探偵トライアングル

aika

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episode.1 婚約破棄〜人生最悪の夜〜

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はじめまして。

私の名前は猪田 マナミ。
仕事は、儲けの少ない某探偵事務所の第一助手。

胸が隠れるくらいの長さの黒髪に、深いオレンジ色のインナーカラー。
少しキツイ目元が、生意気な印象を与えている。30半ばの微妙なお年頃。
絶賛独身街道爆進中。


この探偵事務所に所属している探偵は、性格も年齢も能力もまるで共通点のない二人。

恭司とルビー。

恭司さんは40代。バツイチ。子持ち。
奥さんが男を作って逃げて、リコちゃんという可愛い12歳の娘を男手一人で育てている。

一方ルビーは20代前半。エリート大学を出たばかりの若手探偵。
彼の名前を聞いた時、そんな名前ある?って正直そう思った。
どこの国の人なんだろう?って。

キラキラネームを通り越して外国人みたいな名前の彼は、その名に相応しく国籍のわからないルックスをしている。金髪に青い瞳。背の高い謎のイケメン。
有名大学を出ただけあって、知性を感じさせる視線に銀の細縁メガネがよく似合う。


「だから~、ルビーお前は目立ちすぎなんだよ。わかってんのか?俺たちの仕事。」

「わかってますよ。仕方ないじゃないですか。僕は何を着ていても目立つんですから。」

バツイチのヤサグレおじさんと、キラッキラのインテリイケメン。

いつも言い合いばかりしている二人だけれど、なんだかんだで仕事では息ピッタリだから不思議。


この探偵事務所の役割は、私が想像していたよりかなり深くて複雑なものだった。
MM0という悪なんだか正義なんだかわからない謎の組織から指令を受け取って動くスパイのような仕事を含んでいて、その全貌は一助手である私には知らされていない。

何も知らずにこの探偵事務所の門をくぐった私は、ただの事務員になるつもりが、秘密組織の一員になり大いなる陰謀とやらに巻き込まれてしまった。

どうでもいい雑用のような仕事がほとんどに見えるこの事務所で行われている特殊ミッションの数々。
訳もわからず振り回される毎日だけど、それよりも・・・

今一番私の頭を悩ませているのは、この二人の探偵とのありえない三角関係だ。

この話は長くなる。
面白い話も、面白くない話も全部含めて。
胸がときめくようなことも、ハラワタが煮え繰り返るほどムカつくことも。


まずは全ての始まり。出会いの物語から。




私は数年前、ルビーと運命的な出会いをした。
有名な大都市であるこの街、リュクスブルグに越してきた日。

あの日私は大失恋したばかりで、投げやりな気持ちで高級ホテルに泊まってワインを飲んでいた。

この世界の全てを呪いたい。そんな気分だったことを強烈に覚えている。

婚約者と結婚する資金を貯めるために、今まで我慢してきた全ての欲望を解放してやろう!って、本能に従って動いていた。あの夜。

「バカヤロ~~~~!!」

側から見たら、ただの飲んだくれに見えたと思う。

大都会の夜景は、今まで見たどんな景色より綺麗だった。
宝石みたいにキラキラ光っている街を見下ろして、私が叫んだのは汚い言葉ばかり。


リュクスブルグで暮らすことはこの世界の一種のステータスであり、私の憧れだったから、
この街の高級マンションで彼と結婚生活をスタートするのを夢見て、今まで色々な犠牲を払ってきた。

食べるものも、お洒落も、友達との遊びも色々ガマンしてやっとの思いで貯めたお金。
この街で働く彼の元へ、サプライズをかねて仕事も家も全てを引き払って出てきたら、彼は若くて可愛い新しい彼女と暮らしてた。

こんな仕打ちってある?

腹が立つというよりも、ただただ驚いた。
自分が愛した男が、ゴミ以下だったという事実に。

まぁ、よくあることなのかもしれない。

自分が本命だと思っていたら、ただの浮気相手だったなんてことは。
お気楽で能天気な私は、自分の人生にそんなことが起こるなんて夢にも思ってなかった。

30半ばのお洒落もしないキャリアもない女が、大都会で成功を納めている男と釣り合うって信じていたところが、最高にイタイところ。


「大丈夫ですか?スマホ、落としましたよ?」

高級ホテルのラウンジから外に出て、夜景に向かって叫ぶイタイ女に話しかけてくる男がいるなんて驚いた。

それがルビーとの出会い。



真っ赤なノースリーブのドレスワンピで身を固めた、ピンヒールのアラフォー女がワイン片手に叫んでいたら、普通の男は近付かない。

新手の詐欺かなんかかと、ピンときた。

彼は、信じられないほどに若くて眩しいイケメンだったから。


彼は美しいブロンドヘアに、青い目をした世にも美しい顔立ちで、手足が長く恐ろしくルックスの良い男だった。
こんな綺麗な男は今まで見たことがなかったし、アルコールに弱いくせに手当たり次第ワインを飲み干していたせいで手がつけられないほど酔っ払っていたから、夢見てるのかもと思った。

夢ならいいや。どうにでもなれ。
そんな投げやりな気持ちと、せっかくだからこのイケメンとの出会いを詐欺とわかっていても楽しんじゃおうという、やっぱり投げやりな気持ちとで、私はすんなり彼に心を許した。


「そのスマホは落としたんじゃなくて、捨てたの。」

目の座った酔っ払い女をよく真面目に相手にしたなぁと、今振り返っても不思議に思う。
ルビーは私のどこがそんなに良かったんだろうって。

どう見ても不審者。
どんなに贔屓目に見ても、それ以外には見えないはずだ。


「捨てたって・・・もう、必要ないものなんですか?」

訳あり物件に手を出す男の気が知れない。ルビーは女の趣味が最悪なんだと、いまだに思う。


「そのスマホは、大っ嫌いな男からもらったものだから、捨てたの。私の人生は今日が新しい始まりだから。」

「奇遇ですね。僕も、この街で今日から人生のスタートを切るんです。」

やっぱりどこかずれているなぁ、って意外に思った。
こんなにイケメンで若くてキラキラしているのに、残念な人だあって。
彼もひどく酔っ払っていたのかもしれない。

この美しくキラキラと輝く若いイケメンの人生のスタートと、婚約破棄された無職崖っぷちアラフォー女の人生のスタートが重なり合うなんてあり得ないことでしょう?

自然の摂理に反している。


そんな言葉が頭に浮かんだけれど、彼は真っ直ぐな笑顔で私を口説いてきた。
その時はこれがイケメン詐欺の手口か!って、思わずメモを取りたいくらいに私は感心していた。
彼の言葉や仕草には迷いが一切なくて、私を騙すために全力で演技していると思ったから。


「僕はこの街で生きることをずっと夢見て来たんです。そのスタートの日にここであなたと会えたこと、偶然じゃない気がしています。」

私を騙すために全力投球してくれる彼の発言に、何故か面白くなってしまった私は、部屋で飲み直さないか、と彼を誘った。
私の人生どうにでもなれと思っていた。

婚約者には本命の彼女がいて結婚が白紙になったことだけでも充分不幸なのに、そんな日に詐欺師に出会うなんて。

どうせならイケメン詐欺師に騙されて、どん底のどん底まで落ちてみようと思った。

今考えたら完全に頭がイカれた女のする行動だと思うんだけど、当時の私は精神的に相当参っていて、正しい判断がまるでできない状態だった。


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