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♤『白髪の王子』
しおりを挟むどうやら俺と咲羅は、お互いの世界を一日置きに行き来しているらしい。
流華はもはや驚くこともなく、現実をすんなりと受け入れた。
自分の世界で一晩中名月と抱き合って目が覚めたら
また豪勢な天蓋付きベッドの中に居た。
名月ともう少し抱き合っていたかった。
半年ぶりに与えられた彼の身体は、たまらなく気持ちよくて全てが満たされる夢のような時間だった。
昨夜のことを思い出すだけで身体の奥が疼く。
今日、俺の世界で目が覚めた咲羅は、彼と寝るだろうか。
あの純真無垢な咲羅に要が手を出したと聞いた時は、怒りに近い感情がこみ上げた。
嫉妬なんて名付けられるような、単純明快な感情じゃない。
天使のような咲羅を汚した要が許せないと、そう思ったのだ。
自分の男と寝た彼に対して、どうしてこんな感情を抱くのか。
咲羅は流華にとって、どこにも分類することができない曖昧な存在だ。
咲羅に対して抱く感覚はどれも、流華が今まで経験したことがない不思議なものだった。
咲羅を傷つけるものは許さない。
咲羅と俺には何か特別な繋がりがあるのだろうか?
鏡の中で初めて彼を見た時。懐かしい。確かに流華はそう感じたのだ。
この世界についてわかったことがある。
俺が生きている世界は2030年。
咲羅の世界は40年前の1990年であるということ。
聞いたことのない地名。貴族のような階級制度が色濃く残っている世界。
咲羅は権力者の息子で、裕福な暮らしをしており、執事が仕えるお屋敷で暮らしている。
階級制度や地名を聞くと異国の街なのかと思えるが、言語は流華の世界と同じものだ。
街並みもどこか懐かしい雰囲気がある。
この世界に来るたびに「あぁ、この街を知っている。」という確信が流華の胸をよぎるのだ。
流華の世界で使用されているスマホやPCなどの電子機器はこちらの世界には一切存在していない。
1990年であることは確かだけれど、別次元の世界なのかもしれないと流華は推理していた。
ベッドに寝転んだままぼうっと考え込んでいると、
廊下から紫庵の足音が聞こえてくる。
ノックの音に続いて、
ガチャリ、と重い扉が開いた。
「おはようございます。咲羅お坊っちゃま。・・白馬様がお見えです。」
「白馬・・?」
聞き覚えがない名前だった。
「上峯家のお坊っちゃまです。」
「上峯家?」
「咲羅お坊っちゃまの従兄弟にあたるお方です。」
従兄弟か。
「今行く。」
ベッドの中から起き上がるのが億劫で、フゥと深いため息を吐き出す。
今日はなんだか体が怠い。
昨夜一晩中愛し合ったせいかと思ったが、それは咲羅ではなく、流華の身体に起きたことだ。
「もう・・お見えです。」
紫庵が困惑した表情で、視線を泳がせる。
「咲羅、おはよう。」
紫庵の背後から顔を出したその男を目にした瞬間、流華の頭に「王子」という言葉が浮かんでいた。
緑色の瞳がキラキラと宝石のように輝いてこちらを見つめている。
ほとんど白髪と言っていいような、綺麗なプラチナブロンドの髪。
サラサラ、キラキラという音が聞こえてきそうな美しさ。
すらりと伸びた手足、長身の身体に小さな頭。
王子がいるとしたら、こんな感じだろう。流華はそう思った。
「久しぶりだね。とても会いたかったよ。」
映画のワンシーンのように、美しいその男は完璧な笑顔を浮かべる。
白髪の王子。
眠り姫に目覚めのキスをするが如く、彼はベットに横たわったままの咲羅に唇を重ねた。
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