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第11話 人を思う気持ちは止められない
②
しおりを挟む「ヘネ枢機卿から打診がございました。『孫娘との結婚の返事はいついただけるのか』と」
「その話ならもう聞き飽きたよ」
「まだ三度目でございます」
ルシオールは大きなため息を吐いた。
「もう三度目だ。以前にも言っただろう? 私が首を縦に振るわけがない」
「しかし、これ以上返事を先延ばしにするわけにも参りますまい。親書を書くお許しをいただければ、すぐにお作りいたします」
「その件は断る、と書くのか?」
「殿下のお気持ちに従うならば。しかしその場合、お命の保証はないでしょう」
それまでのあいだ辛抱強く堪えていたルシオールだったが、ついにデローニを鮮やかな青い目で睨みつけた。
「では聞くが、妻に寝首をかかれる可能性はゼロなのか? 枢機卿が自分の孫娘を押し付けようとするのは、兄を亡き者にしたのち私を即位させ、子をなさぬうちに暗殺する算段だろう。妻に毒入りのワインを勧められてめでたく私は息絶え、そして選挙で選ばれた枢機卿が国王の座に就く。……まったく、面白い話だ」
ルシオールは投げやりな態度で手を振る。紅茶を飲もうとカップを手にしたが、口に運んだところで中身がすでにからになっていることに気づき、悪態をつきながらカップを戻した。
現在、ヴィクトラス王国の王政はかつてないほどに揺らいでいる。
事の発端は遡ること十年ほど前、長年冷戦状態だった隣国とのあいだに、国交が回復したことにある。
交易が再開した途端、頭のいい貴族たちはこぞって金儲けに精を出した。しかし、そうなると当然貧富の差が生まれ、波に乗れなかった者たちからは不満の声が上がるようになる。
それに加えて、かねてより財政の苦しかった王国政府が、現王――ルシオールの兄――の代になった途端一気に増税したために、怒りの矛先が王室に向いたのだ。
赤字の原因は、かつて王政を担っていた重鎮たちによる、国庫の使い込みにあると囁かれている。しかし、事実は未だ解明に至っていない。
締め付けの影響は納税義務のある貴族だけでなく、その末端の農民にまで及んだ。そのため王室の信用は失墜し、選挙制などというばかげた機運が生まれたのだった。
王室を取り巻く貴族たちの派閥は、主に三つに分かれている。
すなわち、ヴィクトラス王国の建国から今に至るまで続いている、正統なる王家の血筋を支持する王統派。
正教会が支持するヘネ枢機卿派。
そして、王国の諮問機関である元老院が支持するサンデリン卿派である。
王宮に出入りする貴族たちは、それぞれが支持する派閥に腰巾着のように張りついて、恩恵のおこぼれにあずかりたいと狙っている。
皆、重用されたくて必死なのだ。選挙が行われた暁には、それぞれが支持する権力者の票集めに奔走することだろう。
しかし、中でも恐れるべきはなんといっても枢機卿だ。国民の過半数が信仰する宗教のトップに君臨する彼の力は強大すぎる。それ故にルシオールは、枢機卿から迫られている孫娘との縁談について、はっきりと断ることもできずに手をこまねいているのだ。
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