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♧『失恋』(SIDE 宗馬 遥)

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~~~登場人物~~~


♧宗馬 遙(そうま はるか) 24歳

青のインテリ細縁メガネ。黒髪、短髪。切れ長の瞳。賢さが滲み出ている知的なルックス。
クールで、ポーカーフェイスだが、怒り、不機嫌、などの感情はわかりやすく表に出るタイプ。
航空宇宙工学専門。航空エンジニア。空港で飛行機のシステム、設計に関わる仕事をしている。
口が悪く、冷たい印象を与えるタイプ。
バリバリの理系。数字でしか物事を考えられない、人間味が足りない。と幼なじみの梓がいつも悪口を言っている。


♢南川 梓(みなみかわ あずさ) 大学院生 24歳

遥の幼なじみ。
男女ともにモテる人たらし。ふわふわと動きのある茶髪、クリっとした大きな目。
可愛い系の顔で、明るく元気な性格。裏表のない、単純明快な性格、喜怒哀楽が激しく、
ドジな一面もあり目が離せない。純粋で人を疑うことを知らない。
素直で可愛いが、遥にだけは素直になれず口喧嘩ばかり。
幼い頃から本が好きな、文系男子。運動神経もよく、アウトドアも好きでアクティブ。
大学院で教授の助手をしながら、文学について学んでいる。


♧東雲 総一郎(しののめ そういちろう)27歳

遥の同僚。航空エンジニア。
由緒正しき茶道家元の跡取り息子。正統派男子。和服の似合う色男。
黒髪、サイドをジェルで後ろに流している。優しく穏やかな物腰。
仕事ができて、誰に対しても礼儀正しい誠実な男。いつも敬語で話すが、遥にだけはタメ口。


♧歴木 大河(くぬぎ たいが) 45歳

航空エンジニア。課長。遥、東雲の上司。ぶっきらぼうで男っぽい。
無精髭、髪は固めて上げている。細かいことが苦手で大雑把だが、部下の面倒見がよく頼りになるので信頼されている。男気のあるタイプ。
バツ2。二人目の妻の連れ子を実の娘のように可愛がっている。




~~~~~~~~~~~




♧『失恋』(SIDE 宗馬 遥) 




物心ついた時にはすでに、梓がいつも隣にいた。




感情だの付き合いだの、周りくどくややこしい考えをする梓と、

論理的で合理的な思考でしか、物事を判断できない自分との間には

いつも意見の相違があって、口喧嘩ばかりだ。




幼なじみの優羽と仁も同じように、

子供の頃からずっと一緒でなんでも話せる間柄だが、

どうしてか梓にだけは感情的になってしまう自分がいた。



それが小さな頃からずっと不思議だった。




「だ~か~ら~!もうお前ってなんでこう理解力乏しいんだよ?血通ってないの?ロボットなの?」


「連絡一本くらい入れるのが礼儀だろ。」


「酔っ払っていつの間にか意識失ってたんだよ。仕方ないだろ。俺謝ったの聞いてた?」


「教授って職場の上司だろ、二人で飲みに行って意識失うほど飲むって馬鹿だよな。」


「あ~はいはい、どうせ俺は馬鹿ですよ。お前に比べたらみんなバカじゃね?」



昨夜は20時に俺の部屋に来ると約束していた梓が、

突然教授に誘われたから遅れるかもしれないと言ったきり、

音沙汰なしだった。



梓が連絡もなしに約束を破るなんて初めてだったので、

心配して家に行ってみたら、彼の母に言われたのは、

酔っ払って帰れないから、教授の家に泊まるという意味不明な内容だった。




教授が電話してきたらしい。

実家の連絡先や住所がわかるなら家まで送ればいいだろう。



いつだって梓は人を信用しきっていて、無防備で、

そういうところが心配でたまらなかった。





屋敷教授の話は、何年も前から嫌というほど聞かされてきた。



何がすごいのか何回聞いても理解できないけれど、

梓が夢中になっている色気バラマキ系のイケオジ?(友人の葉月が言っていた)だ。



あんなオヤジのどこがいいんだ。

梓の趣味はよくわからない。



若くて可愛い女やら、イケメンの同級生やら、

今まで数えきれない人数から告白されるのを見てきたが、

誰にも興味を示さなかったあいつが。



40代の良い歳した大人が、

地位も権力も一応手に入れた男が、

こんなガキ相手にするわけないだろうと、自分に言い聞かせる。



ここで意地になったら負けだ。



とはいえ、40代だろうと、男は男だし、

精神年齢は皆等しく20歳くらいで止まっているという葉月の説を信じると、

万が一にもうまく行くという可能性はゼロではない。





自分が梓に対して抱いている感情は、

恋愛感情なのだと、社会に出て初めて気付いた。



他のほとんどのことはどうでもいいし、

興味関心がない自分が、

気になって感情を揺さぶられる唯一の存在。



鬱陶しくて近づきたくなくて、

それでも誰かのものになって欲しくなくて、

こんなふうに割り切れない感情を抱くのは、梓に対してだけだった。




論理的で合理的。感情が希薄。


そんな自分が唯一、梓には心をかき乱される。






♢♢♢♢♢♢♢♢♢




一週間以上、梓が俺の部屋に来ていない。

こんなことは初めてだった。



それだけでイライラしている自分は子どもだ。




「梓君、元気かい?」



仕事中も不機嫌が顔に出ていたらしい。


同僚の東雲が、苦笑しながら書類を手渡してきた。




「イライラが顔に出てるよ。」



人付き合いは極力避けたいけれど、

職場の人間に自分は恵まれていると日々思う。




東雲 総一郎は、同じ会社のエンジニア。

普段は敬語で話すが、どういうわけか俺にだけは砕けた言葉で話しかけてくる。


「別に。」


素っ気なく返したが、

東雲とは梓を紹介して一緒に飲んだことがあるくらい、仲が良い。




「何だぁ?また宗馬の機嫌が悪いのか?」

「・・・そんなことないです。」


歴木課長は、大雑把な性格でズカズカと人のテリトリーに

土足で踏み込んでくるタイプの上司。

面倒見がよく、仕事もできて頼りになる男だ。


所属会社は違うが同じエンジニアの慶時課長と、

学生時代からの親友らしい。




彼ら二人のやりとりを見ていると、

自分と梓の関係に通じるものがあるといつも思う。




長い時間一緒に過ごしすぎていて、

恋だの愛だのという関係になるには、ハードルがありすぎるのだ。









♢♢♢♢♢♢♢♢♢






仕事を終えて家に帰ると、梓が俺の部屋に上がり込んでいた。



「遥、おかえり~!」



「おかえりって、人の部屋で何してんの。」






いつもと違う梓の様子に、嫌な予感がする。






「どうした?」



聞きたくなかった。



答えを知っているような気がしたから。



嫌な予感は大抵当たる。



そういうものだ。






「俺、恋人が出来た。」






恥ずかしそうに、


幸せそうに言う梓の顔を見て、


やっぱり、と妙に納得している自分がいた。




嫌な予感は当たるものだ。






子どもの頃から一緒にいるのに、


まだ見たことがない表情があるもんなんだな、なんて


他人事みたいにぼんやりと思った。





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