近く放置されていたという、いわくつきの部屋である。
中に何があるのかは、現当主である恭吾でも知らなかった。当然好奇心でいっぱいのふたりは、鍵を開けにきた業者が帰ってすぐに、室内に足を踏み入れたのだが――。
その途端、廊下の窓から強い風が吹きつけ、背後にある扉が勢いよく閉まった。慌ててふたりがかりで押してみるものの、建てつけが悪いせいかびくともせず。
……そんなわけで、莉緒と恭吾はこの『開かずの間』の中に、閉じ込められてしまったのである。
「どうしましょう、恭吾さん……!」
莉緒は震えの止まらない手で彼にしがみつき、泣きべそをかいた。
「莉緒さん、そんなに怖がらないで」
「だって、まさか閉じ込められちゃうなんて」
「大丈夫ですよ。そのかわり、私にぴったりくっついていてください。いいですね?」
耳元でそう優しく囁く彼が、莉緒を強く抱きしめてくる。この場に似つかわしくない、低く甘い声。大きな彼のぬくもりに、不安がすうっと溶けていく。
カーテンで閉め切られた室内は暗く、どこか不気味だった。コレクション置き場として使われていたのか、古い調度品やアンティークグッズがごちゃごちゃに置かれ、中には骨のようなものや、薄汚れたぼろきれみたいなものまである。
と、突然高いところから何かが落ちる物音がして莉緒は飛び上がった。恐る恐るそちらに目を向けて、ひっ、と声を上げる。
「きょ、恭吾さん、あれ……!」
「ああ、呪いの面ですね」
さらりと言った彼の顔を、莉緒は凝視した。
「呪いとか、冗談ですよね……?」
「さあ、どうでしょう」
恭吾がにやりと口角を上げる。
(こんな時にからかうなんて……)
意地悪な彼に怒りをぶつけたいところだが、あいにくそんな心の余裕はない。ムッとする代わりに、恭吾の胸に顔を押しつけた。
「怖いなら何も見なければいいんですよ」
大きな腕が、背中をぎゅっと抱きしめてくる。
その言葉に従って目を閉じれば、とくん、とくん、と伝わる彼の心音。ゆっくりと力強くて、とても落ち着いている。でも……。
「あ、あの」
「ん?」
色っぽくかすれた彼の声。莉緒が腰を引こうとすると、恭吾は益々身体を押しつけてきた。お腹に当たる彼の身体の一部は硬く、猛々しく己の存在を主張していて――。
「恭吾さん……こんな状況なのに」
「こんな状況?」
莉緒がこくりと頷く。
「開かずの間に閉じ込められて、周りを呪いの仮面や何かの骨とかに囲まれてるんですよ? それなのに――」
必死に説明を試みる莉緒の頬に手が掛かり、彼の方へと向けられた。
「怪しげな密室に莉緒さんとふたりきりでいるなんて、私はむしろ興奮しますが」
静かに囁く彼の長い睫毛が、緩やかに瞬く。ふたたび開けられたまぶたの中で、はしばみ色の美しい瞳が揺らめいた。
「あなたは私だけを見ていればいいのです」
すべてを言い終わらないうちに、彼の唇が莉緒の唇に触れる。そして、ベルベッドみたいな感触がふわりと重なった。
そろりと忍び込んできた熱い舌が、莉緒の口内を丹念に味わうように開かせる。そこにあるあらゆるものの形を確かめるように、未踏の森の中を探索するかのように。
「ん……う、恭吾、さん――」
「しっ。何も言わないで」
莉緒と恭吾は、篁家の屋敷内にある『開かずの間』にいた。ここは、かつての執事が鍵を紛失して以来、使う予定もなかったため三十年近く放置されていたという、いわくつきの部屋である。
中に何があるのかは、現当主である恭吾でも知らなかった。当然好奇心でいっぱいのふたりは、鍵を開けにきた業者が帰ってすぐに、室内に足を踏み入れたのだが――。
その途端、廊下の窓から強い風が吹きつけ、背後にある扉が勢いよく閉まった。慌ててふたりがかりで押してみるものの、建てつけが悪いせいかびくともせず。
……そんなわけで、莉緒と恭吾はこの『開かずの間』の中に、閉じ込められてしまったのである。
「どうしましょう、恭吾さん……!」
莉緒は震えの止まらない手で彼にしがみつき、泣きべそをかいた。
「莉緒さん、そんなに怖がらないで」
「だって、まさか閉じ込められちゃうなんて」
「大丈夫ですよ。そのかわり、私にぴったりくっついていてください。いいですね?」
耳元でそう優しく囁く彼が、莉緒を強く抱きしめてくる。この場に似つかわしくない、低く甘い声。大きな彼のぬくもりに、不安がすうっと溶けていく。
カーテンで閉め切られた室内は暗く、どこか不気味だった。コレクション置き場として使われていたのか、古い調度品やアンティークグッズがごちゃごちゃに置かれ、中には骨のようなものや、薄汚れたぼろきれみたいなものまである。
と、突然高いところから何かが落ちる物音がして莉緒は飛び上がった。恐る恐るそちらに目を向けて、ひっ、と声を上げる。
「きょ、恭吾さん、あれ……!」
「ああ、呪いの面ですね」
さらりと言った彼の顔を、莉緒は凝視した。
「呪いとか、冗談ですよね……?」
「さあ、どうでしょう」
恭吾がにやりと口角を上げる。
(こんな時にからかうなんて……)
意地悪な彼に怒りをぶつけたいところだが、あいにくそんな心の余裕はない。ムッとする代わりに、恭吾の胸に顔を押しつけた。
「怖いなら何も見なければいいんですよ」
大きな腕が、背中をぎゅっと抱きしめてくる。
その言葉に従って目を閉じれば、とくん、とくん、と伝わる彼の心音。ゆっくりと力強くて、とても落ち着いている。でも……。
「あ、あの」
「ん?」
色っぽくかすれた彼の声。莉緒が腰を引こうとすると、恭吾は益々身体を押しつけてきた。お腹に当たる彼の身体の一部は硬く、猛々しく己の存在を主張していて――。
「恭吾さん……こんな状況なのに」
「こんな状況?」
莉緒がこくりと頷く。
「開かずの間に閉じ込められて、周りを呪いの仮面や何かの骨とかに囲まれてるんですよ? それなのに――」
必死に説明を試みる莉緒の頬に手が掛かり、彼の方へと向けられた。
「怪しげな密室に莉緒さんとふたりきりでいるなんて、私はむしろ興奮しますが」
静かに囁く彼の長い睫毛が、緩やかに瞬く。ふたたび開けられたまぶたの中で、はしばみ色の美しい瞳が揺らめいた。
「あなたは私だけを見ていればいいのです」
すべてを言い終わらないうちに、彼の唇が莉緒の唇に触れる。そして、ベルベッドみたいな感触がふわりと重なった。
そろりと忍び込んできた熱い舌が、莉緒の口内を丹念に味わうように開かせる。そこにあるあらゆるものの形を確かめるように、未踏の森の中を探索するかのように。
「ん……う、恭吾、さん――」
「しっ。何も言わないで」
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。