BOYS

♡『プロローグ』（SIDE 渡里 優羽）

～～～～～～登場人物紹介～～～～～～～～


♡渡里　優羽（わたり　ゆう）　２４歳　

道原鍼灸整骨院で働いている、鍼灸師。
学生時代のあだ名は「王子」。
色素の薄い茶色のサラサラヘア、整った顔立ち、王子様のようなキラキラした見た目。
緑色の瞳が綺麗で、神秘的な印象。真面目で融通が効かないところがある。
モテモテなのに本人はまるで自覚なし。天然っぽいところがある。恋には奥手。
おっとりとしたスローペースの口調。物腰が柔らかく、感情を顕にすることが滅多にない。
自分の感情に鈍感。幼なじみの仁の前でだけは素直になれる。



♤沢渡　仁（さわたり　じん）　２５歳　

ロックバンドSAWのドラマー。
ワイルド系。筋肉質、高身長。銀髪。耳が半分隠れるくらいの長さ。
無口でクールな印象だが、心は優しく面倒見が良い。
情に厚い男。年下から慕われることが多い。何かと頼りにされる、兄貴肌。
幼なじみの渡里優羽を、子どもの頃からずっと一途に想っているが、気持ちを伝えようとは思っていない。



♤月野　蛍（つきの　けい）KEY １９歳　

ロックバンドSAWのキーボード担当。
顎くらいまでの長さのサラサラ金髪。真ん中分け。猫目。
人見知りで、無口。
他のメンバーの前では単語でしか喋らないが、仁にだけは懐いている。
家庭環境が複雑で、両親は海外暮らし。



♡相原　拓也（あいはら　たくや）　２７歳　

道原鍼灸整骨院の若き院長。
仕事に厳しく、優秀な院長。愛想が無い。馴れ合わず、媚びず、妥協しない。
仕事対する真摯な姿勢が評価され、医者、同僚、患者から信頼される男。
タレ目で甘いマスクだが、目力がある。



♡坂口　雪人（さかぐち　ゆきと）　２２歳　
優羽の同僚であり後輩の鍼灸師。
童顔。女の子のような可愛い顔で、甘え上手。くるっとカールした毛先が印象的な茶髪。
院長の相原が大好き。全力で好意を表しており、相原には問題児扱いされている。
職場のムードメーカー。


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久々に幼なじみ４人で集まることになった。
家が隣同士で、物心ついた頃にはもう、僕たちはいつも４人一緒だった。
見た目も性格も趣味も、まるで違う。
それぞれが全く違う分野の道に進んだけれど、兄弟のように仲の良い４人の絆は今も変わらないままだ。


「優羽ゆう、今帰りか？」

最寄駅を出たところで後ろから声をかけられ、振り返る。

顔を見なくてもわかる。低く男らしいハスキーボイス。
幼なじみの、沢渡さわたり 仁じん。
長身にグレーの短髪、がっしりとした筋肉質の体。
どちらかというと小柄に分類される背格好の僕は、体格に恵まれている彼がいつもうらやましかった。

「仁、久しぶり。変装しないで歩いてて大丈夫？」
小声で咎めるように言う。

「平気平気。」
彼はまるで気にも止めない様子で歩き出した。

彼は人気ロックバンドSAWのドラマー。ファンがたくさんいるメジャーバンドだ。

変装をしないで堂々と歩くものだから、以前一緒に買い物に出掛けた時、女性ファンに囲まれて大変だった。
変装したところで、この体格ではすぐに仁だとバレてしまうかもしれない。
彼と視線を合わせて話すと、いつも首が痛くなる。
体格差を意識せずにはいられない。

「今日、遥はるかの家だよな。」

「そうだよ。遥と二人きりが耐えられないから早く来い！って、さっき梓あずさからメールがあったよ。」

宗馬そうま 遥はるかと南川みなみかわ 梓あずさは、幼なじみの残りの２人。
仲が良いのにお互い素直になれない。似たもの同士。

よく口喧嘩をしていて、自称「犬猿の仲」。
２人とも仲が良いなんて絶対に認めないけれど、喧嘩するほど仲が良いというのは、本当だと思う。


「優羽～！仁～！！お前らおっそい！！遥と二人きりとかマジ無理だから。」

到着するなり、梓の文句が飛んできた。
彼は部屋の真ん中に置かれた大きなソファに我が物顔で寝そべり、体を半分起こしながら顔をプクッと膨らませている。
童顔の梓は２０歳をとうに超えた今も、高校生に間違われるほど表情が幼い。
クリっとした大きな目。ふわふわとボリュームのある茶色の髪。
犬みたいだ、と学生時代よく友人にからかわれていた。

「それはこっちのセリフだ。お前といると子守している気分になる。」

対する遥はというと、１０代の頃から成人に見られるほど落ち着いていて、大人びている。
短めの黒髪、青色の細縁インテリメガネ。切れ長の瞳。涼しげな表情。
いつもデスクに向かって難しい数式が羅列された本を眺めながら、PCをいじっている。
航空会社で設計を担当している理数系。

「はぁ？お前ってほんっと性格悪いな。もう少し人に優しく出来ねぇのかよ？」

梓が感情を露わにするのは、遥と一緒にいる時だけだ。
いつもは穏やかで、素直で、コロコロと表情が変わって可愛い。
素直になれないのは、遥の前でだけなのだ。

「お前に優しくする意味無いし。」

物事を論理的に解釈し冷静に判断する遥。感情を乗せずに淡々とした口調で話す。
二人はやはり対照的だった。

「二人とも、相変わらず仲良いね。」
二人のいつも通りのやりとりに安堵する。

「「はぁ？どこが。」」
遥と梓、二人の声が重なった。

「息ぴったりだな。」
仁がくくく、と堪えたように笑う。
二人は納得いかないという表情で顔を見合わせた。

昔からずっと変わらない関係。
楽しい時も、苦しい時も、僕たちはいつも一緒にいた。


♢♢♢


「遥と梓、相変わらずだったね。」
遥の家からの帰り道、久々に寄っていかないかと誘われて、仁の部屋に来た。

「仲良いよな。梓は遥の家に泊まっていくらしい。」

「いつもそうだよね。」

昔はよくこうして仁の部屋に遊びに来たっけ。
懐かしい。
久々に仁と二人きり。
なんだか気恥ずかしい感じがするのは、久しぶりだからだろうか。
ツアーで全国を飛び回っている仁と、二人きりになるのは半年振りだった。


「優羽、なんかあったのか？」

「え？」

彼がふと、真剣な顔でこちらを見たので驚いた。

「いつもと違うから、心配になった。」

気のせいなら良い、と素っ気なく続ける。


普段通りにしているつもりでいた。
僕の変化に、仁はいつも１番に気が付いてくれる。


「実は・・・失恋して、」

彼が息を飲んだのがわかって、気まずさを打ち消そうと饒舌になる。

「失恋って言っても、学生時代にいいなって思ってた後輩なんだけど、久々に会ったから呑んだ勢いで告白したら、好きな人がいるって言われて、」

「・・そうか。」

仁が僕の頭をポンポン、と優しく撫でる。

昔から何かあるたびに僕の頭を撫でるのが、彼の癖だった。
同じ歳なのに子供扱いされていることが、悔しくもあったけれど、
筋張った彼の大きな手のひらに包まれると、どうしようもなく安心して涙が出るんだ。

「それで、僕・・っ」

自分が悲しいと感じていることに、今やっと気づいた。

今まで涙さえ出なかったのに。
振られたという実感も、まるでなかったのに。

「優羽、」

仁の大きな手のひらが、僕の腕を掴んで強く引き寄せる。

「大丈夫。」

頭を抱えるように抱きしめられて、身動きが取れない。

「仁・・・っ」

僕はいつだって自分の感情に鈍感で、傷ついていることにさえ気付けない。
変化に気付いて感情を解放してくれるのは、昔から仁の役目だった。
僕は子供みたいに大泣きした。泣いても泣いても涙が枯れなくて、泣き疲れてそのまま眠ってしまった。



目を覚ますと、仁が隣で眠っていた。
彼の寝顔は、久々に見る。
いつも横向きで眠る彼の癖。変わってないなぁ。思わず笑みが漏れる。

整った顔立ち。男らしい顔つきなのに、まつげが長くて綺麗なんだよな。
そんなこと知ってるのは、僕か、仁の恋人くらいだろう。

仁の恋人。
「恋人なんていないし、作るつもりもない。」
バンドのデビューが決まった頃、
恋愛の話になった時に、彼はそう言っていた。
仕事に打ち込みたいのだろうと、その時はそう思った。

仁はモテる。
面倒見がよく、人の感情に敏感で、さりげない気遣いができる。
見た目では素っ気ない態度に見えるけれど、実はものすごく優しい。
学生時代も後輩から慕われることが多く、よく告白されていた。
それでも彼が恋人と呼べる存在を作ることはなかった。

彼の恋人になる人は、きっとものすごく幸せだろうな。


「優羽・・・、」


仁が僕の名前を口にしたので、びくりとなる。
子供の頃から知っているはずなのに、時々知らない人みたいに感じる時がある。
学生時代とは明らかに違う、大人の男の顔。
彼の寝顔を見ていると、また眠気が襲ってきた。同じベッドで眠っていることがなんだか不思議だ。


いつでも彼の隣の特等席は、僕のものだった。
子どもの頃からずっと。



♢♢♢


次の日、寝坊して慌てる僕を、仁は当然のように職場まで送ってくれた。
ギリギリまで寝かせておいてくれた。
仁はいつも僕に甘い。


「え？え！！優羽先輩！？！！」

車を降りて仁を見送ると、後ろから甲高い悲鳴のような声が聞こえてきた。
僕が働いている道原鍼灸整骨院の後輩、坂口さかぐち 雪人ゆきと。

童顔で女の子のような顔立ち。明るい茶色の髪がくるっとカールしていて可愛い。
何度見ても成人しているとは思えない後輩の表情が、いつにも増してキラキラと輝いている。
鍼灸師、というよりは、どこかのアイドルと言われた方がしっくりくる。

「今のって、SAWの沢渡仁じゃないですか？！嘘、なんでなんでなんで？！」

走り去る車と、僕を交互に指差しながら、彼は大声で捲し立てた。

朝からよくこんなテンションで騒げるものだ。
どうやって宥めようか。
この後輩は大のお喋り好きなので、口止めするのは難しい。

「雪人君、おはよう。」

「おはようございます！って、そうじゃなくて、沢渡仁とどういう関係なんですかっ？！」

「実は・・・幼なじみで、」

「うそ、すごい！！いいな～！！あのバンドすごくかっこいいですよね！！」


目をキラキラと輝かせながら、こちらへ身を乗り出してくる後輩に苦笑する。

僕はこの後輩に弱い。
可愛い顔立ち、キラキラした目。
性格は違うけれど、僕の初恋の彼にどことなく似ている。


「おい、お前ら。朝っぱらから何騒いでる。」

後ろを振り返ると、仏頂面の院長が、眉間にシワを寄せて立っていた。
相原あいはら 拓也たくや。
若干２７歳で、道原鍼灸整骨院の院長に抜擢されたデキル男。


「あ、院長～！おはようございます！朝から院長に会えるなんて、僕ラッキー。」

「おはようございます。この時間、珍しいですね。」

院長は、いつも誰よりも早く職場に来ている。
仕事に対する熱意と腕を買われて、歴代最年少で院長に任命された信頼ある人物だ。
仕事に厳しい、根っからの仕事人間。

艶のある綺麗な黒髪、芯の強さを感じさせる目元。
タレ目がちょうど良く目力を緩和し、凛とした印象に柔らかさをプラスしている。
患者さん第一の徹底した仕事ぶりに、ファンが多い。
誰とも馴れ合わず、媚びず、自分の意見をはっきり持っている院長は、僕の尊敬する上司だ。


「今日は情報交換の集まりがあって、この時間になった。」

「そうだったんですね。」

尊敬する上司だけれど、院長の目が僕は苦手だ。
この目にじっと見つめられると、自分の内側が暴かれてしまうような気がして、居心地が悪い。
心拍数が上がって、すぐにでも目をそらしたい衝動に駆られてしまう。

「さっすが僕の院長～！朝からカッコよすぎ。」

「誰が、お前のだ。坂口、お前は朝からうるさい。何騒いでたんだ？」

「そうそう、聞いてくださいよ。優羽先輩が、あの沢渡仁に朝から車で送迎してもらってて。僕、見ちゃったんですけど、すっごいワイルドでカッコ良くて。」

「沢渡 仁？」

院長が怪訝な顔で、僕の方を見る。この目に見つめられるたびに、どうしてか僕はぎくりとしてしまう。

隠し事も、悪いこともしていないのに。どうしてなんだろう。
どうしてこんなに緊張するのだろう。今は仕事中ではないのだから、ミスを指摘されることもないのに。

「え、院長知らないんですかぁ？人気ロックバンドのSAWって知りません？」

「俺が知ってると思うか？」

「思いません！院長のそういう現代社会に疎いところがまた好きなんですよ～僕！」

いつも羨ましいと思う。雪人は人に甘えるのがうまい。
人の懐に入り込むのがうまい。
仏頂面をしていた院長でさえ、いつの間にか雪人のペースに引き込まれている。
雪人は、院長のことが大好きで、いつも猛アタックをしている。その素直さが、ひどく眩しかった。


彼のように素直になれたら。
仕事も恋も、僕はいつも劣等感だらけだ。