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転生
しおりを挟む私はどうやら死んだらしい。
今日発売のBLゲームをやろうと楽しみに仕事から帰ってきたところまではきちんと覚えている。
そして、ああだこうだあって、勢いよく階段を転がり落ちるビジョンを最後に見た。
死ぬってこんな簡単なことなんだなぁ、とぼんやり思いながら、目の前に広がる信じられない光景を眺める。
ここって天国・・・・?
まるでアラビアンナイトの世界だ。
目の前に広がる広大な砂漠。石作りの街が遠くに見える。空はたくさんの光り輝く星たちで埋めつくされている。
そして私の後ろには、東京ドーム何個分なのかまるで見当もつかないほど大きくて豪華絢爛な宮殿がどんと立ちはだかっていた。
あぁ、そうか。
今日発売のBLゲームは、アラビアンな世界観のものだった。
私が好きな褐色の肌の美少年や、砂漠の国のイケメン王子が出てくる、異国モノ。
そのゲームをやらずに死んでしまうことになった私の怨念が、この世界を見せているのかもしれない。
思えば私の人生における後悔なんてその程度のものだ。
三十路を過ぎて未だ処女。彼氏いない歴イコール年齢の干物女。
2次元の世界でだけ満たされればそれで生きていけると、BLゲームに没頭する毎日だった。
「真美様。お帰りなさいませ。」
声がして振り返ると、そこには私の好みど真ん中の、褐色の肌の美少年が立っている。
くるりとあちこちにカールする毛先が幼い顔を可愛らしく飾っている。褐色の肌に、艶のある黒髪。袖が少し膨らんだ白のシャツに、真紅の綺麗な織物を羽織っている。煌びやかな飾りが付いた羽織と同じ真紅の小さな帽子。
(か・・可愛すぎる・・・!!しかも真美様・・・・って?!真美様って言った・・?!)
少年は深々と頭を下げると、私に向かって美しい笑顔を惜しげもなく晒している。
(こ・・・こんな無防備な笑顔を・・・無料で・・・・!!)
私は思わず鼻血が吹き出そうになりながら、恐る恐る彼に話しかけた。
「あなたは・・・誰・・・?」
こんな綺麗な少年に、私のような干物女が話しかけたら瞬時に消えてしまいそうな気がして怖い。
「失礼いたしました。私は名をアザトと申します。あなたを心からお慕いしております。」
彼はまた深々と頭を下げて跪いた。
(な・・・何?!このオイシイ展開・・・・ここは天国・・・?!)
死んでよかった。
褐色の肌の美少年を目の前に、真美は心の底からそう思っていた。
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