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9つの宮殿
しおりを挟む私たちが暮らしている宮殿以外に、この世界には9つの宮殿があるらしい。
この世界のことは、未だに私はほとんど知らない。謎だらけだ。
自分が暮らすこの国の広さや、人の数さえ私は何も知らなかった。
アザトに連れられてやってきたのは、小さな宮殿。
人里から離れた砂漠の始まりのような場所に、ぽつんと建っている宮殿だ。
玉ねぎ型の特徴的な屋根は、紫色でキラキラした装飾が散りばめられている。
足を踏み入れた瞬間、ピリッとした静電気のような痛みを感じた。
宮殿の中の空気は、外の空気と全然違う。
違う次元の世界へ迷い込んでしまったような、違和感。
「カナン、今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ。どうぞ安心して私にお任せください。」
ひょろりと線が細い長身の男は、作り物のような現実味の無い笑顔をむけて、深々とお辞儀をしてみせた。
まるで狐の仮面のような、生気のない笑顔。
丁寧で隙のない仕草一つ一つが、彼を現実離れした存在に見せている。
「真美様、はじめまして。私はカナンと申します。」
湾曲した細い目、不自然なほどに口角が上がった薄い唇。
にこり、ではなく、ニヤリというのがピッタリの、不気味な笑顔。
薄いベージュ色の髪は、肩につくスレスレの長さで、定規を当てたように真っ直ぐに切り揃えていた。
アザトと護衛の騎士達は、宮殿のすぐ隣に建っている離れに宿泊するという。
小さな宮殿の中に、カナンと二人きり。
私は普段と違う環境に、胸がざわついて落ち着かなかった。
「お会い出来て光栄です。あなたとお会いできる日を、夢見ておりました。」
「私も会えて嬉しい。こんな宮殿があるなんて、全然知らなかったからびっくりしたけれど。」
「ここは本宮殿に何かあった時のための避難所として、真美様を護衛するために作られた場所です。今は有事というわけではありませんが、真美様の願いを叶えたいというアザトの計らいでしょう。」
外の世界を見てみたいという私の願いを、アザトが汲み取ってくれたのだ。
宵闇の彼らの侵入を許してしまった宮殿。
警備を見直すと、エイトやリュウたちが話していたことも、関係あるかもしれない。
案内された寝室は、プラネタリウムのような幻想的な空間だった。
無機質な白い壁。隔離施設のようで、一人でいると不安になりそうな部屋だ。
豪華な天蓋付きの大きなベッドだけが、白で塗りつぶされた空間にぽつりと置かれている。
「あなたをお守りするのが、私の役目です。」
ベッドに腰掛けた私の前に跪いて、カナンが言った。
「それ以外のことは、してくれないの?」
(やだ・・私、何言ってるんだろう。いやらしい意味に聞こえたかな・・?!いやらしい意味だけど・・・!)
私はいつの間にか、一人では眠れない身体になってしまった。
彼らが与えてくれる、甘美な夜の営み。
「私に悦びを与えてくださると・・そういう意味でしょうか?」
「え?」
「夢にまで見ていたあなたを、この胸に抱きしめて交わり、一晩中かけて愛するという悦びを、私に与えてくださるのですか・・・?」
仮面のような笑顔が、歓喜に歪む。
その病的とさえ思えるような恍惚の表情に、私の身体が一気に熱を帯び始めた。
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