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第12話 事件の後始末
③
しおりを挟む「今朝お出かけになる際に、必ず何か食べさせるように、と念を押していかれたのです。エレイナ様を大変ご心配されていました」
父が出かけた、という言葉を聞いて、一瞬明るくなった気持ちがふたたび沈んだ。
「そう。……そうよね」
ため息を吐いて、エレイナは床に目を落とす。心配するのも当たり前だ。今ではたったふたりの家族なのだから。
あの日、突然辻馬車で戻ってきたエレイナの顔を見るなり、伯爵は何も聞かずに抱きしめた。もう大丈夫だ、と優しく背中を撫でて、エレイナがひとしきり泣いてしまうまで待ってくれた。
その時ほど、父の存在をあたたかく感じたことはない。婚約者に無理やり襲われた恐怖と、アデルをその場に置き去りにしてきてしまったことへの後悔とで、エレイナの心は今にもくずおれそうになっていたのだから。
最近やけに忙しくしている伯爵とは、それきり一度も顔を合わせていない。
お互いに普段出かける際には、どこへ行くか、なんの用事で出掛けていつごろ戻るのかを必ず使用人に伝言していく。
それなのに、近頃の伯爵は何も告げずに出掛けてしまう。それはエレイナにとって、とても悲しいことだった。王宮貴族の立場では秘密も多いだろうが、せめて手紙くらいは残して行ってほしい。
「わかったわ」
ため息まじりではあったが、エレイナはうなずいた。
「とりあえず食堂に行くわ。そのあとですぐに出掛けるから、着替えを手伝ってちょうだい」
馬車の車窓にかけられたカーテンの隙間から、エレイナは不安な気持ちで外を眺めていた。
石畳の敷かれた道の端には、粗末な衣服を身にまとった男たちがたむろしている。彼らは農民だろうか。鍬くわや鋤すきなどといった農耕具を手にして、落ちくぼんだ目をエレイナが乗る馬車に向けている。
離宮からほど近い場所にある伯爵家界隈も、ここ数日で急に治安が悪くなったと聞く。
三日前には、城下町の入り口にある貴族の屋敷に強盗が入った。
おととい貴族が襲われたのは、離宮と道を二本隔てたところにある裏通り。
そして昨日は、離宮とクロナージュ家との、ちょうど中間にある王室の馬場が荒らされた。朝になって馬番が見にいくと、厩舎の戸が破壊され、中にいたはずの馬たちは一頭残らず消えていたそうだ。
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