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赤いスカートの女(3)
しおりを挟む朱音さんに会ったあの日から、
私はとんでもない考えに取り憑かれていた。
自分で「とんでもない」、と自覚できているのだから、
私は正常だ。と、誰かに弁解するように一人呟く。
商店街で見た、赤いスカートの女が気になっていた。
あの夜、私を追ってきた女は、この世のものではないと、本能的にそう感じた。
あの夜の恐怖を思い出す。
あれほど鮮明に恐怖したはずなのに、時間が経過した今では幻だったのかもしれない、と思ってしまう。
理解できない現象から逃げようとしている自分に気づく。
人は理解を超えた現象に、見間違いや勘違いと理由をつけて、無かったことにしようとする。
それは本能から来る恐怖の回避行動なのだろうか。
見てはいけない、
知ってはいけない、
足を踏み入れてはいけない。
それは、おぞましいモノたちからの、警告なのかもしれない。
ーー彼と喫茶店で会っていた女は、幽霊だったのではないか?
そんな馬鹿げた疑念に、私は取り憑かれてしまっていた。
新聞記者という職業のせいもあって、
一度生まれた疑念は、追いかけずにはいられない性分だった。
私が見た赤いスカートの女。
私は彼女の下半身しか見ていない。
見てはいけないと、本能がそう強く警告したから。
彼女はスカートではなく、ワンピースを着ていたのではないか。
私は確信していた。
あの女が、彼に取り憑き、自分から奪って行ったのだと。
その夜、不気味な夢を見た。
漆黒の闇の中に、赤く鈍く光る月。
はぁ
はぁ
ざっ、
ざっ、
耳障りな音。
獣のような息遣い
乾いた地球の音。
息ができず、
全身がミシミシと爆ぜている。
手を伸ばそうにも、皮が縮み、腕が崩れ落ち、
この身では叶わない。
闇の中で、何かが光った。
銀色の光。
ざっ、
ゴォォォォォォォ・・・
一瞬にして全てが赤に染まり、
やがて黒く土へ還っていった。
気付くと、暗い雨の中。
雨の音が、耳の中で響いている。
水に浸った服が、ぺっとりと肌に張り付いて
身に重い。
全てを焼き尽くすような怒りは、憎しみは、
さらに燃え上がり、身を包む。
ハッと目が覚めた瞬間、私は全身に汗をかき体が硬直していた。
これは、彼女が私に見せた夢なのだ。
私は覚悟を決めた。
赤いスカートの女の正体を明らかにしてみせる。
私から彼を奪い取って行った、あの幽霊の正体を。
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