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♤『悪魔のやり方』
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どうやら俺は、花宮 咲羅と身体が入れ替わってしまったらしい。
身体だけの問題じゃない。
咲羅の住む世界に、放り込まれてしまった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「咲羅お坊ちゃま、車でお送りいたしましょうか。」
目の前にいる、執事の男。
流華は品定めするように、下から上へ
舐め回すように視線を動かした。
なかなかの男前だ。
長身でしっかりと鍛え上げられた身体。
執事服は、ぴっちりと身体に密着する作りになっていて、
やたらと艶かしい。
縁の無い、細い眼鏡が良く似合う、知的な顔立ちをしている。
敬語の使い方、穏やかな口調。
声のトーンも高過ぎず、低過ぎず、耳に心地良い。
「えーと、お前の名前は?」
執事がハッとしたような表情になる。
執事に対してとはいえ、
あの天使がこんな口調で話すわけないな、と
流華は口にした途端、後悔した。
「進宮・・・、紫庵です。咲羅お坊ちゃま・・・本当にどうされたんですか?
具合がお悪いなら、医者をお呼びいたしますよ。」
執事は真剣な顔で、こちらを覗き込んでいる。
面倒なことは避けたい。
変に疑われると、今後が面倒だ。
仕方がない、と流華は諦めのため息を吐いた。
「紫庵、ごめんね。僕、ちょっとショックなことがあって・・・」
俺のキャラじゃない。
明らかにタイプの違い過ぎる咲羅になりきるため、
精一杯、可愛らしい言い方で答えてみる。
あの天使はきっと、鈴を転がすような可愛い声で、
愛らしく話すのだろう。
この執事は咲羅が泣いていた理由を、知っているかもしれない。
流華はそう思い至り、探りを入れてみることにした。
「咲羅お坊ちゃま・・・わかっております。堂鳳様のことは・・・私もとても残念でした。」
本気で心を痛めているような顔で、執事が目を伏せる。
堂鳳・・・?
咲羅に、何があった・・・・?
「堂鳳・・・?」
執事は、思わずこちらが気の毒になってしまうほど、
不安そうな顔で、天使の顔を覗き込む。
「咲羅お坊ちゃまの恋人に・・ふさわしい方では、なかったのかもしれません。
差し出がましいこととは存じますが、私は・・・・・咲羅お坊ちゃまには、もっと
ふさわしいお方が現れると、信じております。」
ああ、なるほど。
咲羅は、堂鳳ってやつに、振られたってわけか。
心配して損したぜ。
流華は、急にバカバカしい気持ちになった。
あの天使は、この世の終わりみたいな顔をして泣いていた。
人は皆、変わっていくし、驚くほど簡単に裏切る。
親だろうが、恋人だろうが、誰だって同じだ。
俺の世界では、それが普通だった。
咲羅は今まで誰にも裏切られることなく、傷つくこともなく、
大切にされてきたのだろう。
俺は、誰も信用しない。
俺は自分の為だけに、他の人間を利用する。
「咲羅お坊ちゃま、」
ベッドに座り込んだまま、黙っている咲羅を心配した執事が、
こちらへ近付いてきた。
「ねぇ紫庵・・・僕を車で送ってくれる?」
首元のタイをグイッと強引に引っ張って、
彼に耳打ちする。
自分が放った言葉だというのに、
流華自身がゾクゾクしてしまうような、
天使の甘ったるい声。
「さ、咲羅お坊ちゃま・・・、」
動揺だけではない紫庵の感情を、
流華は敏感に読み取った。
顔が赤い。
彼は俯いたまま、答える。
「・・・かしこまりました。」
例えどんな世界だって、俺は俺のやり方でやってやる。
流華は、悪魔のように微笑んだ。
身体だけの問題じゃない。
咲羅の住む世界に、放り込まれてしまった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「咲羅お坊ちゃま、車でお送りいたしましょうか。」
目の前にいる、執事の男。
流華は品定めするように、下から上へ
舐め回すように視線を動かした。
なかなかの男前だ。
長身でしっかりと鍛え上げられた身体。
執事服は、ぴっちりと身体に密着する作りになっていて、
やたらと艶かしい。
縁の無い、細い眼鏡が良く似合う、知的な顔立ちをしている。
敬語の使い方、穏やかな口調。
声のトーンも高過ぎず、低過ぎず、耳に心地良い。
「えーと、お前の名前は?」
執事がハッとしたような表情になる。
執事に対してとはいえ、
あの天使がこんな口調で話すわけないな、と
流華は口にした途端、後悔した。
「進宮・・・、紫庵です。咲羅お坊ちゃま・・・本当にどうされたんですか?
具合がお悪いなら、医者をお呼びいたしますよ。」
執事は真剣な顔で、こちらを覗き込んでいる。
面倒なことは避けたい。
変に疑われると、今後が面倒だ。
仕方がない、と流華は諦めのため息を吐いた。
「紫庵、ごめんね。僕、ちょっとショックなことがあって・・・」
俺のキャラじゃない。
明らかにタイプの違い過ぎる咲羅になりきるため、
精一杯、可愛らしい言い方で答えてみる。
あの天使はきっと、鈴を転がすような可愛い声で、
愛らしく話すのだろう。
この執事は咲羅が泣いていた理由を、知っているかもしれない。
流華はそう思い至り、探りを入れてみることにした。
「咲羅お坊ちゃま・・・わかっております。堂鳳様のことは・・・私もとても残念でした。」
本気で心を痛めているような顔で、執事が目を伏せる。
堂鳳・・・?
咲羅に、何があった・・・・?
「堂鳳・・・?」
執事は、思わずこちらが気の毒になってしまうほど、
不安そうな顔で、天使の顔を覗き込む。
「咲羅お坊ちゃまの恋人に・・ふさわしい方では、なかったのかもしれません。
差し出がましいこととは存じますが、私は・・・・・咲羅お坊ちゃまには、もっと
ふさわしいお方が現れると、信じております。」
ああ、なるほど。
咲羅は、堂鳳ってやつに、振られたってわけか。
心配して損したぜ。
流華は、急にバカバカしい気持ちになった。
あの天使は、この世の終わりみたいな顔をして泣いていた。
人は皆、変わっていくし、驚くほど簡単に裏切る。
親だろうが、恋人だろうが、誰だって同じだ。
俺の世界では、それが普通だった。
咲羅は今まで誰にも裏切られることなく、傷つくこともなく、
大切にされてきたのだろう。
俺は、誰も信用しない。
俺は自分の為だけに、他の人間を利用する。
「咲羅お坊ちゃま、」
ベッドに座り込んだまま、黙っている咲羅を心配した執事が、
こちらへ近付いてきた。
「ねぇ紫庵・・・僕を車で送ってくれる?」
首元のタイをグイッと強引に引っ張って、
彼に耳打ちする。
自分が放った言葉だというのに、
流華自身がゾクゾクしてしまうような、
天使の甘ったるい声。
「さ、咲羅お坊ちゃま・・・、」
動揺だけではない紫庵の感情を、
流華は敏感に読み取った。
顔が赤い。
彼は俯いたまま、答える。
「・・・かしこまりました。」
例えどんな世界だって、俺は俺のやり方でやってやる。
流華は、悪魔のように微笑んだ。
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