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♡『飼い主』

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僕は、鏡の向こう側の世界に来てしまったらしい。


ここは、流華の世界だ。




咲羅は混乱する頭を、なんとか落ち着かせようと目を閉じた。





「流華、シャワー浴びておいで。朝食用意しておくよ。」




流華の王子様はとても優しい。

恋愛に疎い僕でも、二人が恋人同士なのだと分かった。



甘い、彼の声。

全てを包み込んでくれるような、彼の優しい瞳。



シャワーを浴びながら、

鏡で自分の顔をマジマジと見つめる。



昨日鏡の中で見たのと、同じ顔がここにある。



「綺麗な顔・・・・」

鏡の中の流華に手を伸ばす。




恋人に大切にされている流華が、羨ましい。




咲羅は、昨日まで恋人だった堂鳳 碧のことを思い出していた。


彼は生徒会長で、文武両道、笑顔が爽やかで学園の人気者。


一つ年上で、憧れの先輩だった。




彼から愛の告白をされた時、信じられない気持ちでいっぱいだったことを思い出す。




「・・・っ、」



彼のことを思い出すだけで、また涙が溢れ出してきた。


たった一年間だったけれど、僕はとても幸せだった。





流華の顔に涙は似合わない。




それよりも元の世界に戻る方法を考えなくては。






「流華、どうした?」




用意されていた制服を着て、朝食の席に着く。




流華の学校の制服は、グレンチェック のパンツに、濃紺のブレザー。


えんじ色のネクタイ。





「目が赤いな。泣いたのか?」



コーヒーをマグカップに注ぎながら、彼は言った。




そんなことまで気づいてくれるなんて・・・・紫庵みたいだ。


いつも自分の身を案じてくれる、執事の彼を思い出す。



咲羅はコーヒーを受け取り、

王子の顔をじっと見た。




色気のある大人の男。


彼のフェロモンに、咲羅は圧倒されていた。


ゆったりとしたショールカラーのルームカーディガンがよく似合う。




恋人の顔を一目見ただけで、


変化に気付いてしまう観察力。





「な、泣いてないです・・・っ、」



「本当に?」



彼の右手が、頬に触れる。






きょ、距離が近すぎ・・・・・!






真顔で見つめられて、


心臓が爆発しそうなほど、うるさく響いている。




瞳に吸い込まれるように、視線も身体も動かすことができなかった。




あ・・・・唇が・・・・ッ




軽く、触れるだけのキス。




「・・・っ!!」




ギュッときつく閉じた目を、恐る恐る開けると、


彼はポン、と流華の頭を撫でて微笑んだ。





「今日の流華はいつもと違うな。」




「そ、そんなこと・・・・っ、」





まだ心臓の音がうるさい。





今朝初めて出会った人と・・・キス、してしまった。



彼の名前も知らないのに・・・。





「ネクタイ、首元までしっかり締めてる。」


トントン、と人差し指で、首元を示される。


「え・・・?」


「いつもはそんなふうにきちんと締めたりしないから、珍しいなぁと思って。」



「あ、・・・そうなんですね、」


慌ててネクタイを緩める。



「いや、それはそれでいいよ。新鮮だな。」




後ろから抱きしめるようにして、


彼がネクタイを締め直してくれる。




「うん。いいね。」


満足そうに笑う顔を向けられて、ドキドキしてしまう。





僕は、振られたばかりなのに・・・


流華の恋人にドキドキするなんて、、、





「あ、あの、名前・・・」



「ん?」



安心して話していいよ。


そう言ってくれているような、彼の優しい表情。




咲羅は思い切って、訊ねた。





「なんて呼んだら、いいですか・・?」



「え・・・?」





僕のバカ・・・・・・!


そんな言い方したら、自分が流華じゃないって言ってるようなものじゃないか・・・!


だけど、なんて聞いたら・・・怪しまれずに済むんだろう・・・・?


僕が流華じゃないってことは、知られるわけには行かない・・・・よね




咲羅は混乱する頭で、一生懸命考える。



元来嘘をついたり、人を欺いたりすることは、一番苦手なことだった。





「新しい遊びかい?流華は本当に退屈しないな。」



流華の額に優しいキスをして、頭を撫でる。



彼の手は大きくて、とても優しい。





「俺の名前は、蓮月 要。39歳。流華の飼い主。」



「か、飼い主・・・・?!」



「いつもそう言ってるのは、流華だろう?」



蓮月は、冗談なのか本当なのかわからない表情で、笑った。




「要さん・・・・」



「いつもは呼び捨てなのに、さん付けで呼んでくれるんだ。そそるね。」



彼は広いダイニングテーブルの向かい側の席について、


コーヒーを口にした。





「要・・・・・・・、さん、」


呼び捨てにしてみようと試みるも、


咲羅の性格では、出会ったばかりの年上の男性を呼び捨てにするなど到底無理な話だった。





「かわいいね。・・・流華、誘ってるのか?」





彼の声が、ワントーン下がる。





「あ、あの、、、えっと、僕・・・」






堂鳳に迫られた時のことを思い出す。


彼の部屋で二人きりになった時、ベッドに押し倒された。


あの時の彼と同じ、雄の欲情を含んだ、低い声。





「僕・・・って言うのも新鮮で、そそられる。」



「え・・・っ、あ・・・」



「いつもは、俺、って言うのに。今日の流華はいつにも増して可愛いね。」




彼の顔を見ることが出来ない。



要さんの目に見つめられたら、僕はきっと動けなくなる・・・・。







「流華、ベッドに行こうか。」



「え・・・っ、あ、あの・・・」



「恥ずかしがってる可愛い流華を、抱きたい。」



「えっと・・・あの、僕・・・・」






どうしよう・・・・・・・・・!





要は、軽々と流華を抱え上げて、寝室へ向かった。




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