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求めていた言葉
しおりを挟む欲しいものを手に入れるためには、秘密を守り通さなければならない。
愛する人に嘘をついてまで、他の愛が欲しいと願うのは間違いだろうか。
それとも、愛する誰かを傷つけないためにつく嘘は、許されるものなのか。
とても魅力的な世界が、目の前に二つ同時に存在している。
どちらかを選ばなければならないなんて酷なことは、今の私には受け入れられそうになかった。
この世界に来てからというもの、何もかもが自分の思い通りになっている。
そんな世界に慣れてしまった私が、今更何かを失う覚悟を持てるだろうか。
思えば前世の私は、何もかもが手に入らない世界で生きていた。
醜い容姿に、崩れたスタイル、なんの取り柄もなくて、取るに足らない存在。
自分自身のことをそう位置付けていた私は、他の人間からもそれに相応しい扱いを受けてきた。
「アザトは、私のどこが好きなの?」
言葉が出てしまってから後悔したけれど、すでに遅かった。
彼の愛を試そうなどという気持ちはないけれど、そう聞こえたかもしれない。
「全てです。」
午後のティータイム。
お茶の準備をしていたアザトは、間髪入れずにそう答えた。
彼は、優しい微笑みを浮かべてこちらを見つめている。
私は、やはりこの質問を口にしたことを、激しく後悔した。
「私の見た目は美しさからかけ離れているし、性格だって良いとは言えないのに・・・」
ボソリと呟いた私の言葉をきちんと捉えて、アザトは驚いたように首を振る。
「真美様より美しい人間が、この世界にいるはずもありません。」
それは疑いようもないこの世の摂理なのだと、彼が信じているのがわかった。
私を見つめる彼の目は、いつだってキラキラと輝いている。
「アザト・・・あなたは私以外の女を、見たことがないんでしょう?」
少し意地悪な気持ちになる。
これは、散々容姿を貶され、誰にも相手にされなかった者特有の後遺症だ。
「他の女性など、僕の世界には必要ありません。真美様は、他の誰とも比べることのできない、唯一無二のお方です。あなたに出会って、愛を知りました。あなたは、僕の全てです。」
これは、私がずっと求めていた言葉だ。
アザトに言われて、そう気が付いた。
何の見返りもなく、ありのままの私を受け止め、ただ愛してくれる存在が欲しかったのだ。
もっと、と欲しがる私の心に、トドメを指すように彼が続ける。
「僕は、世界中を敵に回したとしても、あなたを奪い去って独り占めしたい・・・そんな欲望を抑えるのに、いつも苦労しています。」
幼さの残るアザトの顔が、一瞬大人の男の力強さを見せたので、私の胸はドクンと大きな音を立てた。
最近彼は、急に大人びた表情を見せるので、油断出来ない。
そんな一面を見るたびに、昼夜関係なく彼の身体が欲しいという欲望が膨れ上がる。
従順な瞳。
彼の透き通った綺麗な心が、惜しみない愛情を与えてくれる。
私のためなら命も惜しくないのだと、本気で思ってくれているのがわかった。
「アザトに、触れたい。」
私の、心からの願い。
アザトを、この宮殿で共に暮らすみんなを大切にしたい。
誰一人として、傷つけたくない。
宵闇の彼らのことも、もっと知りたい。
それが、私の本心だった。
「真美様、ありがとうございます。僕の全ては、永遠にあなたのものです。」
アザトは跪き、私の手に優しくキスを落とす。
私の心を完全に満たしてくれる、彼の深い愛情。
彼の存在が私に与える快楽を、全て味わい尽くしたい。
「今すぐ・・・ここで、愛してもよろしいですか?」
彼が淹れてくれたお茶が冷めてしまうのを覚悟して、私は彼に深く口付けた。
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