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社会的動物
しおりを挟む小さな宮殿には、窓がない。
外界から隔離されたこの宮殿は、私を守るためだけに作られたらしい。
アザトたちが宿泊している離れも、完全に孤立した建物で、この宮殿とは繋がっていなかった。
知らない土地で、知らない男と二人きり。
完全に孤立した建物で、声も漏れない。
そんな状況下で、私はつい開放的な気持ちになってしまった。
「この宮殿は、本当に安全なの?」
天蓋付きの大きなベッド。
パリッと心地よく仕上げられたシーツの上で、私とカナンは何度も深く交わった。
腕枕で微睡みながら、カナンと戯れる贅沢な時間。
「安全です。私が命に替えても真美様をお守りしますから。」
舞台俳優のセリフのように、演技がかった彼の大げさな言い回しにも慣れてきた。
肌を重ねると、相手のことを深く知ることが出来る。
身体の扱い方や、呼吸の深さ。
どんな性格で、どのように女を愛する人物なのか。
「私の身に起きる危険って、宵闇の者たちのことだよね・・?」
宮殿のみんなは勘違いしている。
宵闇の彼らは、みんなとは立場が違うだけで、危険なんかじゃない。
やり方は違うかもしれないけれど、誰も私を傷つけようとはしていないのだ。
「彼らは夜の間しか、あなたに繋がることが出来ない。真美様を昼間のうちに別の場所へ移して隔離すれば、貴方の所在地を探る術がないのです。」
知らなかった。
確かに彼らが私に接触してくるのは、決まって日が落ちてからだ。
「私は、あなたを守護する宮殿別邸の番人です。呪いであなたを世界から隔離し、この宮殿の中で守るのが役目です。」
言い終えると、彼は熱い瞳で私を見た。
快楽の余韻が、ドクンと胸を打つ。
「私の気が変わって、あなたをこの宮殿から二度と出さないと言い出したら、一体どうするんでしょうね?」
ニヤリと彼が大きく口角をあげ、不気味な笑顔を作った。
彼のこの表情は私の身体に、ゾクゾクと快感を与える。
少しの恐怖心と、たまらない興奮。
それはザインに抱いた感情を、身体に思い起こさせるような興奮だった。
私は恐怖心に飢えているのだ。
知るのが怖いと足踏みするような、ミステリアスな男の魅力に、夢中になっている。
「あなたを独り占めしてこの場所にずっと閉じ込めておきたい。それは私の本心です。私の本能は、それを熱望している。」
恍惚の笑み。彼は、私に対して狂おしいまでの愛情を抱いている。
「ですが、私は理性的、社会的動物。真美様の幸せを、最優先いたします。」
彼は私の心を見透かしたように、ふっと微笑んだ。
「あなたがそれを望んでいるとおっしゃるなら、話は別ですが。」
つつつ、と首筋から胸の間まで、彼の指がゆっくりと下りてくる。
試すようなその視線は、私の興奮などお見通しのくせに、焦らすようにもどかしく動く。
「さぁ、あなたが欲しいものを全て、差し上げましょう。」
彼の唇が私の全身にキスを落とすのを、私は甘いため息を漏らしながら受け入れた。
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